「ID:qcbSrsFZ0氏：忘れ去られた過去（ページ１）」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 茹だるような暑さ、もう我慢の限界。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ねぇ～、エアコンつけようよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「何言ってるのよ、エアコンは先週壊れて修理依頼したばかりじゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そうだった。エアコンは壊れてしまっていた。そして工事も混んでいて修理がいつになるのかも分からない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「これでも仰いで我慢しなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは団扇を私に差し出した。受け取って自分を仰いだ……手が疲れてくる。そして仰いだ力が熱に変わって火照る。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だめだ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">仰ぐのを止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「早、てか、三分も経ってないじゃない、だらしないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうかもしれないけど、お姉ちゃんも汗が凄いよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「汗の量とは関係ないのよ……暑くなんかない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">と自分に言い聞かせているような気もする。それにしても暑い……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「なに我慢大会なんかしてるの、まだ家にはこれがあるじゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
まつりお姉ちゃんが扇風機を持ってきた。まつりお姉ちゃんは早速扇風機のスイッチを入れた。風が居間全体に行き渡る。だけど、生暖かい風がグルグル循環しているだけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">汗は引かない。むしろ扇風機の音が暑さを増している気さえした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「……効果なしね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのり「締め切っているからじゃない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いのりお姉ちゃんが窓を全開にした。外から熱風が押し寄せる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「ちょ、これじゃ逆効果じゃないの、閉めてよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ただお「何処か出かけて涼みに行くか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ・かがみ・まつり・いのり「えー、暑いよ～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">皆の声が重なった。さすがのお父さんもこれ以上何も言わなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「しょうがないわね、何か冷たい物でも買ってくるしかないわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その言葉に皆の視線が私に集まった。お母さんが買い物って言った時から私が行くような気はしていた。私は快く引き受けた。お母さんからお金を受け取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">まつり「私はね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「バニラアイス以外だったよね、皆の好みは分かってるから楽しみにしてて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みき「外は暑いからきをつけるのよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自転車に乗って近くのスーパーまで向かった。ねっとりと絡みつくような湿気、照りつける太陽、そのまま溶けてしまいそうだ。蝉の大合唱もそれに追い討ちをかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
スーパーに着いて入り口に入った時だった。冷たい風が私を包んだ。汗が見る見る引いていくのが分かる。店は冷房を効かせている。私はしばらく涼んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
このまま夕方まで涼んじゃおうかな。だめだめ、私の帰りを皆が待っている。早く買い物を済ませよう。アイスクリーム売り場に移動した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
さてと、皆の好きなのは……お母さんはこれがいい。お父さんは金時が好きだったよね……いのりお姉ちゃんは……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">買うものを選んだ時だった。私の横を横切る人影、何気なしにその人の方に顔を向けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それは紛れもなくこなちゃんだった。店員の制服を着ている。私の声に気付いて私の方に寄ってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「いらっしゃいませ……つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん、どうしてここに、コスプレのアルバイトはどうしたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは少しつまらなさそうな顔をして答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お店が改装になって、その間暇になっちゃったから繋ぎのバイトを探してた、そしたら近所のスーパーが臨時店員を募集しててね、採用されたわけ、まぁ、通勤が近い</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> から便利にはなったんだけどね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「そうなんだ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私をじっと見た。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「お、アイスクリームの買出しだね……さてはかがみに使いパシリにされたな……さすがかがみこれ全部食べるつもりでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「……違うよ、家族皆の分を買ってるの、これを一人で食べたらお腹壊しちゃうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ふふふ、そんなに真に受けないでよ……確かに今日は暑いからね～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「家のエアコン壊れちゃって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そりゃ大変だ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員「泉さん、こっちの棚の整理お願い……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
店員さんがこなちゃんに話しかけた。仕事中だったんだった。ちょっと悪い事しっちゃったかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「はい、分かりました……ごめん、つかさまた後でね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「うん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは持ち場に戻った。忙しそうに商品を棚に並べている。以外に似合っているような気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あっ、そうだった、感心してはいられない。こっちも用事を済ませないと。私は残りのアイスを買い物かごに入れた。それからお菓子売り場に行き</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">適当なおつまみもかごの中にいれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
レジに並んでいるとこなちゃんが隣のレジに入り準備をしだした。しばらくすると私の方を向いてウインクをした。私はそのまま隣のレジに移った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは慣れた手つきで品物をレジのかごへと移していった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「お客さんは家までこのくらい掛かりますか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、えっと、１５分くらい……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
するとこなちゃんはアイスボックスからドライアイスを取り出してアイスの入った袋の中に入れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「一応３０分くらいは持ちますので……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">すると私の耳元で囁いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「本当は３０分だと有料だけどサービスしておく」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お金を払い私はレジから離れた。こなちゃんを見るともう次のお客さんの相手をしていた。お礼は今度にするかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そしてまた茹だるような暑さの中を自転車で帰った。あれ、おかしいな。玄関のドアに鍵がかかっている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あれ、誰も返事をしない。どうしたのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
