「ID:F7ebqHGf0氏：遺書（ページ１）」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">七月六日、</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみは引き出しから紙と筆記用具を取り出した。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみは自分の部屋で遺書を書こうとしていた。二十歳の誕生日前日になんて自殺でもするのだろうか。それは違う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみは死ぬ為でも死期が近いわけでもない。なぜかがみは遺書を書くことになったのか。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">それは一年以上遡らなければならない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">『遺書』</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみはつかさの部屋に入ろうとしていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「つかさ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし返事はなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみ「入るわよ」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみはつかさが出かけているのをかがみは知らない。かがみは貸した本を返しにもらう為につかさの部屋に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（おかしいわね、今日は出かけるって言ってなかったのに）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみが部屋を出ようとした時だった。ふとつかさの机の上を見た。手紙が置いてある。何気なく手紙を手にとって見た。つかさの字で書いてあった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"><span style="font-family:'ＭＳ 明朝';font-size:10.5pt;"><font color="#000000">『お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。先立つ親不孝を許してください』</font></span></div>
</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">手紙はこんな件で始まっていた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;"> </div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">（うそ、これって遺書じゃない、なぜつかさが遺書なんか）</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみは手紙を読み続けた。両親への感謝の言葉が綴られている。いのり、まつりにも同じように書いてあった。こなたやみゆきをはじめとする親友にも</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">お別れの挨拶があった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">しかし手紙の中にかがみの名前は一回も載っていなかった。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
かがみは動揺した。それはつかさが遺書を書いていた事ではない、かがみに対する言葉が全くなかった事に動揺したのだ。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
つかさが遺書を書いた原因が自分なのかもしれないと思った。かがみは過去を振り返り思い当たる節を考えた。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
子供の頃からずっと一緒にいた双子の妹。高校まで一緒の学校。他の兄弟姉妹と比べても仲の良さは誇れると言って良いと自負をしている。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
最近になっても態度を変えた覚えはない。つかさもかがみに対して何か変わった行動もしていない。まったく身に覚えがない。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">つかさ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
玄関の方からつかさの声が聞こえた。かがみは慌てて手紙をつかさの机の上に戻し、素早くつかさの部屋から出て自分の部屋に入った。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">
慌てて戻る必要なんかなかった。普段なら部屋にかがみが居てもおそらくつかさは不振とは思わないだろう。でも今回は様子が違う。</div>
<div style="margin:0mm 0mm 0pt;">かがみは自分の部屋でつかさの様子を見守った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさはそのまま自分の部屋に入った。しかし一分もしない内につかさは部屋を出た。そして鏡の部屋をノックした。かがみは遺書を読んだのが分かってしまったのかと思った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「居るわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは扉を開けた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「おかえり、今日は何処に行ってたのよ、何も聞いてなかった」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「今日はこなちゃんとお買い物、って言ってなかったっけ？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">そういえばそんな事をいっていたような気がした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「そうだったわね、忘れてたわ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「そうだ、お姉ちゃんに返さなきゃいけないのが在ったんだったよね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは本をかがみに渡した。その本は返して欲しかった本だった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「返すって、もう読んだの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「うんん、私にはちょっと難しいから」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさはそのまま部屋を出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ちょっと待って」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは無言で立ち止まりかがみの顔を見た。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「いや、何でもない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは不思議そうに首を傾げてそのまま部屋を出て行った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
聞けなかった。遺書を何故書いたのか。そしてその文の中にかがみの名前が出ていないのか。答えを聞くのが怖かった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
何故黙って勝手に人の手紙を読んだのかと怒るに違いない。なにより『お姉ちゃんに別れの言葉なんかないよ』と言われるのが何より辛い。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
