「なんで…、どうして…」私は絶望した、でもそれももう何回も繰り返してきたことだ。もう私にはあきらめる事しか出来ないかもしれない。今流れてる涙だってもう何度も流したのにまだ出てくる…今この心を支配しているのはいったいなんなのだろうか。昔は悲しみだった、でも今は…この問答も何回もした。私は親友だったものに向かってどの感情がもたらしているかもわからない涙を流した………流した………全てはあの日から始まったキーンコーンカーンコーン四時間目の予鈴がなった。数学の授業の始まりだ。私はみなみちゃんや田村さん、それにパトリシアさん達と別れ自分の席に着いた。なんだか少しだるい気がする。別にこれから始まる数学が嫌だな~とかそういうのじゃなくて、実は今朝から少し体がだるかった。でもあんまり回りのクラスメイトや友達に心配かけたくない。特にみなみちゃんには高校生になってから心配をかけっぱなしだし…。みなみちゃんは優しいからいつも保健室までつき合ってくれてるけど…やっぱり頼りっきりじゃだめだよね。たまにはみなみちゃんを助けるとまではいかなくても…せめて自分の出来る範囲で何か手伝ってあげたいな。それにしても最近すごくみなみちゃんに助けてもらってるよう気がするなぁ…。…それにしても眠たい。授業の前にお弁当を食べたせいだろうか。今日のお弁当はおいしかったなぁ…、今度こなたお姉ちゃんにお料理のコツとか教えてもらおうっと…そこで眠気のせいか、私の意識はブラックアウトした。「ゆたか…、ゆたか…、起きて」「ありゃ~、こりゃ熟睡してるね」「どうしまス?」なんだか声が聞こえてきた、私はその声にこたえようと重たい瞼をこじ開けた。「…おはよう、ゆたか」「ずいぶん寝てたね、睡眠不足っスか?」「ゆすってもさすってもモんでも起きませんでしたね」私の予想通り目の前にいたのはみなみちゃんに田村さん、そしてパトリシアさんだった。…パトリシアさん、揉んだってどういうこと?何を揉んだの…?「それじゃ帰ろっか」「そうですネ」田村さんとパトリシアさんが床に置いていたカバンを持った。…え?今は数学の時間じゃ…?「どうしたの、ゆたか?今は数学の時間じゃないよ」…どうやら無意識の内に声に出していたようだ。それよりも私はみなみちゃんの言葉に驚いた。「え?今って四時間目じゃないの?」私は三人に聞いた。三人は頭にクエスチョンマークが出ているようだった。ふと窓から外を見た。きれいな夕焼けが見えた。…どうして?私は数学の時間で…恐らく眠ってから後の記憶がない。ずっと寝てたのかな?私は三人に質問を浴びせてみた。「ねえ、私四時間目の数学の時間に寝てたよね」「…うん、先生が起こしても起きなくて」田村さんが答えてくれた。なんだか嫌な予感がしてきた。「それで私はいつ起きたの?まさかさっきまでずっと寝てたの?」「そんなワケないじゃないですカ。ヨジカンメがオわったコロにはオきましたヨ」「…なんだか様子が変だった。それにいきなり私の名前を叫んでた」…どういうことだろう…。私にはそのことの記憶がない。それに様子が変だったってどういうことだろう?私はそのことについてさらに追求してみた。「…なんだか混乱してたっスよ」「そうでしたネ、イマはナンジとかキいてきましたヨ」「私が四時間めが終わったって聞いたら…なんだか顔が真っ青になって、それで私が保健室へ一緒に行った」「それでタシかロクジカンメのハジまるマエにカエってきましたヨ。でもそのロクジカンメのマんナカアタりでまたネムっていましタ」「そうなんだ…、ありがとう、みなみちゃん。保健室に連れてってくれて」「大丈夫、それにもうお礼は言ってくれた。それにしても今は大丈夫?少し気分が悪そうだけど」…やっぱりみなみちゃんはすごいな。実は少し気分悪いの我慢してたんだけどね。でもどうして三時間目に眠ってからの記憶が無いんだろう…?「そうですネ、なんだかキブンがワルそうでス」「保健室行くっスか?」私は断ろうとしたが結局保健室によって行くことにした。私はみなみちゃんに少し支えられて廊下を歩き、階段の前まで来た。やっぱりフラフラするよ…、私が保健室で休んでる間みんなには先に帰ってもらったほうがいいよね。