第5夜

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第5夜 昼休み、少女たちは一つの机を囲みながら恒例の昼食タイム。 「あ、セバスチャンお茶買ってきて~」 「はいよー!・・・ってなんで俺、つかさの言うこと素直に聞いてんだ!?」 「ごめん!セバスチャン出てくるシーン間違えた!今のは嘘だよ」 にっこりとセバスチャンに微笑み返すつかさ。セバスチャンは少しだけ萌えつつその場を立ち去った。 「それより、受験勉強の合間にちょっと息抜きか、まぁ、悪くないわね」 「私、おいしいお団子の作り方覚えたの、だから、期待しててね!」 「じゃあ、場所はつかささん達の所の境内でよろしいですわね?」 「わかたよ~」 「団子と聞いてやってまいりました!私も行くからなー!」 「く、日下部!いつの間に!」 「さっきから、柊ちゃんの後ろにずっといたのよ?」 知らぬ間に月見パーティのメンバーは6人に。 「よかったら妹ちゃん、一緒に作りましょ?」 「うおおー、あやのも作るのか!これは楽しみだぜ!」 「ふぉっふぉっふぉ、息抜き息抜き~♪」 「おいおい、なんか、受験勉強に関係ないやつ中心に盛り上がってる気がするんだが…」 かがみはおでこに手をやりやれやれとため息をついた。 午後の授業が始まっている。眠い、眠気が襲ってきてまぶたが重い。 こなたは毎時間訪れる眠気との格闘に必死になっていた。この辛さは昨夜のかまいたち戦の比ではない。 「今夜は満月や~。満月にもいろいろとエピソードがあってな、月に住むウサギはもちろんのこと、ギリシアのセレネの説話、ヨーロッパ起源の人狼伝説など、月は伝説の宝庫や。 そもそも、こういった伝説や伝承の類は前の授業でもやったとおり、自分たちの力では解決できない何かに無理やり理由をこじつけて出来たものが大半や」 つかさのリボンがピクリと動いた気がした。 「不謹慎かもしれへんけど、最近話題になってる通り魔事件にしても、犯人の姿を見たものが全くおらへん」 こなたの眠気も同時に消えていく。 「しかも、異常なほどに大きな刃物の跡が被害者には残ってるそうや。この状態が長く続くと、そのうち、なんやバケモンの仕業ちゃうか?と思えてこんか? それが、噂として広まるにつれ、都市伝説と呼ばれるようになる。この時点では”噂”や。やがて、この広がりが大きくなると伝説や伝承といったものに姿を変える。 ま、ゆうても、噂は噂やしな」 にかっと黒井の八重歯が光る。 「噂なら…」 「良かったのにね…」 小さくつぶやく二人。 「お!珍しいな!?いつも真っ先に居眠り始める柊と泉が揃ってウチの話聞いとるわ!」 教室に笑いが溢れる。 「あはは、センセの話は結構聞いてますってー!」 「ホンマか~?まぁ、ええわ!雨が降らんとえぇけどな!」 かがみの顔面を赤く染める血の雨。先ほどまで喉を撫で、一緒に遊んでいたはずの猫がそこにはいない。 「―――!」 あやのとみゆきは一瞬の出来事に反応できずにその場に立ち尽くす。目から生気は失われ、震えることさえ出来ず眼前に繰り広げられた光景を見つめていた。 6人が揃って始まった月見パーティの途中、境内に住み込んでいた猫の家族がゲストとして参入してきた。 少女たちは小さな訪問者たちの登場に喜び、互いに手に取りパーティを満喫していたはずだった。 一陣の風と共に現れた黒い影は猫たちをさらい、無垢な少女たちの目の前で・・・咀嚼し始めたのだ。 「かがみーーーーーーーーっ!」 絶叫するこなた。ちょうど運悪く黒い影の一番近くになってしまったかがみは状況を把握できず、また、降りそそいだ血の雨に気を失っていた。 食事を終えた黒い影は向きを変え、こなた達の方にのそりのそりと歩み寄ってくる。 「な、なんなんだよこれはーっ!?」 何かが切れたかのように激昂するみさおは立ち上がり、黒い影に向かって突っ込んでいった。 「みさきちーっ!」 言うよりも早くこなたの跳躍。一瞬でみさおの身体を抱えると、そのまま押し倒した。 「ちびっ子!?」 「何やってるの!?あんなわけの分からないものに敵うはずないよ!」 影は立ち止まり、また、振り向く。みさおとこなたに向かって。 「とにかく、あやのさんとみゆきさんをお願い。私はかがみを・・・」 力強くうなずくみさお。幾分冷静さを取り戻したのか、息も上がっていない。彼女の陸上部で鍛えられた体力なら逃げることくらいは出来るはずだ。 こなたはそう考え、みさおに別れを告げた。 「行って来る!」 こなたとみさおはお互い背中を向けて走り出した。 茫然自失となったあやのとみゆきの手を強引に引っ張りながらみさおは鳥居をくぐり階段を駆け下りる。横目でそれを確認したこなたは小さく何かを呟き、かがみの元へせまった。 すると、いきなり、こなたの伸ばした右手に凍てつく吹雪のような風が吹きつけた! 「え!?まずい!」 「こなちゃん!」 