家族での夕食。食後の会話。普段どおりのつかさだった。かがみを避けるそぶりを見せない。演技なのだろうか。かがみの知っているつかさならそんな演技なんかできない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさの遺書が頭から離れない。遺書を読まなければつかさは今までどおりのつかさと変わりはない。かがみはただ困惑をするだけだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
次の日の朝、かがみはいつもの時間に起きて洗面所に向かった。しかし珍しくその日はつかさが先に洗面所に居た。かがみは朝の挨拶をしようとした。しかしつかさの様子がおかしい。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「う、うえー」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
気分が悪いのか戻しているようだった。かがみはつかさの背中をさすってあげた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
その時、かがみは何かピンと来るものを感じた。まさか。しかしこれが本当だったら大変な事態だ。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさ、あんた最後に生理があったのはいつよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
朝から聞くような話ではない。でもあえて聞いた。つかさはしばらく何も言わなかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「最近、ないかな」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ちょ、つかさ、その意味分かってるんでしょうね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみはつかさの肩を両手で掴んで問い質した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「分かるって何が？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">キョトンとしているつかさを見てかがみは言わざるを得なかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「つかさの意思でそうなったのなら私は何も言わないわ、でもね、無理やり犯されたのなら病院に行かないと、性病も心配だわ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">真剣な眼で言うかがみにつかさもその意味が分かったようだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「お姉ちゃんには関係ない事だよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
一言だった。そう言ってつかさはかがみの両手を跳ね除けると洗面器で口を洗い始めた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「関係ないって、私は家族じゃない、姉妹じゃないの、そんな大事な事黙っているなんて、私じゃ相談相手にならないって言うの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは黙ったまま口をタオルで拭った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「学校に行かないと、それから今日は用事があって遅くなるからこなちゃんと会えないって言っておいて」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは洗面所を出て行ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ちょっと待ちなさい」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさは身支度をしてそのまま家を出てしまった。話が唐突すぎたか。それにしてもあんな態度をとるつかさは初めてだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
高校を卒業してからめっきりと一緒に出歩く機会がなくなった。それは確かだ。しかし環境が変わったとはいえこなたやみゆきと</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
毎週のように会っている。後輩のひよりやみなみ達ともそうだ。最近に至ってはみさおやあやのとも会っているようだ。そういう意味ではつかさは高校時代よりも社交的になった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
これもあの遺書と関係しているのだろうか。それに昨日の遺書を知らなければ戻しただけで妊娠したなんて思わなかっただろう。うだうだ考えてもしょうがない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみも身支度をして大学に向かった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
夕方。かがみはいつもの喫茶店でこなたを待っていた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">「こちらです」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「やふー、かがみ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">ウエイトレスに案内されてこなたがやってきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「こんにちは」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「みゆきじゃない、今日は会う約束はしてなかったのにどうしたのよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「駅でバッタリ遇っちゃってね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「せっかくなのでご一緒させてもらいました」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなたは店の周りをきょろきょろと見回した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「あれ、つかさはどうしたの、トイレ？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみの脳裏に今朝の出来事が思い出された。この場はつかさの言うように伝えるしかないだろう</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「今日は急用で来れないってさ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「へぇー、珍しいね、私達以外に誰か会う人でもいるのかな」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「さあね、それより早く座って」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「って、かがみもうケーキなんか頼んじゃって、少なくとも私が来るまで待ってもらいたかったよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「どっちにしても遅刻よ、みゆきが来るならメール入れてくれれば待ってあげたわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなたとみゆきが席に着いた。二人はスィーツとコーヒーを頼んだ。こなたがいつのものように話を引っ張っていく。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
これにつかさが加われば久しぶりに四人揃うはずだった。楽しい会話が弾んだがつかさが気になって会話に集中できない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みゆき「かがみさん、先ほどからどうしたのですか、気分でも悪いのでしょうか？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆきがかがみの異変に気づいた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「そうだよ、さっきから突っ込みが弱いよ、いつものかがみらしくない、気分が悪いなら早めに切り上げようか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ちがう、別に気分が悪いわけじゃない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
