ID:qKGn > +Dg0氏:タイトル不明

「いやあぁぁぁぁぁ………雨が降ってきたっス……」

田村ひよりさんが漫画のようなオーバーアクションでうなだれる
窓の外を見てみればなるほど、確かに雨が降っている
でも、恐らくすぐに止むだろう

「田村さん、何か用事あったの?」
「いや、そんな訳じゃないんだけどね……?」

ゆたかは本当に心配そうな顔を向ける。他人想いのこの性格は、恐らく天性の物なんだろうな
田村さんは滝の様に涙を流し……あ、これは比喩です。しくしくと効果音が付きそうな雰囲気を発していた

「いやね、今日は防水シート持ってきてないのよ……このままじゃ原稿が濡れちゃう」

呪いでもかけるように窓の外を睨みだした。そんな事したら余計に降るんじゃないかな……
ゆたかはその様子を見て曖昧に微笑んでる。………時々物凄く心配そうな顔もするけど


…………正直言っちゃうと、雨は苦手だ
部屋に閉じこもる事になるし、気分が少し憂鬱になる
それに、どうしても考え事をしてしまう
悩んでいる事をとことん悩みとおしてしまうから、私は雨が嫌いだ

「…………」

ペタペタ


………私は雨が嫌いだ


「みなみちゃんは好き?雨」

ゆたかの顔が近い。どうやら考え事に没頭しすぎたみたいだ。顔が熱い

「私は………ちょっと、苦手……かな」

目線を窓の外へやると、少し雨脚が弱まったように見える。コレだともうすぐ止むかもしれない
ふと気になった

「ゆたかは?」
「え?あたし?」

顎に指をやって、「んー」と呻きながら考えている
考えてる………というよりは、ちょっと戸惑ってるのか

「あたしは好きなんだ、雨」

意外だった
少なくとも、今迄私の周りに「雨が好き」という人は現れなかった
嫌いではなくとも、好きでもないというのが殆どだったから

「へぇ、そりゃまた珍しい意見だね。どうして?」

田村さんも私と同じことを思ってたみたいだ
………よく考えると、この人も今まで回りにいなかったタイプだと思う
性格は恐らく私と対極に近い様にも感じる

「えっとね、そんな対した理由じゃないんだけど……」

「昔はね、そんなに好きじゃなかったんだ」

田村さんと私の目線がゆたかに釘付けになっている
ゆたかは少し赤くなりながらも話を続けた

「昔は部屋に篭ってる事が多かったし、雨が降るとなんだか暗い気分になっちゃって……考え方も凄く後ろ向きになるから、雨が降るの嫌だったんだ。」

その気持ちは、凄く解る……というよりは、今の私と一緒だ
田村さんはメモ帳を片手に熱心に聞いている

「でもね?ある日、お姉ちゃんがすっごい眺めの良い場所につれて行ってくれたんだ」

ゆたかが情景を思い出すように遠い目をする
………なんでだろ、私にもその情景が想像できる気がする

「そしたら、そこから大きな虹がかかってるのが見えたんだ。端から端までちゃんと、『七色の橋』って感じだったなぁ」

……多分それは、ゆたかにとって凄く大事な思い出なんだろう
言葉の一つ一つに、凄く感情が込められている
田村さんもペンを動かす手が止まっている………何故か唐突に、保母さんとして働くゆたかの姿が思い浮かんだ

「また虹が見たくって雨が降らないかわくわくする様になったんだ。で、いつの間にか雨自体も好きになっちゃってて……つまんない話でごめんね?」
「そんな事ないっスよ!感動したッスよ!」

感極まった、という感じで田村さん。先程までのブルーなんてドコ吹く風か
………あ、ちょっと目頭が

「あ、あ、でもね?ちょっと続きがあるんだけど………」

一つ咳払いをして、ゆたかが接いだ

「太陽が出るから虹が出るなんて知らなかったから、ずっと雨が降れば良いなぁ……なんて思っちゃってて」

照れた様に頬をかく
田村さんの中で何かがはじけたようで、ゆたかに抱きついた
………少し見えたメモの内容については触れないでおこう

「あーもう!可愛いッスねー!なんスかこの完璧なツボの押さえ具合は!」
「わわっ………お、お姉ちゃんも同じような反応してたよ……」
「流石泉先輩っス!」
「ははは……でも凄いよね、太陽って。人を前向きにする力でもあるのかな?」

雨が降るから、綺麗な虹を見ることが出来る
………今度からもう少し、雨に対して前向きに捕らえてみよう
そして、太陽が前向きにする力を持っているとするなら……

「だったら」
「え?」

「……私にとって、ゆたかは太陽みたいな存在だよ」


………失うと生きていけないという意味でも、ね


いつの間にか雨が止んだ空には、薄く虹がかかっていた

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