ID:ZT5mEr9L0氏:怨霊

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怨霊 「……線は、○○駅において人身事故が発生したため、運転を見合わせております」  駅舎内にアナウンスが繰り返されていた。  こなたは、携帯電話を取り出して、かがみに連絡をとった。 「かがみ。事故で電車止まってるから、自転車で行くよ。ちょっと遅れるから」 『分かったわ。気をつけて来なさいよ』 「ほーい」  事故の原因は、高校生の飛び込み自殺だった。  残された遺書からいじめを苦にした自殺だと判明した。  警察が学校関係者などに事情を聞き取り、捜査を進めてるところで、事態は思わぬ展開を見せた。  飛び込み自殺があったのと同じ駅で、人身事故が連日三度も発生したのだ。  特に、三度目は、死亡者が四人にのぼった。さらに、事故があった電車の運転手は「ブレーキをかけたのに全く効かなかった」と証言し、検証の結果そのとおりであることが判明した。  この事態を重く見た国土交通省は、その路線を運行する鉄道会社に全車両の緊急点検を行なうことと、それが終わるまですべての路線の運行を停止するように命じた。  鉄道会社はそれに従い、バスによる代替運行に切り替えた。  その数日後……。  柊家に来客があった。例の駅の駅長さんだった。  ただおは社務所の奥へと案内した。応対するのは、ただお、みき、そして、いのりだ。  なんとなく話しづらそうにしている駅長さんを見て、ただおはこう切り出した。 「例の連続人身事故の件でしょうか?」 「……はい」 「私のところにも噂は聞こえてきてます」  地域の住民の間では、「あれは自殺した高校生の怨霊が地縛霊になって、駅に来る人を取り殺してるに違いない」という噂がささやかれていた。  そのため、その駅に近づく者もすっかりいなくなっていたのだ。 「警察が当時現場にいた乗客からとった証言を私にも教えてくれたのですが、最初の自殺の件以外は、みんな口をそろえて、犠牲者はまるで何かに引きずり込まれたかのようにホームから転がり落ちていったと……」  いったん沈黙したあと、こう続けた。 「あと、車両のブレーキが効かなかった件ですが、徹底的に調査しましたが車両には何の異常もなかったんです。うちの技術者も国土交通省の事故調査委員会の人も、ありえないと首をかしげるばかりで」  確かに、ただ事ではない状況だ。  みきが口を開いた。 「では、お祓いの御依頼ですね?」 「はい。お願いいたします。お祓い料なら、いくらでもお支払いいたしますので」  駅長はそう言って頭を下げた。  みきは、ただおの顔を見た。  個人的な依頼や企業からの普通の依頼なら、容赦なく料金をいただくところだが、今回は地域全体にかかわることだ。  駅はその地域の中心施設の一つであり、鉄道は交通のかなめである。それがこんな状態では、地域から活気が失われ、衰退していくのは確実だ。  それに、こんなお金は会社の経費からは出ないだろう。この駅長さん一人に負担させるのも忍びない。  みきが目で訴えたそのことは、ただおも同意見だった。  だから、ただおは、駅長さんにこう言った。 「お祓い料はよろしいですよ。今回のことは、この地域全体にかかわることです。地域の安寧と繁栄に貢献することがうちの神社の方針ですから」  駅長は驚いて顔をあげた。 「いえ、そんなわけには……」 「今度のお祭の御神輿かつぎを若い駅員さんに手伝っていただければ、それで結構ですよ」  みきがそう言って笑みを向けた。  そう言われては、駅長さんもそれ以上反論はできなかった。 「ありがとうございます。今度のお祭はうちの駅員総出でお手伝いさせていただきます」 「では、さっそく行きましょう」  ただおとみきは神職の装束で、いのりは巫女服で、駅長さんの車に乗り、例の駅へ向かった。  いのりも神職の装束を着る資格はあるのだが、面倒くさがって、あまり着たがらない。どちらも着る手間はそんなに変わらないはずなのだが。 「うわっ、やな感じ」  いのりは、駅前で車を降りるなり、そうつぶやいた。  駅長さんの顔がこわばる。 「やはり、いるんですね?」 「ええ、厄介かもしれません」  みきは、そう答える。  