返事が無かった。それどころか人が居る気配がなかった。どこかに行ったのかな。そんな筈はない。私の買い物を皆は待っているはずなのに。とりあえず台所に</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">向かい冷蔵庫にアイスを入れた。皆を待つしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
暫くすると玄関のドアが開く音がした。やっぱりどこかに行っていたんだ。足音がこっちの方に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">台所に入ってきたのはお姉ちゃんだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「お帰り、どこに行ってたの、私はもう買い物終わったよ、ねぇ、聞いてよ、いつものスーパーにね、こなちゃんが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「あんた……誰よ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こ、こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんの一言、私は何を言っているのか理解できなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「ちょっと、ど、どうやって、入ってきたの、ひ、人に家に勝手に入って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お姉ちゃんは少し怯えたように私に話し出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ふふ、お姉ちゃんたったら、驚かして涼しくする作戦でしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんに近づこうと歩き出すとお姉ちゃんは素早く走って台所の流し台に移った。そしてまな板の上に置いてある包丁を手に取り私に向けた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「こ、来ないで！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
叫びにも似た声だった。これは冗談じゃない。私の中の本能のようなものが頭の中に走った。私はお姉ちゃんに近づくのを止めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何、どうしたの、お姉ちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんの包丁を持つ手は震えていた。目は大きく見開いて私を瞬きもせず見ていた。まるで私が別人で不法侵入しているみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「出て行って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">震えた声だった。私はお姉ちゃんに話しかけようとした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「で、出て行け！！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
包丁を大きく振りかぶって来た。本気だ。お姉ちゃんは本気だ。私は玄関に向かって走った。そして靴を履く間もなく外に飛び出した。すると直ぐにドアに鍵がかかる音がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どうしたのだろう。訳がわからない。私は家を追い出された。最近お姉ちゃんと喧嘩もしたことないのに。包丁を振りかざすなんて……いままでそんなのしたこと無いのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
合鍵を持っているから直ぐに開けられるけどあの調子じゃまた追い出される。取りあえず裸足じゃどうしようもない。そういえば裏庭にサンダルがあったはず。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そっと裏庭に移動してサンダルを取ってから家を離れた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
どうしよう。何も思い浮かばない。お父さん、お母さんはどうしたのかな。いのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんも居なかった。私が買い物に行っている間に何かあったのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そうだ。こなちゃんの所に行ってみよう。今はそれしか出来ない。私はスーパーに向かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
スーパーに付くと丁度従業員の出入り口からこなちゃんが出ていた。私服になっている。きっともう仕事は終わったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃ～ん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">手を振ってこなちゃんに近づいた。こなちゃんは黙って私を見つめていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃん聞いて、お姉ちゃんが、お姉ちゃんがね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あの～どちら様ですか、何か私に御用ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『忘れ去られた過去』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
他人行儀だった。私は唖然としてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「人違いじゃないですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
続けて思いも寄らない言葉。何を言っているのか。お姉ちゃんの時と同じような空気が張り詰めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「こなちゃ……泉こなたさんですよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私も他人行儀になっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「そうですけど……以前会いましたっけ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私を知らない。そんな筈はない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「会いましたっけって、陸桜学園を卒業したでしょ、三年間もクラス一緒だったし……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは腕組みをして考え込んだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「クラスが一緒だったのは……みゆきさんとセバスチャンくらいしか思い浮かばない……すみませんお名前は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">名前まで知らないなんて。いったいどうなったの。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「つかさ、柊つかさだよ、思い出して……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ひいらぎ……柊って言ったらかがみくらいしか居ないな……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんで、なんで、信じられない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「このスーパーに１時間くらい前に買い物に来たんだよ、その時は私を知っていたでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「……１時間の間に沢山のお客さんが来た…それしか知らないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
え、あの時話した事、ドライアイスをまけてもらったのも忘れている。私はもう何も言えなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「すみません……私、もう帰らないと……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは私に背を向けて歩き出した。でも私はこなちゃんを止めることは出来なかった。こなちゃんが見えなくなるまで見ているしか出来なかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんといい、こなちゃんといい、いったいどうなっちゃったのだろう。私を忘れてしまっているみたいだった。みたいと言うより完全に忘れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
これからどうしよう。こうしても何もならない。もう一度帰るしかない。そしてちゃんと話せばきっと思い出してくれるよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">帰り道、何か少し雰囲気が違うのに気が付いた。近所の人たちが道端に出ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「不法侵入ですって……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「物騒になりましたね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな声が私の耳に入ってきた。確かに最近になって空き巣が増えたってお母さんが言ってたっけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
家の前に来て私はまた驚いてしまった。私の家の前に二台のパトカーが停まっていた。数人の警察官が家の廻りを調べていた。そして玄関にはお姉ちゃんがいた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
