「虹のかかる笑顔」:ID:X0fBTuxz0氏

その日はとても強い雨が降っていた。

それはまるで彼女を責め立てるように。

「はぁ…明日は…晴れるといいな」
と、彼女はぼそっとつぶやく。その表情に晴れ間は見えなかった。


事の始まりは、とある曇りの日にさかのぼる。


「え!?本当にいいの!?」
「あぁ、かがみは成績も悪くないし、しっかりしてるから大丈夫だろう」
歓喜の声を上げるかがみとそれを優しい目で見つめる彼女の父親。
「しかしうちからかがみがいなくなっちゃうと逆にうちが大変だねー」
と、能天気に笑っている彼女の姉。
「お姉ちゃん、ほんとに留学しちゃうんだ・・・ちょっと寂しいな」
彼女の妹つかさは、誰にも聞こえないようにボソっと言うと、その後でおめでとうと彼女を祝福した。

かがみは部屋に戻ってもドキドキが止まらなかった。
それと同時に、一つの課題が出来上がっていた。
「こなた達に何て言えばいいんだろう…」
本来なら彼女は、その友人達に留学の事を素直に伝え、笑顔で見送られるのが普通である。
しかし、彼女はここで間違った答えに至ってしまったのである。


翌日、彼女とつかさは学校へと向かった。晴れ間の見えない曇りであった。

「うーん、降ってくるかな?雨降らないといいなぁ」
と、ニコニコしながらつぶやくつかさとは対称に、かがみの表情は曇りがちだった。
そして、かがみはその重たい口を開き、つかさに衝撃を与えた。
「ねぇ、つかさ…あたし今日から―――」
「え!?―――」

しばらくの間そんなやり取りが続いた。
その頃にはつかさは既に泣きそうであった。
「ね、お願いつかさ。これがきっと一番いい方法なんだよ」
「うん…わかった。がんばってみるね…」

それからしばらく、二人は少し表情を曇らせながら、いつもの駅前へたどり着いた。
そこには彼女らとは対称にとても晴れ晴れしい笑顔で二人を迎える人がいた。
泉こなた―――二人の、かがみの友達。だったその人である。
「おっはようお二人さん、今日もお仲がよろしいですねー」
いつもと変わらずおかしなテンションで挨拶をする。
つかさは、明るくおはようと返事を返す。
しかし、かがみはぷいとよそを向き、彼女のほうに見向こうともしない。
「あれ?かがみどうしたの?機嫌悪い?」
と、いつもと様子の違うかがみの異変に気づくこなた。
「…るさい」
ボソッとつぶやく。え?とこなたは聞き返した。
「うるさいって言ってるのよ!」

かがみの怒号が駅前に響き渡る。


「え?ちょ、かがみ?」
何がなんだかわからないといった様子のこなた。
「大体、もうあんまりあたし達にとって余裕のない時期だってあんたもわかってるでしょ!?」
「あたしはこれから勉強に専念する、だから、あんたみたいなやつとは付き合ってられないの!」
彼女の選んだ答え…それは相手を突き放し、自分の事を忘れてもらうこと。
「ついてこないでね、あたし先に行くから」
それはきっと、誰もが辛く、悲しい結末を迎える答え。
「かがみ…嘘…でしょ…?」
かがみは間違えた道を歩き出す。振り返らずに。
その表情には雨雲が出来始め、やがて土砂降りの雨となった。

その日、彼女はこなたのクラスを訪れることはなかった。
「あれ?柊今日は妹のとこいかないの?」
「あら、柊ちゃんがうちのクラスにいるなんて珍しいね」
教室で一人でお弁当を広げていたかがみに不意に二つの声がかかる。
彼女の友達の日下部みさおと峰岸あやのであった。
「あ、あぁ…ちょっとね。今日は一人でたべよっかなーなんてね」
少し戸惑いながら返事をする。
彼女たちにとっては失礼ではあるがかがみはすっかり彼女らの存在を忘れていたのだ。
「じゃ、私たちと一緒にたべよ?」
「そーそー、みんなで食べたほうがうまいって!」
こなたの事で頭が一杯だったんだなと思いながら、かがみはうんと頷く。
「それでこの間みさおちゃんがね―――」
「なにをー!それならあやのだって―――」
楽しかった。そのひと時が楽しくてたまらなかった。
二人とは、別れのときまでこうしていようと思った。こなたとはもう戻れないと思ったから。
だから、彼女は二人には打ち明けることにした。留学のこと。こなた達との関係のことを…。


「…ふーん、そうなんだ」
みさおは難しい話はわからないやといった様子であった。
「そうだったの…でも、柊ちゃん。私はあんまり…その、良くないと思うな」
あやのの答えは正論であった。かがみも内心そのことは分かっていた。
「でも、でも!この方があいつだって楽にあたしと別れられると思って…!」
「そんな好きなら無理してそこまですることないと思うんだけどなー」
みさおは相変わらず無関心そうに言う。
「それが出来たら――」
反論しようとしたかがみに不意に何かが覆いかぶさっていた。
「柊ちゃん、それは柊ちゃんが逃げてるだけなんだよ…怖くて、逃げてるだけなの」
かがみを優しく抱きしめながら続ける。
「でも、でもね。それは柊ちゃんが自分でその事に向き合わなきゃいけないの」
「だから、私達は何も言わない、何も言わないでそばにいてあげるからね」
その言葉は大きくて、優しく包んでくれた。かがみはその日、二度目の涙を流した。