駅には最低限の駅員しかいなかった。そして、その駅員たちはみな、神社のお守りを握り締めていた。  ただお、みき、いのりの三人だけで、駅のホームに出た。  人身事故があった現場にゆっくりと近づいていく。  いのりが突然叫んだ。 「お父さん、避けて!」  ただおは、飛び上がるように一歩退いた。  いのりは、呪符の束を取り出すと、『それ』に向けて投げつけた。  呪符は『それ』全体を覆うように貼り付き、その輪郭を浮かび上がらせた。  身長3メールはあろうかという人の形をした何かが、そこにあった。  いのりがつぶやく。 「何これ? こんな大きなの見たことないわ」 「取り殺した人間の魂を取り込んで強大化してるわね。いのり、どのくらいもつかしら?」 「長くて三十分。半端な怨霊じゃないわよ、これ。反動がすごい」  とりあえず呪符で押さえ込んだが、その反動は術者に跳ね返ってくる。 「手早く済ませちゃいましょ」  みきは、そういうと、御幣を手にとり、祝詞を唱え始めた。  ただおは、二人を守るように一歩前に出た。柊家に婿入りしてもう何十年もたつ。妻と娘が何をしてるかは理解している。  いのりはたちまち苦しげな表情になり、滝のように汗を流していた。  怨霊に貼り付いた呪符からいのりが手にしている呪符を伝って、怨霊の怨念が流れ込んでいた。かといって、怨霊を押さえ込むためには、媒介となる呪符を手放すわけにもいかない。  ただおは、いのりがいよいよ耐え切れないとなれば身代わりになる覚悟であった。いのりが手にしている呪符を奪い取れば、怨霊の怨念は自分の方に向かってくるはずだ。 「この世の……すべてを……呪ってやる……」  怨霊からそんな声が聞こえてきた。  遺書に書いてあった言葉そのままだった。  その気持ちは分からなくはない。漏れ伝わるところによれば、自殺した高校生が受けたいじめは壮絶かつ陰湿なものだったようだ。この世のすべてを呪いたいたくなるのも無理はない。  しかし、それを許すわけにはいかない。  この世は生きとし生ける者たちの場所であり、死者の怨念が支配するところとなってはならないのだから。 「────!!」  みきが裂ぱくの気合をこめて祝詞の末尾を唱えた。  すると、怨霊に貼り付いていた呪符が青白い炎を上げて燃え上がった。 「ーーーーッ!!」  怨霊が断末魔の叫び声をあげた。  その叫び声が収まったとき、炎は怨霊を燃やし尽くして消えていた。 「ああ、しんどかった」  いのりは、その場にへたり込んだ。  みきが、いのりに近づいて、その肩に右手を乗せて何かを唱えた。 「ちょっと、お母さん!」  みきはその場にふらりと倒れ、いのりは慌てて受け止めた。 「無茶しないでよ。もう若くないんだから」  みきは、いのりから疲労を丸ごと吸い取ったのだ。さっきのお祓いでの消耗も考慮すれば、無茶もいいところだった。 「そうだよ、みき。いのりももう子供じゃないんだから、負担は分担しないと」  ただおは、そう言ってみきを背負った。  みきは、駅舎の仮眠室に運ばれて、しばらく休養した。  みきが回復したあと、駅長さん以下駅員一同に何度もお礼を言われてから、その場をあとにした。  自宅に戻ると、つかさが夕食の準備をして待っていた。 「お母さん、ごはん用意しておいたよぉ」 「ありがとう」 「随分遅かったけど、なんかあった?」  まつりの疑問には、いのりが答えた。 「ちょっと急な仕事があってさ」  詳しいことは何も言わない。父母と姉がそろって取り殺されかけたなんて、妹たちに話すことではないからだ。  まつりもそれ以上は追及しない。  三人がシャワーを浴びてすっきりしたあと、自室で勉強していたかがみを呼び出して、家族そろっての夕食となった。  それは、まったくいつもと変わらない日常だった。  それから二日後。電車の運行が再開された。  再開直後は気味悪がってその駅で乗降する客は少なかったが、事故が起きない状況が数日続くと、それも次第に解消され、駅とその周辺は徐々に活気を取り戻していった。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
