「ID:hZU732SO氏:小さなお話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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右を見ても左を見ても知らない風景。
一緒にいてたはずのお母さんもいない。
ああ、そっか。これが迷子なんだ。
そう気がつくと、不安が一気に押し寄せてきた。
どうしよう…どうすればいいんだろう。
- 小さなお話 -
とりあえず、動かない方がいい。
わたしはそう思って近くにあった塀にもたれた。
どうしようって言葉だけが、ずっと頭の中をぐるぐる回っている。
このままお母さんに会えなかったらどうしよう。このままお家に帰れなかったらどうしよう。
「…う…うぇ…やだよぉ…」
涙が出始めると、もう止まらなかった。わたしはひたすら泣きじゃくった。
「…えと…あの…」
しばらく泣いていると、誰かから声をかけられた。
顔をあげて見ると、わたしと同い年くらいの女の子が、今にも泣きそうな顔で立っていた。
「…な、泣かな…ふ、ふえ…泣かないで…」
というか泣いていた。
溢れてくる涙を一生懸命拭いながら、わたしを慰めようとしてくれている。
「…うん、もう泣かない」
わたしは目の端に溜まった涙を拭い去って、その子の顔をちゃんと見た。
「…よかった…」
女の子はそう言って、また目に涙を溜めはじめた。
「えっと…」
わたしが何か声をかけようとすると、女の子はぐっと顔を拭って、わたしの手を掴んだ。
「こ、公園…」
そして消え入りそうな小さな声でそう言った。
「…え、公園?」
わたしがそう聞き返すと、女の子は手を握ったまま早足で歩きだした。
「え、え、あ、あの…」
わたしもそれに引きずられるように歩きだす。
「公園…み、みんないるから」
さっきよりはっきりとした声で、女の子がそう言った。
ここでお母さんを待たないと…わたしはそう思ったけど、なぜかその子に逆らえずに手を引かれるままついていった。
「あ、あれ…どうして…」
女の子に手を引かれてやってきた公園。結構広いんだけど、誰も居なくてシーンとしてる。
「さ、さっきまでみんないたのに…」
また泣きそうになりながら、女の子は公園の中をあちこち見て回る。手はまだ繋がれたままだ。
「…ごめんね」
急に立ち止まった女の子が、わたしの手を離して謝ってきた。
「みんないたら、寂しくないのに…」
そっか。わたしが一人で泣いてたから、この子は他の子供がたくさんいるはずだったここに連れてきたんだ。わたしが、寂しくなくなるように。
わたしは自分がまだ迷子だというのに、なんだか嬉しくなった。
「大丈夫…」
そう言いながら、今度はわたしから女の子の手を握った。
女の子が驚いてわたしの方を見る。
「寂しくないよ。だって、あなたがいるもん」
わたしは、精一杯の笑顔を作ってそう言った。
寂しく無いってのは嘘だけど、この子にはそんな気持ちは見せられない。わたしはそう思った。
「今日はブランコ乗れないって思ってたんだよね」
誰もいない公園でわたし達はゆっくりとブランコを漕ぎながら、色々と話をしていた。
「ブランコ、人気あるんだ」
わたしがそう言うと、女の子は少し困った顔をして頷いた。
「うん。いつも誰か乗ってて…」
わたしがいつも行ってる公園は、ブランコよく空いてるんだけどな。
「この前ね、面白い子がいたんだ」
しばらく二人でブランコをこいでいると、女の子が急にそう言った。
「面白い?」
「うん。この辺の子じゃないみたいなんだけどね」
こちらを気にしながら、女の子が話を続ける。もしかして、わたしが退屈しないようにしてくれてるのかな。
「その子、お父さんと来てたんだけどね、男の子にも負けないくらい運動できてて、ほらあれ…」
女の子が指差す方を見ると、すごく高いジャングルジムがあった。
「あのてっぺんにも、すいすい登っちゃったんだ」
「へー、すごいね」
本当にすごいと思った。とてもわたしには出来ないことだ。
「それでね、その子ジャングルジムのてっぺんで、こう腕組んで立って…」
それもすごいと思う。あんなところ、怖くてとても立つなんて無理。
「『フハハハ!見ろ、人がゴミのようだ!』って大きな声で言ってたんだ」
「ゴ、ゴミ…」
…えーっと…うん、すごいと思う。そんなこと普通大声で言えないし。
「で、降りてきた後にね、わたしのお姉ちゃんに頭小突かれててたんだ。『ゴミってなんだー』って」
「そ、それいいのかな…あ、えっとお姉ちゃんがいるんだ」
