「ID:YwJEPO0Eo 氏:7月7日の、蒸し暑い初夏の日に 」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
蒸し暑い初夏の夜。着信メロディが鳴る。
今となっては、古くさいと言われる曲。自分にとっては、そんなに古いとは思ってはいないけれど。
この曲を良く聴いていたあの頃と、現在との年月の隔たりを考えると、まあ、やっぱり世間的には古くさいのだろう。
携帯端末――もう携帯電話などと呼ぶ人もいない――樹脂製の機械の画面をタッチして。
「はい、もしもし」
「あ、もしもし、おねえちゃん?」
なつかしい、妹の声を私は聞く。
産まれた頃から一緒だった双子の姉妹。
進学して。就職して。結婚して。子供たちを産んで。
幸運ながら、大過なく、姉妹揃ってそういう人並みの幸せを歩んでいる。
――おたがい、別々のばしょで。
進学とか、就職とか、結婚のあいだには、引っ越しなんていうものがあったから。
住む場所が変わる。遠くの場所へ移り住む。それもまた、よくある話しで。
「ひさしぶり、変わりない?」
「うん、なにもないよ、そっちは?」
こっちも、なにもないよ。
――だったら、それはなにより。元気でいるのなら、なにも言うことはない。
お互いの、他愛のない近況報告。
子供のころのように、長電話は、もうしなくなった私たち。
ある程度、話しが区切れたら。
もう家事や家族のこと、自分の居る家のことに意識が行ってしまう。
お互い変わりなく元気なら、もうそれでいいと思えるのだから。
だから、電話で話すことも、そんなに多くはなくなっている。
今日。この日に、私に電話をかけている彼女の顔を思い浮かべる。
てるてる坊主をつくったり。
おひな様を飾ったり。
月見団子をつくってみたり。
クリスマスツリーを飾ってみたり。
私たちの住む場処には、そういうお祭りごとや、おまじないごとをする機会が、一年のあいだにいくつかあって。
そして今日も、そんな日だから。
――7月7日の、蒸し暑い初夏の日に、お互いの声を聞きたくなる。
天の川の隔たりを越えて、いつか出会うふたりのお伽話というわけではないけれど。
お互いの距離は離れていても。同じ空に浮かぶ天河を見上げて。
「プレゼント、ちゃんと届いてる?」
「うん、ありがとう。そっちには、届いてる?」
「うん、ちゃんと届いたよ、ありがとう」
誕生日、おめでとう。
距離を超えて。これまで生きてきた年月の道のりを噛みしめて。
私たちは、またひとつ、歳をとってゆく。
短冊には、ふつうに家族の幸せを願う一文を書いておいたけど。
来年も、再来年も。
変わりなく、歳をとってゆけますように。
直接は書かない願い事を、天の川にたくして、私は彼女に語りかけた。
じゃあ、またね。
END.
**コメント・感想フォーム
#comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)