これ以上心配かけられないし…私がそう考えて階段を降りていると横のみなみちゃんがいきなり体勢を崩した。「みなみちゃん!」私は咄嗟に体を起こした。……起こした?あれ?ここは?…なんで私教室にいるんだろう?確かさっきまでは階段を降りて…それでみなみちゃんがいきなり体勢を崩して…「…ゆたか、大丈夫?ずいぶん寝てたけど…」「い、いきなりどうしたんスか?」「ビックリしましたネ、セッカクオこそうとオモったのニ…。まさかギャクにオドロカされるとハ…」私はどういうことかわからなかった。さっきまでは階段だった筈の私の周りの空間が目を開けると同時に教室になっていた。周りではお弁当を食べている人やしゃべってる人、寝ている人がいた。…いつもの教室だ…、いつもの風景だ…。私が高校生になってからずっと見てきた光景がそこにはあった。「ゆたか…本当にどうしたの?」ふとみなみちゃんが私を心配して顔を覗き込んできた。…私…寝てたみたい…「ねえ、みなみちゃん、今って何時?」「…今は…12時55分…」「四時間めが終わって少したった頃っス」「よくネていましたヨ、センセイもあきれてましタ」え…?なんで?どういうこと?さっきは夕方だったはず…、あれは夢?それにしてはすごくリアルな感じが…それに…何か引っかかるような…「…ゆたか、顔色が悪い…、保健室へ行ったほうがいい」私は呆然としたまま保健室へ向かった。「ありがとうございます、岩崎さん」「いえ…、ゆたかをお願いします」保健室で私をベットへ寝かしたみなみちゃんはふゆき先生としゃべっている。私は少し弱弱しい声でお礼を言った。「…ありがとう」「…いい、親友だから」私に向かって微笑んだみなみちゃんの顔を見ながら私は眠りに落ちた…意識を取り戻したときまず感じたのは消毒液特有のにおい。もう今までなんど経験してきた匂いかわからない。目を開けるとそこには無機質に白い天井。私は保健室のベットにいるのだと思い出した。私はポケットの中の時計を取り出し中身を確認した。今は五時間目が始まったあたりだった。体をおこして教室へ帰ろうとしたが体がまだ言うことを聞いてくれない。「起きたようですね、小早川さん」私が起きたことに気づいたのか、ふゆき先生がカーテンをめくり私のほうへ歩いてきた。先生は微笑みながら私の額に手を当てた。「…どうやら熱はないようですね。でももう少し休んだほうがいいですよ」私は先生の言葉に甘えることにした。でも布団にはいってもあまり眠たくはならない。私はさっきの夢が気になっていた。…みなみちゃんが階段で体勢を崩したあの夢を…そうこうしている内に五時間目の終わりを告げるチャイムが学校に響き渡った。私は六時間目の授業には出ることにした。実際、私の体は大分回復していた…と思う。私はふゆき先生にお礼を言い、保健室を後にした。教室に着くとみなみちゃん達が心配してくれた。うれしかったけど、なんだか安心できない。…あの夢は…いったい…すると六時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。私はみんなにありがとうと言い、自分席へと向かった。授業が始まった。最初は集中していたけど突如来た眠気の集中砲火になすすべもなく、私の意識はブラックアウトした。「あ、危ない!」「ミナミ!」私は突如鼓膜を揺らした二つの声に反応し目を開けた。すると横にいたみなみちゃんが体勢を崩し階段から落ちた。私はその場で階段に座り込んだ。膝が笑っている…声を上げようとしたが出なかった。ど、どういうこと…なんで…どうして…私はさっきまでは六時間目の授業を受けていた、なのにどうして私は階段にいるの?どうしてみなみちゃんが階段から落ちたの?…これってさっきの夢の…続き…?でも今は夢じゃない。私はもう意味が分からなかった。ただ下の階段の踊り場ではみなみちゃんが痛そうに立ち上がろうとしているのが見えた。なんとかみなみちゃんは立ち上がったけど足が少し痛いみたい。その後、みなみちゃんは田村さんとパトリシアさんに保健室へと運ばれた。一方私はみなみちゃんを運んだ後、パトリシアさんがおんぶして保健室へ運んでくれた。