「ID:O1mi2Otc0氏：つかさの旅の終わり（ページ２）」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ふぅ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
溜め息のような、深呼吸のような感じだった。恵子さんはゆっくりと目を開けると私を見て驚いた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「あら、いつの間に……ごめんなさい、もう来ていらしたとは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ノックしたけど演奏が始まっていたので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「立たせたままでしたね……さあ、こちらへ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは立ち上がりピアノから離れた。そしてテーブルの席へと向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「とても良い曲ですね、聴き入ってしまいました、何て言う曲？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんに案内された席に座った。そしてけいこさんも席に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「亡き皇女のためのパヴァーヌ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「曲の名前ですか、亡き……皇女……とても悲しげな曲でした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ラヴェルの作品……彼が、夫が私に教えてくれた最初の曲……もう逢えない、だけど諦めきれない、切ないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情が籠もっていた。けいこさんは皇女を亡くなった旦那さんに置き換えて演奏していたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「旦那さんもピアノが弾けたのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ラジオで聴かせてくれた……思い出すわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">懐かしむようにピアノの方を見ていた。やっぱり聞いてみたい。けいこさんの過去を。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～どうやって旦那さんと出会ったの、確か旦那さんの実家は猟友会だったって……憎くなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">すこし小声で話すとけいこさんは私に目線を移した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「猟友会……調べたのね、そうね、何度も裏切られ、追放されてきた、狐だった頃の私は人間を憎んでいた、それを変えたのが彼、<span style="color:#FF0000;">竜太よ」</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうやって変えたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうね、貴女になら話してもいいでしょう、その前に、遠路疲れたでしょう、軽食を用意しました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
すると部屋の奥から秘書のような女性が食器を持って来た。この人はここに来てからずっとけいこさん側に居る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「秘書さんですか、もしかしてこの人もお稲荷さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性は私の目の前に食器を置いた。サンドイッチと紅茶だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「始めまして、自己紹介していませんでしたね、私は、会長の秘書で、<span style="color:#FF0000;">めぐみと言います、お見知りおきを」</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">名前しか言わない。やっぱりこの人も……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「お察しの通りです、彼女は私の親友でもあります、よくここまでついてきてくれました……感謝しています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは私に一礼すると、また部屋の奥に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「人間の社会には彼女の方が長く居るので何かと助かっています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はサンドイッチを一口食べた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「美味しいです、もしかしてけいこさんが？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。そして話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「あれは……私がまだ狐だった頃、貴女の住んでいる神社をねぐらにしていた頃……仲間とはぐれてしまってね、狐狩りの標的にされてしまった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
必死に逃げた、でも、銃弾が足に当たってしまった、その時、崖から落ちてしまった、地面が枯葉の層だったおかげで助かった、それに狩人もそれ以上追ってこなかった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 貴女も知っているわね、大怪我をすると変身が出来なくなるのを」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「また狩人に遭遇してしまうかもしれない、私は怪我した足を引き摺った、血が垂れてしまって跡が残ってしまう、激痛と出血で気が動転してしまってね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はその場に倒れて気絶してしまった……気が付くと私は別の場所に居ました、人間の家の中です、私は布団の上に寝かされ、足の治療が成されていました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そのままでしたら私は、野犬や、熊の餌になっていたでしょう、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それは、私がたかしさんを助けたのとよく似ていた。私はけいこさんの話しを食い入るように聞いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「部屋に人間が入ってきた、そこには若かりし竜太、しかし私は彼に感謝するどころか憎しみの感情しか湧いてこなかった、隙さえあれば彼の喉元を喰いちぎってやろうと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思っていた……足の怪我のせいでそれは出来なかった、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は献身的に私の治療をしてくれた……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それ……私と同じです、たかしさんを私はひろしさんと間違えて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「人間から見た目は同じ狐……無理もありません、その時のたかしの気持ちは手に取るように分ります……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは一回間を置いてから話しを続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「足の傷がほぼ癒えた頃でした、彼が部屋でくつろいでいいました、全くの無防備、今なら確実に仕留められる、そう思い彼に近づいた……牙を彼の首元に照準を</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
合わせた……でも、出来なかった……仲間の復讐、それしか彼を殺す理由がなかった、私の個人的な感情と葛藤している時でした、ラジオからピアノの音色が</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
聞こえました、ノイズが酷かった音でした……それでも私の耳から心に直接響きました、人間の作った音に意味があるのを初めて気付いた時でした……</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
『君は音楽がわかるのかい？』……耳をラジオに向けている私に彼はそう聞いてきました……これが彼と私の初めての会話となりました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会話って、けいこさん、狐の姿で言葉を出せたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは笑って首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ふふ、意思の疎通が初めてできたと言う意味です……それから彼は私に、絵画、彫刻、の写真を見せてくれました、これまで私は人間というのは破壊と消費しかしない</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
者かと思っていました、それを全て覆すものでした……数日後、彼は私を人気のいない森に連れて行きました、彼は私を森に帰すつもりなのは直ぐに分りました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私を地面に置くと『もう撃たれるなよ、さぁ、もう行きなさい』」……彼の別れの言葉、別れたくなかった、私は彼の目の前で自分のもう一つの姿を見せた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それって、人間に化けたって事、でも、そんな事をしちゃったら、恐がって逃げてしまうかもしれないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「これは懸けでした、そのまま狐のままでも別れるだけ、もし、この姿を見て彼が何かを思ってくれるならば……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その懸け、上手くいったんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……さて、そろそろ貴女のお話をしなければなりませんね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もうそんな時間なのかな。本当はけいこさんが人間なった経緯も聞きたかった。でも……この話だけでも充分分る。けいこさんが竜太さんを愛したのが。それに芸術が好きな訳も。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、移転先の件ですけど、候補地が決まりましたのでこれで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は封筒とけいこさんに差し出した。けいこさんは封筒の中身を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……ここで良いのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、満場一致です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それならば直ぐに手配しましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">奥からめぐみさんが来てけいこさんから封筒を受け取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「直ぐに手配を」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんはそのまま会長室を出て行った。そしてけいこさんはテーブル席にまた座った。そしてさっきまで笑顔だったのに真面目な顔に豹変した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「もう一つ、私は依頼をしましが考えてくれましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、私なんかで良ければ……何もお役にたてないかもしれませんけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
即答だった。お手伝いはしようとは思っていた。直ぐには答えるつもりは無かった。だけどさっきの話しを聞いたら決心がついた。けいこさんの顔に笑顔が戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もどったけど少し表情が暗かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「一週間前……私は彼らにコンタクトを試みました、しかし、いい返事は来ませんでした、どうすれば良いのか考えあぐねているところです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「彼等って、ひろしさんは、ひろしさんは元気でした？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私、私がけいこさんのサポートをしますって言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは首を振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、貴女はまだ私を手伝うとは言っていませんでしたので言っていません、これからは堂々と言えます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「効果があるかどうかは分りませんけど、私の名前を使っても良いです、逢いたい、それだけでも良いので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですね、使わせてもらいます、これで、彼をここに連れて来られるかもしれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">此処、ここって、東京のど真ん中……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、最初のコンタクトの時もここに呼んだのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですけど、何か……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんはキョトンとした顔で私を見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私が最初、此処に来た時、けいこさんが恐かった、何か交渉する時は相手の安心できる場所でお話した方が良いと思うけど……</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは元お稲荷さんだから警戒しているのかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「相手の安心できる場所……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、それは向こう側に決めてもらえば……あの神社はもう出て行っちゃったし、私も分らないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「素晴らしいですね、早速助言をいただきました、その調子でお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は思った事を言っただけなのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「次は必ず交渉の席に来てくれるようにします、その時は同席をお願いします、そのためにも、つかささんの休日を教えていただけませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「交代制なので定期じゃないけど、週に二日取れるようになったので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はけいこさんとこれからの事を色々話した。もし、ひろしさん達が本格的に交渉するようになれば週に二日の休みでは足りなくなるとけいこさんは言った。そうなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店のお仕事は出来なくなる。休職するか、一回退職するしかない。報酬の話しもしたけど、今はちゃんと、かえでさんから貰っているから交通費以外は要らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな細かい話までした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「今日は良い話ができました、それでは移転の事は私に任せて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、お願いします……あ、あの～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは不思議そうに私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もう一度聴きたいのですが……亡き皇女のための……なんでしたっけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑むとピアノの方に向かい座った。そして目を閉じて弾き始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お疲れ様～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
家に着いたのは日が変わろうとしていた時刻だった。こなちゃんはもう既に帰ってきていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「交渉はどうだった？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はにっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん、どうやら上手くいったみたいだね、お茶を淹れるね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もう寝しなだよ、眠れなくなっちゃう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃ、ココアを淹れるね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ココア……そういえばひろしさんに最初に出したのもココアだっけ……思い出しちゃった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替えて居間に戻るとこなちゃんが私の買ってきた物をじっと見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「珍しい物買したね……クラッシック？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">帰りに音楽ショップで思わず買ってしまった。ラヴェルのピアノ曲集。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「会長……けいこさんが弾いていたから、とっても綺麗な曲、また聴きたくて買っちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさは影響されやすいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今度聴かせてあげるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今度ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはココアを私の目の前に置いた。しばらく沈黙が続く。そう、私はこなちゃんに話さなければならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あのね……こなちゃん、私……決めたの、けいこさんの仕事、企画を手伝うって……ごめんね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは黙ったままココアをすすった。何も言わない。どうして……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……なんで、謝るの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぼっそとした声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え、だって、こなちゃんをこの町に呼んでおいて私だけ別の所に行く事になるから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「呼んでおいて……違うよ、私はつかさに呼ばれたんじゃない、私の意思で来た、勘違いしないで、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し怒り気味の声だった。私は言葉に詰まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私はあの時、こなちゃんが何も就職が決まっていなかったからただ声を掛けただけだよ……勘違いとかそんな事言わないで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは更に怒った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「一人旅なんか行ったからこうなったんだ、あんな狐なんかと会わなければ、私達は地元でもっと楽しく皆で過ごせたんだ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この時、こなちゃんの思っていた事が初めて分った。こなちゃんは俯いて両手を握って震えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ゆきちゃんが言ってた、私が一人で旅をするのは運命だったって、現にお姉ちゃんも家族もこなちゃんだって止めなかった、私自身もこんな出来事に巻き込まれるなんて</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思いもしなかった、でもね、そのおかげでかえでさんに会えた、一度も会っていないけど辻さんも、お稲荷さんの人達も、何より……こなちゃんとこうして</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 一緒に働けるなんて……夢みたいだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはまたぼそっとした声で話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……私とひよりんで、無断でかがみ達を主人公にした漫画を描いた時の事覚えているかな、ちょうどつかさが一人旅から帰ってきた時の話しだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、お姉ちゃん、カンカンに怒っていたね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「うんん、みゆきさんもかなり怒っていた、みなみちゃんも、ゆーちゃんも、みさきちまで……なんでつかさだけ私を庇ってくれたの、あの漫画はつかさも主人公だった</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> って、つかさは知っているでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私達姉妹が主人公のおふざけの漫画だったね、面白かったよ……なんてね、もし、旅をしていかったらこなちゃんを怒っていたかも……まなちゃんの悪戯好きと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> こなちゃんが重なって、憎むに憎めなかった、それだけだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは顔を上げて苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「結局……私は真奈美さんに助けられたって……ふふ、確かにみゆきさんの言うようにこれは運命だったのか……つかさがどんどん遠くに行ってしまうみたいに感じるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、私は遠くになんか行かない、皆がいるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの事、悪く言ってごめん……つかさを見ていたら、うだうだしているのは自分だったのに気が付いた、つかさならお稲荷さんと人間と仲良くできるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんのお稲荷さんに対する態度が変わった、なんだから少し希望が出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あとはみゆきさんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみはいいとして……みゆきさんはお稲荷さんをかなり嫌っていると思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな風には見えないけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「普段、陰口とか言わない人ほど根っこでは恨みを溜め込むもんだよ、みゆきさん、お稲荷さんの話しになると口数が減るからね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういえば……そう言われるとそんな感じに思ってしまう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……実はゆきちゃんにこれからいろいろと相談にのってもらうつもりでいたのだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「流石のみゆきさんも今度ばかりはどうかな……断るかもしれないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さん達と会う前にゆきちゃんとお話がしたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは大きく欠伸をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふゎ～ それなら早い方がいいね、明日は店長に報告するんでしょ……明後日、会ってみたら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それだと、お店を休まないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「休んじゃえ……有給たまっているんでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの後押しもあってゆきちゃんと会うのは三日後になった。ゆきちゃんは行き付けの店に私を招待してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「まずはおめでとうと言わせてもらいます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「へ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私に会うなり思いもしていなかった言葉を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「かがみさんのご結婚です、挙式は何時になるのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……あ、ありがとう……お姉ちゃんから聞いたんだね……ごめん、まだ聞いていない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「そうですか、楽しみにしています……そういえば、つかささんと二人だけで会うのは高校時代以来ですね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとはいつも皆と一緒の時が多かった。こんなにゆっくりお話するのもほんとうに久しぶりかもしれない。ゆきちゃんの行き付けのお店だけあって、お洒落で落ち着いて、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆっくりとお話ができそう。どうやって切り出そうかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「柊けいこさんって知ってる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の質問にゆきちゃんは暫く考え込んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「私の大学で特別教授をなされています、とても知的で尊敬する一人です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そして、大企業の会長、ホテルのオーナー、いろいろな顔をもっている人だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですが……それがどうかいたしましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは首を傾げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私の住んでいる町を再開発するから移転して欲しいって言われた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……それは泉さんから伺っています……良い条件を出してくれたそうですね、私の思った通り誠実な方ですね、それに柊けいこさんの経営するホテルに出店ともなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ステータスも付きます、素晴らしいと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんもけいこさんを尊敬している。さて、これからが本番だよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……けいこさんから個人的に依頼を受けたの、それでゆきちゃんに相談に乗って欲しくて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「相談……ですか、私に出来る事なら良いのですが……どのような依頼なのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さんと人間が共存できるように……手伝って欲しいって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何度か私の話しを聞きながらお茶を飲んでいたゆきちゃんの動きが止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ど、どう言う事ですか、なぜ、お稲荷さんの存在を知っているのですか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し声が上擦っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「柊けいこさん……彼女はお稲荷さん……お稲荷さんだった人だよ、旦那さんと知り合って……長寿と引き換えに人間になった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私の目を見たまま瞬きもしない。更に話し続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんはね、人間とお稲荷さん仲良くさせたいって、仲良くできから、代わりにお稲荷さんの知識を私達に教えるって言ってた、でも、それはひろしさん達も</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの計画に賛成してくれないといけないから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは手に持っていたティーカップを置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「泉さんの予想が当たってしまいましたか……まさかとは思っていましたが、柊けいこさんがお稲荷さんだった………」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、これから色々な事が起きると思うから、ゆきちゃんの力を借りたくて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……私の助言は一つしかありません、私は柊けいこさんの計画に反対します、したがって、つかささんの手伝いも出来ません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強い口調だった。それに、答えを用意していたみたいに即答だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「反対……するの、お姉ちゃんもこなちゃんもかえでさんも賛成してくれたのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「柊けいこさんの経営、会社運用、特許……これらの知識はおそらくお稲荷さんの知識を使ったか応用したものでしょう、よく考えて下さい、今までお稲荷さんが私達に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
してきた事を、呪いや、金縛り、催眠術や夢の中にまでも入ってしまいます、そんな事が人間に知れたらどんな事が起きるのか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それはお稲荷さんだから出来る事だよ、私達人間は魔法なんか使えないから大丈夫だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは首を振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私は彼等が特別な存在だとは思っていません、それらは私達の知らない知識や技術があるのかもしれません、変身するのも同じです、ですから方法さえ分ってしまえば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私達にも出来ると言う事です、そんな技術や知識を私達が知ってしまったら……考えただけで恐ろしくなります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんはお姉ちゃんが呪いで苦しんでいる姿を見た。催眠術で寝てしまっているし。爪を伸ばしてこなちゃんに襲い掛かろうとしている姿も見ている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからゆきちゃんは……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんは言った、お稲荷さんの知識を手に入れたら、私達の生活が変わるって……私はひろしさんと別れた直後にとっても綺麗な幻想を見たよ、そのおかげで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暗闇の階段を一回も踏み外さないで下りる事ができた……多分お稲荷さんの力だと思うよ……私にはその理屈なんて分らない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もし、お稲荷さんが特別な存在じゃなかったら、お稲荷さんの知識は教えてもらわなくても何時か、誰かが手に入れてしまう……ゆきちゃん、そう思わない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> だったら、教えてもらえるなら、教えてもらおうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いつか、誰か……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一言そう言うとゆきちゃんは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん、お稲荷さんの事、嫌いなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急にソワソワしだした。私の目を合わせなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私はたとえ「嫌い」って言ってもゆきちゃんを嫌いになったりしないから、ちゃんと言って……私は、お稲荷さんの知識なんてまったく興味がないの、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
本当はひろしさんに逢いたい、それだけ……私は、只、けいこさんの計画を利用しているだけかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは暫く考え込んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……真奈美さんは命を懸けてまでつかささんを守りました、その一方、かがみさんを呪い、つかささんまで殺めようとしたたかしさん、とても好き嫌いでは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 表しきれません……本当に同じお稲荷さんなのでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな風に聞かれるとこっちも困ってしまう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「同じお稲荷さんだよ、だけど違う、私とゆきちゃんが違うように……怒ったり、笑ったり、恋をしたり、私達とまったく同じだと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは微笑んだ。今日会ってはじめてゆきちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「お稲荷さんは私達と同じ、そう考えると整理がつきますね……つかささんは最初からそうだったのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったのかな、意識していなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはティーカップを持った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「微力ながらお手伝いさせて頂きます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ありがとう、でも、良いの、ゆきちゃんはお稲荷さんの知識は良くないって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「知識や技術に良いも悪いもありません、要は使う人次第です……それにつかささんに言うように、早いか遅いかの違いだけかもしれません、どんなに難しい知識も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何れは詳らかになるものです……私がどうかしていました、お稲荷さんの会合の時は是非、私も同行させて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんが私と一緒に……こんな心強い事なんかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私、一人でどうやって良いか分らなかった……だからこうしてゆきちゃんに……ありがとう、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わたしはゆきちゃんの手を取って何度もお礼を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「まだお礼を言うのは速過ぎます、もう少しお話がしたいです、柊けいこさんの事を、彼女は何故人間になったのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだった。まだ何も始まってはいなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「旦那さんの竜太さんの出会いが何かの切欠になったのはなんとなく分る……そして、彼からいろいろな芸術を観たり聴いたりするうちに</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">人間への憎しみが消えていったみたいだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「芸術ですか……そういえば彼女の支援はほんど芸術関係が占めているようですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、そうそう、けいこさんはねピアノも上手なんだよ、ラヴェルの亡き皇女のための……あ、あれ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">せっかく覚えたのに言葉が出てこない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「亡き皇女のためのパヴァーヌ、ですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さすがゆきちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「この曲のテンポはゆっくりですがかなり難易度が高いようです、みなみさんも最近になってやっと弾けるようになったので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうなんだ……そんなの感じさせない演奏だった……とっても綺麗な曲だったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そして、哀しげで、優しい響きです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんと音楽のお話をした。今までそんなお話なんかした事なかった。みなみちゃんの演奏も聴いてみたい。そういえばゆたかちゃんやひよりちゃんも最近は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会っていないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「どうしたのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">上の空だったかもしれない。ゆきちゃんの話しを殆ど聞いていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「えっ、あ、みなみちゃんの話がでたから、ゆたかちゃんやひよりちゃんにも会いたくなっちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「彼女たちも、もう大学生です……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時の流れって早いね……こなちゃんとひよりちゃんの事件が昨日の事みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはクスリと笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですね、近頃、また二人で何か作品を作っているそうですよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、そんな風には見えない、こなちゃん、頻繁に実家に帰っていないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「直接会わなくても、インターネットがありますから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんがいつもノートパソコンを見ているのを思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「またお姉ちゃんに怒られなきゃいいけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはまた笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「お二人ともあの件で懲りていると思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それだと良いのだけれど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私は嫌いではなかったですよ、現実離れしたコメディ……かがみさん達の性格をよく反映した漫画だったと思います、しかし、いささか表現が過激でした、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> せめて一言、断っていただければ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、そんな事言ったら、お姉ちゃん、作りかけの漫画を破いちゃったかもしれないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私の目を見ると、小さく頷いて納得したような表情を見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・みゆき「ふふふ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った……ゆきちゃんと楽しい会話が続いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 帰りの電車の中で……私は考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が一人旅に出なければ地元で楽しく過ごせた……こなちゃんはそんな事を言っていた。ゆきちゃんとの会話で、こなちゃんと同じ気持ちが今頃になって込み上げてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それじゃ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が旅に出なかったから……私の代わりに誰かがお稲荷さんの生贄になっていた、それでお稲荷さんの恨みが消えたかな……消えない、狐狩りは今でも行われている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もっと人間とお稲荷さんの溝が深まってしまったかも……うんん、今でもそんなに状況は変わっていない。だからけいこさんが計画をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
結局私は何もしていないのと同じ……人間とお稲荷さんの橋渡しなんて……出来ないよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大きな溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気分晴らしに電車の窓から外の景色を見た。もうそろそろ目的の駅に着きそうだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私、ひろしさんと別れるとき、何でもっと強く引き止められなかったのかな。今度会って私は彼に何を言うのかな……「こんにちは」「元気だった？」「逢いたかったよ」……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんなのは普通すぎるよね、「たかしさんが元気？」久しぶりに会うのにいきなり他人の話からなんて失礼だよ……いっその事……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「人間になって私と一緒になって……」、そんな事、言えるわけがないよね……何千年も生きられるのに……そういえば前にも同じような事を考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱりダメだ。私は何も変わっていない。これじゃけいこさんの役に立てない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">出てくるのは不安な気持ちばかり。それにひろしさんの事ばかり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
電車から降りて駅を出るといつの間にか神社の入り口の方に足を向けていた。そして神社の入り口で立ち止まった。外はまだ明るい。往復する時間は充分にある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