怨霊 「……線は、○○駅において人身事故が発生したため、運転を見合わせております」  駅舎内にアナウンスが繰り返されていた。  こなたは、携帯電話を取り出して、かがみに連絡をとった。 「かがみ。事故で電車止まってるから、自転車で行くよ。ちょっと遅れるから」 『分かったわ。気をつけて来なさいよ』 「ほーい」  事故の原因は、高校生の飛び込み自殺だった。  残された遺書からいじめを苦にした自殺だと判明した。  警察が学校関係者などに事情を聞き取り、捜査を進めてるところで、事態は思わぬ展開を見せた。  飛び込み自殺があったのと同じ駅で、人身事故が連日三度も発生したのだ。  特に、三度目は、死亡者が四人にのぼった。さらに、事故があった電車の運転手は「ブレーキをかけたのに全く効かなかった」と証言し、検証の結果そのとおりであることが判明した。  この事態を重く見た国土交通省は、その路線を運行する鉄道会社に全車両の緊急点検を行なうことと、それが終わるまですべての路線の運行を停止するように命じた。  鉄道会社はそれに従い、バスによる代替運行に切り替えた。  その数日後……。  柊家に来客があった。例の駅の駅長さんだった。  ただおは社務所の奥へと案内した。応対するのは、ただお、みき、そして、いのりだ。  なんとなく話しづらそうにしている駅長さんを見て、ただおはこう切り出した。 「例の連続人身事故の件でしょうか?」 「……はい」 「私のところにも噂は聞こえてきてます」  地域の住民の間では、「あれは自殺した高校生の怨霊が地縛霊になって、駅に来る人を取り殺してるに違いない」という噂がささやかれていた。  そのため、その駅に近づく者もすっかりいなくなっていたのだ。 「警察が当時現場にいた乗客からとった証言を私にも教えてくれたのですが、最初の自殺の件以外は、みんな口をそろえて、犠牲者はまるで何かに引きずり込まれたかのようにホームから転がり落ちていったと……」  いったん沈黙したあと、こう続けた。 「あと、車両のブレーキが効かなかった件ですが、徹底的に調査しましたが車両には何の異常もなかったんです。うちの技術者も国土交通省の事故調査委員会の人も、ありえないと首をかしげるばかりで」  確かに、ただ事ではない状況だ。  みきが口を開いた。 「では、お祓いの御依頼ですね?」 「はい。お願いいたします。お祓い料なら、いくらでもお支払いいたしますので」  駅長はそう言って頭を下げた。  みきは、ただおの顔を見た。  個人的な依頼や企業からの普通の依頼なら、容赦なく料金をいただくところだが、今回は地域全体にかかわることだ。  駅はその地域の中心施設の一つであり、鉄道は交通のかなめである。それがこんな状態では、地域から活気が失われ、衰退していくのは確実だ。  それに、こんなお金は会社の経費からは出ないだろう。この駅長さん一人に負担させるのも忍びない。  みきが目で訴えたそのことは、ただおも同意見だった。  だから、ただおは、駅長さんにこう言った。 「お祓い料はよろしいですよ。今回のことは、この地域全体にかかわることです。地域の安寧と繁栄に貢献することがうちの神社の方針ですから」  駅長は驚いて顔をあげた。 「いえ、そんなわけには……」 「今度のお祭の御神輿かつぎを若い駅員さんに手伝っていただければ、それで結構ですよ」  みきがそう言って笑みを向けた。  そう言われては、駅長さんもそれ以上反論はできなかった。 「ありがとうございます。今度のお祭はうちの駅員総出でお手伝いさせていただきます」 「では、さっそく行きましょう」  ただおとみきは神職の装束で、いのりは巫女服で、駅長さんの車に乗り、例の駅へ向かった。  いのりも神職の装束を着る資格はあるのだが、面倒くさがって、あまり着たがらない。どちらも着る手間はそんなに変わらないはずなのだが。 「うわっ、やな感じ」  いのりは、駅前で車を降りるなり、そうつぶやいた。  駅長さんの顔がこわばる。 「やはり、いるんですね?」 「ええ、厄介かもしれません」  みきは、そう答える。  駅には最低限の駅員しかいなかった。そして、その駅員たちはみな、神社のお守りを握り締めていた。  ただお、みき、いのりの三人だけで、駅のホームに出た。  人身事故があった現場にゆっくりと近づいていく。  