検査官みたいな人と話している。不法侵入って私の事だった……お姉ちゃんは警察に通報してしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんもこなちゃんも冗談であんな態度を取っていなかった。本当に私を知らない。私は忘れられてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このまま家に帰れば捕まるのは目に見えている。どうしよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「あの子、最近見ない子ね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「怪しいわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">近所の人も私を知らない。ここに居たら危険だ。取りあえずここを離れよう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は陸桜学園の近くの公園まで移動した。駅で買ったスポーツドリンクを飲みながら考えていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
着の身着のまま出たから何も持っていない。ポケットの中を見た。財布とキーホルダーと携帯電話だけだった。携帯電話……そうだ。電話でゆきちゃんと連絡できないかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんなら何か分かるかもしれない。携帯電話をかけてみた……おかしい、電話が繋がらない。何度も電話をかけてみた。しかし結果は同じだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
携帯電話のアンテナは三本立っているのに。これからゆきちゃんの家に直接行くのも考えた。でも、お姉ちゃんと同じ反応されたら……怖くて出来なかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
これだと日下部さんやあやちゃんも期待できない。なにをどうすればいいの。私がスーパーを出て家に帰るまでに何かが起きた。ほんの１５分の間に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">考えれば考えるほど訳が分からない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
もう日が暮れて街灯が灯りだした。あれだけ煩かった蝉の合唱も止んだ。ここに来る途中で買ったおにぎりを食べた。涙が出てきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">このまま誰にも知られないまま私は……死んじゃうのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「未成年がこんな所でなにしているのかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">聞き覚えのある声だった。私は声のする方を向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「成美……さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">警察の征服を来た成美さんが居た。この人は私を知っているのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆい「おやおや、私を知っているのなら……昔私に捕まった事でもあるのかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
冗談交じりのこの口調、まぎれもなく成美さん。それで私の少しばかりの期待は消えた。成美さんも私を知らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆい「そんな悲しい顔するなんて、何かあったの、親と喧嘩したとか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">なんて説明していいのか分からない。ありのままを話して信じてくれるかどうかも。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「私……分からないんです…うう」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">また涙が出てきた。もう涙を止めることは出来ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆい「女の子一人でこんな所に居たら危ないよ、とりあえず一緒にいこうね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">優しい成美さんの言葉に従った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆい「未成年少女一人保護、これから戻ります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">成美さんは無線で話している。私はのパトカーに乗った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一夜明け、私は警察署の個室のような所に入れられた。そこには数人の人が座っていた。私は中央の席に座らされた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「気を楽にして」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">数人のうち真ん中の女性が私に声をかけた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性「あなたの所持品、調べさせてもらったわ……免許証、学生証、とても精巧にできているわね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">精巧に出来ている。精巧ってなんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「お名前は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「柊つかさ……です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性は少し厳しい顔をして私の目の前に免許証と学生証を出した。ビニールに包まれていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性「確かにこれにはそう書いてあるわね、でもね、柊つかさは免許登録されていない、この学生証を発行した専門学校にもそんな名前の生徒はいないそうよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな。私は確かにこの前車の免許を取った。学生証だって。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「それに、貴女、昨日の午後２時頃、〇〇町の柊家宅に勝手に入ったわね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あれは……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今度はキーホルダーを私の目の前に出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「合鍵で入ったのは分かっているわよ、この鍵は何処で手に入れたの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それは家で貰った鍵だから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
女性「柊つかさと言う名前の人はあの家には居ない、住民票、戸籍も調べたけどね……偽造はりっぱな犯罪なのよ……分かっているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ますます女性の顔が厳しくなった。私は犯罪者になってしまいそうだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「もう一度聞きます、貴女の名前は？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そう聞かれても私の名前は一つしかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「柊……つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性は溜め息を付いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">女性「本当の事を言わないと家に帰れないわよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そんな事いわれても私は柊つかさ、柊家の第四女、柊ただお、みきの娘。それ以上でもそれ以下でもない。女性は執拗に私の名前を聞いてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それでも私はこう答えるしかなかった。私の名前は「柊つかさ」と</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あれから一ヶ月が経った。私は毎日のように免許証・学生証の作り方、本当の名前を何度も何度も質問された。そんな方法なんか知らない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
本当の名前も一つしか知らない。そう答える以外には無かった。その中で一つだけ分かった事があった。それは私の携帯電話が繋がらなかった理由。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それは携帯と会社で契約がされていないので繋がらなかったみたいだった。私は一体誰なんだろう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
一ヶ月経つのに誰も迎えに来てくれない。周りの人は誰一人私を知らない。そう、お姉ちゃんやこなちゃんまでも。私は一生ここから出られないのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">悪い事していないのに……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
更に一ヶ月が経った。私は不起訴処分になった。その代わりに病院に送られてしまった。私の精神は病におかされていて治療が必要と判断されたらしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あと未成年であったのも理由らしい。病院は２４時間体制で監視が付いている。とても何処か自由に行ける様な状態ではなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
七年が経過した。昨日も病室で先生と分けの分からない治療をした。家にも帰れない。もう私は生きていても仕方がないと思うようになってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
