ID:3sq5aK20氏:ぬくもりを抱きしめて

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『ぬくもりを抱きしめて』  トン、トン――  深夜1時頃、ドアを控えめに叩く音が聞こえた。  私は椅子から立ち上がって、扉を開けた。 「こなたお姉ちゃん」 「あっ、ゆーちゃん」  ゆーちゃんは、パジャマ姿にナイトキャップをかぶって、瞼をしきりに擦っている。 「どうしたの? 」 「あの、眠れないの」  ゆーちゃんは、しっぽだけがついている猫としか言いようがない、 不思議なぬいぐるみを胸に抱えながら訴えかけた。 「それじゃあ、いっしょに寝ようか」 「ありがとう、こなたお姉ちゃん! 」  ゆーちゃんの表情からかげりが消え、春に野原に咲くタンポポのような笑顔に変わった。  大きく伸びをしてから、私はパーティに別れの挨拶をして、ログアウトする。  黒井先生が「なんや泉、もう落ちるんか」と頬を膨らませていたけれど、こればかりは仕方が無い。  先生には悪いけれど、私の生活はゆーちゃん優先になっている。 「あ、あの、もしかしてゲーム中だったの? 」 「ん、そうだけど。気にしなくていいよ」  ぱたぱたと手を振ってから、乱れたベッドを整えにかかる。 「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん」  顔を赤くして謝るゆーちゃんはとっても可愛いのだけど、気を遣いすぎるところが少し寂しい。  もう少し、横着になってくれてもいいのだけど。  もっとも、横着なゆーちゃんは、ゆーちゃんでなくなってしまうから、難しいところかもしれない。 「どうしたの? 」 「ううん。なんでもないよ。ちょっとした考え事だから」  シーツをきちんと揃えてから、私は手招きした。 「こっちにおいで、ゆーちゃん」 「うん」  ゆーちゃんと一緒にベッドに入る。毛布の中は最初は冷たかったけれど、二人分の体温で直ぐに温まる。  私は、ゆーちゃんの身体に手を伸ばして、後ろからぎゅっと抱きしめた。 「お姉ちゃん? 」 「へへー ゆーちゃん、ゆたんぽみたい」 「恥ずかしいよお」  ゆーちゃんは首筋を真っ赤にして身体を捩って逃げようとするけど、駄目だよ。  こんなにあったかくて、柔らかくて萌えるゆたんぽは逃さないよ。  ゆーちゃんの背中に胸をくっつけていると、何故か自分の鼓動が聞こえてきて、ドキドキとしてしまう。 「こなたお姉ちゃん」  小さくなっていたゆーちゃんの小鳥がさえずる様な声が聞こえる。 「私も…… あたためて」  後ろから拘束していた手を緩めると、ゆーちゃんは半身を翻して、正面から私に抱きついた。 今日のゆーちゃんはとっても積極的だ。 「ゆ、ゆーちゃん。この態勢は…… 」  ゆーちゃんの手が背中にまわされて、大きな瞳が間近に迫っている。  艶かしい太腿が私の足に絡んで、私の中がじゅんとしてしまう。 「ちょっとやばいんじゃないかなあ」  ゆーちゃんをやんわりとたしなめるけど、一向に離してくれない。 まるで、幼児のようにぴったりとしてくっついたまま、私のふくらみかけの胸に顔を埋めた。 「ゆーちゃん? 」  少女の異変に気づいて、あどけない顔を覗き込むと、ゆーちゃんは泣いていた。 「ど、どうしたの? 」 「お姉ちゃん。ごめんなさい。私、寂しくって」  ゆーちゃんはぐずりながら、言葉を紡ぎ続ける。 「急にお父さんとお母さんに会いたくなって、寂しくて…… 私、少し離れているだけなのに ワガママな事ばかり思って…… こなたお姉ちゃん。本当にごめんなさい」    思わず苦笑してしまった。ゆーちゃんは本当にいい子だ。  確かに、私のお母さんは天国に行っているけど、ゆーちゃんが気にすることはないんだ。 「ゆーちゃん。泣きたい時は泣けばいいんだよ」  私は、ゆーちゃんの震える背中をゆっくりとさすり続ける。  嗚咽を漏らしていたゆーちゃんは、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。 「もう、大丈夫かな? 」 「う…… うん。ごめんなさい。こなたお姉ちゃん」  泣き止んだゆーちゃんが瞼をはらしながら、それでも小さく微笑んだ。 「ゆーちゃん。私じゃ不足だと思うけど、寂しくなったら何時でも言ってね」 「うん。ありがとう」  ゆーちゃんの笑顔がもう少し大きくなった。  私も、ゆい姉さんも、もちろんゆーちゃんの両親も、ゆーちゃんは笑顔でいて欲しいと願っている。  だけど、ずっと笑顔でいることは無理だから、たまには泣いて、奥に溜まったものを吐き出して すっきりすることも必要だと思う。 「そろそろ寝よっか」 「うん。でもその前に…… 」 「なあに? 」  ゆーちゃんは一つ深呼吸をしてから囁いた。 「眠れる、おまじないをして…… 」  ゆーちゃんは顔を赤らめて、少しだけ震えながら返事を待っている。  私は、ゆーちゃんの瞼に掌をあてて閉じさせると、ゆっくりと近づいて唇を軽く塞いだ。

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