いのりが突然叫んだ。 「お父さん、避けて!」  ただおは、飛び上がるように一歩退いた。  いのりは、呪符の束を取り出すと、『それ』に向けて投げつけた。  呪符は『それ』全体を覆うように貼り付き、その輪郭を浮かび上がらせた。  身長3メールはあろうかという人の形をした何かが、そこにあった。  いのりがつぶやく。 「何これ? こんな大きなの見たことないわ」 「取り殺した人間の魂を取り込んで強大化してるわね。いのり、どのくらいもつかしら?」 「長くて三十分。半端な怨霊じゃないわよ、これ。反動がすごい」  とりあえず呪符で押さえ込んだが、その反動は術者に跳ね返ってくる。 「手早く済ませちゃいましょ」  みきは、そういうと、御幣を手にとり、祝詞を唱え始めた。  ただおは、二人を守るように一歩前に出た。柊家に婿入りしてもう何十年もたつ。妻と娘が何をしてるかは理解している。  いのりはたちまち苦しげな表情になり、滝のように汗を流していた。  怨霊に貼り付いた呪符からいのりが手にしている呪符を伝って、怨霊の怨念が流れ込んでいた。かといって、怨霊を押さえ込むためには、媒介となる呪符を手放すわけにもいかない。  ただおは、いのりがいよいよ耐え切れないとなれば身代わりになる覚悟であった。いのりが手にしている呪符を奪い取れば、怨霊の怨念は自分の方に向かってくるはずだ。 「この世の……すべてを……呪ってやる……」  怨霊からそんな声が聞こえてきた。  遺書に書いてあった言葉そのままだった。  その気持ちは分からなくはない。漏れ伝わるところによれば、自殺した高校生が受けたいじめは壮絶かつ陰湿なものだったようだ。この世のすべてを呪いたいたくなるのも無理はない。  しかし、それを許すわけにはいかない。  この世は生きとし生ける者たちの場所であり、死者の怨念が支配するところとなってはならないのだから。 「────!!」  みきが裂ぱくの気合をこめて祝詞の末尾を唱えた。  すると、怨霊に貼り付いていた呪符が青白い炎を上げて燃え上がった。 「ーーーーッ!!」  怨霊が断末魔の叫び声をあげた。  その叫び声が収まったとき、炎は怨霊を燃やし尽くして消えていた。 「ああ、しんどかった」  いのりは、その場にへたり込んだ。  みきが、いのりに近づいて、その肩に右手を乗せて何かを唱えた。 「ちょっと、お母さん!」  みきはその場にふらりと倒れ、いのりは慌てて受け止めた。 「無茶しないでよ。もう若くないんだから」  みきは、いのりから疲労を丸ごと吸い取ったのだ。さっきのお祓いでの消耗も考慮すれば、無茶もいいところだった。 「そうだよ、みき。いのりももう子供じゃないんだから、負担は分担しないと」  ただおは、そう言ってみきを背負った。  みきは、駅舎の仮眠室に運ばれて、しばらく休養した。  みきが回復したあと、駅長さん以下駅員一同に何度もお礼を言われてから、その場をあとにした。  自宅に戻ると、つかさが夕食の準備をして待っていた。 「お母さん、ごはん用意しておいたよぉ」 「ありがとう」 「随分遅かったけど、なんかあった?」  まつりの疑問には、いのりが答えた。 「ちょっと急な仕事があってさ」  詳しいことは何も言わない。父母と姉がそろって取り殺されかけたなんて、妹たちに話すことではないからだ。  まつりもそれ以上は追及しない。  三人がシャワーを浴びてすっきりしたあと、自室で勉強していたかがみを呼び出して、家族そろっての夕食となった。  それは、まったくいつもと変わらない日常だった。  それから二日後。電車の運行が再開された。  再開直後は気味悪がってその駅で乗降する客は少なかったが、事故が起きない状況が数日続くと、それも次第に解消され、駅とその周辺は徐々に活気を取り戻していった。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 柊家の除霊ネタはたまに見るけど、完全に別の作品になってるよねww &br() -- 名無しさん (2012-12-20 19:42:49)

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