突然みなみちゃんが階段から落ちたので驚いたのかそれとも違う理由なのか、私の体は震えていた。それにしてもパトリシアさん、運んでくれたのはうれしいんだけど飛び跳ねたり回ったりするのは…私は保健室につく前にさらに気分が悪化した。幸い、みなみちゃんは少し足を痛めただけですんだ。それを聞いて私は胸をなでおろした。…私にだって少しくらいはあるんだよ。とりあえず私はゆいおねえちゃんに電話して車で迎えに来てもらった。その後迎えに来たゆいおねえちゃんの車に乗って皆で帰った。みなみちゃんは足をちょっと痛めただけだったけど念のために車で家へ帰らせることにした。「本当にびっくりしたよ~」「…ごめんゆたか、でももう大丈夫…」「でもまさかあのしっかり者のみなみちゃんが階段から落ちるなんて思わなかったよ」「そうですネ、ミナミにもドジっコセイブンがあったんですネ」「帰ったら筆がいい勢いで進みそうっス」ゆい姉ちゃんと私達は車の中で笑いあっていた。あの夢のことなんて…綺麗さっぱり忘れていた。次の日、私が学校へ行くとみなみちゃんが高翌良先輩と話していた。どうやら昨日の事を耳に挟んだようだった。先輩はみなみちゃんのことを心配していたがみなみちゃんが普通に歩いたりしているのを見て安心したようだった。「おはよう、みなみちゃん、高翌良先輩」「おはよう、ゆたか」「おはようございます、小早川さん」高翌良先輩はあいかわらず優しい雰囲気だなぁ。なんだか安心できる感じがするね。「あの、私の顔に何かついていますか?」「え、あ、いえ…なんでもないです」びっくりした、ついつい高翌良先輩を見つめていたようだ。なんだか昨日からぼうっとする事が多い様な気がするよ。…どうしたんだろう…私は気を取り直してみなみちゃんにたずねた。「足は大丈夫なの?」「うん、ぜんぜん平気。昨日のうちにはほとんど痛みもなくなってた」「よかった~」私は心から安心した。「心配かけて…ごめん」「あ、謝ることないよ、みなみちゃん」突然謝られて私は驚いた。気にしなくてもいいのに。「二人とも仲がいいんですね」高翌良先輩がそう言って微笑みかけた。私は恥ずかしくなってうつむいた。恐らく顔は真っ赤だったと思う。その後少ししゃべってから高翌良先輩は自分の教室へ帰って行った。それにしてもさっきから田村さんがこっちを見ながら一心不乱にノートに何か書いてるけど、いったい何を書いてるのかな?…なんだか眼鏡が不気味な光り方をしてるような気が…触らぬ神に祟り無しということでノートのことを田村さんに尋ねるのはやめることにした。そうこうしているうちにチャイムが鳴った。その後ホームルームが始まり、そして一時間目が始まった。黒板の前では英語の先生が文法について詳しく述べている。私はそれを板書しているうちにいつの間にか視界が黒く染まっていた。私が目を覚ますとそこはグラウンド、しかも私は体操服だった。それに目を覚ますというか、寝転んではいなかった。私が気がついた時どうやら私はランニングの最中だったようだ。後ろからみなみちゃんの声が聞こえた。「ゆたか、大丈夫?」私は自分は転びそうになりながら止まった。 「え?あ、あれ?さっきまで英語の授業が…」「…英語なら一時間目に終わった。今は体育の時間」「そ、そんな…」「どうした小早川、気分が悪いのか?」私がみなみちゃんと話していると体育の先生がこちらへやってきた。私達は止まって話していたのでみんなとはグラウンド半周分は遅れていた。「あ、いえ…大丈夫です、行こうよ、みなみちゃん」私はうやむやした気分を振り払いながらみなみちゃんの手をとってランニングを再開した。そういえば今日は確か体育が三時間目にあったんだっけ。でもそれまでの記憶は私には無い。確か昨日も同じことがあった…なんだか嫌な感じがする…。私達が体育館の横まで走って来た時、私は何気なしに上を見た。何かが私達……ううん違う……みなみちゃんに向けて落ちてきた。私が目を覚ますとそこは教室だった。前では英語の先生が私の方を見ている。「よく寝ていましたね、小早川さん」「あ、は、はい…すいませんでした…」「気分が悪いのなら我慢しなくていいわよ」「だ、大丈夫で…す…」私がそう言うと先生は板書の説明に入った。