入り口から階段を見上げた。もう自分からは行かないって決めたのに……しかし足は既に階段を登っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店が移転してしまえば私達もこの町を離れる。よっぽどの事が無い限りこの神社に来る事はない。それにこの土地はけいこさんの物になる。神社はそのまま残してくれるって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言ったけど。どうなるのかな。この町にお稲荷さんが戻ってくればやっぱりこの神社が拠点になるのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">考えても分らないような事ばかりが頭に浮かんでは消えていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
気が付くともう頂上に着いていた。頂上から町を見下ろした。あの時と全く変わらない風景が広がっている。日も傾いてきた。日が傾いて西日が射し込んで来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暗くならないうちにまなちゃんに挨拶して帰ろう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
町の風景を背にして森の中に入っていった。いつもお供えをしていた石の前で止まった。そう、まなちゃんが初めて私の作った稲荷ずしを食べてくれた場所。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして……もうその先を思い出したくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「まなちゃん……生きていたらどうするの、やっぱりけいこさんの手伝いをする？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の声は森の中に吸い込まれて静まり返る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私……まなちゃんに会わなかった方が良かったかのかもしれないね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ガサガサ』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろから枯葉を踏みつける音……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だ、誰？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろを振り返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ……つかさじゃない、何でこんな所に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「か、かえでさん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その先の言葉が出なかった。かえでさんは私の言葉を待っていた様に見えたけど、そのまま凍ったように私は動けなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暫くするとかえでさんは私の前に移動した、袋からパンケーキを出すと石の上に置いた。そして腰を下ろすとゆっくり手を合わせて祈り始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> どの位経ったか、かえでさんは手を下ろすと腰を下ろしたまま話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「こうして浩子の為に祈ってやれるのもあと何日になるかしらね……うんん、つかさと出会ってなければ私はこの神社の入り口にすら近寄らなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは目を開けて供えたパンケーキを見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「浩子と夢見たレストラン……夢で終わるかと思っていた、それを現実にしたのはつかさ、貴女よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は……おっちょこちょいで、失敗ばかり……そんな事言われても……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうした、いつものつかさらしさがないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私らしいって……いつも目立たなくて、内気で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうゆう心境の変化かしら、初めて会った時のつかさに戻っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">戻った……始めから私は変わっていない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんの旦那さん……芸術が好きだった、それをけいこさんに教えた……それで旦那さんを好きになったって……彼女のピアノを聴いていると旦那さんとの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
絆の強さが伝わってくる……私なんて、芸術も教えていないし、何も残せなかった、だから別れちゃったのかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは呆れた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「やれやれ、つかさ、貴女のしている仕事はなんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「仕事……レストランでスィーツを……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「言っておくけど、料理もりっぱな『芸術』……私はしっかりと覚えている、つかさが休暇を取った日、ひろしが来て、つかさの作った料理を食べたかったって言った、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> それが何を意味するか分るでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「妬けるわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「焼ける、焼けるって何が？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「鈍いわね、鈍すぎるわよ、まだ分らないの……もういいわ、恥かしくて私からは言えないわ、自分で考えなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは何を言いたかったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「もう日が暮れるわ、そろそろ帰りましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは少し怒り気味だった。私はかえでさんの後に付いて歩き始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……誰！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然立ち止まって森の出口の方に向かって怒鳴った。すると木の陰から男の人が出てきて慌てるようにして階段を降りて行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「怪しいわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「怪しいかな、観光客だったかも、カメラ持っていたみたいだし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「どうかしら、スーツを着ていたのが不自然だわ、この神社は観光としてはマイナーすぎる……それに慌てて逃げるなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんが怒鳴ったからだよ、あんなに大きな声だしたら誰だって驚くと思うけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……そんなに大声は出していないわよ、つかさ時々キツイ事言うわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんと私はまた歩き出した。そして階段を半分くらい降りたくらいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「柊けいこさんから電話が着たわよ、きっと携帯のメールにも着信していると思うけど一応伝えておくわ……来週の月曜日、本社の会長室に来て欲しいそうよ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 相手と連絡がついたってね……つかさ、メソメソなんかしていられないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気合の入った声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私……どうして良いか分らない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「何を今更……って、情けない顔しちゃって……私から言えることは何も無いわ、あえて一言、そんな顔じゃ何をしても失敗するわね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ほらはら、ひろしに逢えるわよ、待ち遠しいでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、あ……うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうそう、その顔よ、その顔で当日行きなさい、後は良い事だけを考えなさい、以上」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">良い事だけを考える……心の中で何回も繰り返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは速度を上げて階段を降りていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 神社の入り口を通ると、こなちゃんの車が停まっていた。車のドアが開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「迎えに来たよ、二人とも乗って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の耳元で囁いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私は泉さんに言われて神社に来たのよ……移転とか浩子の事で私もどうして良いのか分らなくてね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の肩をポンと軽く叩いた。そして私にウインクをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「泉さん悪いわね、一度店に戻ってくれないかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはこなちゃんの車に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「オーケー、分ったよ、つかさは何もなければ一緒に帰ろう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
にっこり微笑むこなちゃん。かえでさんのさっきのお話し……今まで悩んでいた事がスーと消えていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何も無いよ、一緒に帰ろう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も笑顔で返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだよね……もう悩むのは止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そして……その日は来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
月曜日、それは私の休日。けいこさんはちゃんと私の休日に合わせてくれた。なんとしてもけいこさんの想いをお稲荷さん……ひろしさんに伝えたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私にそれが出来るか分らない。だけどやれる事だけはやってみる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「こんにちは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんも来てくれた。東京駅で待ち合わせをしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こんにちは、平日なのに大丈夫なの、大学院の研究って大変なんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは大学院で忙しいのに来てくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「大学院での研究よりこちらの方に興味があります、お稲荷さんの知識……その入り口に居るのですから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まだ教えてくれるって決まったわけじゃないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんの目がキラキラと光っている。ゆきちゃんの目的はお稲荷さんの知識だったのか。ゆきちゃんらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですね……お互い、頑張りましょう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達はホテルに向かって歩き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ホテルに着き、私達はめぐみさんに会長室へ案内された。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「どうぞ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長室に入るとけいこさんが部屋の中央に立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お待ちしていました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんはゆきちゃんの方を見た。そうだった。初対面だった。けいこさんには事前に連絡しておいた。けいこさんは二つ返事で同行を許可してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、こちらが私の親友で高良みゆきさんです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「はじめまして……大学の特別講義、いつも興味深く拝聴させていただきました、よろしくお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは深くお辞儀をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴女は……高良さんとは貴女の事でしたか、学長から伺っていますよ、成績優秀……それだけではないものをお持ちだと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いいえ、私はそのような特別な事などは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、貴女は良い友人に恵まれていますね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんはここに来るのかな。周りには私達だけしかいないし……私は部屋の周りを見回した。それにけいこさんが気付いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それではこれから会場に向かいましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会場はここじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「彼らは佐渡島を会場として指定してきました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「あの、日本海にある佐渡島ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。私とゆきちゃんは顔を見合わせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「佐渡島に私の経営するヘリポートがあります、これから屋上からヘリコプターに乗って向かいます、もちろん帰りも送りますので時間は気にしないで結構です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">改めてけいこさんのスケールの大きさに驚かされた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさん達、そんな遠い所に引っ越したの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「恐らくそこには住んでいないでしょう、彼らも別の所から来るに違いありません、住処は簡単には明かしてくれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが入り口のドアを開けた。そして私達は会長室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、パイロットはめぐみさん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「何か不都合でもありますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが操縦席の方に向かっているので思わず言ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、不都合とかじゃなくて、操縦している時に変身が解けたら……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「ふふ、その位の時間管理はしています、ご心配なく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私も免許を持っていますので、いざとなれば代わります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
凄い……これがお稲荷さんの本気なのかな。ピアノも上手だし、ヘリコプターも操縦できるなんて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「皆さん、乗ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
皆乗り込むとみぐさんはヘッドホンを付けてどこかに無線で連絡した。暫くするとプロペラが回りだしゆっくりと離陸した。ビルの屋上からどんどん離れていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「約２時間で到着します、それまでくつろいでいて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「すみません、少し……お話いいでしょうか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「なんでしょうか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「知識を私達に教えてくださるのは大変あり難いです……しかしながら、それを何時、何処で、誰に、が重要になってきます、それを誤れば過去に起きた迫害……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いいえ、もっと凄惨な出来事が起きてしまうと思います……それに私達、人間側の準備も必要かと思います、知識の独占、濫用がおこれば、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
誰のための知識なのか分らなくなってしまいます、柊けいこさんはどのようにお考えですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは暫く目を閉じていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですね、もう過去の過ちは繰り返したくありません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
うわー、ゆきちゃんとけいこさんでなんか難しい話しを始めてしまった。話しに付いていけないし、入れない。こなちゃんも連れてくればよかったかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとけいこさんは真剣な顔で話している。ピクニックや観光に行く訳じゃないよね……自重しなきゃ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
窓の外を見た。今日は快晴、遠くの景色まで良く見える……あれ……あれは東武線……線路を辿っていくと……あの辺りが陸桜学園かも……その先は……実家かな、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
胡麻より小さく見える町並み。そのどれかが私の住んでいた実家……小さいな。幼い頃は実家が全ての世界だと思っていたのに。成長していくにつれてどんどん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
世界も広がっていく。小学校、中学校、高校……大学……私は専門学校だった……そして社会人。世界が大きくなると私はどんどん小さくなっていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
空から見える大都会。見え切れないほど大きな世界。そこに居る小さな私。何処に居るのか。居たのかも分らない位……小さいよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんは私達をカゲロウみたいだって言っていた。何千年も生きるお稲荷さんから見ればそうかもしれない。小さくて、あっと言う間に消えてなくなる……私達。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
景色は風のように流れていく……もう私の知らない町並みが見えてきた。こうやって景色を見ているのも落ち着いて良いかも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ヘリポートに着陸すると私達は車に乗り換えた。もちろん運転はめぐみさん。車は郊外を抜けて人里離れた所へと向かってくそして、寂れた小屋の前で車は停まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「到着しました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとけいこさんは話しに夢中になっているみたい。ヘリポートを降りても二人の会話は終わらなかった。とりあえず私は車を降りた。そして背伸びをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う～ん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみ「お二人はもう少し時間が掛かりそうですね、どうですか、先にあの小屋に向かわれては、気配を感じます……もう来ています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暇を持て余していてもしょうがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
小屋に向かう。そしてドアの前で止まった。このドアの向こうにひろしさんが……ノブを回してゆっくり開けた。男性が一人後ろを向いて立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小屋の窓を見ているみたいだった。私の気配に気付いたみたい、振り返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「柊……つかさ、なぜ、ここに居る……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
驚きの顔で私を見ていた。違う……ひろしさんではない。それじゃこの男性は誰なの。お稲荷さんみたいだけど……それに私の名前を知っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この男性の雰囲気……もしかしてこの人……そうだ、試してみよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……トカゲの尻尾のお薬、あれから地面に埋めたよ、完成にあと９８年もかかっちゃうけどね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男性は苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……埋めたのか、それならもう完成しているはずだ、埋めるのは２年で良い」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり……たかしさんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ダメだよ、２年でも間に合わなかったよ……あの時、死ぬ気だったの……ダメだよ、そんなの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涙が出てきた。あの時の情景が思い出されてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「そうだったのかもしれない、あの時の俺は……逆恨みと言うものなのか、君の献身的な介護……ふふ、さすが真奈美が選んだ人だけの事は在る……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
君の姉には本当に申し訳のない事をした、本来なら直接謝罪すべきだった……許してくれとは言えないな……唯一、出来たことは、君の言っていた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 狼に化けるのを実行する事で君に健在を知らせるだけだった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「分っている、狼の件はニュースになったから直ぐにわかったよ……もう過ぎたことだよ、お姉ちゃんも恨んでないって言っているし、もう忘れて、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> それより人間に化けているね、もう人間を許してくれたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「……全てを許しているわけじゃない、だが、少なくとも全ての人間を恨む必要もない、そう思っただけだ……もういい加減に涙を流すのは止めろ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 涙は、愛する人の為に取っておけ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">愛する人……あ、私は涙を拭って辺りを見回した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「……ひろしか、ひろしは居ない……俺が代理で来た、人間も来る様な事を言っていたが、まさか君だったとは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんは、どうして来ないの……私が来るのを知っているのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「さあね、そこまでは知らん、あいつは少し変わった、良くも悪くもな、君のせいかもしれないな……それより、君はけいこの補佐として来たのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんの目つきが変わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そのつもりだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「あいつは裏切り者だ、今日の会合もそれをはっきりさせる為に来たのだからな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな、裏切り者なんて、あんなに良い人なのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「裏切りって何、人間と結婚したから、人間になったから？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「過去に何度もそんな事はあった、それは個人の自由だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だったら何で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはドアの方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「さて、その本人がお出ましだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
ドアが開くとめぐみさんを先頭に、けいこさんとゆきちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「おや、もう始まってしまっていますね……私達がモタモタしていたのも確かですが……さあ、席に着きましょう、まずはそれからです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私とたかしさんは一度離れて席に着いた。たかしさんを対面に私達が横に並ぶ形になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「たかし、人間に化けるのをあれほど拒んでいたのに、どうゆう心境の変化ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「さてね、お前に教える義理はない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
優しい言葉のけいこさんに対して、吐き捨てるような口調のたかしさんだった。けいこさんはたかしさんに微笑みかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それも良いでしょう、ところでひろしはどうしました、お頭であるひろしが居なければ話は進みません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「今日は来られない、俺はその代理で来た……元々俺がお頭の一番候補だった、文句はあるまい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「大事な会議よりも優先されるとはひろしは何を考えているのやら……委任状はありますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それは人間の風習だ、我々にはそんなものが無いのは知っているだろう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「確かに、しかしこれからはその人間と交渉をしなければなりません、あなた達も少しは慣れた方がいいですよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「裏切り者から教わる気はない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんの反抗的な態度に対してけいこさんは至って冷静だった。たかしさんの怒りをスポンジみたいに吸収しているみたい。そのせいかもしれないけど、たかしさんは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私と初めて会った時みたいに敵対心むきだしではなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～さっきから裏切り者って呼んでいるけど、けいこさんは何をしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ちょっとした間が空いたからさっきから疑問に思っていた事を聞いた。たかしさんはけいこさんを指差してから話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「こいつは、人間にもう既に我々の知識を教えているではないか、こんな会議など茶番だ、即刻中止を要求する！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「たかし、それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「めぐみ、おまえも同じだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「違う、違うの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「何が違う、こいつは私利私欲の為に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お止めなさい、私から説明します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは初めて大きな声を出した。たかしさんとめぐみさんは黙ってしまった。その声は威厳があった。恵子さんは自分の席に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「禁呪を平然と使ったお人とは思えない発言ですね、私の使用している知識や技術は封印されたものではありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「う……そ、それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは私の記憶を見ているからたかしさんが何をしたのか分っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴方がお頭になれなかったのはそのためですね、ひろしは人選を誤りました、確かにこの会議は茶番です、ひろしの出席を強く求めます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「柊つかさ、かがみの親友の高良みゆきと申します、私怨なのかもしれませんが、私もたかしさんがお稲荷さんの代表と言うのはいささか抵抗があります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんもたかしさんをまだ恨んでいる。このままだと会合自体がダメになっちゃう。何とかしないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……その点に関して言えば何も言えん、次回はお頭に来るように伝えよう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは席を立った。そして小屋の出入り口に歩き出した。このまま退出しちゃうのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの呪い、もう二度と使わないよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「何故禁じられていたのか、それが分った、しかし使ってしまったのは取り返しがつかない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうだよね、取り返しがつかないよね、それが分っているなら、呪いの恐ろしさを知っているから絶対に使わない……私も小さいとき、危ないから行くなって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言われた小川があって、それでも興味があるから小川によく遊びに行ったの、そこで足を滑らせて溺れかけちゃった、たまたま通りかかった人に助けてもらったの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけど……それ以来、あの小川に行かなくなったから、それと同じだよ、私はたかしさんが代表でもいいと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女は姉が亡くなっていたとしても同じ事が言えるのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんが死んでいたら……心の中で何度も呟いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「分らない、分らないけど、溺れて死んでいたら、私はここに居なかった、でも、私はここに居る、お姉ちゃんも生きている、それ以外考えられない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「生きているのが重要と言うことですか……それも良いでしょう、たかし、席に着きなさい、話しの続きをしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは席に戻った。そして、けいこさんとたかしさんの会議が始まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんとたかしさんの会議は平行線を辿った。たかしさんは終始けいこさんの提案を断った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「今日はここまでにしましょう、次回に期待します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「何度話しても無駄のようなきがするがな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私も今日の会議で何かが決まるとは思っていません、たかしさん、仲間に会ったら伝えて下さい、貴方方には三つしか選択肢はないと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このままの状況を続けるか、人間と共存するか、人間との関係を完全に断ち切るか……人間との関係を断ち切れば貴方方は確実に滅びます、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> このままの状況を続けても結果は同じです、分って頂けますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはドアに歩きだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「話だけは聞いた……そろそろ帰らせてもらうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「まだ何かあるのか、柊つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は鞄からＣＤを取り出したかしさんに渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これを、ひろしさんに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「音楽か、あいつはそんな物聴かないぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それでもいいの、私、ピアノ弾けないし……今の私の心境を音にするとこうなるって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「ピアノ曲なのか……分った、渡しておこう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはＣＤをバックに入れると小屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私達も帰りましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんとめぐみさんも小屋を出て行った。私も鞄を整理して外に出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「つかささん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろからゆきちゃんの声、振り向くと俯いて寂しげな姿だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「ごめんなさい……私、つかささんをアドバイスするどころか、乱してしまいました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何のこと？」</div>
<div style="text-indent:-42pt;margin:0mm 0mm 0pt 42pt;">
みゆき「たかしさんが帰ろうとした時の話です、私は怒りでいっぱいになって……たかしさんを追い帰そうとしてしましました、かがみさんはもう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt 42pt;">たかしさんを恨んでいないのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私に謝らなくていいよ、一番苦しんでいるのは、たかしさんなのかもしれないのだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「私も先ほどそう感じました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはまた寂しげな姿になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「行こう、けいこさん達が待っているよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 帰りのヘリコプターの中、私はけいこさんに聞きたい事があった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～けいこさん、今日の会合、私が来るってひろしさんに伝えたのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「伝えました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんは私が来るのを知っていた。でも、来なかった。私と会うのより大事な用事があったのかな。そんな大事な事って何だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それとも私の事、嫌いになっちゃったのかな、それとも、忘れちゃったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私の考えなのですが、つかささんが来ると分ったからこそ、ひろしさんはたかしさんを代理にしたのではないでしょうか、次回は来ると思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「次の会合は来週の水曜日です、つかささん、高良さん、大丈夫ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">来週の水曜日私は休み。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大丈夫です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「大丈夫です、しかし、私が参加してよろしいのでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「問題ありません、是非来てください、貴女の論法はとても素晴らしい、参考になります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ありがとうございます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんが言っていたのが本当なのかな。信じたい……信じるしかない。そうであって欲しい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「本社に戻りましたらお食事でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は明日早番だから、帰らないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですか……残念です、高良さんはどうですか、もう少し話しをしたいのですが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうさせて頂きます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こうして一回目の会合は終わった。けいこさんの一方的な話しで終わった感じがした。たかしさんは終始否定的だった。これはお稲荷さん全員の意見として</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
考えていいのかな。お稲荷さん達はこのままで良いのかな。それとも完全に私達の前から姿を消しちゃうのかな。もしそうなったら、そうなる前に逢いたい……もう一度……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふぅ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうした、溜め息なんかついちゃって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私ははっとした、いつの間にか明日の会合の事を考えていた。仕事中は考えないようにしていたのに。週一回のペースで会合はしている。もう三回目になるのに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひろしさんは一回も出席していない。全てたかしさんが来ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは辺りを見回した。更衣室には私達二人だけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「先週の会合はどうだった、彼とは逢えた……わけじゃなさそうね、その顔を見て分ったわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「明日も行くのでしょ、ガンバレ としか言えないけど ガンバレ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この店の移転準備も着々と進んでいる、調理器具は全部新調、食器は全て持って行く事になったわ、つかさも持って行きたい物があったら今のうちに言いなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ほらほら、また顔が暗くなったぞ、明後日も休みでしょ、こんな時は実家に帰ってみたらどうなの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そのつもりですけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「余計なお世話だったわね、今日一日頼むわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「は、はい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は気合を振り絞って入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">調理器具は新調か。使い慣れた道具は持っていった方が良いかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バタン！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勢い良く扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「コラコラ、ノックぐらいしなさい、って、泉さん、何をそんなに慌てて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に走り寄った。息が荒い、走ってきたみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「何度も携帯に連絡したのに……どうして出ないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はロッカーを開けて携帯電話を見た。電源が切れていた。昨日充電して電源を切っていたのを忘れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめん、電源切れてた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみが大変なんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大変って……何？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今朝、倒れて病院に搬送されたって、まつりさんから電話があった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