でも、もう一度逢いたい、皆に逢いたい。そして私を思い出して欲しい。ただそれだけが私の生きる望みだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">「こんにちは」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あれ、何処かで聞いた声。今日の先生は違う人なのかな。病室の扉が開いた。そこに居たのはゆきちゃんだった。眼鏡をかけていないけど直ぐに分かった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん……だよね？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは微笑んで答えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……やはり私をご存知でしたか、もしかしたらと思ったのですが……興味深いです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは私のすぐ近くまで歩くと座った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「貴女の経歴は先生から伺っています、貴女は強度の妄想着想が見られるとカルテに書かれています、どうですか、柊さん、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 貴女の知っている過去を全て話してくれますか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">初めてだった。買い物から帰ってきて初めて私を柊と呼んでくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん、お医者さんになったんだね、凄いよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「いいえ、私はまだ完全に医者にはなっていません、柊さん、貴女が初めての患者です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">やっぱり私は病人なのかな。もう一生この病院から出られないのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
私が生まれから覚えている限りの出来事を話した。小学校、中学校、高校、専門学校、家族の事、こなちゃん達の事、そしてアイスクリームを買いに行った事……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは黙って私の話を聞いた。そして資料のようなファイルを見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……柊家の人々……陸桜学園のお友達、そして私……貴女の言っている人物像が私の知人と見事に一致しています、とても出鱈目では考えられません、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それより驚いたのは生い立ちが秩序だっています、精神疾患……妄想着想ではそのような事は出来ません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「それじゃ、信じてくれる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は笑顔で言った。しかし、ゆきちゃんの顔は曇ったまま。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「私は貴女を知りません、今、初めて対面しています、そして貴女は戸籍がないのです、日本人であるのですら分からないのです、さらに、貴女が保護されてから</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
７年強、貴女を知る人は誰一人名乗り出ていません、年頃の女の子が居なくなればご家族、知人は血眼になって捜すでしょう……信じたいのですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その家族……誰も私を連れ戻しに来てくれない……でも、私もただ無駄に７年を過ごしてきた訳じゃない、本は読ませてくれた。だから私は色々な本を読んで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
誰も知らない私が何故ここに居るのか。私の身に何が起きたのか、その手掛かりを探してきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「平行世界……って知ってる？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「……それはまだ仮設であって証明された訳では……まさか、貴女は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「どうしてこうなったのは分からない、分からないけど、私は私の居ない世界に来てしまった、それしか考えられないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">これが私の出した結論。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「平行世界……文字通り決して交わることの無い世界、仮に貴女が別の世界から来たとしたら、柊つかささんが居ないこの世界に来たとしたら……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはそのまま考え込んでしまった。やっぱり生兵法は怪我の基なのかな……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ごめんね、勝手な推理しちゃって、今のは忘れて、やっぱり平行が交わるってどう考えてもおかしいよね……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「……今、ここに貴女がいる事自体が不思議です、さきほど貴女の言っていた生い立ちで私が登場してきますがとても自然に感じます、それに、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今、こうして話し合っている私は貴女……つかささんに強い親近感が湧いてきています……その仮説……参考にさせて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">先生「高良さん、もうそろそろ時間、次のクランケに行きますよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">病室の外から担当の先生の声が聞こえる。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「もう時間ですね、すみませんが失礼します」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あっ、ゆきちゃん……また会えるかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「週に２回は来られると思います」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「今度はゆきちゃんの話が聞きたい、家族の……お姉ちゃんの話とか友達の話とか」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「ご家族……柊さん……かがみさんと泉さんのお話なら、ですがこの世界の私達の話をしても……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「例え別世界でも、お姉ちゃんはお姉ちゃん、ゆきちゃんはゆきちゃんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そう、今、そこに立っているのは紛れも無くゆきちゃんそのもの、こうして話していて分かった。希望が見えてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
私とゆきちゃんは週に１、２回会うことが出来た。最初の頃は診察であまり話してくれなかったけど、一ヶ月ほど経つといろいろ話してくれた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
やっぱり私の知っている世界とは少し違っていた。その中で一番驚いたのがこなちゃんのお母さんが七年前まで生きていた事だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それとこなちゃんとお姉ちゃんは高校を卒業してから殆ど会っていないと言っていた。高校時代からそんなに親しくなかったって。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
クラスが違うのもあったかもしれない。でもそれは私の知っている世界と同じ。私の世界では何であんなに仲が良かったのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんとお姉ちゃんは頻繁に会っているって言っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の家族はゆきちゃんの話を聞く限りでは私の世界と殆ど変わらない感じだった。でも、いのりお姉ちゃんは三年前、まつりお姉ちゃんは去年結婚して家を出ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今は両親とお姉ちゃんで暮らしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんが来るようになってから三ヶ月経った。担当の先生はほとんどゆきちゃんに私を任せている。私もその方が気は楽だった。そんなある日のこと。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「つかささん、もうそろそろ束縛されてから八年が経とうとしています」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">いつになく緊張した顔つきのゆきちゃんだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「どうでしょうか、社会に出てみたいとは思いませんか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かにもうこんな所には居たくない。こなちゃんやお姉ちゃんにも会いたい。私は頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「そうですね、それには三つの条件があります、一つはつかささんには新しい更正プログラムを受けてもらいます、病気の治療として……二つは新しい戸籍を</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
登録するために名前を変えて貰います……三つ目は……柊家から半径10キロメートル以内に侵入してはいけません……この三つの条件が揃えば晴れて自由の身です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">三つの条件、この条件を満たせば……納得できない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私……どんな苦しい治療だってする、名前だって変えても良い……だけど、なんで、何で自分の家に近づけないの、家族に会っちゃいけないの！？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