二人の目線がかがみに集中した。かがみは悩んだ。打ち明けるべきなのだろうか。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「こなた、みゆき、遺書なんて書いたことある？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた・みゆき「遺書？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなたとみゆきは顔を見合わせて首を傾げた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「遺書ですか、いきなり過ぎて話が見えませんが」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみは思い切って今までの事を話した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「ふふ、はは、わはははははー」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「ふふふ……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">二人は同時に笑い出した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「二人とも笑うなんて、こっちはこれでも真剣なんだぞ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「はは、だってかがみ、朝っぱらからそんな話したらつかさじゃなくても同じ態度を取ると思うよ、早とちりだな～」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
笑いながら話すこなた。言われたとおりだ。確かにそうだったかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「でも、遺書はどうなのよ、あれはどう説明すればいいのよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「遺書は私たちも書いていますよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「書いているって、こなたも書いたのか、どうして、書く理由が分からん」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
驚き眼で二人を見るかがみ。みゆきはコーヒーを一口飲むとゆっくりと話し始めた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みゆき「高校三年の時、私達のクラスでホームルームの時間を使って書きました、黒井先生の提案でしたね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">笑っていたこなたは笑いを止めた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「そうそう、卒業間近だったね、黒井先生が『自分が亡くなった時、大事な人に一言のこすもの』ってね、二十歳になる前に家族くらいには一言くらい残せって」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みゆき「そんな事をしたのはおそらく私達のクラスだけでしょう、今思えば大切な事だったのかもしれません」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「それじゃ、つかさの遺書も？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「その時書いたものだよ、つかさはいろいろ書きすぎるから肝心なかがみに一言書くのを忘れたんだよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「ふふ、ははは、そんな事だったの、はははは、なにマジになってたんだろ、私、はははは」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみは笑った。すっかりこれで謎が解けた。やっぱりつかさはつかさだった。帰ったら今朝のした事を謝れば良い。肩の荷が下りた気分だった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
すっかり話し込んで遅くなってしまった。喫茶店を出るとかがみ達は駅で別れた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「待ってください」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
別れたはずのみゆきがかがみを呼び止めた。こなたはもう電車に乗ってしまったようだ。かがみは振り向いた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「さきほどは笑ってしまってすみませんでした」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「別に気にしなくていいわよ、それより黒井先生も粋なことをするわね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆきの顔が曇った。かがみもすぐにそれに気づいた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「実は、つかささんの事でお話が、気になる点がありまして」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「どうしたのよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みゆき「かがみさんのお話ですと今朝のつかささんはかがみさんの話を否定しませんでしたね、つかささんが妊娠していないにしても何かを隠していると思うのですが考えすぎでしょうか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「考えすぎよ、つかさは隠し事が苦手、それは私が一番知っている、きっと私の言い方が悪かったから怒っただけ、それは私も認識しているから大丈夫よ、ちゃんと謝るわ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">そんなかがみの言葉にみゆきはかがみに微笑みかけた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みゆき「やはり考え過ぎのようでした、私はかがみさん、つかささんが羨ましい、お互いに姉妹であり親友でもある、そんな関係を生まれた時から……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「そんな大げさなもんじゃないわ、普通の姉妹よ、あっ！電車が着たみたい、またね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">手を上げて去ろうとするかがみ。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆき「その普通が一番ですね、また会いましょう」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みゆきも手を上げた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
帰り道、かがみは考えていた。つかさの書いた遺書。読んだだけであれだけ動揺してしまうなんて。洗面所で戻していただけで妊娠を疑ってしまった。確かにこなたの言うように</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
早とちりだ。遺書なんて死期を予感した時に書くものとばかり思っていた。それがかがみをここまで動揺させたのだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
自分が死ぬ時、大切な人に一言。大切な人。家族、親友、恋人。いったいどんな言葉をかけるのか。死に際に誰かに何かを言うような気力が残っているとは限らない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">だからこそ今のうちに遺書を書いておく。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
（さすが一番の優等生みゆきと一番の劣等生こなたの担任だけのことはあるわね）</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
心の中でそう呟いた。そして改めてつかさと同じクラスになりたかった感情が今頃になって激しく湧いてきてしまった。もう過ぎてしまった事なのに。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">家に帰るとみきが玄関まで来ていた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
