the EDGE of the WORD ~月光~

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the EDGE of the WORD ~月光~」(2008/02/02 (土) 09:42:22) の最新版変更点

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「どう? うまくできてる?」<br> 「うん! 前にお姉ちゃんに教えてもらった通、り……?」<br> <br> 私を見上げたゆーちゃんが固まった。何が起きたのかわからず、私は首を傾げた。<br> <br> 「お、お姉ちゃん……? な、んで……泣いてる……の……?」<br> <br> 頬に手をやって初めて、その事実に気が付いた。<br> <br> 「あ、あれ? 本当だ……なんでだろ……」<br> <br> 私はふらふらと歩きながら洗面台へ歩き、顔を洗う。<br> 少しだけさっぱりして、だけど心は晴れなくて。<br> <br> なんで泣いてるのか、か……。多分、予想がつく。<br> 私、悔しいんだ。諦めなくちゃいけないことが。<br> 本当は諦めたくない。どうしても、かがみとずっと一緒にいたい。<br> この思いを伝えたら、曇った心も、少しは楽になるだろう。<br> でもそれは、私を取り巻く世界の終わりを意味する。<br> だから私は、絶対に言わない。言うつもりもない。<br> <br> <br> <br> 私はただ、かがみの世界の周りを回るだけの小っぽけな星。<br> 遠くはないけど近くもない。この位置にいることが、一番いいんだ。<br> 『友達』でいる、今のままが……<br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> ――かがみ、愛してる――<br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> それは、決して伝えてはならない言葉。<br> <br> 少し触れただけで、相手を簡単に傷つけてしまう、言葉の刃。<br> <br> その言葉の刃を強く抱えながら、私はこの気持ちを深い心の海に沈めた。<br> <br> 深く斬り込んでいる見えない傷の痛みを、癒すこともできないまま――
<p>恋をするということが、こんなにも辛いものだとは思っていなかった。<br> 好きなのに、好きと言えなくて。それがこんなにも辛いものだとは。<br> 言葉にしたらたった二文字、容量としては二バイトしかない言葉なのに、それは、私の許容範囲を大きく越えている。<br> <br> ――好き。<br> <br> たったそれだけなのに、言えない。言ったら、相手を傷つけてしまう。相手にだって、好きな人がいるはずなのに。<br> ……いや、それ以前の問題だろう。だって、私が好きなのは――<br> <br> <br> <br> 〈the EDGE of the WORD ~月光~〉<br> <br> <br> <br> 「危ない、こなた!!」<br> <br> その声で我に返った時、私は赤信号を渡ろうとしていた。<br> 前進行動を続ける私の身体をなんとか止め、バックステップで歩道まで戻る。<br> その瞬間、私の目の前を四tトラックが走り抜けていった。<br> <br> 「もう、危ないよぉ」<br> <br> 黄色いカチューシャ型リボンを揺らしながらつかさが心配そうに言ってきた。<br> <br> 「ごめんごめん、ちょっとボーッとしててさ」<br> <br> ――言えない。<br> 考えてた内容なんて、絶対に言えない。<br> <br> 「また夜中までゲームやってたのか? 仮にも私達は受験生なんだからゲームばっかりは……」</p> <p>多分、お母さんがいなかったからだと思う。<br> 自分をちゃんと叱ってくれる人を、私は欲していたんだ。<br> ゆい姉さんとも、ゆき叔母さんとも違う、自分だけのお母さんとなり得る人を――<br> <br> 「……こなた……?」<br> 「……ごめんね。もう大丈夫だからさ。行こっ」<br> <br> 私はなんでもないような顔をしながら少し早足で歩きだす。<br> でも、勘のいいかがみのこと。多分、私の微妙な変化に、気付いていただろう。<br> 案の定かがみが何かを言ってきたが、聞こえないふりをして柊姉妹の家を目指す。<br> <br> <br> <br> <br> かがみは良く、私のことを見てくれている。<br> 私の悩んでることにすぐに気付いて、悩みの内容も言っていないのに的確なアドヴァイスをくれる。