倒れた……お姉ちゃんは妊娠していた……だけどまだお腹も大きくなっていないのに……どうして。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それは大変ね、つかさ、行ってあげてなさい、今日は休みで良いわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ありがとうございます……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急いで服を着替えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まさか、まさかとは思うけど、呪いって事はないよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それは絶対にないよ、私が保証する」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替えながら私は答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「泉さんも行ってあげなさい、心配でしょう、今日は私がホール長になるわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ありがとう……車で直接行こう、高速使えば電車より早いよ、車で待ってるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは飛び出すように更衣室を出た。私も着替えてすぐ後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの車に乗るとすぐに携帯電話でまつりお姉ちゃんに連絡した。話しによると大学への通学中に突然倒れたそうだった。救急車で病院に運ばれ、今は意識も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
戻っていて普通に会話が出来るまでになっていると言っていた。その先は電話では話せないと言う。やっぱり病院に行かないといけない。電話では話せない事、何だろう、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
すごく嫌な予感がした。電話を切ると丁度家の近くを通りかかった。こなちゃんは高速道路を使うつもりらしい。家の近く……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、ちょっと家に寄ってくれないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「良いよ、それより電話の内容を知りたいな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「家から戻ったら話す……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは家の前で車を停めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
家に着くと中には入らずに庭に向かった。そして、スコップを持って地面を掘った。確かこの辺りに埋めたはず……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
しばらく掘るとスコップに手ごたえを感じた。あった。手で余計な土を取り除いた。そして壷を土の中から持ち上げた。そう、これはあの時作ったトカゲの尻尾のお薬。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんはもう薬は完成しているって言っていた。蝋で固めた蓋をゆっくり開けた。壷の中から発酵した漬物のような匂いが立ち込めてきた。そんなに嫌な匂いじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
壷を覗くと。墨の様に真っ黒な液体が溜まっていた。そのまま家の中に入って洗面所で適当な小瓶を探した。そしてその小瓶に壷の液体を入れた。シロップみたいに少し</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">粘り気があった。小瓶を鞄の中に入れ、壷を片付けると車に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この薬、たかしさんの怪我のために作ったもの。お姉ちゃんに効くかどうかなんて分らない。だけど、何も無いよりはましだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 車が高速に乗り、こなちゃんがスピードを出してきた頃。私はこなちゃんに話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃん、妊娠しているの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……妊娠……そ、それでどの位経っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんの声が上擦っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「話しを聞いたのは一ヶ月前だから……それ以上は経っていると思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はは、かがみはもっと慎重派だと思ったけど、結婚前に妊娠だって……ははは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">笑っているけどそれは感情が入っていないのは直ぐに分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「まつりお姉ちゃんが言うには、電話では話せない事がお姉ちゃんに起きたみたい……何だろう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
車のスピードが速くなった。制限速度を少し上回っている。普段の私なら注意するけど私も逸る気持ち抑えられなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「少し急ぐよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんに連絡をしようと携帯電話を取ったけど、その後の動作が出来なかった……そして、病院まで私達は一言も話さなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 病院の待合室に家族皆が居た。誰一人として笑顔で私達を迎えてくれなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お、お姉ちゃんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
誰もお姉ちゃんの話しをしない、黙っているだけだった。それだけで事の重大さが分った。こなちゃんもいつもの元気がない。冗談を言えない状況だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いのり「……脳腫瘍……それも悪性……明日の精密検査をしないと分らないけど……あと三ヶ月らしい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うそ、嘘でしょ……どうして、婚約したばっかりなのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はお母さんの方を向いた。お母さんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「小林さんは、気丈に振舞っていたけど……さっき帰ったわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、赤ちゃんは、赤ちゃんは無事なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり・まつり「赤ちゃん、何のこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二人は顔を見合わせて首を傾げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みき「……ごめんなさい、かがみが生理不順だったから……私が間違えたのよ、調べてもらったら妊娠はしていないのが分ったわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは喜べば良いのか、悲しめばいいのか分らない。兎に角お姉ちゃんに会いたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんの部屋は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「３５５室……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、行こう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はこなちゃんの手を掴んで行こうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「つかさ、かがみには病気の事は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、分ってる、言わないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「泉さん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小さい声でつぶやいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は待合室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと……待ってくれ……かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">待合室を出て直ぐだった。こなちゃんは私の手を振り払ってその場に立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと……まだ心の準備が、出来ていないよ、つかさは……良いの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は……早くお姉ちゃんに会いたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「会ってどうすれば、何て声をかける……分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうするって……普段通りにしないと、お姉ちゃんにバレちゃうよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「普段通りって、どうするのさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いつもやっている事……こなちゃんがボケて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そんなの……出来ない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気付くとこなちゃんの目には涙が溜まっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「こんな姿しかかがみには見せられない……黙って……これじゃ黙っていてもバレちゃうよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんは突然亡くなった、辻さん、こなちゃんのお母さん、かなたさんも既に亡くなっている。死の予感……今まで私が見てきた死とは全く違う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
恐怖、悲しさ、切なさ……悔しさ……そんな感情が複雑に絡まって湧いてくるのが私にも分る。だけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、ここで私達が行かなかったら……お姉ちゃんはもっと苦しまないといけなくなっちゃうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさは強いな……私は、待合室に居た方がいいみたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に後ろを向けて戻ろうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強い……以前、ひろしさんにもそう言われた。強くなんかない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私、一人じゃ行けない……だけど、こなちゃんとなら行けるような気がする、仕事を休んでまで来てくれた、きっと、お姉ちゃん喜ぶよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんがホール長になった話しをしたら、当然のように誇らしく喜んでいたよ、だから……ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……分った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは涙を拭った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
病室３５５号室の前に来た。私はノックをして部屋に入った。お姉ちゃんはベッドに座り本を読んでいた。私に気付くとにっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさじゃない、仕事はどうしたの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「倒れたって聞いたから、休んで来たよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「バカね、どうせまつり姉さん辺りが二倍も三倍も大袈裟に話したからでしょ、まったく、もう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは元気だった。今すぐにでも家に帰れるような感じだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そんな元気なら来るんじゃなかったかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">扉の陰に隠れていたこなちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……こなたまで、どうゆう事よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの表情が変わった。まずい、気付かれちゃう……どうしよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「鬼の霍乱を見物にきたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「なんだと！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「きゃー、恐い、鬼が怒った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の後ろに隠れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……なんだ、元気じゃないか、折角きたのだから、もっと病人らしくしないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「何が病人よ、ちょっとした貧血た、明日退院よ、念のため精密検査はするけどね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">明日、退院するのか……それならお姉ちゃんの病気は内緒に出来るのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「折角来てくれた事だし、中に入りなさいよ、何もおもてなしは出来ないけどね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とこなちゃんはお姉ちゃんのベッドの横に椅子を置いて座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こっちも慌てて来たから、何も持ってきていない……あ、あるある」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は鞄から小瓶を取り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「何よ、その黒いのは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さん特製の元気エキスだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……まさか、それを私に飲ませようって訳じゃないでしょうね……何か不気味だわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は瓶の蓋を開けてお姉ちゃんに渡した。お姉ちゃんは瓶を受け取った。するとお姉ちゃんは急に私を見て真剣な顔になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさ、私……つかさに言わなければならない事があるの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ま、まさか、お姉ちゃんは病気の事を既に知ってしまっていた。私は唾を飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……この前、つかさに妊娠したって言ったけど、あれは間違えだった……ゴメン、お母さんの早合点だったのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ああ、あれね……そ、それは残念だったね、お祝いを用意しようかなって思ってて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……それはそれで良かったのかも、子供はやっぱり大学院を卒業してからでないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふ～ん、でも、間違えてしまうような事したのは事実なんだよね……か・が・み」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの顔が急に真っ赤になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、それは……な、何よ、べ、別に良いじゃない、子供じゃないのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだよね、子供じゃないよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお姉ちゃんの近くに寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それで……イカガデシタカナ、彼とのお戯れは……是非とも参考にお聞かせ願いたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、私も聞きたいかも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
真っ赤なお姉ちゃんの顔がさらに赤くなったような気がした。お姉ちゃんは気を紛らわせる為なのか、手に持っていた小瓶を口に付け、一気に流し込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「うげ～何よこのドリンク……何が入っているのよ……苦いと言うか、渋いと言うか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言えるはずもない。中にトカゲの尻尾が入っていて、二年間も熟成させたなんて……まさか本当に飲むとは思わなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「景気付けだと思ってくれれば良いよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「水が欲しいわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはコップに入った水を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「いくらつかさの渡した物とはいっても、得体の知れないものを口にするなんて、さすが悪食だね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「こ、こなたが悪いのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふふふ、一気に飲み干してそれはないよ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
怒鳴るお姉ちゃん。笑うこなちゃん……これは……普段通りのお姉ちゃんとこなちゃん。ごく自然だった。こなちゃんの態度に何ら動揺を感じない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきまであんなに落ち込んでいたのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんなこなちゃんを見ていたら、目頭が熱くなってきた。まずい、まずいよ、私がここで泣いちゃったらこなちゃんの演技が無駄になっちゃう。しっかり……つかさ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「どうしたのよ、つかさ、さっきから黙っちゃって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしよう。今話せば声が震えてしまいそう。でも黙っていても怪しまれちゃう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさは運転して来たから疲れたんだよ……そうでしょ、一回も休まないで来たし……ね、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短く返事をした。これが精一杯だった。もちろん運転はこなちゃんがした。もう、こなちゃんに合わせるしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ありがとう、疲れたでしょ、でも休まないのは不味いわよ、事故でも起こされたら大変じゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だめ、もうお姉ちゃんの顔を見られない。自分でも涙が零れそうなのが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ふぁ～なんだか私も眠くなったわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今朝倒れたんだから、無理しないで寝なきゃダメだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね……悪いわね……そうさせてもらうわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはそのままベッドに横になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おやすみ、つかさ、こなた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おやすみ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の腕を掴み引っ張るようにして部屋を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 待合室の入り口でこなちゃんは腕を放した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ここまで来ればかがみに気付かれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ご、ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは私を見ている。そうだよね。怒っているのかな。もう少しでバレてしまう所だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「普段通り……そう言われたからやった、つかさ、ダメじゃないか、言い出しっぺなんだからさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……こなちゃんの演技を見ていたら、もう……普段通りの事が出来なくなるかなって思っていたら……涙が……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「演技……私は女優じゃないよ、あれは演技なんかじゃない、私は普段通りのかがみと話しをしたかった……だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達の会話に気付いたのか、お母さんが待合室から出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「早かったわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみのやつ、眠いって言うから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お母さんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みき「……先生が言われていた……症状が進むと良く眠るようになるって……うう、もうそんなに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ……私はかがみの前で泣かなかったから……今度は私が先だからね……うう、うゎ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお母さんに抱きつき泣いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お母さんはまるで自分の娘みたいにこなちゃんをそっと抱きしめた……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この時、初めて分った。こなちゃんはお母さんに自分のお母さんを重ねていたって。そして、お母さんもそれを知っていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんも部屋から出てきてお母さんに駆け寄った。悲しいのは私だけじゃなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それにさっきのこなちゃんとお姉ちゃんの会話、お姉ちゃん、凄く楽しそうだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
決めた。私は泣かない。最後の時まで。お姉ちゃんには普段通りに接する。それがお姉ちゃんのためになるのなら……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 私とこなちゃんは一足先に病院を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ……会長さんに、お稲荷さんにかがみの病気を治してもらえないかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それは私も考えていた。だからトカゲの尻尾のお薬を試してみた。効果はなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの秘伝の知識とやらが役に立つときだと思わない、もし、かがみの病気が治せないような知識なんかだったら、この先の会合なんかやっても無意味だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それは、明日の会合で頼むつもりだよ……でも、今、それを私達に教えるかどうかの話しをしているから……教えてもらえるかどうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「別に教えてもらわなくて良い、治してもらえればね、もし、そうしてくれれば私もお稲荷さんの共存に協力してもいいよ、まずは相手の本当の力を知りたい、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そして、本当に私達と共存して欲しいのなら断らない筈だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは病気を治す方法をお稲荷さん達が知っていると思っている。私もそう思いたい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「やってみるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お願い……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この願いは私も同じだよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は車に乗り込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さて、どこに送ろうか、明日は東京の本社に行くんでしょ、つかさの実家なら近いけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、それでお願い、それでこなちゃんも実家に来ない、一日泊まっていきなよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「でも、かがみが入院しているし……迷惑じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こんな時だから……こなちゃんに来て欲しい、それに明日は精密検査の結果がどんなでも退院するから、お姉ちゃんの相手になってもらいたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは車を走らせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
次の日、お姉ちゃんの容態が心配……だけど、そう言っていられない。私は約束の時間に本社ビルに向かった。お稲荷さんは毎回場所を変えてきている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今回は本社ビルの会長室で会合をする事になった。移動する必要がないのでお稲荷さんの代表が来るのを待つことになる。今度こそひろしさんが来ますように……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「どうしたのですか、元気がないですね、お体の調子が悪いのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こんな時、いつもならゆきちゃんと楽しいお喋りをする。今はお姉ちゃんの事が気がかりでそんな気になれない。それにゆきちゃんにお姉ちゃんの病気の話しをどうやって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">するか悩んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「実は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだ。会合でも話さなければならなかった。同じ話しを二回もしたくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「実は……なんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、何でもない……うんん、大事な話しがあるの、だけど今は話せない、会合が始まったら話すから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「大事な、話しですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはそれ以上聞いてこなかった。会長室にけいこさんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「さて、代表者が来ました、席に着いて下さい……つかささん、残念ながら今回も代理のたかしです……そろそろ代表者本人と話したいものです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんが部屋に入ってくると、その後からたかしさんが入ってきた。めぐみさんとたかしさんはそれぞれの席に着いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> けいこさんが会合を始めようと席を立った。私はそれに合わせて手を上げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささんどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの、開始早々申し訳ないのですが……とっても個人的な話しなので……でも、どうしても助けて欲しくて、手をあげました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「個人的な話しであれば会議の後、私が聞きましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いいえ、是非ともお稲荷さんにも聞いてもらいたくて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですか、たかしさん良いですね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは頷いてくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ありがとう……実は、私のお姉ちゃ……姉の柊かがみが倒れてしまいました、病名は悪性脳腫瘍……あと三ヶ月の命だそうです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「な、なんですか……そ、そんな話は初めて聞きました……なぜ、もっと早く教えてくれなかったのです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いつも冷静なゆきちゃんが割り込むように話しに入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私も昨日分ったの……ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「高良さん静粛に……つかささん、続けて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「は、はい……お稲荷さんのお力で治してくれませんか、治してくれれば良いです、そうすれば私の友人がお稲荷さんに協力しても良いって言っています……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
い、いいえ、私からもお願いします、助けて、お姉ちゃんを助けてください……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思わず感情が入ってしまった。私はそのまま席に着いた。たかしさんは目を閉じて聞いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……個人的な話ですね、しかし人の生命がかかっているのは確かです、どうですか、たかし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「ふっ……柊つかさの友人は我々を試そうと言うのか……悪性脳腫瘍か……確かに今の人間には治せないな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは怒ってしまったのかな。やっぱり調子が良すぎたのかもしれない……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、私達は今、まさにその話しをしているのです、分っていますよね、軽々しく使うような事は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「残念だな、そう言う事だ、諦めてもらおうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「わ、私からもお願いします、何とかならないのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは一瞬私に微笑みかけたような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「俺は治すことはできないが、柊つかさ、君はもうその方法を手に入れている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言っている意味が分らない。何で私がそんなのを持っているのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……俺の教えた薬を使うがいい、一口ほど飲ませてやれば効く筈だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「薬って……トカゲの尻尾の……あれは、昨日飲ませました……だけど効いたようには見えなかった……でもあれって怪我のお薬じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは笑った……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「飲ませたのか……ははは……さすが柊つかさ、勘が良いな、あの薬を飲むと強力な催眠作用が出るはずだ、それが出でたなら君の姉は助かる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そういえばお姉ちゃんはあれを飲んだあと直ぐに寝てしまった。それは病気のせいじゃなかったの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんの言葉を素直に受け取られなかった。たかしさんの顔を見ると自信に満ちている……分らない。どっちが本当なの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然胸のポケットから振動を感じた。携帯電話が振動している。思わず私は胸に手を当てた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……電話が来たようだな、確かめてみるがいい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんの顔を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「電話は部屋の外で受けてください、それだけです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は部屋の外に出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
部屋の外に出ると直ぐに携帯を取り出した。電話にはこなちゃんの名前が表示してあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もしもし、こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『つかさ～！！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
音が割れんばかりの大きな音が入ってきた。思わず携帯を耳から遠ざけた。その音は悲しさよりも歓喜の叫びに聞こえた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと、こなちゃん落ち着いて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『が落ち着いていられてないよ、かがみがね、かがみが……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「病気が治ったんでしょ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『ちぇっ、分っちゃったか、つまんないな……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もっとも、お姉ちゃんに何か悪い事が起きればこなちゃんじゃなくて家族の誰かが電話するはず。いくら私でもそのくらいは分るよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんに代われるかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『かがみは退院の手続きをしている所だよ……病院では誤診って事になっているけどさ、私は分るよ、昨日つかさがかがみに飲ませた怪しい薬、あれのせいでしょ』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふふ、分る？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『凄いよ、お稲荷さん、凄いよ、もう何て言って良いか分らない……お礼のしようがないよ、ありがとう、ありがとう……ううう』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと、泣いているのか笑っているのか分らないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その薬を作ったのは私、教わったのがお姉ちゃんを呪ったたかしさん……お姉ちゃんは呪うほど恨まれたのに同じ人から命を救われるなんて……運命って分らないね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『あ、大事な会議だったよね、今日はお祝いだよ……休暇も取ったし、つかさも家に寄ってね、帰りは一緒に帰ろう』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、そうするよ、それじゃ、またね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電話を切った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……これがお稲荷さんの本気……ありきたりの物を使って、ちょっとした料理の技術だけで不治の病を治すお薬を作ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんの知識と言っても、知っているのは金縛りや呪い、ひろしさんと別れた時に見た光の幻影くらいだった。疑っていたわけじゃないけど、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">人間離れした魔法、どうせ教えてもらっても人間には使えないと思っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……お姉ちゃんの病気を一夜で完治してしまう薬。これだけでも本物だよ。お稲荷さんと言われた意味が今になってやっと分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このお薬が世の中に出回ればどれだけの人が助かるのかな。お稲荷さんと一緒になればそれが出来る。やっぱりなんとしても成功させたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長室の扉。そういえば私、殆ど会合で発言していなかった。けいこさんは何も言っていないけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「よし！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピシャ！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
両手で顔を叩いた。そして、扉をノックして部屋の中に入った。ゆきちゃんがものすごく心配そうに私を見た。私はゆきちゃんに微笑んで小さくＶサインを送った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それをたかしさんは見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「答えは聞くまでもないな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとうございます、お姉ちゃん、姉は助かりました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は深くお礼をして席に着いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「俺は何もしていない、薬を作ったのは君だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうかもしれませんけど、お稲荷さんの知識の凄さを見せ付けられて……奇跡みたいです……それがあんなに簡単に作れるなんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「たかしの教えたのは知識ではなく作り方……技術です、私達の教えるのは知識です、その知識は恐らく貴方達人間にはその知識を利用する事は出来ないでしょう、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
楽譜を読めても技術や楽器が無ければ音楽を奏でることは出来ないのと同じです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
難しいけど……音楽に例えると何となくイメージは分る。もっとも私は楽譜すら読めないけどね……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「その知識を教える度に、俺たちは何度も命を狙われた……今までは逃げてこられたが、もう逃げる所はない、この星の何処に行っても人ばかりだからな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ふふ、南極大陸があるか……あそこは我々でも住むには過酷過ぎる……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「今のままでも「狐狩り」で命を狙われちゃう、人間になっている時は良いけど、変身が解けたばかりの時ってとっても弱いって聞いたよ、けいこさんが前に住んでいた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
