〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉

「〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉」(2008/02/24 (日) 14:46:18) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p>日曜の午前中、私は街中を散歩をしていた。<br /> 昨日の大雨が嘘のような青空、私の心とは反対に雲ひとつ見えない。<br /> 普段なら家でネトゲでもしていただろう。でも、家にいてもかがみのことばかり考えて、辛くなるから。<br /> 気分が少しは晴れるかなと思ったけど、私の予想とは360°違った。<br /> ……って、一周してるや。180°ね。<br /> 時間が経てば、季節が変われば、いずれ忘れられると思っていたけど、胸に刺さったトゲは、未だに抜けないまま。<br /><br /> 歩いていくうちに、町外れの公園に着いていた。<br /> 誰もいないのが逆に嬉しかった。誰にも干渉されず、一人でゆっくりできるから。<br /><br /> 「ふう……」<br /><br /> 家からこの公園までは結構キョリがあり、疲れ切った足を癒すためにブランコに座った。<br /> それからしばらく、ずっと空を眺めていた。かがみへの気持ちは、収まらない。<br /><br /> 「……大好き」<br /><br /> ついに我慢できず、空に向かってそう呟いた。誰もいなくて、本当に良かったと思う。<br /><br /> 「……私は……かがみのことが……大好き」<br /><br /> でも、呟いたからといって、何かが変わるワケもなく。私の心を虚しさが通り抜けていった。<br /><br /><br /> ――少しくらい、私達に相談してもいいのよ? 私達は――<br /><br /><br /> その後、かがみが何を言おうとしていたのかは、なんとなくわかる。<br /> 言われなくて、よかった。『親友』なんて言葉を聞いていたら、確実に暴走していただろうから。<br /> だけど……なんで、言わなかったんだろう? 本当に恥ずかしかったのか、それとも……<br /><br /><br /><br /> どのくらい時間が経っただろう、チャプンという音と足の冷たい感触で我に帰った。</p> <p>「あ……」<br /><br /> ブランコの下の窪みにあった、昨日の大雨でできたのであろう水溜まりに、私は足を突っ込んでいた。<br /> 靴を履いてはいるものの、隙間や足首から水がしみ込んでくる。<br /> 靴の中がグショグショで気持ち悪かったが、不意に笑みが零れた。それは、自虐の笑い。<br /> 晴れ渡った町で、私の靴だけびしょ濡れ。それが私を表しているようで、なんだかおかしかった。<br /><br /><br /><br /> 〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉<br /><br /><br /><br /> このままここにいてもしょうがない、私はグショグショな靴のまま家に帰った。<br /> ゆーちゃんが元気よく「お帰りなさい」と言ってきたけど、私は靴下を洗濯機に放り込み、無言のまま部屋へと戻った。とにかく一人になりたかったから。<br /><br /> 「ふう……」<br /><br /> ベッドに仰向けに寝、思わず溜め息がこぼれる。疲れもあったのだろうが、原因はそれだけではなく……<br /><br /> 「やっぱり、諦めきれないんだな……」<br /><br /> 諦めようと思えば思うほど、余計に心が痛む。<br /> 本当は、諦めたくない。かがみと付き合いたい。でも……諦めるしか、出来ないじゃない。<br /> 私の思いは、絶対に届かないんだから……</p> <p>「こなたお姉ちゃん、入ってもいい?」<br /><br /> ドアをノックする音とゆーちゃんの声。<br /><br /> 「いいよ。何の用?」<br /><br /> 身体を起こして返事をすると、ゆーちゃんが不安そうな顔で入ってきた。<br /><br /> 「こなたお姉ちゃん、何かあったの? 元気がないみたいだけど……」<br /> 「……なんでも、ないよ……なんでも……」<br /> 「嘘。こなたお姉ちゃん、何か悩んでるんでしょ? 前から溜め息ばっかりだし」<br /><br /> ゆーちゃんはかがみ並みに……いや、それ以上に、私をよく見ている。<br /> これが普通の悩みなら、相談するんだけど……<br /><br /> 「言っても、ゆーちゃんにはわからないよ」<br /> 「……」<br /><br /> 帰って、と言わんばかりに横になる。