<br> かがみは本当に、私のことを見てくれている。私のことをわかってくれる。<br> それが嬉しくて、それが……<br> <br> ううん、ダメ。<br> そんなの、絶対に許されない。言葉にするなんて、もってのほか。<br> 言葉は、人を救うことができる。でも言葉は時として刃となって、大切な人にも無闇に切り掛かる。<br> それに、私のこの思いは、この言葉は――ただ傷つけるだけでは、終わらないんだ。<br> 言葉にすることなんて、絶対にできない。<br> そう、絶対に――<br> <br> <br> <br> <br> 「こなた、あんた今日やっぱり変よ」<br> 「こなちゃん、どうかしたの?」<br> <br> 柊家にて。ベッドに腰掛けている柊姉妹がそう尋ねてくる。<br> 『やっぱり』って言ってるあたり、なにかしらの変化を感じ取ってはいたんだね、予想どおり。</p> <p>なぜかがみの疑惑が確信に変わったのかと言うと、私の目の前にある光景。<br> 私はあるRPGをやらせてもらっているのだが、画面には『その後、彼らの行方を知る者はいなかった』の文字。<br> そう、私のパーティーが全滅したのである。<br> 普段なら軽くクリアしているそれを、今日は何故か全滅。おかしいと思って当然だ。<br> <br> 「なんか、気分が乗らなくってね」<br> <br> 適当に返事をしてゲームの電源を切り、振り返る。<br> <br> 「それよりも、かがみの方が変じゃない? っていうより、苦しそう」<br> <br> 今日出会ってすぐ、私がかがみに抱いた疑問だった。<br> そしてかがみは、驚いたように私を見た。「なんでわかったの?」って言いたげな顔で。<br> ちなみにつかさは気付いてなかったのか、かがみの方を見て「本当なの!?」と尋ねていた。<br> <br> 「いつもより歩幅が狭く感じたんだよね。それに、声にも元気がなかったし」<br> 「……こなたって、洞察力凄かったのね」<br> <br> かがみだって凄いと思うよ?<br> <br> 「こなたの言う通り……よ。実は今日、ちょっと……風邪気味……で……」<br> 「かがみ!?」<br> <br> 言い掛けて、崩れ落ちるかがみの身体をなんとか抱き抱える。<br> どうやって我慢していたんだろう。呼吸が荒くなり、顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。<br> 熱を測るため、私はかがみの額に手を……熱っ!!<br> <br> 「かがみ、風邪気味どころの騒ぎじゃないよ!?」<br> 「ごめんね、こなた……せっかく、久しぶりに遊べたん、だから……風邪引いたくらいで……断念したく、なくって……」<br> <br> ……ああもう、これだからかがみは……。<br> 変なところで大人っぽくて、変なところで子供っぽくて……。</p> <p>とりあえずつかさに、氷枕と汗をかいてるから飲み物を持ってくるように指示。<br> 私はかがみに尋ねながらタオルと着替えをタンスから出す。<br> すでにかがみの身体は汗でびしょびしょだった。こんなにひどいのに我慢してたなんて……。<br> <br> 「いい、よ、こなた……自分、で……着替えるから……」<br> 「だめだって! 無理に身体を動かしたら余計に悪くなるから、私がやる!」<br> <br> ベッドから起き上がろうとするかがみを制止する。<br> こういうのはゆーちゃんで慣れてるから、いつの間にか知識として身についてる。<br> 私の言いたいことが伝わったのか、かがみは身体をベッドの上に横になった。<br> 私はそんなかがみの身体を動かしながら、少しずつ服を脱がせる。</p> <p>かがみの衰弱した顔を見て、ふと、邪(よこしま)な気持ちが頭に浮かんだ。<br> ――今なら、かがみの唇を奪える。今のかがみは、抵抗できないだろうから。<br> って、何を考えてるんだ私は!?<br> <br> 「こ……こなた……早く……寒い、よ……」<br> <br> かがみの言葉でなんとか我に返った私はかがみの服を脱がして、汗まみれの身体をタオルで拭く。<br> 途中で我を失いそうになる度に、理性という名のストッパーが跳ね返してくれた。<br> そして新しい服を着させ、ベッドの中にかがみを入れた。<br> <br> 「こなた……ありがと、ね……」<br> <br> そう呟くと、かがみはすぐに眠りについた。相当辛かったんだろう。<br> その後すぐにつかさが戻ってきて、枕を氷枕に変えた。