「ID:jVqkTczr0氏:双子の誕生日」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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こなた「つかさが風邪をひいた?」
思わず復唱した。かがみは頷く。
こなた「つかさが休むなんて、初めてじゃないの」
かがみ「そうね、私も知る限り風邪なんかひいた所なんてみたこと無いわ」
こなた「う~ん」
私は腕を組んで考え込んでしまった。
かがみ「なに考え込んでいるのよ、つかさだって風邪くらいひくわよ」
つかさが風邪をひいたのは不思議でもない。もともと今までが元気すぎただけ。
こなた「いや、明後日の誕生日のプレゼントの希望を聞けなくて……かがみはさっき聞いたけど」
かがみ「ああ、それならば、私だけ貰う訳にもいかないから今回はプレゼントなしで良いわよ、それに誕生日を祝ってもらってもそれほど嬉しいとは思わない歳になったしね」
こなた「いやいや、そう言う訳にはいかいのだよ、みゆきさんや後輩達からカンパしたからね」
かがみは溜め息をついた。
かがみ「ふぅ~あんたが柄にもない事をするからよ……好意はありがたいけどね……」
こなた「それなら今日、つかさに直接聞きに行くよ」
かがみ「それもどうかしらね、風邪が移るとか言って部屋に入れさせてくれないのよ……食事も直接受け取らないで部屋の前に置かせるくらい」
こなた「ふぇ……たかが風邪で……隔離病棟じゃあるまいし……何を考えてるの、つかさは?」
かがみは何も言わずお手上げのポーズをした。
かがみは来ても無駄だとは言った。だけど何もしないものカンパした本人としても心苦しい。私はつかさの部屋の前に居る。
かがみ「つかさ、開けなさい、こなたが見舞いにきたわよ」
つかさ「だ、だめだよ、風邪が移っちゃうよ……」
みごとな嗄れた声、つかさとは思えない声だった。
かがみ「……この調子なのよ」
確かにこのままでは入れてくれそうにない。
こなた「つかさ、かがみが風邪をひいた時を思い出して、私もみゆきさんもお見舞いに来たけど風邪は移らなかったでしょ、大丈夫だって、開けて」
何の返事も返ってこなかった。どうやら今日は諦めるしかない。
こなた「しょうがないね……」
私達が離れようとした時だった。
『ガチ』
鍵の開く音がした。
つかさ「こなちゃんだけ、どうぞ」
かがみ「ちょ、どうしてこなただけ……」
私はかがみに「まぁまぁ落ち着きましょう」の意味を込めて両手をかがみの前に出して手の平を見せて振った。かがみは納得のいかない様子だったけど取り敢えず落ち着いた。
扉を開けてつかさの部屋に入った。
こなた「ヤッフー、つかさ」
返事はしないで笑顔で返すつかさ……
パジャマ姿で椅子に座っていた。
こなた「もう随分良くなったみたいだね」
つかさ「今朝、やっと熱が引いてね、落ち着いたところ」
薬を飲んでいるのか少し眠そう……それに枯れた声はハスキーボイス……なんか今までのつかさとは違う……細めた目が妖艶な雰囲気を……まだ少し熱があったのかな、顔が少し赤い……
わ、なんだ。私は何を……病み上がりのつかさに何を感じている。私は顔を振って邪念を振り払った。
こなた「明後日の誕生日の事なんだけね……」
用件を早く済ませちゃおう。
つかさ「プレゼント?」
こなた「そうそう、事前に聞いておくのも良いかなっと思ってね、今回は資金も沢山あるから、すごく高価なものじゃなければいけると思うよ」
つかさ「……ゆきちゃん、ゆたかちゃん……」
急につかさの目が潤み始めた。あらら……病気になると涙もろくなるって聞いたことあるけど、いくらなんでも大袈裟すぎる。
こなた「つかさくらいだよ、誕生日のプレゼントくらいでそんなに喜んでくれるのは……」
つかさ「ありがとう……でも、プレゼントは要らない」
こなた「あら……」
意外な返答になんて言って良いか分らなくなった。
こなた「どうして、かがみも要らないなんて言っていたけど……もうそんな歳じゃないからって?」
つかさ「うんん、そんなんじゃないけどね……」
こなた「じゃないけど?」
その続きが聞きたくなった。
つかさ「私の誕生日って七夕でしょ……お祭りみたいな日だから、もう沢山の人から祝ってもらったような気分になちゃって、もうお腹一杯だよ」
こなた「それは、別につかさを祝っているわけじゃないから……」