みき「おかえり、遅かったわね、遅くなるときはメールしなさいって言ってるでしょ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「あ、すっかり忘れてた」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みき「まったく、その様子だと夕食も要らないみたいね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
すこし怒り気味だった。しかし無事に帰ってきた安堵感が取って伺える。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさは？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みき「部屋に居るわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみはつかさの部屋に向かった。そしてノックをする。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「入るわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさはベッドを背もたれにして座っていた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「入って良いって言ってないよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみを見るなりいきなりだった。思った通り怒っていた。かがみはつかさを刺激しないように話しかけた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「今朝の発言は私の間違いだった、それを言いに来たのよ、ごめんなさい」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「お姉ちゃんって私を淫らな女って思ってたんだね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさは透かさず言い返した。かがみは驚いた。しかもこんな皮肉を言われるとは思わなかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「そんなのは思っていないわ、ちょっと動揺しちゃって、本当よ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさはかがみを睨み付けた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「うそ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「嘘じゃない、昨日、つかさの遺書をみてしまったから……はっ！！」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
言うつもりは無かった。嘘と言われて弁解するつもりが思わず言ってしまった。つかさは立ち上がり机の引き出しから手紙を取り出した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「見ちゃったんだ……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「いや、その……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">言い訳が余計にかがみを苦しめる結果となった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「泥棒みたいに黙って人の部屋に入って、勝手に読むなんて最低だよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「それは本を返してもらいたかったら入っただけよ、それに遺書も高校時代に黒井先生の提案で書いたものでしょ、隠す必要ないじゃない、こなたやみゆきは読んだんでしょ？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「どうしてそれを」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「今日、こなたとみゆきから聞いたのよ、こなたとみゆきもつかさが来なくてがっかりしてたわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさの顔が一瞬悲しい顔になったがすぐに怒った顔に戻った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「そんなので誤魔化されないよ、お姉ちゃんのバカ！！」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">（いいかげんにしろ！！）</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさに向かって怒鳴ろうとした時だった。みゆきの言葉を思い出した。そう。何かおかしい。確かに目は本気になって怒っている。しかしつかさの言葉に感情が入っていない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
演技をしているようにも見える。わざとかがみを怒らせている感じがした。みゆきの言うように何かを隠しているのかもしれない。ここで問い質してもおそらく話さないだろう。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
それならこの場は、つかさの挑発に乗っているように演技して様子を見るしかない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「そんなに読まれたくなかったのか、そうだよね、私の事なんて何にも書いていない、つかさだって私をその程度にしか思ってないようね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさの目が急に潤み始めた。つかさもその次に何かを言うつもりだったのか口がパクパクと動いているが言葉になっていない。そのうちにつかさの目からポロポロと涙が出てきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「……で…出て行って」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「なによ、つかさから言ってきたのよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「いいから、出てって言ってるでしょ！！」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
両手を握り拳にして力いっぱいに怒鳴った。これは本気だ。かがみはつかさを本気に怒らせてしまったようだ。さすがこれ以上部屋にいるのはまずい。かがみは部屋を出た。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
しかし危なかった。みゆきの助言がなければかがみは感情を露にしてつかさと喧嘩をしていたに違いない。いや、つかさはそれを望んでいたのかもしれない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
自分の部屋に戻ったかがみは考えた。つかさは何を隠しているのか。しかしいくら考えても答えは出なかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">一夜明けた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
顔を洗いに洗面所に向かおうと部屋の扉を開けるとちょうどつかさも部屋から出てきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「おはようつかさ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは何事も無かったように通り過ぎようとした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「おはよう、つかさ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
もう一度かがみは挨拶をした。つかさは立ち止まった。しかし何の返事もしない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「昨日は悪かったわね、一昨日の件も合わせて謝るわ、それでも私を許さない？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさはただ立っているだけだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「つかさを妊娠したと間違えたのが悪かったのか、黙って遺書を読んだのが悪かったのか、その遺書を貶したのが悪かったのか、その全てが許せないのか、</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