神社の周りの土地を買ったって言ったよね、そのせいであの町の狐狩りが禁止になったんだよ、だから、知識を教えるとかはもっと後でいいから、取り敢えず、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 神社に戻って安心して住もうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは腕を組んで考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさん達が戻っても私は遠くに行ってしまうのだけど……住んでいる所が分れば会うことができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あと、聞きたい事があるの、お稲荷さんって全員で何人居るの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……二十人……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その人達全員がたかしさんと同じ意見なの、<span style="color:#FF0000;">めぐみさんは私達と一緒に暮らしているでしょ」</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……全てが同じではない……別行動している者もいる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それなら、たかしさんだけじゃなくて、全員呼んで意見を聞かないと、二十人位なら問題ないでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんを見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「問題ないですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ決まり、今度の会合はお稲荷さん全員連れてきて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……一度に全員が人間に変身するのは危険だ……それは避けたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それなら半数が狐の姿でもいいよ、私も、ゆきちゃんも、お稲荷さんの正体は知っているから大丈夫、狐の姿でも私達の言葉は分るよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんににっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……考えておこう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">置時計のチャイムが鳴った。丁度三時になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「少し休みますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんは携帯電話を取り出すと直ぐに部屋を出て行った。きっとお姉ちゃんやこなちゃんに電話をしに行ったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんとめぐみさんは部屋の奥に行ってしまった。きっと知識の話しなのかもしれない。たかしさんは窓の外をぼんやりと眺めていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はたかしさんに近寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっとお話しいいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「なんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは窓の外を見たまま答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんは何故来てくれないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……全員を呼ぶのはひろしと会いたいからか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「バレちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">苦笑いをした。たかしさんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「これを預かっていた、返すそうだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは鞄からＣＤを取り出すと私に渡した。そのＣＤはこの前私があげたＣＤだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これが……ひろしさんの返事……なの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「そんな悲しい顔をするな、中身は全て携帯プレーヤーに入れたみたいだ、良く見ろ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">良く見るとＣＤジャケットのフイルムが剥がしてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「ひろしには、女性の誘いを断るのは最低だぞ……そう言ってやった、何も言わなかった……奴の真意は分らんが、今は会いたくないようだな……素直になれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 俺は君に会わなくて済むのだがな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私が嫌いなの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いいや、そう言う訳じゃない、君を見ていると真奈美の面影が見え隠れする、何故だろうな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか。私は財布から葉っぱを取り出してたかしさんに見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私を騙すためにまなちゃんが私にくれた物だよ……形見だと思ってずっと持っていた、だけど、やっぱりフィアンセだったたかしさんが持っていた方がいいかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は葉っぱをたかしさんに差し出した。たかしさんは腕を伸ばして葉っぱを取ろうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いや、やめておこう、それは真奈美が君に渡した物だ、大事にしてくれ……それに、彼女を直接思い出すような物は持たないようにしている、思い出だけでいい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だから、神社に戻りたくないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いいや……あの神社は俺の生まれた故郷でもある……複雑な気持ちだ、土地に執着はしないはずの我々……人間に化けるようになってから少し変わったか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これ以上まなちゃんの話しをするのはたかしさんには辛いだけかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私の店が移転するって知っているかな、神社に戻っても、私の店、住む所が遠くになっちゃう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「すれ違いか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だから、今度の会合で逢いたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは私をニヤニヤした顔で見た。私を冷やかす時のかえでさんやこなちゃんと同じ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「ふぅ、昔の自分を思い出すな……ひろしが羨ましい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">恥かしい。恥かしいけど、逢いたい気持ちの方が大きかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「俺が結婚していればひろしは弟になるはずだったからな……他人事とは思えない、ひろしを連れてくるように説得してみよう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は葉っぱとＣＤを仕舞った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「そのＣＤには何が記録されている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ラヴェルのピアノ曲集だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは部屋の中央に置いてあるピアノをじっとみていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
同じＣＤを私は持っている。たかしさんにこのＣＤを渡そうとした時、けいこさん、めぐみさん、ゆきちゃんが戻ってきた。私とたかしさんも席に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それでは続きを始め……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「今日はここまでにしてもらおう、俺の変身が解ける時間を考慮に入れるともうそろそろ限界だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんに割り込むようにたかしさんが話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「回復するまでこの部屋で休むがいいでしょう、ここは私達以外の人間は入れさせません、ご安心を」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いや、会議はここまでだ、柊つかさが言うように仲間を全員連れて皆の意見を聞くことにする、場所は俺の方から知らせる、それでいいか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんとゆきちゃんが私の方を向いてきた。私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「良いでしょう、皆さんそれぞれ自分の自由意志で決めていただきましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは頷くと席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、良かったから持って行って下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんにＣＤを見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「いいのか、君は聴かないのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「同じ物をもっているので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それじゃ貰おう、返さないぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはＣＤを受け取ると部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみ「信じられない、たかしが人間の物に興味を持つなんて……人間になるだけでも奇跡的なのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんはたかしさんの出て行った扉を見ながら驚いていた。けいこさんはそんなめぐみさんを見て微笑んでいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、高良さん、予定の時間よりだいぶ早く終わりましたが、この後の予定がなければ軽食などを食べながら雑談でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはソワソワしている。きっとお姉ちゃんに会いたいに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「嬉しいですけど……これからお姉ちゃんの退院祝いをするので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですか、足止めするのは酷と言うものですね、それではまた次の会合まで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・みゆき「さようなら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが扉を開いてくれた。お辞儀をして部屋を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私達はゆきちゃんご指定の店に向かっていた。私とたかしさんが話している間にゆきちゃんが予約してくれていた。そして一足先にお姉ちゃんとこなちゃんが向かって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いるとゆきちゃんは言った。私もお姉ちゃんに早く会いたい。自然と歩く速度が上がっていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「つかささん、今回の会合は素晴らしかったです……それに引き換え私は足を引っ張ってばかりです、本来ならけいこさんと会食するのが最善だったと思います、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の為に断って頂いたのではありませんか……お恥ずかしながら、私はお稲荷さんの会合に参加すべきではありませんでした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電車に乗って落ち着くと元気のない声で話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、お姉ちゃんに早く会いたいのは私も同じだよ、それにね、ゆきちゃんが居なかったらとっくに諦めていたよ、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そう言って頂けると嬉しいです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それより、お稲荷さんの知識は凄いよ、私達の治せない病気を一晩で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「医学を志す者にとりましては、彼等の知識の深さに敬服するしかありません、私は彼等の全ての楽譜を読んでみたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃんなら出来そうだね、私なんか興味ないし、分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『間もなく〇〇駅、〇〇駅です』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「降りるのはこの駅だったよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
駅を降り、店に向かう途中お姉ちゃん達と合流した。私がお姉ちゃんを見つけ声を掛けようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を横切りお姉ちゃんに駆け寄るゆきちゃん。お姉ちゃんの手を両手で握った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「かがみさん、私は……私は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんはゆきちゃんの突然の行動にただ驚いていた。本当は私が先にそうしたかったのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、たった一日の検査入院よ、何そんなに……大袈裟ね……泣くなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは周りの人達の目線を気にしながら恥かしそうにゆきちゃんを諭していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんに病気の事言わなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し離れて見ていたこなちゃんは私に近づいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみは病気の事は知らない、家族にも言わないように頼んだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「本当の事、言わなくていいかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「止めておこうよ、少なくとも店が移転して落ち着くまでは……今言っても混乱するだけだよ、かがみは現実主義だから……それにしても、つかさに貰った薬を飲んで、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆきさんのあの表情で自分がどうなっていたのか分らないかな……そう言う所がつかさに似て鈍いよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだね……って、酷いこと言っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いいや、褒めているのさ、気の会う双子の姉妹ってね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお姉ちゃん達に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さてさて、もうすぐ先がみゆきさんご推薦のお店だよ、久しぶりに四人集まったのだから続きは店のなかでしようよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「す、すみませんでした、取り乱してしまいました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはお姉ちゃんを掴んでいた手を放した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「四人集まったの、二年前の夏以来じゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだよ、その間私は昇進したのだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさから聞いたわよ、やるじゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「店に入ろう、続きは店の中で」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは私に小さく手で合図するとお姉ちゃんを店に連れて行った。ゆきちゃんは眼鏡を外してハンカチで目を拭っている。そうだね、ゆきちゃんにも言わないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ゆきちゃん、お姉ちゃんは自分が病気だったって知らないの、だから当分そのままにしてくれないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……はい、それが良いのかもしれません、私自身、未だに信じられないくらいです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「もう涙、止まったみたいだね、これから暫くお稲荷さんの事忘れて、四人で楽しくお喋りだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達も遅れて店に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「楽しかったね、久しぶりにかがみをからかって遊べたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、小林さんの事ばかり聞いていたね、お姉ちゃん真っ赤になってたね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店で楽しく食事をした後、私とこなちゃんは車で家路を向かっていた。最初は二人で店での会話の内容を振り返っては笑っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">高速道路に入ると話しはお稲荷さんの話へと自然と移っていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん、お稲荷さんが全員集まって決めるのか……いよいよ大詰めだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ひろしが来なかった、次も来るかどうか分らない……でしょ、私、ひろしの気持ちが分るような気がする」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、分るの、お、教えて！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">思わず身を乗り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うわ～凄い食い付き……本当に好きなんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いじわる……知っているくせに……もう聞かない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そうやってお姉ちゃんと同じように弄って遊ぶこなちゃん。本当は怒ってなんかいなかったけど窓の景色を見て怒っている振りをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……これは私の勝手な考えだからそれだけは言っておくよ、つかさとひろしが別れたのはひろしの一方的だった、ひろしとしては二度と会うつもりはなかったと思う、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
別れのキスなんかするくらいだからね……私としては最後まで……まぁそれはいいや……ところが会長さんがつかさを特使として選んだから突然会う機会ができた、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ひろしは気が引けていると思う、自分から別れた手前、後ろめたいんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「後ろめたい……そんな、私、怒ってなんかいない……会いたくないなら最初からけいこさんの企画に参加していない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは少しアクセルを踏んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それが分らない人とも思えないんだけどね……でも、ＣＤを返す所を見ると全く脈がないわけでもなさそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「脈があるの、私、どうすれば良いかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「さぁ……たかしに期待するかないかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え～結局分らないの、聞くんじゃなかった、それより、なんで私とひろしさんのキスの事を知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今度は本当に怒った。こなちゃんにそっぽを向くように窓の景色を見た。こなちゃんもそれに気が付いたみたいで、それ以上話しかけてこなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もう過ぎたことかもしれないけど、かえでさん、後でみっちり叱らないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> こなちゃんの車が駐車場に止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「着いたよ……さっきはゴメン……半分はふざけていた、だけどもう半分はつかさを少しでも元気付けようと思って、本当だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は車を降りた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、私も怒っちゃって……次の会合になれば分ることだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃ、行こう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">次の会合の日はいつになるのかな。その日が来るのが恐い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は出来る限りの事をした。その日がどんな形に終わっても悔いはない……かな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おはよ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スタッフ一同「おはようございます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一週間後、もうとっくに知らせが来てもいいのにけいこさんからの連絡が来ない。もっともお稲荷さんを全員集めるのだから場所の確保とかが大変なのも分らなくもなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
兎に角今日も元気にしなきゃ。私は更衣室に入った。着替えていると外がざわついているのに気が付いた。こなちゃんの声も聞こえる。おかしい、今日のこなちゃんは遅番のはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替え終わって更衣室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あ、つかさ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を見つけると駆け足で私に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、店内で走っちゃだめでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">注意をするもこなちゃんは慌てて足をバタバタさせている。なんだろ。この慌て様は……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「た、大変だよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大変じゃ分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは手に持っていたスマートフォンを私の目の前に出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『<span style="color:#FF0000;">ワールドホテルの会長の柊けいこが今朝、特捜部により脱税で検挙されました……』</span></div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な、何、何のこと……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「シー、黙って聞いて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは更にスマートフォンを私に近づけた。スタッフもこなちゃんの周りに集まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『脱税は史上最高額になると見られ、余罪があるとして追求をしています、また、柊けいこの秘書、木村めぐみに業務上横領の容疑があり、</div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">全国に指名手配をされました』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
画面にはめぐみさんの写真がでかでかと写し出されていた。そして、本社ビルに捜査官が入っていく映像が流れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「な、なんで、何故なの……またこなちゃんの悪戯でしょ……ふふ、こなちゃんったら、もうそんな悪戯……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは今にも泣きそうな顔になっていた。違う、これは悪戯じゃない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「これが悪戯だったら、どんなに良かったか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ね、ねぇ、これからどうなるの、どうなっちゃうの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「分らない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「おはよう……ど、どうかしたの、皆集まっちゃって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが出勤してきた。私達の物々しい表情に戸惑っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんがかえでさんの所に向かおうとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
従業員出入り口玄関の呼び鈴が鳴った。もちろんまだ開店の時間じゃない。一番近くに居たかえでさんがドアを開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「レストランかえでの店主はご在宅か」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スーツ姿の男性が３人、厳しい表情でかえでさんを見ている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「私ですけど何か？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「松本かえでさんですね、ワールドホテルでの契約についてニ、三、伺いたいことがあります、任意同行ねがいますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男性は警察手帳を見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「店長、任意だから行く事ない！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">激しい口調で警察手帳を持っていた男性に向かって怒鳴った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはゆっくりこっちの方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「任意でも行かない訳にはいかないでしょ……さすがに今日の開店は無理ね、臨時休業とします、店を片付けて各自自宅で待機するように」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんを嗜める様に静かで冷静だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「分りました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは男性と共に店を出た。私はすぐに窓に移動した。かえでさんは男性達と車に乗ると、車はゆっくりと動き出し走り去った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私達、何も悪い事なんかしていない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはうな垂れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「と、とにかくかえでさんの言うように今日はお休みです、生ものは冷蔵庫に、仕込んでしまったものは……勿体無いけどゴミ箱にお願い、用事の済んだ人から帰宅して」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更衣室に入った。その後からすぐにこなちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「嘘だ、これは絶対に何か裏がある、そうだ、そう違いないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんは遅番だから店に用はないよね、先に帰っていて良いよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと、つかさ聞いてるの、私の言いたいのはね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは詰め寄ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃんの話しを聞いたらかえでさんが戻ってくるの、けいこさんが釈放されるの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">出そうな涙をこらえながら言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……つ、つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「もう少しだったのに、もう少しで会合の答えが出そうだったのに……脱税って罪は重いのかな……払い直せばいいんだよね、計算間違えだったら許してもらえるよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり我慢できなかった。涙が零れているのが自分でも分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ご、ごめん……ジタバタしてもしょうがないよね、先に帰っているよ、お昼の買い物はしておくから、直接帰ってきて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、お疲れ様……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私服に着替えた私は、事務室に移り、こなちゃんと同じ遅番の人、休暇を取っている人、シフトで休んでいる人に電話をかけて事情を説明した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
電話を全てかけ終えた後、支度中の看板の代わりに『臨時休業』と書いた看板をお客様で入り口に立て掛けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あけみ「お先に帰ります……あの、移転はどうなってしまうのでしょうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お疲れ様、分らない、まさかこんな事になるなんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あけみ「何かの間違えなら良いのですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
最後に残ったスタッフのあけみさんが帰った。静まり返った店内は淋しい。さて、私も帰ろう。駐車場に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">家に帰ると居間でこなちゃんが熱心にノートパソコンを見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">パソコンの画面を見ながら返事をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「臨時休業の看板を出しておいたよ、戸締りもＯＫ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お疲れ様……的確な判断だったと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カタカタとこなちゃんのキーボードを叩く音が響いている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何してるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
パソコンをいじっているこなちゃんには普段ならあまり興味はなかったけど、何気なく聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっとかがみに今回の事件の事を聞いていた、携帯にメールした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういえばお姉ちゃんは弁護士を目指しているのを忘れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それで、返事は来たの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は台所でお茶の準備しながら話した。キーボードを叩く音が止まりこなちゃんは私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「けいこ会長の脱税容疑は捕まえ易いから……いつもこの手でもっと重い罪を暴くのが彼等のやり方だって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もっと重い罪って……けいこさんがそんな事をするはずないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そう、あの人はそんな事をするように見えない、むしろ……秘書の木村めぐみって人が怪しいな、秘書だから会長の名前を使っていくらでも悪事ができる、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
現に秘書は逃走しているしね……そのおかげで証拠隠滅の可能性があるからけいこ会長の保釈は認められないだろうって……そうかがみから返信がきた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさん……あの人もそんな事をするようには見えない。うんん、彼女はけいこさんの親友。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「その秘書だけどね、彼女もお稲荷さんだよ……けいこさんを裏切るような事はしないと思うのだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「何だって……それじゃ何で逃げる必要があるのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私はめぐみさんを信じる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。自分の分とこなちゃんのお茶を持って居間に移動した。テレビのリモコンでテレビをつけた。どのチャンネルも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ワールドホテル会長のスキャンダルの話題で持ち切りだった。こなちゃんもテレビを見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだろうね、清廉潔白で優良大企業の会長が裏で悪事をしていた……なんて言うのは格好の餌食だ、なんか会長が可愛そうになってきた……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> これじゃ……深夜アニメも中止かもね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは溜め息をつくとノートパソコンを閉じ、私の淹れたお茶を一口飲んだ。そしてテレビをつまらなそうに見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そういえば……二回目の会合の時、めぐみさんから携帯電話に連絡が来たのを思い出した。自分の携帯を取り出し、着信履歴を見てみた……これだ。この番号は……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
携帯電話の番号。この番号にかければめぐみさんに通じるかもしれない。話せば何かが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん、めぐみさんに連絡をとろうかなと思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「バカー！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
凄い怒鳴り声。こなちゃんは私の携帯を取り上げると素早く電池を抜いた。何がなんだか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「盗聴されるよ、つかさの携帯電話もマークされちゃうかもしれない、だめ、そんな事をしたら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ま、まだかけていないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほっとした表情すると携帯電話を返してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「まだ真相が分らないからむやみに会長やその秘書にも連絡を取ろうなんて思っちゃだめだよ、もし会長達が無罪だったらなおさらだよ、会長達に罪を着せようとする</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 者達がいるかもしれないから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……凄いね、こなちゃん、スパイ映画みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私じゃない、かがみが用心しろってメールで送ってきた、だからつかさが携帯を取り出したから、もしやと思って聞いてみたんだよ……良かった、間に合って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃん。やっぱり凄い。そんな事ななんて少しも考えていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これから私達の店はどうなるのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「かがみが言うには、契約は交わしているから会社がつぶれない限り有効だって言ってたけど……あの会長さん以外の下で働きたくないな……それより、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その秘書と前に何を携帯で話していたの、場合によっては松本さんみたいに任意同行なんてありえるかもよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お昼はなにが良いかの相談だったような……ってそんな昔の事まで調べられちゃうの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「するかどうかは分らないけど、大抵の事ならできるよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、詳しいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと調べれば分るよ……さっきネットで調べたばかりだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはまたノートパソコンを開いた。テレビはけいこさんの報道ばかりしているのでうんざりみたい。私はテレビを消した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これから町の図書館にいかない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「図書館？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、私もいろいろ調べたくて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「メンドクサイ～、つかさだってパソコン持っているでしょ、それで調べればいいじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私はキーボードが苦手だから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら一人で行けばいいじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「一人だと淋しいから、ね、お昼奢るから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら行く、車はつかさが出してね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
図書館に行ってもお喋りができるわけでもない。だけど、家に居てテレビを見てもけいこさんの報道ばかり、パソコンにしてもこなちゃん程集中できないし、興味もない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気を紛らわしたいだけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
図書館で時間を潰し、昼食を食べ終えた頃、かえでさんから連絡が来た。事情聴取は終わったとの事だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
話しに寄れば契約の確認とお金の流の確認だった。特に不備はなかったみたいなので直ぐに終わったみたい。とりあえずホッと一息。安心するばかり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
次の日から通常通りにお店を開く事ができた。でも……移転先の準備が滞ってしまい、それにも増して移転準備金を振り込んでもらうはずだったのにそれなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
準備資金はけいこさん、会長の個人的なお金だったみたい。資産凍結されてしまいお金も私達が工面しなければならなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんんな、まだけいこさん逮捕の混乱が収まらない三日後……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「松本店長、お客様です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「予約なら泉さん、貴女の仕事のはずよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いえ……店長に直に話したいと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「分ったわ、事務所に通してあげて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは外に出て行った。かえでさんが事務所に入って行って暫くするとこなちゃんが私の所にやってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさ、さっきのお客さん見た？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小声で話しかけてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、見ていない、どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お客さんにしては不自然、スーツ姿にアタッシュケース……どうみても営業マンだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ホテルの人が来たんじゃないの、移転の話じゃ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うんん、いつも来ている人じゃない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スーツ姿……なんだろう、どこかで見たような気がする……思い出せない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こっちの仕込みも終わったから私も行ってみるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
事務室に向かうと自然とこなちゃんも私の後を付いてきた。事務所の扉をノックしようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バン！！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もの凄い勢いで扉が開いた。中からかえでさんが飛び出してきた。私に当たりそうになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「塩、塩を持ってきなさい！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私がビックリしている間にこなちゃんは厨房に塩を取りに行きかえでさんに渡した。塩を受け取るとかえでさんは事務室側の出入り口に塩を振りまいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「今分ったわ、こんなの絶対に許せない！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">凄い権幕だった。私達以外にこれほど怒るかえでさんは初めて見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「落ち着いて、お客様は居ないけど……落ち着きましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情的になっているかえでさんと冷静なこなちゃんの表情が対照的だった。そんなこなちゃんのおかげなのか、かえでさんの表情は直ぐに元に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「仕事が終わったら時間は空いているかしら、つかさ、泉さん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とこなちゃんは顔を見合わせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時間はありますけど……なんでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「二人に話があるわ、なるべく三人だけで話せる場所はない、私の家が良いかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">内緒のお話なのかな。さっき来たお客さんと関係があるのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら家に来て下さいよ、ね、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、あ、うん、そうだね、それが良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">先にこなちゃんに言われてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それじゃ、帰りに貴女達の家に寄らせてもらうわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは事務所に戻って行った。</div>
<p> </p>
<p> </p>
<p>次のページへ</p>
</div>
<div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ふぅ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