実際、早く出ていって欲しかった。<br /><br /> 「確かに、私にはわからない悩みかも知れないけど……一人で抱え込むより、少しは楽になると思うな」<br /> 「え……」<br /><br /> 横になったまま顔を動かして、ゆーちゃんの顔を見る。<br /> その顔は真剣そのもの、いつもの優しいゆーちゃんの顔ではなかった。<br /><br /> 「それに私、こなたお姉ちゃんに頼ってばかりだもん。たまには私を頼って欲しいな」<br /><br /> ……負けた、かな。ゆーちゃんの親切心に、私の心が。<br /> そう言われると、頼らなざるをえないじゃん。卑怯だよ。<br /> でも、負けは負け。私は身体を起こしてゆーちゃんの顔を見る。<br /><br /> 「ゆーちゃん。今から言うことは、全部本当のことだから、覚悟して聞いてね」<br /> 「う、うん……」<br /><br /> 私の言葉に、ゆーちゃんが身構える。私は小さく息を吸い込み……覚悟を決めた。</p> <p>「私、かがみのことが……好きなんだ。友達としてじゃなく、恋愛感情で」<br /> 「……え……?」<br /><br /> 予想だにしてなかったのだろう、私の言葉を聞いたゆーちゃんが驚きで口をおさえた。<br /><br /> 「私はかがみが欲しい。かがみとずっと一緒にいたい。だけど、私もかがみも女の子……」<br /> 「……」<br /><br /> スカートの裾をギュッと握り締めたままのゆーちゃんを無視して、私は喋り続ける。<br /> 最初は喋るのに抵抗してたけど、一度喋り始めると止まらなくなるから不思議だね。<br /><br /> 「私は、かがみに告白したい。でも、かがみは私を友達としか見てくれてない至極まともな女の子。告白したところで、受け入れてくれるはずもない。<br />  断られて、元の生活に戻れるとは思えないし、もしかしたら、私を軽蔑するかもしれない。そうなったら……傍にいることはできない」<br /><br /> 小さく溜め息をつき、天井を見る。特に意味はないけれど……なぜだか、ゆーちゃんの顔を見たくなかった。<br /><br /> 「いくら思ったって、私の恋は、絶対に叶わないんだ。だから諦めようとしてるんだけど……諦め切れないんだよ……」<br /><br /> 瞳から、涙が溢れた。我慢してはいたけれど、涙腺が耐えきれなかったみたい。<br /><br /> 「……どうして、諦めなくちゃいけないの? そんなの、会う度に辛くなるだけだよ」<br /><br /> その言葉に驚いた私は、ゆーちゃんの顔を見た。<br /> さっきまでの顔はどこへ行ったのだろう、なんだかイラついているようにも見えた。<br /><br /> 「やってもいないのに、なんで諦めてるの? まだわからないじゃない」<br /> 「わかるよ。常識的に考えて。同性に恋をするなんて、おかしすぎるじゃない」<br /> 「……何を持って常識なんていうの? 同性結婚が認められてる国だってあるんだよ?」<br /><br /> 前言を撤回しよう。ゆーちゃんは、本当にイラついているみたい。<br /> こんなゆーちゃん……初めて見る。</p> <p>「芸能人と一般人との結婚もある。日本人とアメリカ人との結婚だってある。だから不可能なんてないんだよ。やろうと思えばなんだってやれる<br />  けど、こなたお姉ちゃんは何かしようとした? 何もしてないでしょ? ただ怯えてるだけなのを『常識』っていう言葉のせいにしてるだけでしょ!?」<br /><br /> ものすごい剣幕で言い寄ってくるゆーちゃんに、私は何も言えなかった。<br /> しかも……ゆーちゃんの言葉は、まさにその通りだったから。<br /><br /> 「かがみ先輩だって、告白したくらいじゃ軽蔑しないと思うよ。もしそうだったら、友達にだってなってないよ <br />  それに……もし何かあったとしても、私はずーっと、こなたお姉ちゃんの味方だから」<br /><br /> ゆーちゃんの言葉の一つ一つが、私の心の傷を塞いでいく。<br /> 気付けば私は、ゆーちゃんに抱きついていた。大粒の涙を流しながら、きっとあざが出来てしまいそうなくらい、強く。<br /><br /> 「ひゃわ!?」<br /> 「ゆ……ゆーちゃ……あ、あり……が……ああああぁぁ……!」<br /><br /> 痛がる素振りも、嫌がる素振りも見せずにゆーちゃんは、ただ私の頭を撫でてくれていた。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 「私、頑張るよ。頑張ってかがみに告白して、かがみと付き合う」<br /><br /> あれから数分後、私はゆーちゃんの目の前で誓った。<br /> ゆーちゃんが教えてくれたことは、諦めるよりも、何かを求めて傷つく方が良いということ。