それとも私を嫌いになったのか、私には分からない、せめて理由を聞かせて、私が嫌いになったと言うなら家を出てもいいと思ってる、丁度一人暮らしもいいと思っていた」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさはそのまま階段を下りようとした。かがみは煮え切らないつかさの態度に痺れを切らせた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさ、あんた私に何を隠そうとしているの」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさの体が大きくビクついた。そして振り向いてかがみを見た。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「やっぱり、隠している物が私にとって都合の悪いものでないのを祈るばかりね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみはそのまま階段を下りた。つかさは下りて来ない。そこにいのりが居間から出てきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「おはよういのり姉さん」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「おはよう、今日は遅いね、間に合うの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「今日の講義じゃ午後から」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「それなら問題ないね、つかさは？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさが階段を下りてきた。つかさはもう出かける準備ができている。無言のまま家を出てしまった。かがみはため息をついた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「つかさ……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「いのり姉さん、つかさを見ていたけど」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりはつかさを何時になく見つめているように見えた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「いやね、昨日、かがみがつかさの部屋で何か言い合っていたけど喧嘩でもした？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「喧嘩の方がまだましだわ、つかさが何を考えているのか分からん」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「そう……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">一週間が過ぎた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさから誕生日プレゼントだって？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「かがみー、まさか昨日が私の誕生日だって忘れたの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「いや、忘れていたわけじゃない、だけど高校を卒業したら止めようって皆で約束したじゃない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
日曜日の午後、かがみはこなたと会っていた。久々にこなたの家を訪れていた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「そうだよね、私はもう十九歳、二ヶ月後にはかがみとつかさだって十九歳だよ、昨日つかさが突然私の家に来てさ、プレゼントだって置いていったんだよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさに何か変わった所とかなかった？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
この一週間つかさはかがみを無視し続けていた。こなたを訪れたのはつかさについて聞くためだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「変わったって、別に、つかさはつかさだよ、一時間くらい家でお話して帰ったよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「そう……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなたなら何か知っていそうな気がしたが期待はずれだった。土曜日はみゆきと会ったが結果は同じだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「つかさは約束を二十歳だと勘違いしてたんじゃないの、なんでもこれが最後のプレゼントなんて言ってたし」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「つかさならあり得るわね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「あっ、ごめん、ちょっと待って」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなたは慌てて居間を出て行った。数分すると戻ってきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「ごめん、ごめん話の続きしようか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「何か急ぎの用事でもあったのか？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「いや、ゆーちゃんが熱をだしちゃってね、様子を見に……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「バカ！そう言うのは早く言いなさいよ、ごめん邪魔したわね、また今度にしましょ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみは帰る準備をした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
こなた「悪いね、つかさにありがとうって言って、約束はしたけど、やっぱりプレゼントは貰うと嬉しいものだよね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「そんな事言っても私はしないわよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">こなた「ケチ！」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
お昼を少し過ぎた時間、予定よりだいぶ早い帰宅になった。かがみが家に着くと話し声が聞こえた。庭の方角からだ。かがみは裏庭の方に向かった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさといのりが庭で何かを話している。かがみは気づかれないように近づいた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「いつまで黙っているつもりなの、もう知らないのはかがみだけ、つかさが自分で話すって言うから今まで黙っていたけど、あれじゃ話す状態じゃない</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> あのままだとかがみは本当に家をでてしまう」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみだけが知らない。どう言う事なのだろうか、かがみはつかさを見た。俯いて悲しい顔をしている。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「かがみが帰ってきたら私から話す、これでいいよね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「ダメ、言っちゃダメ、絶対に、言ったら一生いのりお姉ちゃんを恨むよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
