ID:lcZPUzk0氏:暴風雨の夜

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大型で猛烈な台風8号は、現在、○○沖にあり、北上を続けています。今晩には関東地方に上陸し……。  ラジオから流れるのは、ずっと台風のニュースばかりだ。気象庁発足以来最大規模の暴風だとか、そんな言葉が繰り返されている。関東地方においては今晩を耐えしのげば暴風圏は脱するといった情報も伝えられていた。  既に、関東地方のほぼ全域に避難指示が発せられている。  それにしたがって、まつり、かがみ、つかさは、いのりの娘とともに、近くの小学校の体育館に避難していた。 「おぎゃー、おぎゃー」  かがみに抱かれたいのりの娘が泣き出した。 「なんで、私にはなつかないのよ、この子は」 「本能でかがみの凶暴さを悟ってんじゃないの?」  まつりがちゃかす。  つかさがかがみから抱き取ると、いのりの娘はとたんに泣き止んだ。  かがみがむすっとする。  そこに、ただおといのりの婿さんがやってきた。 「はーい。お父さんですよ」  つかさがそう言って、婿さんに娘を手渡す。いのりの娘は父親に抱かれてますますご機嫌だった。 「あれ? お母さんと姉さんは?」  まつりがそう問うと、 「母さんといのりは、神社に残ったよ。今晩はずっと安全祈願をするってね」  ただおがそう答えた。 「大丈夫なの?」  かがみが心配そうにそういう。 「大丈夫だよ。うちの神社は丈夫だから」  神社では、みきといのりが安全祈願の儀式の準備をしていた。二人とも神職の装束に身を包んでいる。  準備といってもたいしたものではないが。  そこに、市役所の職員が訪れた。みきが応対する。 「何か御用ですか?」 「まあ、一応、避難指示が出てますので、建前上は住民には避難を促さなければならないというわけでして……」 「御苦労様です」 「あと、市長から非公式に伝言です。くれぐれもよろしくお願いしますと」 「どれぐらい御期待にそえるかは分かりませんが、できる限りことはしてみます」 「私からもよろしくお願いします」  職員はそういって頭を下げると、去っていった。 「今の人って……?」  いのりが疑問形で言葉を切った。 「この地域じゃ古い家系の出身よ。市長さんもね。代々うちの氏子さんだし。うちの神社の伝説はよく知ってるのよ」 「なるほどね」  夜、本格的に暴風が吹き荒れ始めたころ、みきといのりは、神社の奥殿で儀式を始めた。  二人で朗々と祝詞を読み上げる。  その一字一句が一種の言霊である。  絶大な力をもった御先祖様は、その言霊で台風をも鎮めたといわれているが、現代のみきといのりにはそこまでの力はない。  それでも、気象庁発足以来最大規模の暴風を単なる強風にレベルダウンさせるだけでも、被害は大幅に抑えられる。  夜中、小学校の体育館。  まつり、かがみ、つかさと、いのりの娘は既に寝入っていた。  ただおと婿さんは、まだ起きていた。曲がりなりにも彼らも神職だ。みきやいのりのような力はなくても、祈ることはできる。だから、二人は静かに祈りをささげていた。  ふと気づくと、ごうごう唸りを上げていた風の音量が徐々に下がっている。 「あうあう」  いのりの娘が目を覚まして、小さな両手を動かしていた。 「この子には『力』が感じられるんでしょうかね?」 「そうだろうね」  この娘は、代々女系でつらなってきた柊家の後継者だ。素質はあるのだろう。  翌朝。  まつり、かがみ、つかさが目を覚ますと、既にただおはいなかった。 「お父さんは?」  まつりの問いに婿さんが答える。 「先に帰ったよ」  あれほど吹き荒れていた風の音も、今はもうない。気象庁の予報どおり、一晩で通り過ぎようだ。  持参してきたおにぎりを食べた(いのりの娘は哺乳瓶でミルクである)あと、みんなで家路についた。  昨晩の暴風雨が嘘みたいに、台風一過の晴天だった。  ただおが神社の奥殿に入ると、二人が倒れていた。  二人とも、力を使い果たして熟睡している。  ただおは、二人を一人ずつ背負って家に運んでベッドに寝かせたあと、神社の点検を始めた。  神社本体には損傷はなく、祭事に使う道具など(文化財に指定されているものもある)も無事だった。  境内には小枝やら葉っぱやら、どっかから飛んできたゴミやらが散乱していたが、折れている木はない。鳥居も無事だ。  