時を同じくして、つかさのクラスでは―――。

「ねぇつかさ。かがみは…なんで…」
こなたは未だ困惑の表情を浮かべていた。
「うぅん…わからない…かな。受験シーズンだし、ピリピリしてるんじゃないかな…?」
つかさは何も知らないといったようなそぶりをしていた。かがみに言われた通りに。
「じゃあ…受験が終わったらかがみは元に戻るの?」
こなたの言葉につかさは答えられなかった。
少しだけ、時が止まったような沈黙が包み込む。そして――
「今日もお昼はチョココロネなんだよ、やっぱお昼はこれだよね!」
明らかに無理をしながら口を開くこなた。つかさはその光景がとても悲しかった。
悲しくて、辛くて、とても苦しかった。


それから、かがみ達は以前とは少し変わったけど、何の変哲もない生活を送っていた。
かがみが勉強を教える相手はみさおに。こなたが勉強を教えてもらうのはみゆきに。
こなたがオタ会話を繰り広げるのはつかさに。かがみがツッコミをするのはみさおに。
少しだけ変わったけど、そんな生活が続いていた。
そして受験が始まり、喜びの声、悲しみの声、驚嘆の声、祝いの声を聞きながら、瞬く間に日は過ぎて行った。

ここで物語は冒頭に戻り、出発の前日。
「はぁ…明日は…晴れるといいな」
その日は強い雨が降っていた。門出の日が雨なんて少し悲しいなと思いながらつぶやく。
「結局…峰岸はああいってくれたけど、こなたに何も伝えられなかったな…」
翌日の準備の最終確認をして、その日は少し早いけど床につくことにした。
だが、色々な考えが頭の中をめぐり、かがみはなかなか寝付くことができなかった。

思い浮かぶのは、こなたと馬鹿やっていた頃の思い出。
気づいたのは、こなたの大きさ。
思い浮かぶのは、こなたとの別れの日の事。
傷ついたのは、自分の心。
思い浮かぶのは、別れた時のこなたの顔。
傷つけたのは、あいつの心。
思い浮かんだのは、みんなの優しさ。
気づいたのは、自分の小ささ。

まどろんでいく意識の中でかがみは戻れない日々をかみしめていた。
かがみの顔には一筋の涙跡が走り、雨はいつしか上がっていた。

翌日、雨は上がっていたが晴れにはならなかった。
かがみは家で家族に見送られ、見送りに着てくれたあやのとみさおと共に空港を目指した。
見送りの中につかさが見えなかったのが少し気がかりだったけど。
「あの子にもつらい思いさせちゃったからな…帰ってきたらお土産いっぱいもっていってあげよう」
そう思いながら、三人で他愛も無い話をしながら空港にたどり着いた。


「ごめんね、峰岸、日下部。わざわざ見送りきてもらっちゃって」
「ううん。いいのよ。大事な大事な柊ちゃんの門出だもの」
「帰ってきたらお土産頼むな!」
二人の言葉はとても嬉しかった。みさおはあやのとは対称の反応だがそれでもかがみには心地よかった。
「それより柊ちゃん…私たちの他にも見送りがいるみたいよ。ほら、後ろに」
え?と思い振り返るかがみ。その後ろにいた人にかがみは意表をつかれた。
「こな…た…?何で…?」
「ごめんね、お姉ちゃん…」
「もちろん、かがみさんを見送りに来たんですよ」
そこには、つかさとみゆき。その中心にこなたがいた。

「もう、かがみは人が悪いなぁ。こんな大事なことなんで今まで黙ってたのさ」
「え…それは…」
こなたはお構いなしといった風に続ける。
「つかさから大体の事情は聞いたよ。留学で離れ離れになっちゃうからってあたし達を遠ざけてたってこと」
「そんなことしなくたってさ…あたし達はとっくに親友じゃないか。離れ離れになった所で何も変わりはしないよ。今はEメールとかあるしね」
「こなた…許して…くれるの?」
「あったりまえじゃん!あたしとかがみんの仲だよ?快く見送ることはあっても嫌いになることなんてあり得ないよ」
「う…あぁ…こなたぁぁぁ!!」
「おーおーデレモード入っちゃったよ。でもかがみん、そろそろ出発の時間らしいよ」
「うん…わかったよ…」
「違う違う!ツンデレっていうのはもっと…」
「だからあたしはツンデレじゃなぁぁぁい!」
「そう!それだよ!その調子で向こうでもがんばってね!かがみ!」
会話する二人の表情は綺麗な虹がかかった笑顔だった。

気がつけばいつの間にか空は透き通るような青空になっていた。
かがみは一つの夢とたくさんの思い、たくさんの優しさを胸に大空へと飛んでいった。

おわり。
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