自分でも驚くような叫びにも似た声だった。感情を抑えられなかった。ゆきちゃんは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「酷いよ……私は凶悪犯人なの、自分の家に入っただけなのに……何年も何年も閉じ込めて……あんまりだよ、一方的すぎだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は泣きそうになった。だけどもう涙が出ない。この事でもう私は泣きすぎて涙が枯れてしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「一ヶ月前……私はかがみさん、つかささんに内緒でお二人のＤＮＡ分析をさせていただきました、もちろん私の独断です、その結果、お二人が姉妹、もしくは親近者の</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
可能性は９９．９８％……と出ました……しかしこの数字は私にとっては確認の作業に過ぎません、つかささんはかがみさんの妹であり、柊家の家族です、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そして、つかささんが過去に体験した出来事、私や、泉さんとの出会いも間違いなく現実に起きた事……そう確信しました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">淡々と話すゆきちゃんだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「だったら……どうしてそんな条件なんか……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「何故ならつかささん一人しかない過去だからです、その他の人々にとってつかささんは存在すらしないのです……私はかがみさん、そのご両親に再三にわたり、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかささんに会って下さいとお願いしました、しかしかがみさんの受けた恐怖は消えないようで未だに会う気すらないようです、自宅に他人が無断で入る行為は</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 計り知れない恐怖だったと……これがこの世界の現実なのです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんが私に包丁を向けた姿が脳裏に浮かんだ。お姉ちゃん達にとって私はただの不法侵入者にすぎないんだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「つかささんの居た本来の世界に戻れれば全ては解決します、しかし戻る方法は今のところ皆無です、条件を受け入れなければ一生ここから出られません</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 考えて下さい……私もこんな話はしたくないのです、ですから……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今にも泣き出しそうなゆきちゃん。考える……私は私を否定されたこの世界で生きていけないかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「話は変わりますが……もう一人、つかささんの話を信じている人が居るのです、会ってみる気はありますか、本人は冗談半分かもしれないのですが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">冗談半分、この言葉で直ぐに浮かんだ名前があった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「もしかしてこなちゃん、泉さん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「でも、家族でも親戚でもないのに会えるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「それは問題ありません、つかささんが了承すれば」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はこなちゃんとの面会を希望した。不思議だった。家族誰一人私と会おうともしないのにゆきちゃん、こなちゃんは会ってくれる、会おうとしてくれている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
絆って一体何だろう。分からない。私は一体誰なのだろう……疑問ばかりが増えるばかりだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんとの面会は意外と早く実現した。それは数日後だった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「貴女は……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんから紹介されるやいなやこなちゃんは私を見るなり驚いた顔をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「この人知ってるよ、臨時のアルバイトをしていた時、帰りにいきなり私に声をかけた人だ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あの時の私を覚えてくれていた。それはそれで嬉しいけど、もう随分昔の出来事なのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「あの時は相手にしてあげられなくてごめんね、お母さんが危篤になったって連絡があったからから急いでいたんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この世界ではこなちゃんのお母さんはあの時生きていた。そうだったのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「あの時は私も動揺してて、訳が分からなくて……今も同じだけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんは私に興味津々みたい、どんどん私に近づいてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ねぇ、貴女の世界では私のお母さんは私が生まれて直ぐに死んじゃったんでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「え、う、うん、そうだけど……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「向こうの世界の私ってどんな人だった？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私が話をしようとするとこなちゃん大学ノートを取り出した。私がノートに目線を向けるとこなちゃんもそれに気が付いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あぁ、これね、これはメモしているだけだからあまり気にしないで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
後で聞いた話だけどこなちゃんはゲームのシナリオライターで、ゲーム原案のネタの為に私の話を聞きに来たと言っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「急に言われても……足が速くて、ゲームとか漫画が好きで……会っていて楽しい人だったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「……何だ～それじゃ私とあまり変わらないじゃん、もう少し、母親を早く亡くして哀愁を漂わせていたとか……そんなのは無かったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
更に身を乗り出して聞いてきた。私に言わせればお母さんが亡くなって七年しか経っていないのに何の躊躇いも無くそんな質問をするなんて、こなちゃんだよ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そう、そこに居るのは紛れも無くこなちゃん。生い立ちが違っていても人ってそんなに変わらないものなのかな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こうやって物思いに耽っているとこなちゃんはノートになにやら書いていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「何をかいているの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんはノートを開いて私に見せた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「どうかな？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それは私の似顔絵だった。数分くらいしか経っていない、乱暴に描いてあるけど似ている、私にそっくりだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「す、凄い、似ているよ、そっくりだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「いや～褒められたのは久しぶりだよ、高校時代は漫研入部していてね……あの時はろくな漫画もかけなかったよ、ははは、ひよりんとよく争ったもんだ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんが部活に入っていたなんて。やっぱり何かが少しずつ違う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「私の知っているこなちゃんはこんなに絵が上手くなかった、お姉ちゃんの似顔絵描いた時なんか……笑っちゃったよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうそう、そうゆう話が聞きたかった、もっと詳しく教えて……ってお姉ちゃんって誰？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「……私の、家族、柊……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「あっ！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「泉さん、もうこれ以上その話をするのは控えて下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今まで隣の部屋に居たゆきちゃんが入ってきた。私達の話を聞いていたみたいだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ご、ごめん、この話はタブーだったね、ちょっと夢中になっちゃって……つ、つかささんで良いのかな、ごめんなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんは止めたけど私は別に嫌な話ではなかった。むしろもっと話したかった。話が途切れたのが原因なのか重い雰囲気が広がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、何でお姉ちゃんともっと親しくなれなかったの、私の知っている二人はもっと仲が良かった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは天井を向いて考え込んだ。ゆきちゃんも私の話を止めようとはしなかった。私自ら話しだした内容については何も言わなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ん～何でかな、高校時代からみゆきさんの友達としては知っていたけど、クラスが違うせいかあまり話す機会がなかったし……優等生で</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