必死にいのりを止めている。つかさが隠している事実がこれで分かるかもしれない。かがみは建物の陰に隠れて更に近づいた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「黙ってても何れ分かってしまうよ、この前だって薬の副作用苦しそうだったじゃない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「そうだね、それでお姉ちゃん、私が悪阻だと思ったんだね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「その薬が効かなかったら、もう……骨髄移植しか助かる道はない、そうなったらかがみしか頼れない、それなのに何故、自分からかがみに嫌われるような真似なんか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさは薬を飲んでいる。そして骨髄移植。かがみはこれを必要とする病気を知っている。つかさは白血病だ。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「私は、お姉ちゃんに助けてもらう資格なんかないから」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「また同じ事言って、資格って何？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「私がかがみだったらどんな理由があってもつかさを助ける、かがみだって同じだよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">その通りだ。かがみはいのりに思わず相槌をした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「うんん、お姉ちゃんの気持ちは関係ないの、このまま私を嫌いになってくれた方がいいよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「なぜ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「私が死んでも悲しまなくてすむから」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみの目が潤んだ。この場に居られないくらいだった。あの程度でかがみがつかさを嫌いになるはずもない。それどころか余計につかさを亡くしたくない。死なせたくない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「ばか！！つかさは私の、いや、お父さん、お母さん、まつりの気持ちはどうでも良いって言うの、私たちはもう知ってしまった、もう忘れることすらできない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりの目にも涙が溜まっている。つかさがそれに気づいた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「ごめんなさい、ほんとうは皆もお姉ちゃんと同じようにするはずだったけど無理だった」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「友達には話したの、よく遊びに来た子がいるでしょ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「話してない、でも、遺書も書いたし、それに私の病気は不治の病じゃないんでしょ、だから、話さない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりは何も話さず黙ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「話が終わりなら夕食の買い物行って来るよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「部屋で休んでなさない、私が行く」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「大丈夫だよ、今日はとっても調子がいいの」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさは家の中に入っていった。いのりもかがみもその場に立ったまま動かなかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
表の玄関の扉が閉まる音が聞こえた。つかさが出かけたのが分かった。かがみは我に返り涙を拭った。そして表に回った。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">少し時間が経ってからいのりがやってきた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「おかえり、かがみ早いね、帰りは夜になるんじゃなかったの」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは家にいない。聞くなら今しかないだろう。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「そう、そのはずだった、そのおかげかしら、裏庭でつかさといのり姉さんの会話を聞くことができた」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりは驚き一歩後退した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「ま、まさか、さっきの会話聞いてしまった？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「聞いたわよ、それでもまだ解せない事がある、話して」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「い、いや、それは……」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりは動揺を隠せなかった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「安心して、つかさには私はまだ何も知らないように振舞うから、いのり姉さんだってつかさに一生恨まれたくないでしょ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「つかさが病気なんて夢であって欲しい……こんな事って、かがみ……ううぅ、かがみ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのりはまた泣き始めてしまった。かがみも泣きたかったがぐっと堪えた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「早くしないとつかさが帰ってくるじゃない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「そうね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> いのりは当時を思い出しながら話した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「発病したのは三ヶ月前、その日かがみは大学の行事で留守だった、食事中にいきなり倒れちゃってね、救急車で病院に搬送、その場で緊急入院のはずだった」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「はずだった？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「つかさの希望で自宅療養になった、なんでも皆と一緒に居たいって、薬で今の所落ち着いているけど悪化したら入院して骨髄移植を受けないと助からない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「骨髄移植って血液型が合わないとできないんじゃ？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「そう、殆ど一致しないとできない、家族でも出来ない場合があるみたいね、柊家は調べたけど私を含めて全滅ね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「……私、私が居るわ、双子なら問題ない、そうでしょ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「一卵性の双子ならね、あんたたちは二卵性、一緒に生まれただけで普通の姉妹と同じ、調べてみないと分からない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみとつかさ、一緒に生まれただけで普通の姉妹と変わらない。しかもつかさを助けられないかもしれない。厳しい現実を突きつけられた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「つかさの病気は分かった、もう一つ、つかさがあれだけ私を避けているのは病気だけの理由じゃないと思うけど知ってる？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
いのり「かがみが悲しまなくて良いって言っていたけど、それ以外知らない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