溜め息のような、深呼吸のような感じだった。恵子さんはゆっくりと目を開けると私を見て驚いた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「あら、いつの間に……ごめんなさい、もう来ていらしたとは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ノックしたけど演奏が始まっていたので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「立たせたままでしたね……さあ、こちらへ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは立ち上がりピアノから離れた。そしてテーブルの席へと向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「とても良い曲ですね、聴き入ってしまいました、何て言う曲？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんに案内された席に座った。そしてけいこさんも席に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「亡き皇女のためのパヴァーヌ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「曲の名前ですか、亡き……皇女……とても悲しげな曲でした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ラヴェルの作品……彼が、夫が私に教えてくれた最初の曲……もう逢えない、だけど諦めきれない、切ないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情が籠もっていた。けいこさんは皇女を亡くなった旦那さんに置き換えて演奏していたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「旦那さんもピアノが弾けたのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「ラジオで聴かせてくれた……思い出すわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">懐かしむようにピアノの方を見ていた。やっぱり聞いてみたい。けいこさんの過去を。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～どうやって旦那さんと出会ったの、確か旦那さんの実家は猟友会だったって……憎くなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">すこし小声で話すとけいこさんは私に目線を移した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「猟友会……調べたのね、そうね、何度も裏切られ、追放されてきた、狐だった頃の私は人間を憎んでいた、それを変えたのが彼、竜太よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうやって変えたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうね、貴女になら話してもいいでしょう、その前に、遠路疲れたでしょう、軽食を用意しました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
すると部屋の奥から秘書のような女性が食器を持って来た。この人はここに来てからずっとけいこさん側に居る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「秘書さんですか、もしかしてこの人もお稲荷さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性は私の目の前に食器を置いた。サンドイッチと紅茶だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性「始めまして、自己紹介していませんでしたね、私は、会長の秘書で、めぐみと言います、お見知りおきを」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">名前しか言わない。やっぱりこの人も……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「お察しの通りです、彼女は私の親友でもあります、よくここまでついてきてくれました……感謝しています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは私に一礼すると、また部屋の奥に戻って行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「人間の社会には彼女の方が長く居るので何かと助かっています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はサンドイッチを一口食べた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「美味しいです、もしかしてけいこさんが？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。そして話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「あれは……私がまだ狐だった頃、貴女の住んでいる神社をねぐらにしていた頃……仲間とはぐれてしまってね、狐狩りの標的にされてしまった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
必死に逃げた、でも、銃弾が足に当たってしまった、その時、崖から落ちてしまった、地面が枯葉の層だったおかげで助かった、それに狩人もそれ以上追ってこなかった、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 貴女も知っているわね、大怪我をすると変身が出来なくなるのを」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「また狩人に遭遇してしまうかもしれない、私は怪我した足を引き摺った、血が垂れてしまって跡が残ってしまう、激痛と出血で気が動転してしまってね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はその場に倒れて気絶してしまった……気が付くと私は別の場所に居ました、人間の家の中です、私は布団の上に寝かされ、足の治療が成されていました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そのままでしたら私は、野犬や、熊の餌になっていたでしょう、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それは、私がたかしさんを助けたのとよく似ていた。私はけいこさんの話しを食い入るように聞いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「部屋に人間が入ってきた、そこには若かりし竜太、しかし私は彼に感謝するどころか憎しみの感情しか湧いてこなかった、隙さえあれば彼の喉元を喰いちぎってやろうと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思っていた……足の怪我のせいでそれは出来なかった、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は献身的に私の治療をしてくれた……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それ……私と同じです、たかしさんを私はひろしさんと間違えて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「人間から見た目は同じ狐……無理もありません、その時のたかしの気持ちは手に取るように分ります……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは一回間を置いてから話しを続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「足の傷がほぼ癒えた頃でした、彼が部屋でくつろいでいいました、全くの無防備、今なら確実に仕留められる、そう思い彼に近づいた……牙を彼の首元に照準を</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
合わせた……でも、出来なかった……仲間の復讐、それしか彼を殺す理由がなかった、私の個人的な感情と葛藤している時でした、ラジオからピアノの音色が</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
聞こえました、ノイズが酷かった音でした……それでも私の耳から心に直接響きました、人間の作った音に意味があるのを初めて気付いた時でした……</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
『君は音楽がわかるのかい？』……耳をラジオに向けている私に彼はそう聞いてきました……これが彼と私の初めての会話となりました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会話って、けいこさん、狐の姿で言葉を出せたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは笑って首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「ふふ、意思の疎通が初めてできたと言う意味です……それから彼は私に、絵画、彫刻、の写真を見せてくれました、これまで私は人間というのは破壊と消費しかしない</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
者かと思っていました、それを全て覆すものでした……数日後、彼は私を人気のいない森に連れて行きました、彼は私を森に帰すつもりなのは直ぐに分りました、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私を地面に置くと『もう撃たれるなよ、さぁ、もう行きなさい』」……彼の別れの言葉、別れたくなかった、私は彼の目の前で自分のもう一つの姿を見せた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それって、人間に化けたって事、でも、そんな事をしちゃったら、恐がって逃げてしまうかもしれないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「これは懸けでした、そのまま狐のままでも別れるだけ、もし、この姿を見て彼が何かを思ってくれるならば……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「その懸け、上手くいったんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……さて、そろそろ貴女のお話をしなければなりませんね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もうそんな時間なのかな。本当はけいこさんが人間なった経緯も聞きたかった。でも……この話だけでも充分分る。けいこさんが竜太さんを愛したのが。それに芸術が好きな訳も。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「えっと、移転先の件ですけど、候補地が決まりましたのでこれで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は封筒とけいこさんに差し出した。けいこさんは封筒の中身を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「……ここで良いのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、満場一致です！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それならば直ぐに手配しましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">奥からめぐみさんが来てけいこさんから封筒を受け取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「直ぐに手配を」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんはそのまま会長室を出て行った。そしてけいこさんはテーブル席にまた座った。そしてさっきまで笑顔だったのに真面目な顔に豹変した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「もう一つ、私は依頼をしましが考えてくれましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、私なんかで良ければ……何もお役にたてないかもしれませんけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
即答だった。お手伝いはしようとは思っていた。直ぐには答えるつもりは無かった。だけどさっきの話しを聞いたら決心がついた。けいこさんの顔に笑顔が戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もどったけど少し表情が暗かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「一週間前……私は彼らにコンタクトを試みました、しかし、いい返事は来ませんでした、どうすれば良いのか考えあぐねているところです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「彼等って、ひろしさんは、ひろしさんは元気でした？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私、私がけいこさんのサポートをしますって言いました？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは首を振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、貴女はまだ私を手伝うとは言っていませんでしたので言っていません、これからは堂々と言えます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「効果があるかどうかは分りませんけど、私の名前を使っても良いです、逢いたい、それだけでも良いので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですね、使わせてもらいます、これで、彼をここに連れて来られるかもしれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">此処、ここって、東京のど真ん中……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、最初のコンタクトの時もここに呼んだのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですけど、何か……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんはキョトンとした顔で私を見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私が最初、此処に来た時、けいこさんが恐かった、何か交渉する時は相手の安心できる場所でお話した方が良いと思うけど……</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは元お稲荷さんだから警戒しているのかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「相手の安心できる場所……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、それは向こう側に決めてもらえば……あの神社はもう出て行っちゃったし、私も分らないから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「素晴らしいですね、早速助言をいただきました、その調子でお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は思った事を言っただけなのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「次は必ず交渉の席に来てくれるようにします、その時は同席をお願いします、そのためにも、つかささんの休日を教えていただけませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「交代制なので定期じゃないけど、週に二日取れるようになったので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はけいこさんとこれからの事を色々話した。もし、ひろしさん達が本格的に交渉するようになれば週に二日の休みでは足りなくなるとけいこさんは言った。そうなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店のお仕事は出来なくなる。休職するか、一回退職するしかない。報酬の話しもしたけど、今はちゃんと、かえでさんから貰っているから交通費以外は要らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな細かい話までした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「今日は良い話ができました、それでは移転の事は私に任せて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「はい、お願いします……あ、あの～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは不思議そうに私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もう一度聴きたいのですが……亡き皇女のための……なんでしたっけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは微笑むとピアノの方に向かい座った。そして目を閉じて弾き始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お疲れ様～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
家に着いたのは日が変わろうとしていた時刻だった。こなちゃんはもう既に帰ってきていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「交渉はどうだった？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はにっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん、どうやら上手くいったみたいだね、お茶を淹れるね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もう寝しなだよ、眠れなくなっちゃう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃ、ココアを淹れるね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ココア……そういえばひろしさんに最初に出したのもココアだっけ……思い出しちゃった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替えて居間に戻るとこなちゃんが私の買ってきた物をじっと見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「珍しい物買したね……クラッシック？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">帰りに音楽ショップで思わず買ってしまった。ラヴェルのピアノ曲集。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「会長……けいこさんが弾いていたから、とっても綺麗な曲、また聴きたくて買っちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさは影響されやすいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「今度聴かせてあげるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今度ね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはココアを私の目の前に置いた。しばらく沈黙が続く。そう、私はこなちゃんに話さなければならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あのね……こなちゃん、私……決めたの、けいこさんの仕事、企画を手伝うって……ごめんね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは黙ったままココアをすすった。何も言わない。どうして……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……なんで、謝るの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ぼっそとした声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え、だって、こなちゃんをこの町に呼んでおいて私だけ別の所に行く事になるから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「呼んでおいて……違うよ、私はつかさに呼ばれたんじゃない、私の意思で来た、勘違いしないで、」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し怒り気味の声だった。私は言葉に詰まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私はあの時、こなちゃんが何も就職が決まっていなかったからただ声を掛けただけだよ……勘違いとかそんな事言わないで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは更に怒った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「一人旅なんか行ったからこうなったんだ、あんな狐なんかと会わなければ、私達は地元でもっと楽しく皆で過ごせたんだ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この時、こなちゃんの思っていた事が初めて分った。こなちゃんは俯いて両手を握って震えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ゆきちゃんが言ってた、私が一人で旅をするのは運命だったって、現にお姉ちゃんも家族もこなちゃんだって止めなかった、私自身もこんな出来事に巻き込まれるなんて</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思いもしなかった、でもね、そのおかげでかえでさんに会えた、一度も会っていないけど辻さんも、お稲荷さんの人達も、何より……こなちゃんとこうして</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 一緒に働けるなんて……夢みたいだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはまたぼそっとした声で話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……私とひよりんで、無断でかがみ達を主人公にした漫画を描いた時の事覚えているかな、ちょうどつかさが一人旅から帰ってきた時の話しだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、お姉ちゃん、カンカンに怒っていたね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「うんん、みゆきさんもかなり怒っていた、みなみちゃんも、ゆーちゃんも、みさきちまで……なんでつかさだけ私を庇ってくれたの、あの漫画はつかさも主人公だった</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> って、つかさは知っているでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私達姉妹が主人公のおふざけの漫画だったね、面白かったよ……なんてね、もし、旅をしていかったらこなちゃんを怒っていたかも……まなちゃんの悪戯好きと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> こなちゃんが重なって、憎むに憎めなかった、それだけだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは顔を上げて苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「結局……私は真奈美さんに助けられたって……ふふ、確かにみゆきさんの言うようにこれは運命だったのか……つかさがどんどん遠くに行ってしまうみたいに感じるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、私は遠くになんか行かない、皆がいるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの事、悪く言ってごめん……つかさを見ていたら、うだうだしているのは自分だったのに気が付いた、つかさならお稲荷さんと人間と仲良くできるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんのお稲荷さんに対する態度が変わった、なんだから少し希望が出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あとはみゆきさんだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみはいいとして……みゆきさんはお稲荷さんをかなり嫌っていると思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そんな風には見えないけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「普段、陰口とか言わない人ほど根っこでは恨みを溜め込むもんだよ、みゆきさん、お稲荷さんの話しになると口数が減るからね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういえば……そう言われるとそんな感じに思ってしまう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……実はゆきちゃんにこれからいろいろと相談にのってもらうつもりでいたのだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「流石のみゆきさんも今度ばかりはどうかな……断るかもしれないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さん達と会う前にゆきちゃんとお話がしたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは大きく欠伸をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふゎ～ それなら早い方がいいね、明日は店長に報告するんでしょ……明後日、会ってみたら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それだと、お店を休まないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「休んじゃえ……有給たまっているんでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの後押しもあってゆきちゃんと会うのは三日後になった。ゆきちゃんは行き付けの店に私を招待してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「まずはおめでとうと言わせてもらいます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「へ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私に会うなり思いもしていなかった言葉を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「かがみさんのご結婚です、挙式は何時になるのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……あ、ありがとう……お姉ちゃんから聞いたんだね……ごめん、まだ聞いていない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「そうですか、楽しみにしています……そういえば、つかささんと二人だけで会うのは高校時代以来ですね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとはいつも皆と一緒の時が多かった。こんなにゆっくりお話するのもほんとうに久しぶりかもしれない。ゆきちゃんの行き付けのお店だけあって、お洒落で落ち着いて、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆっくりとお話ができそう。どうやって切り出そうかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「柊けいこさんって知ってる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の質問にゆきちゃんは暫く考え込んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「私の大学で特別教授をなされています、とても知的で尊敬する一人です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そして、大企業の会長、ホテルのオーナー、いろいろな顔をもっている人だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですが……それがどうかいたしましたか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは首を傾げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私の住んでいる町を再開発するから移転して欲しいって言われた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……それは泉さんから伺っています……良い条件を出してくれたそうですね、私の思った通り誠実な方ですね、それに柊けいこさんの経営するホテルに出店ともなれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ステータスも付きます、素晴らしいと思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんもけいこさんを尊敬している。さて、これからが本番だよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……けいこさんから個人的に依頼を受けたの、それでゆきちゃんに相談に乗って欲しくて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「相談……ですか、私に出来る事なら良いのですが……どのような依頼なのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さんと人間が共存できるように……手伝って欲しいって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">何度か私の話しを聞きながらお茶を飲んでいたゆきちゃんの動きが止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ど、どう言う事ですか、なぜ、お稲荷さんの存在を知っているのですか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し声が上擦っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「柊けいこさん……彼女はお稲荷さん……お稲荷さんだった人だよ、旦那さんと知り合って……長寿と引き換えに人間になった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私の目を見たまま瞬きもしない。更に話し続けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんはね、人間とお稲荷さん仲良くさせたいって、仲良くできから、代わりにお稲荷さんの知識を私達に教えるって言ってた、でも、それはひろしさん達も</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんの計画に賛成してくれないといけないから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは手に持っていたティーカップを置いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「泉さんの予想が当たってしまいましたか……まさかとは思っていましたが、柊けいこさんがお稲荷さんだった………」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、これから色々な事が起きると思うから、ゆきちゃんの力を借りたくて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……私の助言は一つしかありません、私は柊けいこさんの計画に反対します、したがって、つかささんの手伝いも出来ません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強い口調だった。それに、答えを用意していたみたいに即答だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「反対……するの、お姉ちゃんもこなちゃんもかえでさんも賛成してくれたのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「柊けいこさんの経営、会社運用、特許……これらの知識はおそらくお稲荷さんの知識を使ったか応用したものでしょう、よく考えて下さい、今までお稲荷さんが私達に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
してきた事を、呪いや、金縛り、催眠術や夢の中にまでも入ってしまいます、そんな事が人間に知れたらどんな事が起きるのか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それはお稲荷さんだから出来る事だよ、私達人間は魔法なんか使えないから大丈夫だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは首を振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私は彼等が特別な存在だとは思っていません、それらは私達の知らない知識や技術があるのかもしれません、変身するのも同じです、ですから方法さえ分ってしまえば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私達にも出来ると言う事です、そんな技術や知識を私達が知ってしまったら……考えただけで恐ろしくなります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんはお姉ちゃんが呪いで苦しんでいる姿を見た。催眠術で寝てしまっているし。爪を伸ばしてこなちゃんに襲い掛かろうとしている姿も見ている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だからゆきちゃんは……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんは言った、お稲荷さんの知識を手に入れたら、私達の生活が変わるって……私はひろしさんと別れた直後にとっても綺麗な幻想を見たよ、そのおかげで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暗闇の階段を一回も踏み外さないで下りる事ができた……多分お稲荷さんの力だと思うよ……私にはその理屈なんて分らない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もし、お稲荷さんが特別な存在じゃなかったら、お稲荷さんの知識は教えてもらわなくても何時か、誰かが手に入れてしまう……ゆきちゃん、そう思わない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> だったら、教えてもらえるなら、教えてもらおうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いつか、誰か……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">一言そう言うとゆきちゃんは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん、お稲荷さんの事、嫌いなの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急にソワソワしだした。私の目を合わせなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私はたとえ「嫌い」って言ってもゆきちゃんを嫌いになったりしないから、ちゃんと言って……私は、お稲荷さんの知識なんてまったく興味がないの、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
本当はひろしさんに逢いたい、それだけ……私は、只、けいこさんの計画を利用しているだけかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは暫く考え込んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……真奈美さんは命を懸けてまでつかささんを守りました、その一方、かがみさんを呪い、つかささんまで殺めようとしたたかしさん、とても好き嫌いでは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 表しきれません……本当に同じお稲荷さんなのでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな風に聞かれるとこっちも困ってしまう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「同じお稲荷さんだよ、だけど違う、私とゆきちゃんが違うように……怒ったり、笑ったり、恋をしたり、私達とまったく同じだと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは微笑んだ。今日会ってはじめてゆきちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「お稲荷さんは私達と同じ、そう考えると整理がつきますね……つかささんは最初からそうだったのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだったのかな、意識していなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはティーカップを持った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「微力ながらお手伝いさせて頂きます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ありがとう、でも、良いの、ゆきちゃんはお稲荷さんの知識は良くないって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「知識や技術に良いも悪いもありません、要は使う人次第です……それにつかささんに言うように、早いか遅いかの違いだけかもしれません、どんなに難しい知識も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
何れは詳らかになるものです……私がどうかしていました、お稲荷さんの会合の時は是非、私も同行させて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんが私と一緒に……こんな心強い事なんかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私、一人でどうやって良いか分らなかった……だからこうしてゆきちゃんに……ありがとう、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">わたしはゆきちゃんの手を取って何度もお礼を言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「まだお礼を言うのは速過ぎます、もう少しお話がしたいです、柊けいこさんの事を、彼女は何故人間になったのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだった。まだ何も始まってはいなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「旦那さんの竜太さんの出会いが何かの切欠になったのはなんとなく分る……そして、彼からいろいろな芸術を観たり聴いたりするうちに</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">人間への憎しみが消えていったみたいだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「芸術ですか……そういえば彼女の支援はほんど芸術関係が占めているようですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、そうそう、けいこさんはねピアノも上手なんだよ、ラヴェルの亡き皇女のための……あ、あれ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">せっかく覚えたのに言葉が出てこない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「亡き皇女のためのパヴァーヌ、ですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「さすがゆきちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「この曲のテンポはゆっくりですがかなり難易度が高いようです、みなみさんも最近になってやっと弾けるようになったので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうなんだ……そんなの感じさせない演奏だった……とっても綺麗な曲だったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そして、哀しげで、優しい響きです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんと音楽のお話をした。今までそんなお話なんかした事なかった。みなみちゃんの演奏も聴いてみたい。そういえばゆたかちゃんやひよりちゃんも最近は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会っていないな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「どうしたのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">上の空だったかもしれない。ゆきちゃんの話しを殆ど聞いていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「えっ、あ、みなみちゃんの話がでたから、ゆたかちゃんやひよりちゃんにも会いたくなっちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「彼女たちも、もう大学生です……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時の流れって早いね……こなちゃんとひよりちゃんの事件が昨日の事みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはクスリと笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですね、近頃、また二人で何か作品を作っているそうですよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、そんな風には見えない、こなちゃん、頻繁に実家に帰っていないし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「直接会わなくても、インターネットがありますから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんがいつもノートパソコンを見ているのを思い出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「またお姉ちゃんに怒られなきゃいいけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはまた笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「お二人ともあの件で懲りていると思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それだと良いのだけれど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私は嫌いではなかったですよ、現実離れしたコメディ……かがみさん達の性格をよく反映した漫画だったと思います、しかし、いささか表現が過激でした、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> せめて一言、断っていただければ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、そんな事言ったら、お姉ちゃん、作りかけの漫画を破いちゃったかもしれないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私の目を見ると、小さく頷いて納得したような表情を見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・みゆき「ふふふ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は笑った……ゆきちゃんと楽しい会話が続いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 帰りの電車の中で……私は考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が一人旅に出なければ地元で楽しく過ごせた……こなちゃんはそんな事を言っていた。ゆきちゃんとの会話で、こなちゃんと同じ気持ちが今頃になって込み上げてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それじゃ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が旅に出なかったから……私の代わりに誰かがお稲荷さんの生贄になっていた、それでお稲荷さんの恨みが消えたかな……消えない、狐狩りは今でも行われている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もっと人間とお稲荷さんの溝が深まってしまったかも……うんん、今でもそんなに状況は変わっていない。だからけいこさんが計画をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
結局私は何もしていないのと同じ……人間とお稲荷さんの橋渡しなんて……出来ないよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">大きな溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気分晴らしに電車の窓から外の景色を見た。もうそろそろ目的の駅に着きそうだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私、ひろしさんと別れるとき、何でもっと強く引き止められなかったのかな。今度会って私は彼に何を言うのかな……「こんにちは」「元気だった？」「逢いたかったよ」……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんなのは普通すぎるよね、「たかしさんが元気？」久しぶりに会うのにいきなり他人の話からなんて失礼だよ……いっその事……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「人間になって私と一緒になって……」、そんな事、言えるわけがないよね……何千年も生きられるのに……そういえば前にも同じような事を考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱりダメだ。私は何も変わっていない。これじゃけいこさんの役に立てない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">出てくるのは不安な気持ちばかり。それにひろしさんの事ばかり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
電車から降りて駅を出るといつの間にか神社の入り口の方に足を向けていた。そして神社の入り口で立ち止まった。外はまだ明るい。往復する時間は充分にある。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
入り口から階段を見上げた。もう自分からは行かないって決めたのに……しかし足は既に階段を登っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店が移転してしまえば私達もこの町を離れる。よっぽどの事が無い限りこの神社に来る事はない。それにこの土地はけいこさんの物になる。神社はそのまま残してくれるって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言ったけど。どうなるのかな。この町にお稲荷さんが戻ってくればやっぱりこの神社が拠点になるのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">考えても分らないような事ばかりが頭に浮かんでは消えていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
気が付くともう頂上に着いていた。頂上から町を見下ろした。あの時と全く変わらない風景が広がっている。日も傾いてきた。日が傾いて西日が射し込んで来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暗くならないうちにまなちゃんに挨拶して帰ろう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