<br /> 私を励ましてくれたその気持ちを、踏み躙るわけにはいかない。</p> <p>「じゃあ、約束だね」<br /><br /> ゆーちゃんが左手の小指を出してくる。指切りなんて、何年ぶりだろう。<br /> そう思いながら、私も小指を出してゆーちゃんのと絡ませる。<br /><br /> 『ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら……』<br /><br /> そこで、二人の声が途切れる。どうやら、同じことを考えていたようで。<br /><br /> 「本当に針千本飲ませるわけにはいかないよね、さすがに」<br /> 「何か他にないかな……約束を破った場合……」<br /> 「あ、じゃあさ……」<br /><br /> ゆーちゃんがほんの少しだけ顔を紅くしてこっちを見てきた。<br /><br /><br /></p> <p> </p> <p><br /> 「私と付き合うっていうの、ダメかな?」<br /><br /></p> <p> </p> <p><br /><br /> ……………はい?<br /><br /><br /><br /> 「え、えと、だから、かがみ先輩と付き合えなかったら、私と、付き合うっていうの……ダメかな……//」<br /><br /> 耳まで真っ赤になった顔を見て、やっと私は気付いた。<br /> 私がかがみに恋心を抱いているように、ゆーちゃんも、私に恋心を抱いていることに。<br /> でも、ゆーちゃんの言っていることは……<br /><br /> 「いい、の……? だって、もし告白が成功したら……」<br /> 「いいの。一番大事なのは、こなたお姉ちゃんの気持ちだから。こなたお姉ちゃんが幸せなら、それでいいから。だって、こなたお姉ちゃんが……好きなんだもん」<br /><br /> ……ああ、なんで私はあんな程度のことで悩んでたんだろうか。<br /> 同性の友達に恋をした私なんかよりも、同性の『血縁者』に恋をしたゆーちゃんの方が、よっぽど辛い思いをしてたはずなのに……<br /> それでもゆーちゃんは、私を……<br /><br /> 「ありがとう、ゆーちゃん……」<br /><br /> それだけでは、感謝の思いを伝えきれないけれど、優しく微笑んでくるゆーちゃん。多分、わかってくれてるんだと思う。</p> <p>「あ……あれ……?」<br /><br /> 刹那、瞼が重くなった。さっき泣いたせいだろう、ゆーちゃんの顔がぼやけて見えてきた。<br /><br /> 「お姉ちゃん、眠くなっちゃった?」<br /> 「う……うん……」<br /><br /> 私は睡魔を我慢できず、そのまま床に倒れそうになった。<br /> 固い床の衝撃がくると思いきや、柔らかく温かい感触が顔を包み込む。<br /> 言うまでもなく、そこはゆーちゃんの胸の中だった。<br /><br /> 「いいよ、ここで寝ても」<br /> 「ありがと……ゆー……ちゃ……」<br /><br /> 意識が遠くなる瞬間に見たゆーちゃんの瞳は、濡れていた。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> 夢を見た。<br /><br /> 私がかがみと出会ってからの出来事を、まるで走馬灯のように。<br /><br /> 二人で過ごした幸せな時。辿れば、眩しく光っている。<br /><br /> もう二度と、あの頃には戻れない。だけど、それは悲しいことなんかじゃなかった。<br /><br /> 少し前までは絶望の道が広がっていたけれど、ゆーちゃんのおかげで、新しい道が開けた。<br /><br /> それは、決して絶望の道なんかじゃなくて……</p> <p> </p> <p>全てを決めるのは、他ならぬ柊かがみ。<br /><br /> 私の運命が良い方向に行くか、悪い方向に行くか。それは、かがみの返答次第。<br /><br /> 例え二人の距離が離れていったとしても、私はそれを受け入れる。<br /><br /> だってそれが、私が選んだ道なのだから。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ――柊かがみ。私の、最愛の人――<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> どんな結末が待っていようとも。<br /><br /> 私がかがみを愛していたことに変わりはない。<br /><br /> かがみを忘れてしまうほどの恋が胸を焦がすまで。<br /><br /> 私はずっと、かがみの幸せを祈り続ける――</p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。