真面目ってイメージが強くて近寄り難かった、それは今でも同じ、彼女は弁護士の卵だしね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「そんな事ないよ、家ではゲームだってするし、時々私の漫画も借りにきたりしたり、テレビドラマの内容の話で盛り上がったりしたり……確かに</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私より真面目かもしれないけど、時々大きな失敗したりして面白い所もあるよ、こなちゃんと気が合うと思うんだけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんとゆきちゃんは顔を合わせて暫く黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「なんか違うな～、そっちの世界の柊さんと違うんじゃないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「少なくともゆきちゃんとこなちゃんの性格、特徴は殆ど同じだよ、細かい所は違うかもしれないけど……だからお姉ちゃんも同じ筈」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「こうやって私たちが会しているのを踏まえて考えるとそうかもしれませんね……柊さんと泉さんとは水と油のような気がして積極的に紹介はしませんでした、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかささんの話を聞いていると柊さんの本質はむしろ泉さんに近いのかもしれません……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうかな、隙が無くて、突っ込まれそうな気がするけど……そこまで言うなら今度会ってみようかな～」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「明後日、会う約束をしているので、その時で宜しければ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その通り、いつもこなちゃんはお姉ちゃんに突っ込まれていたよね、でも、今は言わない……あれ、そうか</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんとこなちゃんって自分達から積極的に友達になった訳じゃなかった。今考えると私が紹介したから二人は友達になれた。そんな気がした。でも、今は関係ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「ゆきちゃん、こなちゃん、なんで私なんか、犯罪者の私にこんなに良くしてくれるの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">二人はまた顔を見合わせた。そしてこなちゃんは笑った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「犯罪者ね、確かに世間にはそう思われているし、実際にあの時成人だったら前科がついてもおかしくなかった、だけど、あの時、つかささんは何も盗んでいない、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それどころか冷蔵庫にアイスクリームを置いて逃げた……捕まってみれば、謎の少女、素性も名前も現住所も全て不明、あるのは精巧に偽造された免許証、学生証、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
柊家の合鍵、七年経っても身内、知人が誰一人名乗り出ない、まさに忘れられた人、これはどう考えてもＳＦ的考察をしないと解決できないよ、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
免許証も学生証も鍵も偽造じゃなくて本物だった、もちろんつかささんの居た世界ではね、でも何かが起きて私達の世界に迷い込んだ、つかささんの居ないこの世界に」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんと同じような考えだったのか。初めてこなちゃんが頼もしく見えてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃんありがとう、二人だけでも私を理解してくれる人が居るなんて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「こなちゃん……そんな風に呼ばれるのは初めて、向こうの世界ではよっぽど仲がよかったんだね、でも元の世界に帰れるなんて考えないほうがいいよ、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
この世界に来てしまったのは何かの偶然に違いない、また同じ偶然が起きる確率なんてきっと天文学的数字分の１だよ、この世界で生きていく方法を見つけないとね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
確かにもう元の世界には帰れないかもしれない。それならばここで生きていく方法を見つけないといけない。家族と一緒に暮らすのは諦めるしかなさそう、うんん</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今後、家族と暮らすためにもまずはこの病院から出ないといけない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんと話せて楽しかった。そしてその体験はさらにこの病院から出たいと言う願望が強まった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなちゃんが帰り、ゆきちゃんも帰りの支度をし始めた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ゆきちゃん、わたし、私はこの前言った三つの条件を受ける」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「そ、そうですか……分かりました手続きをします」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは嬉しそうな、悲しいような複雑な表情をした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員「あゆみさん、で来ました」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「うん、これで良いよ、お客様に出して」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員「はい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員は出来上がった料理をお客様の待っているテーブルへと運ぶ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
私は夏目あゆみ、柊つかさから名前を変えて病院から出ることが出来た。本当は『つかさ』までは変えたくはなかった。だけどそれは許されなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">辛い治療が約一年も続いた。でも私は耐えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
変えたのは名前だけではない。住む場所も変えた。二つも県を跨いだ遠い街。病院を出た私はゆきちゃんの援助で料理の専門学校に入り調理師の免許を取った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">この街のホテルのレストランで料理長をするにまでになった。病院を出て四年も経った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
病院を出てもゆきちゃんとこなちゃんとは頻繁に会っていた。ゆきちゃんは結婚をしたので最近は月に一回くらい、こなちゃんも彼氏が出来たみたい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんは、病院を出る時に弁護士試験を合格したのと結婚をしたと聞かされてからゆきちゃんとこなちゃんからの情報は全くない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
情報がないのは私の方から話さないようにしたのだった。話せば会いたくなるだけだら。私はお姉ちゃんや両親に何度か手紙を出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
真相は書いてはいけないと言われたので不法侵入に対するお詫びと謝罪。でも返事は一通も来なかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
それでも情報は嫌でも入ってくる。お姉ちゃんは敏腕弁護士、テレビや雑誌でも取り上げられているからね。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">店員「お先に帰ります、あゆみさん」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「お疲れ様……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
この名前……なんだろう、もう一人の自分、別人になってしまったような感覚。「柊つかさ」はもう死んでしまった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
そう自分に言い聞かせていた。そうなんだ。だからこうやって仕事だけに打ち込んできた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