つかさ「そうだよね、織姫と彦星が年に一回逢える日だから……明後日、晴れると良いね」
つかさはカーテンを開けて窓を開け曇った空を祈るように見上げた
窓からねっとりと絡みつく湿った空気が入ってきた。
こなた「外の空気は身体に毒だよ……プレゼントは私が勝手に決めるから」
つかさは窓を閉めた。
つかさ「ありがとう……」
つかさは急によろめいた。私はつかさの腕を握って支えた。
こなた「やっぱりまだダメだね、寝てないと」
つかさ「そうだね……」
私はつかさをベッドまで支えると寝かせた。するとつかさはあっと言う間に眠ってしまった。まだ風邪は完全に治っていないみたいだった。
つかさの部屋を出るとかがみが少し不機嫌な顔で待っていた。
かがみ「それで、プレゼントは決まったの」
ぶっきらぼうな態度だった。よっぽど部屋にいれてくれなかったのが気に入らなかったみたい。でもそれは、風邪を移したくないつかさの優しさから出た行為。
こなた「まったく、かがみには過ぎた妹だよ」
かがみは一瞬凍りついたように動かなくなった。
かがみ「な、中で何を話したのよ」
こなた「別に……」
そのまま私は玄関に向かった。
かがみ「別にって……何よ、気になるじゃない、教えなさいよ」
かがみはすがり付くように玄関まで付いてきた。なんだかんだで、かがみが一番つかさを心配しているみたい……部屋に入りたいのなら鍵は閉まっていない今がチャンスなのに
つかさの言葉を律儀に守るなんて……これが双子なのかな……
こなた「別に何も無いよ……元気なったらつかさに聞いて」
心配そうにつかさの部屋の方を見るかがみ。二人が羨ましくなった。ちょっとだけ意地悪をして教えない。
つかさ「お邪魔しました」
私は玄関を出た。
私はつかさにかがみと同じプレゼントを買って帰った。
こなた「ただいま~」
ゆたか「おかえり~」
台所からゆーちゃんの声がした。私は台所に向かいゆーちゃんにつかさとかがみの話しをした。
ゆたか「へぇ~誕生日が同じだけじゃないんだね、双子って……でもね、双子でも誕生日が一日違いの子がいるから……かがみ先輩とつかさ先輩は運がいいね」
忙しそうに夕食の準備をするゆーちゃん。
ゆたか「それで、お誕生日のプレゼントは決まったの?」
こなた「いろいろ考えたけど……かがみと同じ物を買ったよ」
ゆたか「それが一番いいかも……」
作業を止めて私ににっこり微笑んだ。私はお鍋に水を入れて火にかけた。
ゆたか「あれ、今日は私が夕食当番だよ……」
こなた「今日は手伝ってあげるよ」
ゆたか「ありがとう」
七月七日……
私は自分の部屋で寝ていた。前日から酷い悪寒と頭痛と高熱……そしてくしゃみ……つかさと同じ症状……どうやら風邪が移ってしまったみたいだった。
つかさの言う通りにつかさの部屋には入らない方がよかったのかもしれない。今となっては後の祭り……
プレゼントはゆーちゃんに預けて持って行ってもらった……今頃皆で……楽しくパーティをしているに違いない。
『コンコン』
ドアをノックする音……お父さんかな。
こなた「あ、入らないほうが良いよ、風邪が移っちゃうから……」
酷い嗄れ声……
そんな私の制止の言葉も空しくドアは開いた。そこに居たのはかがみとつかさだった。
かがみ「まったく、主催者がいなくてどうするつもりだったのよ……」
つかさ「こなちゃん……大丈夫?」
かがみは呆れ顔、つかさは心配そうに私を見ている。双子なのにこんなに表情が違うものなのか。
こなた「……見事に移されちゃよ……」
苦笑いで話すしかなかった。
かがみ「……凄い声だな……確かにつかさと同じ症状だ、これ以上近づかない方が良いわね……取り敢えず、プレゼントありがとう、それだけ、言いに来たわよ」
つかさは私の部屋に入ってきた。
こなた「え……」
つかさ「私はもうその風邪治ったから大丈夫だよ……一昨日はありがとう、何か食べたいものはない?」
こなた「ない……よ」
つかさ「それじゃ、ちゃんと寝てないと治らないから、ゲームとかしたらダメだよ」
こなた「……うん……」
かがみ「珍しいな、そんなに素直なこなたは……」
つかさ「辛そうだから部屋を出るね……お大事に」
つかさは部屋を出た。二人は私に手を振るとドアを閉めた。
なんだよ、どっちの誕生祝かわからないじゃないか……
気付くと目から涙が零れていた。
これは病気で気が弱くなったから出た涙……
そう自分に言い聞かせた。
終
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