でも眠る前とは内容が違う、たぶん私が眠っている間に前の板書の説明は終えて次の板書を書いたんだ…。…でも今はそんなこと考えてる暇なんて無い。さっきの夢は…もしかしたら予知夢なのかな?で、でも予知夢ってあんなにリアルなものなの?夢でかいていた汗がいまだに体を蝕んでいる気さえする。そういえば昨日は夢で見た内容のその後が実際に現実に起きた。でも夢を見ていたときの内容、…つまり私が放課後の教室で起きてからみなみちゃんが階段から落ちかける瞬間の内容は現実では体験していない。それは夢の中だけでの体験だった。でもその夢の中の体験は現実では起こっていたことのようだった……みなみちゃんが階段を実際に落ちるところから……これってどういうことなんだろう…わけが分からないよ…私が色々考えていると、「ではキリもいいし、このクラスの授業は進んでるから今日はここまでにするわ。今からは自習ね」そう言って先生は教室の前にある余った椅子に座り本を読み出した。…これっていいのかな?でもこれはいい機会なのかもしれないと私は思った。ここで昨日のことを熟考してみることにしよう。まず昨日私は三時間目の数学の時間に眠った、そしてその時にみなみちゃんが階段から落ちる瞬間の夢を見て、そして目が覚めたら三時間目が終わってた。それから六時間目にまた寝ちゃって…確かその時は夢はみなかったはず。それで起きたらいつの間にか階段にいて、横でみなみちゃんが階段から落ちた。私は教室で寝ていたはずなのに。つまり最初の夢の続きが起きた瞬間に始まった…ってことかな?…そういえば最初の夢でみなみちゃんはこう言ってた。「…なんだか様子が変だった。それにいきなり私の名前を叫んでた」確かに私は最初の夢から覚めた時みなみちゃんって大きな声で言ってしまった…それに確か他にも…「私が四時間目が終わったって聞いたら…なんだか顔が真っ青になって、それで私が保健室へ一緒に行った」確かに私は起きた後保健室へ行った…夢の中で言われたことを実際に私はたどっている。よく考えてみればその後パトリシアさんが言っていたことも当たっている。私は六時間目の始まる前に教室へ戻り、授業の途中で再び眠った。そして目が覚めたら私はその夢の続き…つまりみなみちゃんが階段から落ちる瞬間の続きを現実で見た……もしかして私…あの夢の中で…未来に行っていたのかもしれない…………そう考えれば納得できる、あれはたんなる予知夢じゃない、あの夢は夢であって夢でない…現実の未来の中だったとしたら…その夢でみなみちゃんやパトリシアさんの言ったことが全て当たっているのも納得できる。それにあの夢が未来だとしたら、その夢の間の時間がすっぽり抜けているのも納得できる。一度体験した未来は二度と体験できないんだ。だから私には放課後から階段へ行くまでのことを現実で体験していないんだ。つまりあの夢は未来の中で、その夢の中ですごした未来は現実では体験できない。私はこう結論した。でもそうなるとさっき見た体育のあの夢は…まさか…そうしていると一時間目が終わり、そのまま休み時間も終わり二時間目に突入した。そして何も起こらないまま二時間目も終わった。そして三時間目の体育の時間になった。私は体操着に急いで着替え、みなみちゃん達と一緒にグラウンドへと向かった。そして私達はランニングを開始した。体育の授業は最初にグラウンドを二周走ってそれから体操をし授業に入る。でもグラウンドを一週する手前まで来ても何も起きない。やっぱりあの夢はただの夢だったのかな?そうだったらいいんだけど…そう考えた瞬間、私の意識はブラックアウトした…目を開けた、そこに移ったのは体育館から落ちてくる何か…私は咄嗟にみなみちゃんの体操服を掴み、渾身の力で後ろへ引いた。みなみちゃんは後ろへ行きお尻から転んだ。それと同時にみなみちゃんがいたところに何かが落ちてきた。よく見るとそれは体育館の外壁だった。辺りは騒然とした。みなみちゃんは信じられないという顔をして落ちてきた外壁の塊を見ていた。私はみなみちゃんに近づいた。「…大丈夫?」「…あ…う、うん…」みなみちゃんはかなり動揺しているようだった。