つかさの絶叫が耳に届く。こなたは全身を必死にまげてブレーキをかけた。しかし、一瞬反応が遅れ、右手は吹きぬけた風により凍らされてしまった。 「・・・・・・・・・・明王火炎呪」 左手で”印”を結び炎を呼び出すと、凍てつく右手にそれをあてる。 こなたは自らに呪文を唱えるため一瞬だけかがみから目をそらした。そう、ほんの一瞬だ! こなたの右手を凍らせた風は竜巻のようにそそり立ちかがみを襲う!回転はそのスピードを増し続け赤く染まりその場に伏しているかがみを巻き上げると陽を浴びる雪のように、溶けるように消失した。 「かがみっ・・・!」 が、親友の安否を気遣う間もなく背後からの強烈な一撃!!! 「うぐぅっ!」 顔から地面におちるこなた。瞬時につかさが言霊を紡ぎだす。影はほんの数秒固まりはしたが、再びこなたに向かい触手を伸ばす。 泥だらけになった蒼髪の少女は全身の力を両の拳に込め短い呪文を唱える。そして、跳躍! 影の上方からこなたが襲い掛かる!あるはずの無い空中の壁を蹴りつけ、助走をつけた一撃! ブシューン――――― 影はこなたの凍傷ののこる右手を中心に四方へと散り散りになって消えた。 満月が白銀の光を地面に降り注がせる。あたりは光に包まれ、先ほどまでの惨劇を忘れたかのように静寂を保っていた。 完全に油断していた。まさかこんな所に出没するなんて。 「こなたちゃんも知ってるとは思うけど、奴らの活動は一定の周期で活発になる」 そう、おじさんの言うとおり。奴ら、人外の物の怪共は一定の周期で力を蓄え、その力が風船に水を入れるがごとく臨界点に達した時、破裂し、全てがあふれ出す。 「私たちは太古の昔より、それらを封ずる事を朝廷より承ってきた」 「私の家は人に害為す物を打ち滅ぼすよう、人々の生活を護るよう、各々が立ち上がり、今日まで伝えてきました」 その成り立ちは違えど、目的は同じ。こなたは下唇を噛みしめながら、境内の片隅でただおの話を聞いていた。 「さっきの黒い影は・・・」 つかさが震えながらたずねる。 「あれは恐らく低級霊の一種だと思うが、なにぶん人々が持つ負の因子を吸収しすぎていたようだ。それゆえ実体化した」 「・・・負の因子」 「たぶんいじめなどで虐げられた魂の集合体だろう。弱いものに対して異常なほどの憎悪を放っていた」 「それで・・・」 「それで、まずはじめに猫が襲われた。ニュースなんかでも時々やってますわね。むしゃくしゃして猫に当たる人の事件などが」 「みゆきさん!?」 気がつくと3人の輪の外から高良みゆきが近づいてきていた。 「み、みさきちとあやのさんは・・・」 「あの二人なら大丈夫。峰岸さんは貧血も伴ったみたいで目が覚めないようでしたので、日下部さんが家まで送っていきました。それより・・・」 パシーンっ! みゆきの強烈な平手打ちがこなたの右頬に刺さる。あまりに急なことで避ける事も出来ず、痛みよりも驚きがこなたを支配した。 「ゆきちゃん!?」 「泉さんやつかささんにどんな使命が、どんな力があるのか、そんなことは私には分かりません。でも、お二人は私の友達です。もちろん、かがみさんも」 みゆきの頬を水滴がつたう。 「1週間、心配してたのはかがみさんだけではありません!私だってどれだけ心配していたことか!そして、本当の理由を教えてくれない友人にどれほど苛立ちを感じたことか・・・」 「みゆきさん・・・」 今更ながら強烈な痛みがこなたの右頬を襲う。この痛みは叩かれた痛みだけじゃない。親友の心の痛みだ。 「ごめん。みゆきさんやかがみや他の人たちには迷惑をかけたくなかった・・・」 「それでも!私たちは友達じゃないですか?何が起きたのか、何が起きているのか正確にはわかりません。何の役にも立たないかもしれません。けれど・・・」 つかさの嗚咽が聞こえる。 「けれど、もっと頼ってください!だって、私たちは友達なんですから!」 3人の少女はお互いを抱き寄合い涙を流した。こなたとつかさは涙混じりに謝り続けた、ありがとうを織り交ぜながら。 「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・・」 いくらか落ち着きをとりもどし、つかさが口を開く。 「たぶん・・・大丈夫。死んだりはしていない」 ただおが呟く。3人はその声の主を見上げた。 「あの場でなんら危害を加えられることなく、さらって行ったのだ。まだ、大丈夫。奴らにも何かの目的がある」 「では、何かの目的のためにかがみさんを連れ去ったということですわね」 「そだね。まぁ、あまり良い目的ではないだろうけどね」 4人は顔を見合わせ、どうすればかがみを救い出せるのかを必死に考えていた。 「・・・」 いま、言うべきではない。ただおは言いかけて開いた口を閉じた。

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