わたしがそう言うと、女の子はどこか誇らしげに微笑んだ。
「うん。わたしの自慢のお姉ちゃんなんだ」
「へー…わたし一人っ子だから、ちょっとうらやましいな」
わたしは迷子のことも忘れて、その子との話に夢中になっていた。
もう、寂しく無いは嘘じゃなくなっていた。
「高良さーん。出して来たよー」
職員室から出てきた柊さんを、わたしは笑顔で出迎えました。
「どうでしたか?」
そう聞いてはみたものの、柊さんの嬉しそうな表情を見れば、結果は一目瞭然です。
「うん、ばっちり。これなら問題ないって」
「そうですか…良かったです」
「ホントにありがとう。高良さんが手伝ってくれたからだよ。わたしとこなちゃんじゃ、絶対終わらなかったよ」
「いえ、そんなことは…わたしはほんの少し手伝っただけですから」
わたしが手を振りながらそういうと、柊さんは辺りをキョロキョロと見回しました。
「そういえば、こなちゃんは?」
「泉さんなら、先程用事があるから先に帰ると…」
作業の間もしきりに気にしてましたから、余程大事な用事だったのでしょう。
「もー、こなちゃんひどいなー。待っててくれてもいいのに。ってか一緒に帰ろうって言ってたのに」
そう言って少し頬を膨らませる柊さんを見てると、なんだかおかしくなって、わたしは柊さんから見えないように顔を背けました。
「あ、高良さんもしかして笑ってる?」
でも、すぐにばれてしまいました。
「す、すいません…お詫びと言ってはなんですけど、わたしと一緒に帰りませんか?」
「え、いいの?」
「はい。方向が逆ですから、駅までですけど…」
「うん!じゃあ鞄取ってくるね!」
嬉しそうに駆け出す柊さん。わたしは、その姿を見てとても満足した気分になっていました。
文化祭の準備が遅れている班を手伝う。最初はただそれだけの事でした。
でも、一緒に作業を進めるうちに、柊さんとどこかで会ったような感覚を覚えました。
そして、休息中の何気ない雑談。柊さんが話してくれた、子供の頃の迷子の女の子の話。
あの時の…迷子のわたしを助けてくれた女の子が、柊さんだった…わたしは話を聞いてそう確信しました。
お母さんがわたしを探して公園にくるまでの間、ずっと話相手をしてくれて、『よかったね』と笑顔で言ってくれた女の子。
ずっと、何かお返しがしたいと思ってたのですが、今日の事で少しは恩返しが出来たでしょうか?
「…高良さん?どうかしたの?」
「へ?…あ、いえ、なんでもありませんよ、柊さん」
ぼーっとしていたらしく、急に声をかけられて、わたしはひどく慌ててしまいました。
「んーと、それなんだけど…柊さんじゃなくて、名前で呼んでくれたほうがいいかも」
「え、それはどうしてですか?」
「わたし、別のクラスにお姉ちゃんがいるんだ。双子の。だから、名字だとややこしいかなって」
そういえば、あの時もお姉さんの話が少し出てたような気がします。
「そうですか…では、つかささんで」
「うん」
なんだか少し照れ臭さは残りますが、じきに慣れるでしょう。
「では、わたしの事も好きに呼んで下さって結構ですよ」
わたしがそう提案すると、つかささんは少し首をかしげて考え始めました。
「じゃあ、ゆきちゃん」
あだ名がくるとは思いませんでした。
「…えーっと、だめ…かな?」
わたしの沈黙を否定と受け取ったのか、自信なさげにつかささんがそう呟きました。
「い、いえ、ちょっと驚いただけで、それで結構ですよ」
慌ててそう言うわたしを見て、つかささんは嬉しそうに笑いました。
「そっか…良かった」
そう言いながらつかささんはわたしの少し前を歩き出しました。
「…ありがとうございます」
その背に、わたしはあの時に結局言えなかった言葉を小さく呟きました。
「ん?なにか言った?」
聞こえてしまったのか、つかささんが顔だけを振り向かせて、そう聞いてきました。
「いえ、なんでもありませんよ」
「そう?だったらいいけど…」
また、前を向いて歩き出すつかささん。
つかささんは、あの時の迷子がわたしだという事には、気付いていないようです。
でも、わたしはあえてその事を自分から伝えようとは思いませんでした。
つかささんが気付いてくれればそれでいい。ずっと気付いてくれなくても、それはそれでいいと、わたしは思いました。
今はただ、新しく出会ったこの時を、ゆっくりと過ごせばいい。
わたしは胸の奥にそっとしまい込みました。
小さなわたしと、小さなあの子。
むかしむかしの小さなお話を。
- 終 -
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右を見ても左を見ても知らない風景。