<br> 飲み物はポカリを持ってきてくれた。汗をかいた時にはスポーツドリンクがいいんだよね。つかさ、GJ。<br> けど、かがみは寝ちゃったし、これは一旦机の上に置いておこう。<br> <br> 「こなちゃん、ありがとー。私だけじゃ、パニックになってたよ」<br> <br> つかさがお礼を言ってきたけど、私はお礼を言われる筋合いなんかない。<br> 私は何度も何度も、かがみの唇を奪いそうになった。<br> 次にあんな状況になったら、あの衝動を抑えられそうもない。<br> 無理だって、わかってるのに……今まで自分に、そう言い聞かせてきたのに……!!<br> <br> 「こなちゃん?」<br> 「……つかさ。私、帰るね……」<br> <br> 持ってきたゲームをカバンに詰め、立ち上がる。</p> <p>「かがみ」<br> <br> 私はドアの前に立って、かがみに振り向いた。<br> <br> 「……お大事にっ」<br> <br> <br> <br> ――違う。<br> <br> 本当は、もっと別のことを言いたかった。<br> でも、それを伝えることはできない。絶対に。<br> <br> 私は伝えたい。この気持ちを、かがみに。<br> だけど、伝えたら、かがみを傷つけるかもしれない。<br> かがみだけじゃない。つかさも、みゆきさんも、そして……自分自身も。<br> 私の気持ちを、言って良いのか、良くないのか……。<br> <br> <br> 考えなくたってわかる。良くないに、決まってる。そんなのわかってる!<br> だって私は女で、かがみも女で、その上かがみは私のことを、友達としか思ってなくて……!!<br> <br> <br> <br> <br> <br> 気が付いたら、私は自分の家の前にいた。どうやってここまで来たのか、覚えていない。<br> とりあえず家に入ると、お味噌汁のいい匂いが漂ってきた。<br> 時計を見ると、午後五時半。ゆーちゃんが晩ご飯の準備をしてるのかな。<br> <br> 「あれ、もしかしてお姉ちゃん? 今日はかがみさんの家に泊まる予定じゃ……」<br> <br> 案の定、台所から聞こえたのはゆーちゃんの声。玄関を開ける音と足音だけで判断したようだった。<br> お父さんは部屋で仕事してるはずだし、家の中にまで入ってくるのは私しかいないからね。<br> <br> 「うん。かがみが風邪引いちゃったらしいから、帰ってきたんだ。迷惑になるだろうから」<br> 「そうなんだ……」<br> <br> 荷物を階段に置いて、ゆーちゃんのお味噌汁の出来具合を見るために台所に入った。</p> <p>「どう? うまくできてる?」<br> 「うん! 前にお姉ちゃんに教えてもらった通、り……?」<br> <br> 私を見上げたゆーちゃんが固まった。何が起きたのかわからず、私は首を傾げた。<br> <br> 「お、お姉ちゃん……? な、んで……泣いてる……の……?」<br> <br> 頬に手をやって初めて、その事実に気が付いた。<br> <br> 「あ、あれ? 本当だ……なんでだろ……」<br> <br> 私はふらふらと歩きながら洗面台へ歩き、顔を洗う。<br> 少しだけさっぱりして、だけど心は晴れなくて。<br> <br> なんで泣いてるのか、か……。多分、予想がつく。<br> 私、悔しいんだ。諦めなくちゃいけないことが。<br> 本当は諦めたくない。どうしても、かがみとずっと一緒にいたい。<br> この思いを伝えたら、曇った心も、少しは楽になるだろう。<br> でもそれは、私を取り巻く世界の終わりを意味する。<br> だから私は、絶対に言わない。言うつもりもない。<br> <br> <br> <br> 私はただ、かがみの世界の周りを回るだけの小っぽけな星。<br> 遠くはないけど近くもない。この位置にいることが、一番いいんだ。<br> 『友達』でいる、今のままが……<br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> ――かがみ、愛してる――<br> <br> <br> <br> <br> <br> <br> それは、決して伝えてはならない言葉。<br> <br> 少し触れただけで、相手を簡単に傷つけてしまう、言葉の刃。<br> <br> その言葉の刃を強く抱えながら、私はこの気持ちを深い心の海に沈めた。<br> <br> 深く斬り込んでいる見えない傷の痛みを、癒すこともできないまま――</p>

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