ID:nZgdbqYeo氏:泉の里帰り(ページ1)

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<p><br />  湯気の立つ浴室に、クスッとわたしの口から漏れた思い出し笑いが反響する。</p> <p> ―――じゃあさ、おとうさんいつもわたしにぺたぺたしてくるけど、わたしが男子でもいまと同じように接してきた?</p> <p> おねえちゃんにそう尋ねられて、おじさんが「あたりまえじゃないか」と返すまでの、いっときの間。<br />  「よーくわかったよ」と軽く言い放つおねえちゃんと、そのときの空気を思い返すとおかしくなって、ほおがほころぶ。</p> <p> あの父娘のつくるほがらかな雰囲気はとても心地よくて、わたしもそのなかにいさせてくれることが、とてもうれしい。<br />  そう思うから、ときどき、私はぼんやりと好奇心をめぐらせることがある。あの父娘ふたりに、大きく関わったはずのひとのことへと空想が飛ぶ。<br />  おねえちゃんにうりふたつな写真の姿。おじさんの伴侶だったひと。泉かなたさん。<br />  私が知っているかなたさんのことは、ふたりの談笑のなかに出てくる情報から勝手に想像したものでしかなくて。<br />  かといって、死んだ家族について居候に過ぎないわたしが真正面から尋ねるのははばかられるから、これ以上の確たる情報を集めることは望まない。<br />  そんなふうにかたちづくられた、ぼんやりとしたままのかなたさんの像を、頭のなかでながめている。おじさんが体裁を整えるために話題を変えようとした結果の一番風呂のなかで。<br />  そういえば、いまはお盆の時期だと思い当たる。きっと、ここも、かなたさんが存在した空間なのだろうと感傷的になるのは、それが理由なんだろうか。そう思いながら、お風呂の熱のなかで息をついた。</p> <p> ―――物思いをしながらの入浴。わたしは時間を忘れた。どれくらい経ったのだろうか、まぶたが下がってくる。目に力を入れて、こらえる。<br />  眠気と倦怠感。まどろむ薄目で見る視界は、とても白かった。湯気のせいであればそれはそれでいいのだけれど、のぼせてしまって目がチカチカしているせいであれば、それはわたしの身体にちょっと都合がよろしくないもので。<br />  ああ、まずいな。もう、お風呂あがらなきゃ。そう思ってわたしは、浴槽の縁をつかんで―――</p> <p><br /><br />  立ち眩み、床に倒れ込む感覚にハッとする。とっさにバランスをとろうと身体が勝手に反応する。「わっ」と声を漏らしながら、足裏を地面を踏みしめる。転ぶのをこらえて、ほっと息をついた。<br />  そうしてその床の感触に気づく。廊下。お風呂じゃないところに、わたしは立っている。</p> <p> 廊下の床から顔を上げると、コタツや、テレビや、見覚えの物ばかりが視界に映る。居間の入り口に、わたしは立ちつくしている。<br />  肩の周りにクエスチョンマークをいくつも浮かべるような思いで首をかしげた。人の姿は、見あたらない。<br />  自分の身体を見ながらぱたぱたたたいて調べる。どこも濡れていなくて、ふつうに服を着ているこの状況に、わたしはしばらくぼうっとする。</p> <p> だれもいないこの部屋から、出て行こうとは思わなかった。ほかの部屋を調べて、ほかのだれかの存在を調べようとは思わなかった。<br />  意味が、ないと感じた。おねえちゃんやおじさんの生活の気配がまったくないのがここにいてもわかるから。見慣れたものばかりの視界に、現実感はまったく伴っていない。まるで、わたしひとりが夢のなかに立っているよう。</p> <p> そう。夢に、似ているんだ。現実じゃない場処に立っている。<br />  そう自覚すると、こころはさらに平静になって。わたしは居間へと平然と足を踏み入れる。夢の静寂に足音をたてる感触に、妙な味わい深さを感じながら、わたしはコタツの前まで歩を進めた。<br />  こんなふしぎな空気のなかで、コタツに入ろうとする動作が自然に出てくるのがこれまた現実感を薄くする。そんなことを頭の片隅で考えながら、わたしはコタツにもぐって卓に伏せる。<br />  思考をめぐらせる。わたしがここにいる意味について。わたしをここに招いたなにかの存在について。<br />  得てしてこういうものは、ひとりだけでじっと考えても答えなんて出るはずもないもので。<br />  得てしてこういうときは、こたえを知るだれかが、種を明かしにやってきてくれるもので……。</p> <p><br /> 「こんばんは」</p> <p> その声におもてを上げる。コタツの対面にひとつの影。<br />  こなたおねえちゃんそのままの容姿で。でもそこから受ける印象はわたしの知るおねえちゃんのものとはぜんぜんちがっていて。<br />  だからこのひとは、おねえちゃんとはまったくの別人なのだと理解する。<br />  夢のなかだからこそこのひとと会うのだと、その存在が腑に落ちる。</p> <p> ちいさいひとだな。そのひとを眼前に見て、あらためてそう思った。<br />  こなたおねえちゃんとほとんど変わらない、そしてもちろんわたしよりは大きな体型のはずなのだけれど、こなたおねえちゃんの母である"大人"だとして見ると、ことさらちいさな印象を受けた。</p> <p> はじめまして。とわたしは頭を下げる。<br /> 「この春から、この家にお世話になっている小早川ゆたかです」</p> <p> 泉かなたさんにむかって、わたしはそう、挨拶をする。<br /><br /><br /><a href="http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1718.html">次のページへ</a></p>
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