町の風景を背にして森の中に入っていった。いつもお供えをしていた石の前で止まった。そう、まなちゃんが初めて私の作った稲荷ずしを食べてくれた場所。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そして……もうその先を思い出したくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「まなちゃん……生きていたらどうするの、やっぱりけいこさんの手伝いをする？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私の声は森の中に吸い込まれて静まり返る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私……まなちゃんに会わなかった方が良かったかのかもしれないね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ガサガサ』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろから枯葉を踏みつける音……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だ、誰？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろを振り返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「つかさ……つかさじゃない、何でこんな所に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「か、かえでさん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その先の言葉が出なかった。かえでさんは私の言葉を待っていた様に見えたけど、そのまま凍ったように私は動けなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暫くするとかえでさんは私の前に移動した、袋からパンケーキを出すと石の上に置いた。そして腰を下ろすとゆっくり手を合わせて祈り始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> どの位経ったか、かえでさんは手を下ろすと腰を下ろしたまま話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「こうして浩子の為に祈ってやれるのもあと何日になるかしらね……うんん、つかさと出会ってなければ私はこの神社の入り口にすら近寄らなかった……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは目を開けて供えたパンケーキを見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「浩子と夢見たレストラン……夢で終わるかと思っていた、それを現実にしたのはつかさ、貴女よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は……おっちょこちょいで、失敗ばかり……そんな事言われても……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうした、いつものつかさらしさがないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私らしいって……いつも目立たなくて、内気で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうゆう心境の変化かしら、初めて会った時のつかさに戻っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">戻った……始めから私は変わっていない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「けいこさんの旦那さん……芸術が好きだった、それをけいこさんに教えた……それで旦那さんを好きになったって……彼女のピアノを聴いていると旦那さんとの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
絆の強さが伝わってくる……私なんて、芸術も教えていないし、何も残せなかった、だから別れちゃったのかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは呆れた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「やれやれ、つかさ、貴女のしている仕事はなんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「仕事……レストランでスィーツを……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「言っておくけど、料理もりっぱな『芸術』……私はしっかりと覚えている、つかさが休暇を取った日、ひろしが来て、つかさの作った料理を食べたかったって言った、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> それが何を意味するか分るでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「妬けるわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「焼ける、焼けるって何が？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「鈍いわね、鈍すぎるわよ、まだ分らないの……もういいわ、恥かしくて私からは言えないわ、自分で考えなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは何を言いたかったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「もう日が暮れるわ、そろそろ帰りましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは少し怒り気味だった。私はかえでさんの後に付いて歩き始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……誰！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然立ち止まって森の出口の方に向かって怒鳴った。すると木の陰から男の人が出てきて慌てるようにして階段を降りて行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「怪しいわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「怪しいかな、観光客だったかも、カメラ持っていたみたいだし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「どうかしら、スーツを着ていたのが不自然だわ、この神社は観光としてはマイナーすぎる……それに慌てて逃げるなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「かえでさんが怒鳴ったからだよ、あんなに大きな声だしたら誰だって驚くと思うけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「……そんなに大声は出していないわよ、つかさ時々キツイ事言うわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんと私はまた歩き出した。そして階段を半分くらい降りたくらいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「柊けいこさんから電話が着たわよ、きっと携帯のメールにも着信していると思うけど一応伝えておくわ……来週の月曜日、本社の会長室に来て欲しいそうよ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 相手と連絡がついたってね……つかさ、メソメソなんかしていられないわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気合の入った声だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私……どうして良いか分らない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「何を今更……って、情けない顔しちゃって……私から言えることは何も無いわ、あえて一言、そんな顔じゃ何をしても失敗するわね、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ほらはら、ひろしに逢えるわよ、待ち遠しいでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、あ……うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「そうそう、その顔よ、その顔で当日行きなさい、後は良い事だけを考えなさい、以上」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">良い事だけを考える……心の中で何回も繰り返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは速度を上げて階段を降りていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 神社の入り口を通ると、こなちゃんの車が停まっていた。車のドアが開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「迎えに来たよ、二人とも乗って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の耳元で囁いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「私は泉さんに言われて神社に来たのよ……移転とか浩子の事で私もどうして良いのか分らなくてね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは私の肩をポンと軽く叩いた。そして私にウインクをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「泉さん悪いわね、一度店に戻ってくれないかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはこなちゃんの車に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「オーケー、分ったよ、つかさは何もなければ一緒に帰ろう？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
にっこり微笑むこなちゃん。かえでさんのさっきのお話し……今まで悩んでいた事がスーと消えていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何も無いよ、一緒に帰ろう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も笑顔で返した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだよね……もう悩むのは止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そして……その日は来た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
月曜日、それは私の休日。けいこさんはちゃんと私の休日に合わせてくれた。なんとしてもけいこさんの想いをお稲荷さん……ひろしさんに伝えたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私にそれが出来るか分らない。だけどやれる事だけはやってみる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「こんにちは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんも来てくれた。東京駅で待ち合わせをしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こんにちは、平日なのに大丈夫なの、大学院の研究って大変なんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは大学院で忙しいのに来てくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「大学院での研究よりこちらの方に興味があります、お稲荷さんの知識……その入り口に居るのですから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「まだ教えてくれるって決まったわけじゃないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんの目がキラキラと光っている。ゆきちゃんの目的はお稲荷さんの知識だったのか。ゆきちゃんらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうですね……お互い、頑張りましょう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達はホテルに向かって歩き出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ホテルに着き、私達はめぐみさんに会長室へ案内された。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「どうぞ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">会長室に入るとけいこさんが部屋の中央に立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お待ちしていました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんはゆきちゃんの方を見た。そうだった。初対面だった。けいこさんには事前に連絡しておいた。けいこさんは二つ返事で同行を許可してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、こちらが私の親友で高良みゆきさんです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「はじめまして……大学の特別講義、いつも興味深く拝聴させていただきました、よろしくお願いします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは深くお辞儀をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴女は……高良さんとは貴女の事でしたか、学長から伺っていますよ、成績優秀……それだけではないものをお持ちだと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いいえ、私はそのような特別な事などは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささん、貴女は良い友人に恵まれていますね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんはここに来るのかな。周りには私達だけしかいないし……私は部屋の周りを見回した。それにけいこさんが気付いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それではこれから会場に向かいましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「会場はここじゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「彼らは佐渡島を会場として指定してきました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「あの、日本海にある佐渡島ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは頷いた。私とゆきちゃんは顔を見合わせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「佐渡島に私の経営するヘリポートがあります、これから屋上からヘリコプターに乗って向かいます、もちろん帰りも送りますので時間は気にしないで結構です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">改めてけいこさんのスケールの大きさに驚かされた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさん達、そんな遠い所に引っ越したの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「恐らくそこには住んでいないでしょう、彼らも別の所から来るに違いありません、住処は簡単には明かしてくれません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが入り口のドアを開けた。そして私達は会長室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、パイロットはめぐみさん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「何か不都合でもありますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが操縦席の方に向かっているので思わず言ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、不都合とかじゃなくて、操縦している時に変身が解けたら……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「ふふ、その位の時間管理はしています、ご心配なく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私も免許を持っていますので、いざとなれば代わります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
凄い……これがお稲荷さんの本気なのかな。ピアノも上手だし、ヘリコプターも操縦できるなんて……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「皆さん、乗ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
皆乗り込むとみぐさんはヘッドホンを付けてどこかに無線で連絡した。暫くするとプロペラが回りだしゆっくりと離陸した。ビルの屋上からどんどん離れていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「約２時間で到着します、それまでくつろいでいて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「すみません、少し……お話いいでしょうか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「なんでしょうか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「知識を私達に教えてくださるのは大変あり難いです……しかしながら、それを何時、何処で、誰に、が重要になってきます、それを誤れば過去に起きた迫害……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いいえ、もっと凄惨な出来事が起きてしまうと思います……それに私達、人間側の準備も必要かと思います、知識の独占、濫用がおこれば、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
誰のための知識なのか分らなくなってしまいます、柊けいこさんはどのようにお考えですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは暫く目を閉じていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですね、もう過去の過ちは繰り返したくありません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
うわー、ゆきちゃんとけいこさんでなんか難しい話しを始めてしまった。話しに付いていけないし、入れない。こなちゃんも連れてくればよかったかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとけいこさんは真剣な顔で話している。ピクニックや観光に行く訳じゃないよね……自重しなきゃ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
窓の外を見た。今日は快晴、遠くの景色まで良く見える……あれ……あれは東武線……線路を辿っていくと……あの辺りが陸桜学園かも……その先は……実家かな、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
胡麻より小さく見える町並み。そのどれかが私の住んでいた実家……小さいな。幼い頃は実家が全ての世界だと思っていたのに。成長していくにつれてどんどん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
世界も広がっていく。小学校、中学校、高校……大学……私は専門学校だった……そして社会人。世界が大きくなると私はどんどん小さくなっていく。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
空から見える大都会。見え切れないほど大きな世界。そこに居る小さな私。何処に居るのか。居たのかも分らない位……小さいよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんは私達をカゲロウみたいだって言っていた。何千年も生きるお稲荷さんから見ればそうかもしれない。小さくて、あっと言う間に消えてなくなる……私達。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
景色は風のように流れていく……もう私の知らない町並みが見えてきた。こうやって景色を見ているのも落ち着いて良いかも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ヘリポートに着陸すると私達は車に乗り換えた。もちろん運転はめぐみさん。車は郊外を抜けて人里離れた所へと向かってくそして、寂れた小屋の前で車は停まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「到着しました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんとけいこさんは話しに夢中になっているみたい。ヘリポートを降りても二人の会話は終わらなかった。とりあえず私は車を降りた。そして背伸びをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う～ん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみ「お二人はもう少し時間が掛かりそうですね、どうですか、先にあの小屋に向かわれては、気配を感じます……もう来ています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">暇を持て余していてもしょうがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
小屋に向かう。そしてドアの前で止まった。このドアの向こうにひろしさんが……ノブを回してゆっくり開けた。男性が一人後ろを向いて立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小屋の窓を見ているみたいだった。私の気配に気付いたみたい、振り返った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「柊……つかさ、なぜ、ここに居る……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
驚きの顔で私を見ていた。違う……ひろしさんではない。それじゃこの男性は誰なの。お稲荷さんみたいだけど……それに私の名前を知っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この男性の雰囲気……もしかしてこの人……そうだ、試してみよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……トカゲの尻尾のお薬、あれから地面に埋めたよ、完成にあと９８年もかかっちゃうけどね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男性は苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「……埋めたのか、それならもう完成しているはずだ、埋めるのは２年で良い」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり……たかしさんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ダメだよ、２年でも間に合わなかったよ……あの時、死ぬ気だったの……ダメだよ、そんなの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">涙が出てきた。あの時の情景が思い出されてくる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「そうだったのかもしれない、あの時の俺は……逆恨みと言うものなのか、君の献身的な介護……ふふ、さすが真奈美が選んだ人だけの事は在る……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
君の姉には本当に申し訳のない事をした、本来なら直接謝罪すべきだった……許してくれとは言えないな……唯一、出来たことは、君の言っていた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 狼に化けるのを実行する事で君に健在を知らせるだけだった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「分っている、狼の件はニュースになったから直ぐにわかったよ……もう過ぎたことだよ、お姉ちゃんも恨んでないって言っているし、もう忘れて、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> それより人間に化けているね、もう人間を許してくれたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「……全てを許しているわけじゃない、だが、少なくとも全ての人間を恨む必要もない、そう思っただけだ……もういい加減に涙を流すのは止めろ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 涙は、愛する人の為に取っておけ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">愛する人……あ、私は涙を拭って辺りを見回した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「……ひろしか、ひろしは居ない……俺が代理で来た、人間も来る様な事を言っていたが、まさか君だったとは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんは、どうして来ないの……私が来るのを知っているのに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「さあね、そこまでは知らん、あいつは少し変わった、良くも悪くもな、君のせいかもしれないな……それより、君はけいこの補佐として来たのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんの目つきが変わった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そのつもりだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「あいつは裏切り者だ、今日の会合もそれをはっきりさせる為に来たのだからな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな、裏切り者なんて、あんなに良い人なのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「裏切りって何、人間と結婚したから、人間になったから？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「過去に何度もそんな事はあった、それは個人の自由だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だったら何で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはドアの方を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「さて、その本人がお出ましだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
ドアが開くとめぐみさんを先頭に、けいこさんとゆきちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「おや、もう始まってしまっていますね……私達がモタモタしていたのも確かですが……さあ、席に着きましょう、まずはそれからです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私とたかしさんは一度離れて席に着いた。たかしさんを対面に私達が横に並ぶ形になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「たかし、人間に化けるのをあれほど拒んでいたのに、どうゆう心境の変化ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「さてね、お前に教える義理はない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
優しい言葉のけいこさんに対して、吐き捨てるような口調のたかしさんだった。けいこさんはたかしさんに微笑みかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……それも良いでしょう、ところでひろしはどうしました、お頭であるひろしが居なければ話は進みません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「今日は来られない、俺はその代理で来た……元々俺がお頭の一番候補だった、文句はあるまい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「大事な会議よりも優先されるとはひろしは何を考えているのやら……委任状はありますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それは人間の風習だ、我々にはそんなものが無いのは知っているだろう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「確かに、しかしこれからはその人間と交渉をしなければなりません、あなた達も少しは慣れた方がいいですよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「裏切り者から教わる気はない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんの反抗的な態度に対してけいこさんは至って冷静だった。たかしさんの怒りをスポンジみたいに吸収しているみたい。そのせいかもしれないけど、たかしさんは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私と初めて会った時みたいに敵対心むきだしではなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～さっきから裏切り者って呼んでいるけど、けいこさんは何をしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ちょっとした間が空いたからさっきから疑問に思っていた事を聞いた。たかしさんはけいこさんを指差してから話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「こいつは、人間にもう既に我々の知識を教えているではないか、こんな会議など茶番だ、即刻中止を要求する！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「たかし、それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「めぐみ、おまえも同じだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみ「違う、違うの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「何が違う、こいつは私利私欲の為に……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「お止めなさい、私から説明します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんは初めて大きな声を出した。たかしさんとめぐみさんは黙ってしまった。その声は威厳があった。恵子さんは自分の席に座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「禁呪を平然と使ったお人とは思えない発言ですね、私の使用している知識や技術は封印されたものではありません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「う……そ、それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんは私の記憶を見ているからたかしさんが何をしたのか分っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「貴方がお頭になれなかったのはそのためですね、ひろしは人選を誤りました、確かにこの会議は茶番です、ひろしの出席を強く求めます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「柊つかさ、かがみの親友の高良みゆきと申します、私怨なのかもしれませんが、私もたかしさんがお稲荷さんの代表と言うのはいささか抵抗があります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんもたかしさんをまだ恨んでいる。このままだと会合自体がダメになっちゃう。何とかしないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……その点に関して言えば何も言えん、次回はお頭に来るように伝えよう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは席を立った。そして小屋の出入り口に歩き出した。このまま退出しちゃうのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの呪い、もう二度と使わないよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「何故禁じられていたのか、それが分った、しかし使ってしまったのは取り返しがつかない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうだよね、取り返しがつかないよね、それが分っているなら、呪いの恐ろしさを知っているから絶対に使わない……私も小さいとき、危ないから行くなって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言われた小川があって、それでも興味があるから小川によく遊びに行ったの、そこで足を滑らせて溺れかけちゃった、たまたま通りかかった人に助けてもらったの</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけど……それ以来、あの小川に行かなくなったから、それと同じだよ、私はたかしさんが代表でもいいと思う」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「貴女は姉が亡くなっていたとしても同じ事が言えるのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんが死んでいたら……心の中で何度も呟いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「分らない、分らないけど、溺れて死んでいたら、私はここに居なかった、でも、私はここに居る、お姉ちゃんも生きている、それ以外考えられない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「生きているのが重要と言うことですか……それも良いでしょう、たかし、席に着きなさい、話しの続きをしましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは席に戻った。そして、けいこさんとたかしさんの会議が始まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんとたかしさんの会議は平行線を辿った。たかしさんは終始けいこさんの提案を断った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「今日はここまでにしましょう、次回に期待します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「何度話しても無駄のようなきがするがな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「私も今日の会議で何かが決まるとは思っていません、たかしさん、仲間に会ったら伝えて下さい、貴方方には三つしか選択肢はないと</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このままの状況を続けるか、人間と共存するか、人間との関係を完全に断ち切るか……人間との関係を断ち切れば貴方方は確実に滅びます、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> このままの状況を続けても結果は同じです、分って頂けますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはドアに歩きだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「話だけは聞いた……そろそろ帰らせてもらうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「待ってください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「まだ何かあるのか、柊つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は鞄からＣＤを取り出したかしさんに渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これを、ひろしさんに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「音楽か、あいつはそんな物聴かないぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それでもいいの、私、ピアノ弾けないし……今の私の心境を音にするとこうなるって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「ピアノ曲なのか……分った、渡しておこう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはＣＤをバックに入れると小屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「私達も帰りましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんとめぐみさんも小屋を出て行った。私も鞄を整理して外に出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「つかささん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">後ろからゆきちゃんの声、振り向くと俯いて寂しげな姿だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「ごめんなさい……私、つかささんをアドバイスするどころか、乱してしまいました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何のこと？」</div>
<div style="text-indent:-42pt;margin:0mm 0mm 0pt 42pt;">
みゆき「たかしさんが帰ろうとした時の話です、私は怒りでいっぱいになって……たかしさんを追い帰そうとしてしましました、かがみさんはもう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt 42pt;">たかしさんを恨んでいないのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私に謝らなくていいよ、一番苦しんでいるのは、たかしさんなのかもしれないのだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「私も先ほどそう感じました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはまた寂しげな姿になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「行こう、けいこさん達が待っているよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 帰りのヘリコプターの中、私はけいこさんに聞きたい事があった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの～けいこさん、今日の会合、私が来るってひろしさんに伝えたのですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「伝えました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさんは私が来るのを知っていた。でも、来なかった。私と会うのより大事な用事があったのかな。そんな大事な事って何だろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それとも私の事、嫌いになっちゃったのかな、それとも、忘れちゃったのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私の考えなのですが、つかささんが来ると分ったからこそ、ひろしさんはたかしさんを代理にしたのではないでしょうか、次回は来ると思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「次の会合は来週の水曜日です、つかささん、高良さん、大丈夫ですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">来週の水曜日私は休み。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大丈夫です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「大丈夫です、しかし、私が参加してよろしいのでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「問題ありません、是非来てください、貴女の論法はとても素晴らしい、参考になります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ありがとうございます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんが言っていたのが本当なのかな。信じたい……信じるしかない。そうであって欲しい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「本社に戻りましたらお食事でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は明日早番だから、帰らないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですか……残念です、高良さんはどうですか、もう少し話しをしたいのですが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そうさせて頂きます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こうして一回目の会合は終わった。けいこさんの一方的な話しで終わった感じがした。たかしさんは終始否定的だった。これはお稲荷さん全員の意見として</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
考えていいのかな。お稲荷さん達はこのままで良いのかな。それとも完全に私達の前から姿を消しちゃうのかな。もしそうなったら、そうなる前に逢いたい……もう一度……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふぅ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「どうした、溜め息なんかついちゃって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私ははっとした、いつの間にか明日の会合の事を考えていた。仕事中は考えないようにしていたのに。週一回のペースで会合はしている。もう三回目になるのに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ひろしさんは一回も出席していない。全てたかしさんが来ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは辺りを見回した。更衣室には私達二人だけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「先週の会合はどうだった、彼とは逢えた……わけじゃなさそうね、その顔を見て分ったわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「明日も行くのでしょ、ガンバレ としか言えないけど ガンバレ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「この店の移転準備も着々と進んでいる、調理器具は全部新調、食器は全て持って行く事になったわ、つかさも持って行きたい物があったら今のうちに言いなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「ほらほら、また顔が暗くなったぞ、明後日も休みでしょ、こんな時は実家に帰ってみたらどうなの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そのつもりですけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「余計なお世話だったわね、今日一日頼むわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「は、はい！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は気合を振り絞って入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">調理器具は新調か。使い慣れた道具は持っていった方が良いかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バタン！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">勢い良く扉が開いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「コラコラ、ノックぐらいしなさい、って、泉さん、何をそんなに慌てて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に走り寄った。息が荒い、走ってきたみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「何度も携帯に連絡したのに……どうして出ないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はロッカーを開けて携帯電話を見た。電源が切れていた。昨日充電して電源を切っていたのを忘れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ごめん、電源切れてた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみが大変なんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大変って……何？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今朝、倒れて病院に搬送されたって、まつりさんから電話があった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
倒れた……お姉ちゃんは妊娠していた……だけどまだお腹も大きくなっていないのに……どうして。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それは大変ね、つかさ、行ってあげてなさい、今日は休みで良いわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ありがとうございます……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">急いで服を着替えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「まさか、まさかとは思うけど、呪いって事はないよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それは絶対にないよ、私が保証する」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替えながら私は答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「泉さんも行ってあげなさい、心配でしょう、今日は私がホール長になるわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ありがとう……車で直接行こう、高速使えば電車より早いよ、車で待ってるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは飛び出すように更衣室を出た。私も着替えてすぐ後を追った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの車に乗るとすぐに携帯電話でまつりお姉ちゃんに連絡した。話しによると大学への通学中に突然倒れたそうだった。救急車で病院に運ばれ、今は意識も</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