一緒にいてたはずのお母さんもいない。
ああ、そっか。これが迷子なんだ。
そう気がつくと、不安が一気に押し寄せてきた。
どうしよう…どうすればいいんだろう。
- 小さなお話 -
とりあえず、動かない方がいい。
わたしはそう思って近くにあった塀にもたれた。
どうしようって言葉だけが、ずっと頭の中をぐるぐる回っている。
このままお母さんに会えなかったらどうしよう。このままお家に帰れなかったらどうしよう。
「…う…うぇ…やだよぉ…」
涙が出始めると、もう止まらなかった。わたしはひたすら泣きじゃくった。
「…えと…あの…」
しばらく泣いていると、誰かから声をかけられた。
顔をあげて見ると、わたしと同い年くらいの女の子が、今にも泣きそうな顔で立っていた。
「…な、泣かな…ふ、ふえ…泣かないで…」
というか泣いていた。
溢れてくる涙を一生懸命拭いながら、わたしを慰めようとしてくれている。
「…うん、もう泣かない」
わたしは目の端に溜まった涙を拭い去って、その子の顔をちゃんと見た。
「…よかった…」
女の子はそう言って、また目に涙を溜めはじめた。
「えっと…」
わたしが何か声をかけようとすると、女の子はぐっと顔を拭って、わたしの手を掴んだ。
「こ、公園…」
そして消え入りそうな小さな声でそう言った。
「…え、公園?」
わたしがそう聞き返すと、女の子は手を握ったまま早足で歩きだした。
「え、え、あ、あの…」
わたしもそれに引きずられるように歩きだす。
「公園…み、みんないるから」
さっきよりはっきりとした声で、女の子がそう言った。
ここでお母さんを待たないと…わたしはそう思ったけど、なぜかその子に逆らえずに手を引かれるままついていった。
「あ、あれ…どうして…」
女の子に手を引かれてやってきた公園。結構広いんだけど、誰も居なくてシーンとしてる。
「さ、さっきまでみんないたのに…」
また泣きそうになりながら、女の子は公園の中をあちこち見て回る。手はまだ繋がれたままだ。
「…ごめんね」
急に立ち止まった女の子が、わたしの手を離して謝ってきた。
「みんないたら、寂しくないのに…」
そっか。わたしが一人で泣いてたから、この子は他の子供がたくさんいるはずだったここに連れてきたんだ。わたしが、寂しくなくなるように。
わたしは自分がまだ迷子だというのに、なんだか嬉しくなった。
「大丈夫…」
そう言いながら、今度はわたしから女の子の手を握った。
女の子が驚いてわたしの方を見る。
「寂しくないよ。だって、あなたがいるもん」
わたしは、精一杯の笑顔を作ってそう言った。
寂しく無いってのは嘘だけど、この子にはそんな気持ちは見せられない。わたしはそう思った。
「今日はブランコ乗れないって思ってたんだよね」
誰もいない公園でわたし達はゆっくりとブランコを漕ぎながら、色々と話をしていた。
「ブランコ、人気あるんだ」
わたしがそう言うと、女の子は少し困った顔をして頷いた。
「うん。いつも誰か乗ってて…」
わたしがいつも行ってる公園は、ブランコよく空いてるんだけどな。
「この前ね、面白い子がいたんだ」
しばらく二人でブランコをこいでいると、女の子が急にそう言った。
「面白い?」
「うん。この辺の子じゃないみたいなんだけどね」
こちらを気にしながら、女の子が話を続ける。もしかして、わたしが退屈しないようにしてくれてるのかな。
「その子、お父さんと来てたんだけどね、男の子にも負けないくらい運動できてて、ほらあれ…」
女の子が指差す方を見ると、すごく高いジャングルジムがあった。
「あのてっぺんにも、すいすい登っちゃったんだ」
「へー、すごいね」
本当にすごいと思った。とてもわたしには出来ないことだ。
「それでね、その子ジャングルジムのてっぺんで、こう腕組んで立って…」
それもすごいと思う。あんなところ、怖くてとても立つなんて無理。
「『フハハハ!見ろ、人がゴミのようだ!』って大きな声で言ってたんだ」
「ゴ、ゴミ…」
…えーっと…うん、すごいと思う。そんなこと普通大声で言えないし。
「で、降りてきた後にね、わたしのお姉ちゃんに頭小突かれててたんだ。『ゴミってなんだー』って」
「そ、それいいのかな…あ、えっとお姉ちゃんがいるんだ」
わたしがそう言うと、女の子はどこか誇らしげに微笑んだ。
「うん。わたしの自慢のお姉ちゃんなんだ」
「へー…わたし一人っ子だから、ちょっとうらやましいな」
わたしは迷子のことも忘れて、その子との話に夢中になっていた。
もう、寂しく無いは嘘じゃなくなっていた。
「高良さーん。出して来たよー」