「二人とも大丈夫!?」「岩崎さん、怪我はない!?」「ユタカ、ミナミ、ダイジョウブですカ!?」すると走っていたクラスメイトや先生が駆けつけてきた。その日の体育の時間は中止となった。「すごかったね、小早川さん」「ホントウでス!ユタカはミナミのイノチのオンジンでス!」「本当だよ、もし小早川さんがいなかったら岩崎さん死んでたよ」「火事場の馬鹿力ってやつかもな」「まあ、お前にはないだろうけどな」「うっさい!」教室へ帰ると私の周りに男女問わずたくさんのクラスメイトが集まってきた。「でも本当にすごかったよ!反射神経いいんだね」田村さんがこう言った。でもこれは反射神経なんかじゃない、ただこうなると知っていた、だから何とかなったんだよ。もし未来を体験していなかったら…、考えただけでもぞっとするよ。ちなみにみなみちゃんは保健室で念のために怪我がないかを見てもらっている。私もついて行きたかったが体育の先生に止められてしまいしかたなく教室へ帰り、こうなっている。次の時間の前にはみなみちゃんは帰ってきた。みなみちゃんは無傷だったらしい。それを聞いて私は安心したと同時に、この未来へ行く夢を信じきってしまった。その後も私はあの夢、つまり未来を見てきた。私はそのたびにその夢の中で体験した未来を元に、みんなを助けたりした。…でも失敗したりもしたんだけどね。でもそうしている間に発見したものもあったりした。その一つは、夢で体験した未来は24時間以内だということ。また一つは、体験した未来と矛盾する行動は取れないということ。例えば、体験した未来では遊園地にいるのに、その未来を体験した日に明らかに違う場所にいるとかかなぁ。以前にそんな感じのことをしたら頭が割れるぐらいに痛くなたり、体が動かなくなったりしちゃった。それで結局皆に心配かけてしまった。そして結局は夢の中の未来と繋がってしまう。…つまり経験した未来を避けられないってことだった。それでも私はこの力を様々な場所で活用した。ある時はみなみちゃんが間違えた答えを黒板に書いたときにそれが間違いだと指摘もしたりした。ある時はみなみちゃんが躓いて転びそうになったところを助けたりもしたし、ある時はみなみちゃんに向かってきた硬球を避けさせたりもした。私はすごく嬉しかった。いつも私を助けてくれたみなみちゃんに恩返しが出来る。それがすごく幸福に感じた。まあ、それでも気分が悪くなって保健室へ連れていったりしてもらったんだけどね。他にも私が倒れそうになった時に受け止めてくれたり、本当に何度も助けられた。でも、この予知夢…かな、たぶんそう呼ぶのがしっくりくるのかもしれないね。それは自分でもいつ起こるかわからないし、得体の知れないものだった。だから少し怖かったりしたけど、今なら大丈夫。だってそばにはみなみちゃんがいてくれるから。それに最初に助けて以来、私とみなみちゃんはさらに近づけた感じがする。それもすごく嬉しかった。…でももしこんな予知夢みたいなのがなくてもこうなってたと思うけどね。…でもどうしてだろ…、なんだか腑に落ちなかった…そしてとある日、私はまたしても予知夢…まあ未来を体験した。夢の中、つまり今日の未来では私達はパトリシアさんや田村さん一緒に買い物の最中のようだった。私はどうやら店の中で会計をしているようだった。横には田村さんとパトリシアさんがアニメについて熱く議論を交わしていた。一方みなみちゃんは先に買い物を終えて外にいた。そして私が会計を済ませ店を出た。その時私の目に映ったのは…みなみちゃんへと向かってくる一台の乗用車だった…「みなみちゃん!」私は飛び起きた、まずは周りを確認した。見慣れた机、椅子、本棚、そしてパソコン。そこは私の部屋だった…私の全身には嫌な汗が纏わりついていた。パジャマが体にくっついてくる…。そして私はさっきの夢を思い出した。「…みなみちゃん」まさかこの後…みなみちゃんは…そう思うと私の全身から寒気がした。…怖い…私は時計とカレンダーを確認し、そこでようやく思い出した。「…みなみちゃん達と買い物に行く日だ…」私は軽く意気込んで家を出た。実際みんなと買い物は楽しかった。