だけど今日は早く帰らなきゃいけない。引継ぎを同僚に頼んで早く帰してもらった。ゆきちゃんと会う約束をしていたから。もちろん私がした約束だから遅れる訳にはいかない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんには働いているレストランのホテルに来てもらうようにしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「ゆきちゃん、お待たせ、ごめんね、遅れちゃって」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いいえ、私も今来たところです」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はホテルの喫茶店に案内した。どうも自分の職場、レストランだと話がし難かったから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ところでお話というのは何ですか？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「うん、私が病院を出てから学校を卒業するまでのお金を返そうと思って、もうお金には困らなくなったから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いけません、私はそんなつもりでお金を出していません」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは厳しい顔になった。その気持ちは凄く嬉しかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「でもね、私もそんなつもりで借りた訳じゃないよ、こうゆうのはちゃんと清算しないとお互いにしこりが残っちゃうでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「それはそれです、私はあゆみさんに投資をしたのです、もうその投資分はしっかり頂きました、ホテルレストランのコック長……素晴らしいです、これで充分です」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">笑顔で答えた。そこまで言われると気が引けてしまう。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「でも、私の気持ちが……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「その気持ちだけで充分です、どうですか、ご自分に投資されてはどうでしょう、例えば、結婚資金のために……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「結婚……そういえば皆結婚しちゃたんだね、私だけまだだった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「あっ、別に私はそのような差別的な意味ではなくて」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
慌てて訂正するゆきちゃん、私もゆきちゃんの言葉に怒っていたわけではなかった。事実を言っただけ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「私はまだ結婚は考えていない、しないかもしれないし」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「何故ですか、好きな人と一緒になるのは自然の摂理です、あゆみさんの過去は関係ないです、しっかりして下さい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
好きな人は居た。過去形になっているけど専門学校時代に好きな人ができた。だけど卒業すると同時に別れた。彼が呼ぶ私の名前に違和感が最後まで消えなかったから。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんな私を見て彼の愛は冷めてしまったに違いない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「そんなんじゃないよ、ただ、何となくそう思っただけ、気にしないで」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「やはりご家族と逢いたいのですね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">今の言葉は私の心を抉った。忘れていた感情が沸きあがってきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「ゆきちゃんがそんなの言うなんて、いくら私でも三つの条件の意味は知ってるつもりだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「約束とか契約とかは抜きにして、正直な気持ちはそうですよね、本来はご家族と逢ってあゆみさんの過去を清算しなければならかった」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「ゆきちゃん、もう良いよ、その話はしないって約束したでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「ご両親、かがみさんは何故会おうとしないのですか、かがみさんは弁護士になったのならあゆみさんの心理は理解できるはずなのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんの口調が荒くなってきた。こんなに感情的になるのは初めてかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「お姉ちゃんは家を守った、それだけだよ、居るはずのない妹が居たら誰だってそうなるよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「本当に、本当にそれで良いのですか、私は納得できません、例え条件を破っても会いに行くべきです、そうは思いませんかつかささん！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんは立ち上がり両手を机に叩き付けた。周りのお客さん、店員が私たちを注目する。我に返ったゆきちゃんは慌てて座り小さくなった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「ゆきちゃんは二回も約束を破っちゃったね、家族の話はしない、私を昔の名前で呼ばない、そうだったよね」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ごめんなさい、しかし、ここまで言ったのですから最後まで言わせてください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんはわざと約束を破った。そんな気がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「つかささんが病院を退院する頃、私はかがみさんと約束を交わしました、それはつかささんの話をもう二度としてはならないと、分かりますか、このままでは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかささんとかがみさんは永遠に逢えません、私はそんな悲劇は見たくありません、柊家とつかささんが会っているのはかがみさんただ一人、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あえて言います、柊家に向かってかがみさんを訪ねて下さい、もう一度会えば必ずかがみさんはつかささんを理解してくれるはずです、条件が気になるのでしたら</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> 何処か柊家から離れた場所にかがみさんを連れてきてきます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんは今でも私をつかさとして私を見てくれている。嬉しい。ゆきちゃんは私とお姉ちゃんに挟まって苦しんでいた。まったく気が付かなかった。そういえば</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
ゆきちゃんの結婚式の時、お姉ちゃんは来ていなかった。ゆきちゃんは私とお姉ちゃんを会わせない為に……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">だめだよ、もしお姉ちゃんが私の知っているお姉ちゃんだったら。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「お姉ちゃんとの約束を破ったら、ゆきちゃんはもうお姉ちゃんと友達でいられなくなるよ、そこまでしてお姉ちゃんと会うなんて出来ない、それにお姉ちゃんは</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私に会っても妹とは思ってくれない、お姉ちゃんってそうゆう人だよ、自分の見た物、体験した事しか信じない、だから私と会っても多分また追い出される……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> だからお姉ちゃんの方から会うって言うまで待つしかないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは暫く何も言わず私を見ていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「やはり貴女はかがみさんの妹ですね、かがみさんの分析が的確過ぎます、私の浅墓な計画は崩れ去りました、ご家族の問題はご家族で解決する以外はないようです、</div>
<div style="text-indent:42pt;margin:0mm 0mm 0pt;">あとはあゆみさんの思うようにしてください」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「ありがとう、今日はホテルの部屋を予約してあるから泊まっていって、お金は大事に貯めておくよ、これで良いでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「はい、それで良いです、お言葉に甘えて泊めさせて頂きます」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ゆきちゃんは立ち上がった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「明日の朝食はうちのレストランに来て、私が作った料理を出してあげるから」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「ご馳走になります」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私はゆきちゃんにホテルのキーを渡した。ゆきちゃんは受け取るとロビーの方に歩いて行った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「ゆきちゃん待って」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">止まって振り向いた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「こなちゃんの結婚式の会場は決まったの？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「いいえ未だですが」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「このホテルお奨めだよ、だけど、ここだとお姉ちゃんは来ないかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は苦笑いをした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
みゆき「かがみさんは何処で式をしても来てはくれないでしょう、弁護士のお仕事が忙しいですから……私の時もそうでした」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