もしそれが理由ならこなたにやみゆき、その他の友人にも同じ事をするだろう。現にこなたは誕生プレゼントを貰っている。つかさがますます分からなくなった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「……それじゃ私は喫茶店でも行って時間を潰してくるわ、夕食の時間ころ戻ってくる、これならつかさにも怪しまれない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「そこまでしなくても」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「つかさは必死になっている、私たちには理解できなくてもそれは伝わってくる、好きなようにさせてあげよう、それでつかさの気が済むなら」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのりは頷いた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
普段入ることの無いお店。そこでかがみは時間を潰した。いつもの喫茶店だとつかさが来る可能性があったからだ。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
そこでコーヒーを一杯。一人なら本でも読んでいるがそんな気にはなれなかった。コーヒーを飲むたびにため息が出た。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
『好きなように』とは言ったものの、つかさの考えを正そうと考えていた。できればつかさ自身の口から病気の事を話してもらいたい。どうすればいい。いろいろな案が浮かんでは消えた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
ふと、かがみにある考えが浮かんだ。これならうまくいきそうだ。早速今夜その考えを実行する決意をした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
それとは別につかさの病気を家族だけの秘密にすることは出来ない。しかしメールで教えるのはあまりにも薄情だ。かがみは明日の夕方、陸桜学園の校門前に来るように</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみが知りうる全てのつかさの友達にメールをした。その時全てを話そう。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="text-indent:10.5pt;margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみが家に帰ると既に家族全員帰っていた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ただいま」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">「「「おかえり」」」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさを除いた全員が答えた。かがみは居間の机の上にこれ見ようがしにパンフレットを置いた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">まつり「なにそれ……アパートの見取り図じゃない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「ちょっと不動産屋さんに行って物件を見てきた」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
皆は顔を見合わせて驚いている。かがみはチラっとつかさを見た。俯いていて表情は分からないがきっと驚いているに違いない。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みき「不動産ってかがみ、まさか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「大学までの通学が結構時間がかかっちゃってね、大学の近くに引っ越すことにしたわ、大学にも寮があるけどそれでもいいかな」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「あんた、それ本気で言ってるの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
もちろん本気ではない。つかさにしている事が下らないと分かってもらうための演技だ。いのりの質問の意味をかがみだけが理解した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「もちろん本気よ、一人暮らしもいいかなって、それに若干一名私をウザいと思ってる人がいるしねー」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみはいのりを見ながら話した。いのりは目で合図をした。かがみの意図を理解したようだ。そして全員つかさに注目した。つかさは重い口を開いた。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさ「やっと居なくなるんだ、嬉しいな」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは立ち上がり居間を出ようとした。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">ただお「つかさ待ちなさい、かがみに何か言うことがあるだろう」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">父、ただおがつかさを止めた。かがみはつかさの言葉に期待した。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「何もないよ、かがみの顔を見なくて済むから引越しは早くしてね、アパート探しなら手伝ってあげるよ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
演技とは言え呼び捨てにされた。それに演技力も上がっているような気がした。もし演技だと知らなかったら本気にするところだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
まつり「つかさどうしたのさ、かがみを止めないのか、言っちゃいなよ、言うなら今しかない」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">珍しく本気になってつかさを説得するまつりだった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
つかさ「何も知らないで、か、かがみのばか、引越し先で死んじゃえばいいんだ！！」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">つかさは家を飛び出すように出て行ってしまった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">かがみ「死にそうなのはつかさの方じゃない、ばか」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みき「かがみ、つかさの病気を知っているの？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">母、みきはかがみの呟きに驚いた様子だった。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">いのり「私とつかさの会話を偶然聞いちゃってね」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">みき「かがみの引越しの話は？」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">
かがみ「作り話よ、つかさがあそこまで意固地になるとは思わなかったわ」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">ただお「それよりつかさが心配だ、迎えに行って来る」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">まつり「私も行く、つかさが行く場所に心当たりがあるから」</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;">ただおとまつりはつかさを探しに家を出た。</div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"> </div>
<div style="margin:0mm -45.65pt 0pt 0mm;"><a href="http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1704.html">次のページへ</a></div>