戻っていて普通に会話が出来るまでになっていると言っていた。その先は電話では話せないと言う。やっぱり病院に行かないといけない。電話では話せない事、何だろう、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
すごく嫌な予感がした。電話を切ると丁度家の近くを通りかかった。こなちゃんは高速道路を使うつもりらしい。家の近く……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、ちょっと家に寄ってくれないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「良いよ、それより電話の内容を知りたいな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「家から戻ったら話す……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは家の前で車を停めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
家に着くと中には入らずに庭に向かった。そして、スコップを持って地面を掘った。確かこの辺りに埋めたはず……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
しばらく掘るとスコップに手ごたえを感じた。あった。手で余計な土を取り除いた。そして壷を土の中から持ち上げた。そう、これはあの時作ったトカゲの尻尾のお薬。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんはもう薬は完成しているって言っていた。蝋で固めた蓋をゆっくり開けた。壷の中から発酵した漬物のような匂いが立ち込めてきた。そんなに嫌な匂いじゃない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
壷を覗くと。墨の様に真っ黒な液体が溜まっていた。そのまま家の中に入って洗面所で適当な小瓶を探した。そしてその小瓶に壷の液体を入れた。シロップみたいに少し</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">粘り気があった。小瓶を鞄の中に入れ、壷を片付けると車に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この薬、たかしさんの怪我のために作ったもの。お姉ちゃんに効くかどうかなんて分らない。だけど、何も無いよりはましだよね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 車が高速に乗り、こなちゃんがスピードを出してきた頃。私はこなちゃんに話した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃん、妊娠しているの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……妊娠……そ、それでどの位経っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんの声が上擦っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「話しを聞いたのは一ヶ月前だから……それ以上は経っていると思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はは、かがみはもっと慎重派だと思ったけど、結婚前に妊娠だって……ははは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">笑っているけどそれは感情が入っていないのは直ぐに分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「まつりお姉ちゃんが言うには、電話では話せない事がお姉ちゃんに起きたみたい……何だろう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
車のスピードが速くなった。制限速度を少し上回っている。普段の私なら注意するけど私も逸る気持ち抑えられなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「少し急ぐよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんに連絡をしようと携帯電話を取ったけど、その後の動作が出来なかった……そして、病院まで私達は一言も話さなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 病院の待合室に家族皆が居た。誰一人として笑顔で私達を迎えてくれなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お、お姉ちゃんは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
誰もお姉ちゃんの話しをしない、黙っているだけだった。それだけで事の重大さが分った。こなちゃんもいつもの元気がない。冗談を言えない状況だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いのり「……脳腫瘍……それも悪性……明日の精密検査をしないと分らないけど……あと三ヶ月らしい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うそ、嘘でしょ……どうして、婚約したばっかりなのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はお母さんの方を向いた。お母さんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「小林さんは、気丈に振舞っていたけど……さっき帰ったわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、赤ちゃんは、赤ちゃんは無事なの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり・まつり「赤ちゃん、何のこと？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二人は顔を見合わせて首を傾げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みき「……ごめんなさい、かがみが生理不順だったから……私が間違えたのよ、調べてもらったら妊娠はしていないのが分ったわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これは喜べば良いのか、悲しめばいいのか分らない。兎に角お姉ちゃんに会いたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんの部屋は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「３５５室……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、行こう！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はこなちゃんの手を掴んで行こうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「つかさ、かがみには病気の事は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、分ってる、言わないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「泉さん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小さい声でつぶやいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は待合室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと……待ってくれ……かな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">待合室を出て直ぐだった。こなちゃんは私の手を振り払ってその場に立ち止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと……まだ心の準備が、出来ていないよ、つかさは……良いの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私は……早くお姉ちゃんに会いたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「会ってどうすれば、何て声をかける……分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「どうするって……普段通りにしないと、お姉ちゃんにバレちゃうよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「普段通りって、どうするのさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いつもやっている事……こなちゃんがボケて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そんなの……出来ない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気付くとこなちゃんの目には涙が溜まっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「こんな姿しかかがみには見せられない……黙って……これじゃ黙っていてもバレちゃうよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まなちゃんは突然亡くなった、辻さん、こなちゃんのお母さん、かなたさんも既に亡くなっている。死の予感……今まで私が見てきた死とは全く違う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
恐怖、悲しさ、切なさ……悔しさ……そんな感情が複雑に絡まって湧いてくるのが私にも分る。だけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「でも、ここで私達が行かなかったら……お姉ちゃんはもっと苦しまないといけなくなっちゃうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさは強いな……私は、待合室に居た方がいいみたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に後ろを向けて戻ろうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">強い……以前、ひろしさんにもそう言われた。強くなんかない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私、一人じゃ行けない……だけど、こなちゃんとなら行けるような気がする、仕事を休んでまで来てくれた、きっと、お姉ちゃん喜ぶよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんがホール長になった話しをしたら、当然のように誇らしく喜んでいたよ、だから……ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……分った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは涙を拭った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
病室３５５号室の前に来た。私はノックをして部屋に入った。お姉ちゃんはベッドに座り本を読んでいた。私に気付くとにっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさじゃない、仕事はどうしたの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「倒れたって聞いたから、休んで来たよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「バカね、どうせまつり姉さん辺りが二倍も三倍も大袈裟に話したからでしょ、まったく、もう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは元気だった。今すぐにでも家に帰れるような感じだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そんな元気なら来るんじゃなかったかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">扉の陰に隠れていたこなちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「……こなたまで、どうゆう事よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの表情が変わった。まずい、気付かれちゃう……どうしよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「鬼の霍乱を見物にきたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「なんだと！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「きゃー、恐い、鬼が怒った……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の後ろに隠れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……なんだ、元気じゃないか、折角きたのだから、もっと病人らしくしないと」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「何が病人よ、ちょっとした貧血た、明日退院よ、念のため精密検査はするけどね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">明日、退院するのか……それならお姉ちゃんの病気は内緒に出来るのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「折角来てくれた事だし、中に入りなさいよ、何もおもてなしは出来ないけどね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とこなちゃんはお姉ちゃんのベッドの横に椅子を置いて座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こっちも慌てて来たから、何も持ってきていない……あ、あるある」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は鞄から小瓶を取り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「何よ、その黒いのは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お稲荷さん特製の元気エキスだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……まさか、それを私に飲ませようって訳じゃないでしょうね……何か不気味だわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は瓶の蓋を開けてお姉ちゃんに渡した。お姉ちゃんは瓶を受け取った。するとお姉ちゃんは急に私を見て真剣な顔になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさ、私……つかさに言わなければならない事があるの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ま、まさか、お姉ちゃんは病気の事を既に知ってしまっていた。私は唾を飲んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……この前、つかさに妊娠したって言ったけど、あれは間違えだった……ゴメン、お母さんの早合点だったのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ああ、あれね……そ、それは残念だったね、お祝いを用意しようかなって思ってて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「……それはそれで良かったのかも、子供はやっぱり大学院を卒業してからでないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ふ～ん、でも、間違えてしまうような事したのは事実なんだよね……か・が・み」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの顔が急に真っ赤になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、それは……な、何よ、べ、別に良いじゃない、子供じゃないのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだよね、子供じゃないよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお姉ちゃんの近くに寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それで……イカガデシタカナ、彼とのお戯れは……是非とも参考にお聞かせ願いたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、私も聞きたいかも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
真っ赤なお姉ちゃんの顔がさらに赤くなったような気がした。お姉ちゃんは気を紛らわせる為なのか、手に持っていた小瓶を口に付け、一気に流し込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「うげ～何よこのドリンク……何が入っているのよ……苦いと言うか、渋いと言うか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
言えるはずもない。中にトカゲの尻尾が入っていて、二年間も熟成させたなんて……まさか本当に飲むとは思わなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「景気付けだと思ってくれれば良いよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「水が欲しいわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはコップに入った水を渡した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「いくらつかさの渡した物とはいっても、得体の知れないものを口にするなんて、さすが悪食だね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「こ、こなたが悪いのよ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふふふ、一気に飲み干してそれはないよ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
怒鳴るお姉ちゃん。笑うこなちゃん……これは……普段通りのお姉ちゃんとこなちゃん。ごく自然だった。こなちゃんの態度に何ら動揺を感じない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">さっきまであんなに落ち込んでいたのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんなこなちゃんを見ていたら、目頭が熱くなってきた。まずい、まずいよ、私がここで泣いちゃったらこなちゃんの演技が無駄になっちゃう。しっかり……つかさ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「どうしたのよ、つかさ、さっきから黙っちゃって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">どうしよう。今話せば声が震えてしまいそう。でも黙っていても怪しまれちゃう……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさは運転して来たから疲れたんだよ……そうでしょ、一回も休まないで来たし……ね、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
短く返事をした。これが精一杯だった。もちろん運転はこなちゃんがした。もう、こなちゃんに合わせるしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみ「ありがとう、疲れたでしょ、でも休まないのは不味いわよ、事故でも起こされたら大変じゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だめ、もうお姉ちゃんの顔を見られない。自分でも涙が零れそうなのが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ふぁ～なんだか私も眠くなったわ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「今朝倒れたんだから、無理しないで寝なきゃダメだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね……悪いわね……そうさせてもらうわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんはそのままベッドに横になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「おやすみ、つかさ、こなた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おやすみ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私の腕を掴み引っ張るようにして部屋を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 待合室の入り口でこなちゃんは腕を放した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ここまで来ればかがみに気付かれない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ご、ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは私を見ている。そうだよね。怒っているのかな。もう少しでバレてしまう所だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「普段通り……そう言われたからやった、つかさ、ダメじゃないか、言い出しっぺなんだからさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……こなちゃんの演技を見ていたら、もう……普段通りの事が出来なくなるかなって思っていたら……涙が……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「演技……私は女優じゃないよ、あれは演技なんかじゃない、私は普段通りのかがみと話しをしたかった……だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達の会話に気付いたのか、お母さんが待合室から出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「早かったわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみのやつ、眠いって言うから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お母さんは首を横に振った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みき「……先生が言われていた……症状が進むと良く眠るようになるって……うう、もうそんなに……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ……私はかがみの前で泣かなかったから……今度は私が先だからね……うう、うゎ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお母さんに抱きつき泣いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お母さんはまるで自分の娘みたいにこなちゃんをそっと抱きしめた……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この時、初めて分った。こなちゃんはお母さんに自分のお母さんを重ねていたって。そして、お母さんもそれを知っていたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんも部屋から出てきてお母さんに駆け寄った。悲しいのは私だけじゃなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それにさっきのこなちゃんとお姉ちゃんの会話、お姉ちゃん、凄く楽しそうだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
決めた。私は泣かない。最後の時まで。お姉ちゃんには普段通りに接する。それがお姉ちゃんのためになるのなら……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 私とこなちゃんは一足先に病院を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「つかさ……会長さんに、お稲荷さんにかがみの病気を治してもらえないかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それは私も考えていた。だからトカゲの尻尾のお薬を試してみた。効果はなかった……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お稲荷さんの秘伝の知識とやらが役に立つときだと思わない、もし、かがみの病気が治せないような知識なんかだったら、この先の会合なんかやっても無意味だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それは、明日の会合で頼むつもりだよ……でも、今、それを私達に教えるかどうかの話しをしているから……教えてもらえるかどうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「別に教えてもらわなくて良い、治してもらえればね、もし、そうしてくれれば私もお稲荷さんの共存に協力してもいいよ、まずは相手の本当の力を知りたい、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> そして、本当に私達と共存して欲しいのなら断らない筈だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは病気を治す方法をお稲荷さん達が知っていると思っている。私もそう思いたい</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「やってみるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お願い……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この願いは私も同じだよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達は車に乗り込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さて、どこに送ろうか、明日は東京の本社に行くんでしょ、つかさの実家なら近いけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うん、それでお願い、それでこなちゃんも実家に来ない、一日泊まっていきなよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「でも、かがみが入院しているし……迷惑じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こんな時だから……こなちゃんに来て欲しい、それに明日は精密検査の結果がどんなでも退院するから、お姉ちゃんの相手になってもらいたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは車を走らせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
次の日、お姉ちゃんの容態が心配……だけど、そう言っていられない。私は約束の時間に本社ビルに向かった。お稲荷さんは毎回場所を変えてきている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今回は本社ビルの会長室で会合をする事になった。移動する必要がないのでお稲荷さんの代表が来るのを待つことになる。今度こそひろしさんが来ますように……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「どうしたのですか、元気がないですね、お体の調子が悪いのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こんな時、いつもならゆきちゃんと楽しいお喋りをする。今はお姉ちゃんの事が気がかりでそんな気になれない。それにゆきちゃんにお姉ちゃんの病気の話しをどうやって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">するか悩んでいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「実は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そうだ。会合でも話さなければならなかった。同じ話しを二回もしたくない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「実は……なんですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、何でもない……うんん、大事な話しがあるの、だけど今は話せない、会合が始まったら話すから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「大事な、話しですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはそれ以上聞いてこなかった。会長室にけいこさんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「さて、代表者が来ました、席に着いて下さい……つかささん、残念ながら今回も代理のたかしです……そろそろ代表者本人と話したいものです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんが部屋に入ってくると、その後からたかしさんが入ってきた。めぐみさんとたかしさんはそれぞれの席に着いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> けいこさんが会合を始めようと席を立った。私はそれに合わせて手を上げた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「つかささんどうぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、あの、開始早々申し訳ないのですが……とっても個人的な話しなので……でも、どうしても助けて欲しくて、手をあげました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「個人的な話しであれば会議の後、私が聞きましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いいえ、是非ともお稲荷さんにも聞いてもらいたくて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「そうですか、たかしさん良いですね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは頷いてくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「あ、ありがとう……実は、私のお姉ちゃ……姉の柊かがみが倒れてしまいました、病名は悪性脳腫瘍……あと三ヶ月の命だそうです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「な、なんですか……そ、そんな話は初めて聞きました……なぜ、もっと早く教えてくれなかったのです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いつも冷静なゆきちゃんが割り込むように話しに入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私も昨日分ったの……ごめんなさい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「高良さん静粛に……つかささん、続けて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「は、はい……お稲荷さんのお力で治してくれませんか、治してくれれば良いです、そうすれば私の友人がお稲荷さんに協力しても良いって言っています……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
い、いいえ、私からもお願いします、助けて、お姉ちゃんを助けてください……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
思わず感情が入ってしまった。私はそのまま席に着いた。たかしさんは目を閉じて聞いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「……個人的な話ですね、しかし人の生命がかかっているのは確かです、どうですか、たかし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「ふっ……柊つかさの友人は我々を試そうと言うのか……悪性脳腫瘍か……確かに今の人間には治せないな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは怒ってしまったのかな。やっぱり調子が良すぎたのかもしれない……。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、私達は今、まさにその話しをしているのです、分っていますよね、軽々しく使うような事は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「残念だな、そう言う事だ、諦めてもらおうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「わ、私からもお願いします、何とかならないのですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは一瞬私に微笑みかけたような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「俺は治すことはできないが、柊つかさ、君はもうその方法を手に入れている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">言っている意味が分らない。何で私がそんなのを持っているのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……俺の教えた薬を使うがいい、一口ほど飲ませてやれば効く筈だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「薬って……トカゲの尻尾の……あれは、昨日飲ませました……だけど効いたようには見えなかった……でもあれって怪我のお薬じゃないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは笑った……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「飲ませたのか……ははは……さすが柊つかさ、勘が良いな、あの薬を飲むと強力な催眠作用が出るはずだ、それが出でたなら君の姉は助かる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そういえばお姉ちゃんはあれを飲んだあと直ぐに寝てしまった。それは病気のせいじゃなかったの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんの言葉を素直に受け取られなかった。たかしさんの顔を見ると自信に満ちている……分らない。どっちが本当なの……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
突然胸のポケットから振動を感じた。携帯電話が振動している。思わず私は胸に手を当てた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……電話が来たようだな、確かめてみるがいい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんの顔を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「電話は部屋の外で受けてください、それだけです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あ、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は部屋の外に出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
部屋の外に出ると直ぐに携帯を取り出した。電話にはこなちゃんの名前が表示してあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もしもし、こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『つかさ～！！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
音が割れんばかりの大きな音が入ってきた。思わず携帯を耳から遠ざけた。その音は悲しさよりも歓喜の叫びに聞こえた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと、こなちゃん落ち着いて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『が落ち着いていられてないよ、かがみがね、かがみが……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「病気が治ったんでしょ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた『ちぇっ、分っちゃったか、つまんないな……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もっとも、お姉ちゃんに何か悪い事が起きればこなちゃんじゃなくて家族の誰かが電話するはず。いくら私でもそのくらいは分るよ……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お姉ちゃんに代われるかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『かがみは退院の手続きをしている所だよ……病院では誤診って事になっているけどさ、私は分るよ、昨日つかさがかがみに飲ませた怪しい薬、あれのせいでしょ』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふふ、分る？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『凄いよ、お稲荷さん、凄いよ、もう何て言って良いか分らない……お礼のしようがないよ、ありがとう、ありがとう……ううう』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっと、泣いているのか笑っているのか分らないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その薬を作ったのは私、教わったのがお姉ちゃんを呪ったたかしさん……お姉ちゃんは呪うほど恨まれたのに同じ人から命を救われるなんて……運命って分らないね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた『あ、大事な会議だったよね、今日はお祝いだよ……休暇も取ったし、つかさも家に寄ってね、帰りは一緒に帰ろう』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、そうするよ、それじゃ、またね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電話を切った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……これがお稲荷さんの本気……ありきたりの物を使って、ちょっとした料理の技術だけで不治の病を治すお薬を作ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お稲荷さんの知識と言っても、知っているのは金縛りや呪い、ひろしさんと別れた時に見た光の幻影くらいだった。疑っていたわけじゃないけど、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">人間離れした魔法、どうせ教えてもらっても人間には使えないと思っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
……お姉ちゃんの病気を一夜で完治してしまう薬。これだけでも本物だよ。お稲荷さんと言われた意味が今になってやっと分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このお薬が世の中に出回ればどれだけの人が助かるのかな。お稲荷さんと一緒になればそれが出来る。やっぱりなんとしても成功させたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
会長室の扉。そういえば私、殆ど会合で発言していなかった。けいこさんは何も言っていないけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「よし！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピシャ！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
両手で顔を叩いた。そして、扉をノックして部屋の中に入った。ゆきちゃんがものすごく心配そうに私を見た。私はゆきちゃんに微笑んで小さくＶサインを送った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それをたかしさんは見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「答えは聞くまでもないな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとうございます、お姉ちゃん、姉は助かりました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は深くお礼をして席に着いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「俺は何もしていない、薬を作ったのは君だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そうかもしれませんけど、お稲荷さんの知識の凄さを見せ付けられて……奇跡みたいです……それがあんなに簡単に作れるなんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「たかしの教えたのは知識ではなく作り方……技術です、私達の教えるのは知識です、その知識は恐らく貴方達人間にはその知識を利用する事は出来ないでしょう、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
楽譜を読めても技術や楽器が無ければ音楽を奏でることは出来ないのと同じです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
難しいけど……音楽に例えると何となくイメージは分る。もっとも私は楽譜すら読めないけどね……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「その知識を教える度に、俺たちは何度も命を狙われた……今までは逃げてこられたが、もう逃げる所はない、この星の何処に行っても人ばかりだからな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ふふ、南極大陸があるか……あそこは我々でも住むには過酷過ぎる……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「今のままでも「狐狩り」で命を狙われちゃう、人間になっている時は良いけど、変身が解けたばかりの時ってとっても弱いって聞いたよ、けいこさんが前に住んでいた</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