パトリシアさんと田村さんがワイワイ騒いで、それに私とみなみちゃんで適当な相槌を打つみたいな感じだった。とにかく私は楽しんだ、でも今日に体験したあの未来の続き、恐らくみなみちゃんが車に轢かれるであろうその未来を阻止することだけは絶対に頭から離さなかった。ふと横を見る、みなみちゃんの姿が見えた。今日は久しぶりに私服であったせいかいつもより綺麗に感じた。私は絶対にみなみちゃんを守ると改めて決意した。「あ、ここでス」パトリシアさんがとある店を指差して言った。「ここはいろいろなフクがあるのでス、ワタシがハジめてニッポンにキたトキはここでフクたくさんカイコんだものでス」「へ~、大きな店なんだね」「…いろいろありそう」「う~ん、私は服とかよりももっと別の物が…」「ヒヨリもたまにはこういうオンナのコらしいものにもテをダしてみるべきでス」「…なんだか私はいつも女の子らしくないみたいだね………あんまり否定しないけど……」「つべこべイわずナカにハイるでス!」というわけで私達は店の中へ足を踏み込んだ。それと同時に私の頭の中を激しく既視感が騒ぎ立てた。「…この店…」私はレジのほうを見て確信した。「…ここだ、この店だ…」レジの方からは外の道路の様子が今朝に体験した未来と同じアングルではっきりと見ることが出来る。私は自分の経験した未来、みなみちゃんに車が突っ込むそのときを思い出し。それを反芻し頭に叩き込んだ。車がみなみちゃんにぶつかるには少しだけ時間があったはず。その間になんとしてでも助ける。今回は失敗できない……「…ゆたか、どうかしたの?」「なんだか顔色が少し悪いよ」「スコしどこかでスワってキュウケイしますカ?」「え?あ、ううん、大丈夫だよ。心配しないで」どうやら考え込んじゃってたみたい、あんまりみんなには心配はかけたくないな。「大丈夫だよ、心配ないよ」「そう…、気分が悪くなったらすぐに言って…」みなみちゃんが心配そうに言った。「大丈夫、大丈夫だよ」私は二重の意味を込めて言った。「心配しないで」店の中にはかなりの服が置いてあった。私達は色々な服を試着したりして楽しんだ。結局その店での買い物は二時間以上かかったようだった。疲れたけど、すごく充実した時間だった。「それじゃそろそろお会計しよっか」この田村さんの一言で私達は手に持った数着の服をレジへと持っていった。確か未来ではみなみちゃんが一番にレジへと行ったはず。だから先に店の外へ出て車に…私は一か八かみなみちゃんより先にレジへ行こうとしたが体がとたんに動かなくなった。やっぱりだめみたいだった。自分の体験した未来は変えられない、ここ数日で分かっていたことだったんだけどね……そしてみなみちゃんはレジで支払いを終えて店の外へ出て行った。そして次は私の番、私が買う服を出した時、視界がブラックアウトした…目を開ける、そこは店の外、目の前にはみなみちゃん、その少し先には車がみなみちゃんへと一直線に向かってくる。私は叫んだ、みなみちゃんが車に気づくように。でもみなみちゃんはこっちを見て小さく手を振っている。私は全力でみなみちゃんに向かって走った。いつもなら吐いてもおかしくないほどのスピードで体力を荒削りしながら、息も絶え絶えに走った。横に目をやると車はもうすぐそこ、でも決して助けることの出来ない距離ではなかった。助けることが出来る、そう思った…。しかし次の瞬間、ゆたかは体勢を崩して転んでしまった。顔を上げた時に見たのは地面に叩きつけられた親友のだったものの姿だった。手足は人としてありえない方へと向いていて、全身が赤く染まっていた。「みなみ…ちゃん…」私は起き上がることは出来ずに、ずっとみなみちゃんだったそれを見つめていた。視点そらすことが出来なかった。「な、なにがあったんスか!?」「すごいオトがしましたヨ!ユタカ、ダイジョウブですカ!?」私は店から飛び出してきた二人にそれを指差した。「あ、あれって…まさか、嘘…でしょ」「そんな…ミナ…ミ…」私は泣き叫ぶ二人の友達の横でまた意識を失った。次ページへ
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