職員室から出てきた柊さんを、わたしは笑顔で出迎えました。
「どうでしたか?」
そう聞いてはみたものの、柊さんの嬉しそうな表情を見れば、結果は一目瞭然です。
「うん、ばっちり。これなら問題ないって」
「そうですか…良かったです」
「ホントにありがとう。高良さんが手伝ってくれたからだよ。わたしとこなちゃんじゃ、絶対終わらなかったよ」
「いえ、そんなことは…わたしはほんの少し手伝っただけですから」
わたしが手を振りながらそういうと、柊さんは辺りをキョロキョロと見回しました。
「そういえば、こなちゃんは?」
「泉さんなら、先程用事があるから先に帰ると…」
作業の間もしきりに気にしてましたから、余程大事な用事だったのでしょう。
「もー、こなちゃんひどいなー。待っててくれてもいいのに。ってか一緒に帰ろうって言ってたのに」
そう言って少し頬を膨らませる柊さんを見てると、なんだかおかしくなって、わたしは柊さんから見えないように顔を背けました。
「あ、高良さんもしかして笑ってる?」
でも、すぐにばれてしまいました。
「す、すいません…お詫びと言ってはなんですけど、わたしと一緒に帰りませんか?」
「え、いいの?」
「はい。方向が逆ですから、駅までですけど…」
「うん!じゃあ鞄取ってくるね!」
嬉しそうに駆け出す柊さん。わたしは、その姿を見てとても満足した気分になっていました。
文化祭の準備が遅れている班を手伝う。最初はただそれだけの事でした。
でも、一緒に作業を進めるうちに、柊さんとどこかで会ったような感覚を覚えました。
そして、休息中の何気ない雑談。柊さんが話してくれた、子供の頃の迷子の女の子の話。
あの時の…迷子のわたしを助けてくれた女の子が、柊さんだった…わたしは話を聞いてそう確信しました。
お母さんがわたしを探して公園にくるまでの間、ずっと話相手をしてくれて、『よかったね』と笑顔で言ってくれた女の子。
ずっと、何かお返しがしたいと思ってたのですが、今日の事で少しは恩返しが出来たでしょうか?
「…高良さん?どうかしたの?」
「へ?…あ、いえ、なんでもありませんよ、柊さん」
ぼーっとしていたらしく、急に声をかけられて、わたしはひどく慌ててしまいました。
「んーと、それなんだけど…柊さんじゃなくて、名前で呼んでくれたほうがいいかも」
「え、それはどうしてですか?」
「わたし、別のクラスにお姉ちゃんがいるんだ。双子の。だから、名字だとややこしいかなって」
そういえば、あの時もお姉さんの話が少し出てたような気がします。
「そうですか…では、つかささんで」
「うん」
なんだか少し照れ臭さは残りますが、じきに慣れるでしょう。
「では、わたしの事も好きに呼んで下さって結構ですよ」
わたしがそう提案すると、つかささんは少し首をかしげて考え始めました。
「じゃあ、ゆきちゃん」
あだ名がくるとは思いませんでした。
「…えーっと、だめ…かな?」
わたしの沈黙を否定と受け取ったのか、自信なさげにつかささんがそう呟きました。
「い、いえ、ちょっと驚いただけで、それで結構ですよ」
慌ててそう言うわたしを見て、つかささんは嬉しそうに笑いました。
「そっか…良かった」
そう言いながらつかささんはわたしの少し前を歩き出しました。
「…ありがとうございます」
その背に、わたしはあの時に結局言えなかった言葉を小さく呟きました。
「ん?なにか言った?」
聞こえてしまったのか、つかささんが顔だけを振り向かせて、そう聞いてきました。
「いえ、なんでもありませんよ」
「そう?だったらいいけど…」
また、前を向いて歩き出すつかささん。
つかささんは、あの時の迷子がわたしだという事には、気付いていないようです。
でも、わたしはあえてその事を自分から伝えようとは思いませんでした。
つかささんが気付いてくれればそれでいい。ずっと気付いてくれなくても、それはそれでいいと、わたしは思いました。
今はただ、新しく出会ったこの時を、ゆっくりと過ごせばいい。
わたしは胸の奥にそっとしまい込みました。
小さなわたしと、小さなあの子。
むかしむかしの小さなお話を。
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- そういえばつかさとみゆきの出会いはあまり語られてませんね &br()こんな出会い方も中々GOODです &br()でも、まさか幼いつかさからどこぞの天空の城の王ネタが出てくるとは・・・ &br()一瞬こなたかと思った(マテ -- 名無しさん (2010-10-13 20:26:50)