神社の周りの土地を買ったって言ったよね、そのせいであの町の狐狩りが禁止になったんだよ、だから、知識を教えるとかはもっと後でいいから、取り敢えず、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 神社に戻って安心して住もうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは腕を組んで考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ひろしさん達が戻っても私は遠くに行ってしまうのだけど……住んでいる所が分れば会うことができる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あと、聞きたい事があるの、お稲荷さんって全員で何人居るの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……二十人……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「その人達全員がたかしさんと同じ意見なの、めぐみさんは私達と一緒に暮らしているでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……全てが同じではない……別行動している者もいる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それなら、たかしさんだけじゃなくて、全員呼んで意見を聞かないと、二十人位なら問題ないでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はけいこさんを見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「問題ないですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ決まり、今度の会合はお稲荷さん全員連れてきて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……一度に全員が人間に変身するのは危険だ……それは避けたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「それなら半数が狐の姿でもいいよ、私も、ゆきちゃんも、お稲荷さんの正体は知っているから大丈夫、狐の姿でも私達の言葉は分るよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんににっこり微笑んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……考えておこう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">置時計のチャイムが鳴った。丁度三時になった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「少し休みますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんは携帯電話を取り出すと直ぐに部屋を出て行った。きっとお姉ちゃんやこなちゃんに電話をしに行ったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこさんとめぐみさんは部屋の奥に行ってしまった。きっと知識の話しなのかもしれない。たかしさんは窓の外をぼんやりと眺めていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私はたかしさんに近寄った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ちょっとお話しいいですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「なんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは窓の外を見たまま答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ひろしさんは何故来てくれないの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは私の方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「……全員を呼ぶのはひろしと会いたいからか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「バレちゃった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">苦笑いをした。たかしさんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「これを預かっていた、返すそうだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは鞄からＣＤを取り出すと私に渡した。そのＣＤはこの前私があげたＣＤだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これが……ひろしさんの返事……なの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「そんな悲しい顔をするな、中身は全て携帯プレーヤーに入れたみたいだ、良く見ろ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">良く見るとＣＤジャケットのフイルムが剥がしてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「ひろしには、女性の誘いを断るのは最低だぞ……そう言ってやった、何も言わなかった……奴の真意は分らんが、今は会いたくないようだな……素直になれば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 俺は君に会わなくて済むのだがな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私が嫌いなの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いいや、そう言う訳じゃない、君を見ていると真奈美の面影が見え隠れする、何故だろうな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まさか。私は財布から葉っぱを取り出してたかしさんに見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私を騙すためにまなちゃんが私にくれた物だよ……形見だと思ってずっと持っていた、だけど、やっぱりフィアンセだったたかしさんが持っていた方がいいかもしれない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は葉っぱをたかしさんに差し出した。たかしさんは腕を伸ばして葉っぱを取ろうとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いや、やめておこう、それは真奈美が君に渡した物だ、大事にしてくれ……それに、彼女を直接思い出すような物は持たないようにしている、思い出だけでいい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だから、神社に戻りたくないの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いいや……あの神社は俺の生まれた故郷でもある……複雑な気持ちだ、土地に執着はしないはずの我々……人間に化けるようになってから少し変わったか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これ以上まなちゃんの話しをするのはたかしさんには辛いだけかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私の店が移転するって知っているかな、神社に戻っても、私の店、住む所が遠くになっちゃう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「すれ違いか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だから、今度の会合で逢いたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかしさんは私をニヤニヤした顔で見た。私を冷やかす時のかえでさんやこなちゃんと同じ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「ふぅ、昔の自分を思い出すな……ひろしが羨ましい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">恥かしい。恥かしいけど、逢いたい気持ちの方が大きかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「俺が結婚していればひろしは弟になるはずだったからな……他人事とは思えない、ひろしを連れてくるように説得してみよう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ありがとう……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は葉っぱとＣＤを仕舞った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「そのＣＤには何が記録されている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ラヴェルのピアノ曲集だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは部屋の中央に置いてあるピアノをじっとみていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
同じＣＤを私は持っている。たかしさんにこのＣＤを渡そうとした時、けいこさん、めぐみさん、ゆきちゃんが戻ってきた。私とたかしさんも席に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「それでは続きを始め……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「今日はここまでにしてもらおう、俺の変身が解ける時間を考慮に入れるともうそろそろ限界だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんに割り込むようにたかしさんが話しだした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「回復するまでこの部屋で休むがいいでしょう、ここは私達以外の人間は入れさせません、ご安心を」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
たかし「いや、会議はここまでだ、柊つかさが言うように仲間を全員連れて皆の意見を聞くことにする、場所は俺の方から知らせる、それでいいか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこさんとゆきちゃんが私の方を向いてきた。私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">けいこ「良いでしょう、皆さんそれぞれ自分の自由意志で決めていただきましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんは頷くと席を立った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの、良かったから持って行って下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんにＣＤを見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「いいのか、君は聴かないのか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「同じ物をもっているので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかし「それじゃ貰おう、返さないぞ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">たかしさんはＣＤを受け取ると部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみ「信じられない、たかしが人間の物に興味を持つなんて……人間になるだけでも奇跡的なのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさんはたかしさんの出て行った扉を見ながら驚いていた。けいこさんはそんなめぐみさんを見て微笑んでいる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「つかささん、高良さん、予定の時間よりだいぶ早く終わりましたが、この後の予定がなければ軽食などを食べながら雑談でもいかがですか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはソワソワしている。きっとお姉ちゃんに会いたいに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「嬉しいですけど……これからお姉ちゃんの退院祝いをするので」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
けいこ「そうですか、足止めするのは酷と言うものですね、それではまた次の会合まで……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・みゆき「さようなら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">めぐみさんが扉を開いてくれた。お辞儀をして部屋を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私達はゆきちゃんご指定の店に向かっていた。私とたかしさんが話している間にゆきちゃんが予約してくれていた。そして一足先にお姉ちゃんとこなちゃんが向かって</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
いるとゆきちゃんは言った。私もお姉ちゃんに早く会いたい。自然と歩く速度が上がっていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「つかささん、今回の会合は素晴らしかったです……それに引き換え私は足を引っ張ってばかりです、本来ならけいこさんと会食するのが最善だったと思います、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の為に断って頂いたのではありませんか……お恥ずかしながら、私はお稲荷さんの会合に参加すべきではありませんでした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">電車に乗って落ち着くと元気のない声で話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「うんん、お姉ちゃんに早く会いたいのは私も同じだよ、それにね、ゆきちゃんが居なかったらとっくに諦めていたよ、ありがとう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そう言って頂けると嬉しいです……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それより、お稲荷さんの知識は凄いよ、私達の治せない病気を一晩で……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「医学を志す者にとりましては、彼等の知識の深さに敬服するしかありません、私は彼等の全ての楽譜を読んでみたい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃんなら出来そうだね、私なんか興味ないし、分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『間もなく〇〇駅、〇〇駅です』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「降りるのはこの駅だったよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
駅を降り、店に向かう途中お姉ちゃん達と合流した。私がお姉ちゃんを見つけ声を掛けようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を横切りお姉ちゃんに駆け寄るゆきちゃん。お姉ちゃんの手を両手で握った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「かがみさん、私は……私は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんはゆきちゃんの突然の行動にただ驚いていた。本当は私が先にそうしたかったのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょ、たった一日の検査入院よ、何そんなに……大袈裟ね……泣くなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは周りの人達の目線を気にしながら恥かしそうにゆきちゃんを諭していた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんに病気の事言わなかったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">少し離れて見ていたこなちゃんは私に近づいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「かがみは病気の事は知らない、家族にも言わないように頼んだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「本当の事、言わなくていいかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「止めておこうよ、少なくとも店が移転して落ち着くまでは……今言っても混乱するだけだよ、かがみは現実主義だから……それにしても、つかさに貰った薬を飲んで、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆきさんのあの表情で自分がどうなっていたのか分らないかな……そう言う所がつかさに似て鈍いよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうだね……って、酷いこと言っている」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いいや、褒めているのさ、気の会う双子の姉妹ってね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはお姉ちゃん達に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「さてさて、もうすぐ先がみゆきさんご推薦のお店だよ、久しぶりに四人集まったのだから続きは店のなかでしようよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「す、すみませんでした、取り乱してしまいました……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはお姉ちゃんを掴んでいた手を放した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「四人集まったの、二年前の夏以来じゃない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうだよ、その間私は昇進したのだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさから聞いたわよ、やるじゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「店に入ろう、続きは店の中で」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「そうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは私に小さく手で合図するとお姉ちゃんを店に連れて行った。ゆきちゃんは眼鏡を外してハンカチで目を拭っている。そうだね、ゆきちゃんにも言わないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ゆきちゃん、お姉ちゃんは自分が病気だったって知らないの、だから当分そのままにしてくれないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……はい、それが良いのかもしれません、私自身、未だに信じられないくらいです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「もう涙、止まったみたいだね、これから暫くお稲荷さんの事忘れて、四人で楽しくお喋りだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私達も遅れて店に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「楽しかったね、久しぶりにかがみをからかって遊べたよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、小林さんの事ばかり聞いていたね、お姉ちゃん真っ赤になってたね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お店で楽しく食事をした後、私とこなちゃんは車で家路を向かっていた。最初は二人で店での会話の内容を振り返っては笑っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">高速道路に入ると話しはお稲荷さんの話へと自然と移っていった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふ～ん、お稲荷さんが全員集まって決めるのか……いよいよ大詰めだね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん……でも……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ひろしが来なかった、次も来るかどうか分らない……でしょ、私、ひろしの気持ちが分るような気がする」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、分るの、お、教えて！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">思わず身を乗り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うわ～凄い食い付き……本当に好きなんだね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「いじわる……知っているくせに……もう聞かない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そうやってお姉ちゃんと同じように弄って遊ぶこなちゃん。本当は怒ってなんかいなかったけど窓の景色を見て怒っている振りをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……これは私の勝手な考えだからそれだけは言っておくよ、つかさとひろしが別れたのはひろしの一方的だった、ひろしとしては二度と会うつもりはなかったと思う、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
別れのキスなんかするくらいだからね……私としては最後まで……まぁそれはいいや……ところが会長さんがつかさを特使として選んだから突然会う機会ができた、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ひろしは気が引けていると思う、自分から別れた手前、後ろめたいんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「後ろめたい……そんな、私、怒ってなんかいない……会いたくないなら最初からけいこさんの企画に参加していない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは少しアクセルを踏んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「それが分らない人とも思えないんだけどね……でも、ＣＤを返す所を見ると全く脈がないわけでもなさそう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「脈があるの、私、どうすれば良いかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「さぁ……たかしに期待するかないかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「え～結局分らないの、聞くんじゃなかった、それより、なんで私とひろしさんのキスの事を知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今度は本当に怒った。こなちゃんにそっぽを向くように窓の景色を見た。こなちゃんもそれに気が付いたみたいで、それ以上話しかけてこなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">もう過ぎたことかもしれないけど、かえでさん、後でみっちり叱らないと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> こなちゃんの車が駐車場に止まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「着いたよ……さっきはゴメン……半分はふざけていた、だけどもう半分はつかさを少しでも元気付けようと思って、本当だよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は車を降りた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、私も怒っちゃって……次の会合になれば分ることだから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それじゃ、行こう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">次の会合の日はいつになるのかな。その日が来るのが恐い。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は出来る限りの事をした。その日がどんな形に終わっても悔いはない……かな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「おはよ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スタッフ一同「おはようございます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一週間後、もうとっくに知らせが来てもいいのにけいこさんからの連絡が来ない。もっともお稲荷さんを全員集めるのだから場所の確保とかが大変なのも分らなくもなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
兎に角今日も元気にしなきゃ。私は更衣室に入った。着替えていると外がざわついているのに気が付いた。こなちゃんの声も聞こえる。おかしい、今日のこなちゃんは遅番のはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">着替え終わって更衣室を出た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あ、つかさ！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私を見つけると駆け足で私に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、店内で走っちゃだめでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">注意をするもこなちゃんは慌てて足をバタバタさせている。なんだろ。この慌て様は……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「た、大変だよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「大変じゃ分らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは手に持っていたスマートフォンを私の目の前に出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ワールドホテルの会長の柊けいこが今朝、特捜部により脱税で検挙されました……』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">な、何、何のこと……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これは？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「シー、黙って聞いて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは更にスマートフォンを私に近づけた。スタッフもこなちゃんの周りに集まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
『脱税は史上最高額になると見られ、余罪があるとして追求をしています、また、柊けいこの秘書、木村めぐみに業務上横領の容疑があり、</div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">全国に指名手配をされました』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
画面にはめぐみさんの写真がでかでかと写し出されていた。そして、本社ビルに捜査官が入っていく映像が流れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「な、なんで、何故なの……またこなちゃんの悪戯でしょ……ふふ、こなちゃんったら、もうそんな悪戯……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは今にも泣きそうな顔になっていた。違う、これは悪戯じゃない……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「これが悪戯だったら、どんなに良かったか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ね、ねぇ、これからどうなるの、どうなっちゃうの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「分らない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「おはよう……ど、どうかしたの、皆集まっちゃって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんが出勤してきた。私達の物々しい表情に戸惑っている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんがかえでさんの所に向かおうとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
従業員出入り口玄関の呼び鈴が鳴った。もちろんまだ開店の時間じゃない。一番近くに居たかえでさんがドアを開けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「レストランかえでの店主はご在宅か」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スーツ姿の男性が３人、厳しい表情でかえでさんを見ている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「私ですけど何か？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
「松本かえでさんですね、ワールドホテルでの契約についてニ、三、伺いたいことがあります、任意同行ねがいますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">男性は警察手帳を見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「店長、任意だから行く事ない！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">激しい口調で警察手帳を持っていた男性に向かって怒鳴った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんはゆっくりこっちの方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「任意でも行かない訳にはいかないでしょ……さすがに今日の開店は無理ね、臨時休業とします、店を片付けて各自自宅で待機するように」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんを嗜める様に静かで冷静だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「分りました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえでさんは男性と共に店を出た。私はすぐに窓に移動した。かえでさんは男性達と車に乗ると、車はゆっくりと動き出し走り去った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「私達、何も悪い事なんかしていない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはうな垂れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「と、とにかくかえでさんの言うように今日はお休みです、生ものは冷蔵庫に、仕込んでしまったものは……勿体無いけどゴミ箱にお願い、用事の済んだ人から帰宅して」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は更衣室に入った。その後からすぐにこなちゃんが入ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「嘘だ、これは絶対に何か裏がある、そうだ、そう違いないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃんは遅番だから店に用はないよね、先に帰っていて良いよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと、つかさ聞いてるの、私の言いたいのはね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは詰め寄ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃんの話しを聞いたらかえでさんが戻ってくるの、けいこさんが釈放されるの……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">出そうな涙をこらえながら言った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……つ、つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「もう少しだったのに、もう少しで会合の答えが出そうだったのに……脱税って罪は重いのかな……払い直せばいいんだよね、計算間違えだったら許してもらえるよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり我慢できなかった。涙が零れているのが自分でも分った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ご、ごめん……ジタバタしてもしょうがないよね、先に帰っているよ、お昼の買い物はしておくから、直接帰ってきて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、お疲れ様……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私服に着替えた私は、事務室に移り、こなちゃんと同じ遅番の人、休暇を取っている人、シフトで休んでいる人に電話をかけて事情を説明した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
電話を全てかけ終えた後、支度中の看板の代わりに『臨時休業』と書いた看板をお客様で入り口に立て掛けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あけみ「お先に帰ります……あの、移転はどうなってしまうのでしょうか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「お疲れ様、分らない、まさかこんな事になるなんて……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あけみ「何かの間違えなら良いのですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
最後に残ったスタッフのあけみさんが帰った。静まり返った店内は淋しい。さて、私も帰ろう。駐車場に向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">家に帰ると居間でこなちゃんが熱心にノートパソコンを見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「おかえり」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">パソコンの画面を見ながら返事をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「臨時休業の看板を出しておいたよ、戸締りもＯＫ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お疲れ様……的確な判断だったと思うよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">カタカタとこなちゃんのキーボードを叩く音が響いている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何してるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
パソコンをいじっているこなちゃんには普段ならあまり興味はなかったけど、何気なく聞いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっとかがみに今回の事件の事を聞いていた、携帯にメールした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そういえばお姉ちゃんは弁護士を目指しているのを忘れていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それで、返事は来たの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は台所でお茶の準備しながら話した。キーボードを叩く音が止まりこなちゃんは私を見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「けいこ会長の脱税容疑は捕まえ易いから……いつもこの手でもっと重い罪を暴くのが彼等のやり方だって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もっと重い罪って……けいこさんがそんな事をするはずないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そう、あの人はそんな事をするように見えない、むしろ……秘書の木村めぐみって人が怪しいな、秘書だから会長の名前を使っていくらでも悪事ができる、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
現に秘書は逃走しているしね……そのおかげで証拠隠滅の可能性があるからけいこ会長の保釈は認められないだろうって……そうかがみから返信がきた」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
めぐみさん……あの人もそんな事をするようには見えない。うんん、彼女はけいこさんの親友。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「その秘書だけどね、彼女もお稲荷さんだよ……けいこさんを裏切るような事はしないと思うのだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「何だって……それじゃ何で逃げる必要があるのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私はめぐみさんを信じる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは腕を組んで考え込んでしまった。自分の分とこなちゃんのお茶を持って居間に移動した。テレビのリモコンでテレビをつけた。どのチャンネルも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ワールドホテル会長のスキャンダルの話題で持ち切りだった。こなちゃんもテレビを見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだろうね、清廉潔白で優良大企業の会長が裏で悪事をしていた……なんて言うのは格好の餌食だ、なんか会長が可愛そうになってきた……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> これじゃ……深夜アニメも中止かもね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは溜め息をつくとノートパソコンを閉じ、私の淹れたお茶を一口飲んだ。そしてテレビをつまらなそうに見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そういえば……二回目の会合の時、めぐみさんから携帯電話に連絡が来たのを思い出した。自分の携帯を取り出し、着信履歴を見てみた……これだ。この番号は……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
携帯電話の番号。この番号にかければめぐみさんに通じるかもしれない。話せば何かが分る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ん、どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「う、うん、めぐみさんに連絡をとろうかなと思って……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「バカー！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
凄い怒鳴り声。こなちゃんは私の携帯を取り上げると素早く電池を抜いた。何がなんだか分らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「盗聴されるよ、つかさの携帯電話もマークされちゃうかもしれない、だめ、そんな事をしたら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ま、まだかけていないよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ほっとした表情すると携帯電話を返してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「まだ真相が分らないからむやみに会長やその秘書にも連絡を取ろうなんて思っちゃだめだよ、もし会長達が無罪だったらなおさらだよ、会長達に罪を着せようとする</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 者達がいるかもしれないから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……凄いね、こなちゃん、スパイ映画みたい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「私じゃない、かがみが用心しろってメールで送ってきた、だからつかさが携帯を取り出したから、もしやと思って聞いてみたんだよ……良かった、間に合って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃん。やっぱり凄い。そんな事ななんて少しも考えていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これから私達の店はどうなるのかな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「かがみが言うには、契約は交わしているから会社がつぶれない限り有効だって言ってたけど……あの会長さん以外の下で働きたくないな……それより、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その秘書と前に何を携帯で話していたの、場合によっては松本さんみたいに任意同行なんてありえるかもよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お昼はなにが良いかの相談だったような……ってそんな昔の事まで調べられちゃうの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「するかどうかは分らないけど、大抵の事ならできるよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、詳しいね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ちょっと調べれば分るよ……さっきネットで調べたばかりだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはまたノートパソコンを開いた。テレビはけいこさんの報道ばかりしているのでうんざりみたい。私はテレビを消した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「これから町の図書館にいかない？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「図書館？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん、私もいろいろ調べたくて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「メンドクサイ～、つかさだってパソコン持っているでしょ、それで調べればいいじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私はキーボードが苦手だから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら一人で行けばいいじゃん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「一人だと淋しいから、ね、お昼奢るから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは溜め息をついた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら行く、車はつかさが出してね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
図書館に行ってもお喋りができるわけでもない。だけど、家に居てテレビを見てもけいこさんの報道ばかり、パソコンにしてもこなちゃん程集中できないし、興味もない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">気を紛らわしたいだけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
図書館で時間を潰し、昼食を食べ終えた頃、かえでさんから連絡が来た。事情聴取は終わったとの事だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
話しに寄れば契約の確認とお金の流の確認だった。特に不備はなかったみたいなので直ぐに終わったみたい。とりあえずホッと一息。安心するばかり。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
次の日から通常通りにお店を開く事ができた。でも……移転先の準備が滞ってしまい、それにも増して移転準備金を振り込んでもらうはずだったのにそれなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
準備資金はけいこさん、会長の個人的なお金だったみたい。資産凍結されてしまいお金も私達が工面しなければならなくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんんな、まだけいこさん逮捕の混乱が収まらない三日後……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「松本店長、お客様です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「予約なら泉さん、貴女の仕事のはずよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いえ……店長に直に話したいと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「分ったわ、事務所に通してあげて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは外に出て行った。かえでさんが事務所に入って行って暫くするとこなちゃんが私の所にやってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「つかさ、さっきのお客さん見た？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">小声で話しかけてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うんん、見ていない、どうしたの」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お客さんにしては不自然、スーツ姿にアタッシュケース……どうみても営業マンだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ホテルの人が来たんじゃないの、移転の話じゃ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「うんん、いつも来ている人じゃない……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">スーツ姿……なんだろう、どこかで見たような気がする……思い出せない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こっちの仕込みも終わったから私も行ってみるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
事務室に向かうと自然とこなちゃんも私の後を付いてきた。事務所の扉をノックしようとした時だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『バン！！！』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もの凄い勢いで扉が開いた。中からかえでさんが飛び出してきた。私に当たりそうになった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「塩、塩を持ってきなさい！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私がビックリしている間にこなちゃんは厨房に塩を取りに行きかえでさんに渡した。塩を受け取るとかえでさんは事務室側の出入り口に塩を振りまいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「今分ったわ、こんなの絶対に許せない！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">凄い権幕だった。私達以外にこれほど怒るかえでさんは初めて見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「落ち着いて、お客様は居ないけど……落ち着きましょう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
感情的になっているかえでさんと冷静なこなちゃんの表情が対照的だった。そんなこなちゃんのおかげなのか、かえでさんの表情は直ぐに元に戻った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「仕事が終わったら時間は空いているかしら、つかさ、泉さん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私とこなちゃんは顔を見合わせた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「時間はありますけど……なんでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かえで「二人に話があるわ、なるべく三人だけで話せる場所はない、私の家が良いかしら」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">内緒のお話なのかな。さっき来たお客さんと関係があるのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「それなら家に来て下さいよ、ね、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、あ、うん、そうだね、それが良いかも」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">先にこなちゃんに言われてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえで「それじゃ、帰りに貴女達の家に寄らせてもらうわ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かえでさんは事務所に戻って行った。</div>
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