悲しい顔だった。違う、私の知っているお姉ちゃんと違う。冠婚葬祭だったら私事よりそっちを優先するよ。この時初めてお姉ちゃんに会いたくないと思った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">みゆき「おやすみなさい」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「……おやすみ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">ロビーに向かうゆきちゃんの姿が悲しげだった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><span style="color:#ff0000;"> </span>ゆきちゃんは私の働いているホテルを気に入ってくれた。それでこなちゃんの結婚式そのホテルに決まった。もちろん料理は私のお店が担当。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私は直接式に参加しないからお姉ちゃんは来るものと思っていた。でも、来なかった。こなちゃんは私がお姉ちゃんを紹介してから親友になったって言っていたのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">そんなに弁護士、仕事が大事なのかな。私には理解できなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんの結婚式が終わってからゆきちゃんもこなちゃんも自分からはお姉ちゃんの話をしなくなった。私も話をしない。それでも二人は以前と同じように</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
お姉ちゃんと会っているのはなんとなく分かった。こなちゃん達の友情は結婚式を欠席したくらいで終わるような柔じゃない。</div>
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話をしなくなったのは、私と柊家との関係修復はもう絶望的だって気付いたに違いない。私は何となくそう思い始めてきた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
三つの条件、受け入れなくてもきっと結果は同じだった。こうして自由にいられるだけまだましなのかな。うんん、家族に逢えないのに何が自由……戻りたい。私の居た世界に。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><span style="color:#ff0000;"> </span>私がレストランの料理長になってから三年が過ぎた、私の周りに腕の良い職人さんが増えてきた。私の仕事もその人たちに任すことが出来るようになった。そのおかげで</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
随分余暇が増えるようになった。普段はできなかったお買い物とかが出来るようになった。もちろん恋愛だって少しは……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今日は午後から急に雨が降ってきた。予定していたお買い物は中止にした。特に何も用事があるわけではなかった。のんびりテレビを見て過ごしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
呼び鈴が鳴った。誰だろう、彼かな……今日は仕事だって言っていた。何かの勧誘かな、断るのは嫌だな。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『ピンポーン、ピンポーン』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
呼び鈴は何度も押された。私はゆっくりと玄関に近づいた。万が一って事があるから鎖を扉につけ恐る恐る開けた。こなちゃんが立っていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「こなちゃん……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">私は直ぐに鎖を外してドアを全開にした。玄関の先にこなちゃんの車が止まっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「どうしたの、急に来ちゃって、今日は偶々お休みだったから良かったけど、来るなら連絡して欲しいな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんは何も言わず立っていた。車から直ぐ近くとはいえ傘も差さないでいるから肩が雨で濡れている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「とりあえず中に入って、急だからろくなおもてなしもできないけど」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんはゆっくりと家の中に入った。だけど靴を脱ごうとはしなかった。どうしたのだろう。何かおかしい。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「どうしたの、中に入って休んで、車の運転大変だったでしょ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「みゆきさんはダメって言った、だけど私は黙っているなんて出来ない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">重い口調だった。悪い予感が過ぎった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「私に何か知らせたい事があるの、それなら電話でも良かったのに」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「ただおさんが危篤状態なんだ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
頭の中が真っ白になった。何時か、何時かは来るとは分かっていた。だけど早い、早過ぎる、私はまだお姉ちゃん以外の家族と顔すら見ていないのに。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「なんで、どうして……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「半年前から病だった、もう最後の時だよ……もう時間がない、私の車で行こう、会いに行こう、家族が全員集まっているよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">逢いに……逢いたい。逢いたいけど。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「わ、私は、夏目あゆみ、もう柊家とは何の関係もない、だから行けない……でもお香典くらいは、こなちゃん持っていってくれるかな」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「ただおさんの入院している病院は柊家から１０キロメートル以上離れた場所にあるから気にしないで、私とかがみの仲だから大丈夫、私と一緒に行けば病室に入れる」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
今すぐこなちゃんの車に飛び乗って行きたい。とても強い感情、だけど体が言うことを聞いてくれない。足が前に出ない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「どうしたの、早く行こう、こうしている間にも……これはチャンスだよ、つかさが家族だって証明できるチャンスだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
その時全てが分かった。何故私が今まで家族に会いに行かなかったのか。それは条件のせいじゃなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「行けない、やっぱり私は行けない」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「もう不法侵入したなんて関係ないじゃないか、何を躊躇っているのさ、それともかがみが警察を呼んだのが憎いの、そうじゃないでしょ、私はお母さんを亡くして</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
分かったんだよ、あの時こうしておけば良かったなって、もっと話しておけば良かったなって、そう思ったからみゆきさんの反対を押して来たんだよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
幼い頃に亡くした世界のこなちゃんじゃない、とても説得力があった。ただの家出娘ならこの言葉で充分。だけど……</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
あゆみ「だ、だめだよ、もう聞きたくないの『貴女は誰』って、買い物から帰ってきてお姉ちゃんに会ってそう言われた、こなちゃんにも、成美さんも、近所の人からも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
私の知っている皆は私を知らない、これから病院に行ってお母さん、いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんからきっと同じように言われる、もう私はつかさじゃないよ</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> ここにはつかさは居ない、居ちゃいけないんだよ……」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなた「そうだよね、辛いよね……でも私が認めるよ、つかさ、だって私とかがみを親友にしてくれたから、かがみの妹じゃないと出来ないよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
もう涸れて出ないと思っていた涙がでてきた。もう何をして良いのか分からない。そこにこなちゃんの携帯からバイブ音がした。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「こなちゃん？」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">こなた「みゆきさんから……遅かった、たった今……亡くなった……」</div>
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幼い頃からやさしかったお父さん、お父さんとの思い出が走馬灯のように頭に浮かんだ。行きたかった。もうお父さんと呼べない。一度でいいから呼んで欲しかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">あゆみ「こ、こなちゃん、私……うう、こなちゃ……わぁー！！」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
こなちゃんに飛び込むように抱きついた。涙が止まらない。今まで溜まっていた涙を全て出し切るまで泣いた。</div>
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