そこに、まつりたちが帰ってきて、境内の清掃にとりかかった。 「まーま」  その声にいのりが目を覚ますと、視界に娘の姿が入ってきた。  夫が隣に寝かせておいてくれたのだろう。その娘が目を覚まして、両手をいのりに向けて伸ばしていた。 「おはよう。いい子にしてた?」 「まー」  時計を見るともう昼に近い。  いのりは娘を抱き上げた。 「一緒にシャワーしましょうね」  二人でシャワーを終えると、母のみきは既に昼食の準備を終えていた。みきはいのりより先に起きてシャワーを浴び終えている。  食卓にまつりたちがわらわらと戻ってきた。  テレビを見ながらみんなで昼食だ。  テレビ画面には、各地の被害状況が映し出されていた。  関東地方のほぼ全域で電柱が倒れまくり、街路樹の多くがへし折れていた。住宅街でも窓ガラスが割れたという被害は多いようだ。車が舞い上がって家に突き刺さったという信じがたい被害も報道されている。  交通機関も復旧してないところが多く、まつりたちの大学や専門学校も今日は休みだった。  それに比べると市内の被害は驚くほど少ない。折れてる電柱も街路樹もなく、住宅街にも被害らしい被害はない。 「うちの近くは被害少ないね」  まつりがそういうと、 「お母さんといのりお姉ちゃんが一晩中お祈りしてたおかげかな?」  つかさがそんなことをいった。  それに、かがみが突っ込む。 「たまたま台風の目にあたったとかなんじゃないの?」  みきといのりは、それには何も言及しなかった。ただおと婿さんもそれにならっている。  一般市民の多くは、自分のところだけ被害が少ないことについては、運がよかった程度にしか思わなかった。  首をかしげたのは、被害状況を集計している県のお役人と気象観測情報を集計している気象庁のお役人ぐらいだった。  真相を知る者、真相を悟った者は口をつぐみ、何も語らなかった。  柊家に代々伝わる「力」のことは、現代においては伝説あるいは迷信として片付けてしまうべきものであり、公にされてはならないものだから。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 普通だと・・・思ってたんですがwwwやっぱ神社の家なんですねwwww &br()っていうかそういうアニメじゃねえからこれ! -- 名無しさん (2010-08-10 23:16:05)
大型で猛烈な台風8号は、現在、○○沖にあり、北上を続けています。今晩には関東地方に上陸し……。  ラジオから流れるのは、ずっと台風のニュースばかりだ。気象庁発足以来最大規模の暴風だとか、そんな言葉が繰り返されている。関東地方においては今晩を耐えしのげば暴風圏は脱するといった情報も伝えられていた。  既に、関東地方のほぼ全域に避難指示が発せられている。  それにしたがって、まつり、かがみ、つかさは、いのりの娘とともに、近くの小学校の体育館に避難していた。 「おぎゃー、おぎゃー」  かがみに抱かれたいのりの娘が泣き出した。 「なんで、私にはなつかないのよ、この子は」 「本能でかがみの凶暴さを悟ってんじゃないの?」  まつりがちゃかす。  つかさがかがみから抱き取ると、いのりの娘はとたんに泣き止んだ。  かがみがむすっとする。  そこに、ただおといのりの婿さんがやってきた。 「はーい。お父さんですよ」  つかさがそう言って、婿さんに娘を手渡す。いのりの娘は父親に抱かれてますますご機嫌だった。 「あれ? お母さんと姉さんは?」  まつりがそう問うと、 「母さんといのりは、神社に残ったよ。今晩はずっと安全祈願をするってね」  ただおがそう答えた。 「大丈夫なの?」  かがみが心配そうにそういう。 「大丈夫だよ。うちの神社は丈夫だから」  神社では、みきといのりが安全祈願の儀式の準備をしていた。二人とも神職の装束に身を包んでいる。  準備といってもたいしたものではないが。  そこに、市役所の職員が訪れた。みきが応対する。 「何か御用ですか?」 「まあ、一応、避難指示が出てますので、建前上は住民には避難を促さなければならないというわけでして……」 「御苦労様です」 「あと、市長から非公式に伝言です。くれぐれもよろしくお願いしますと」 「どれぐらい御期待にそえるかは分かりませんが、できる限りことはしてみます」 「私からもよろしくお願いします」  職員はそういって頭を下げると、去っていった。 「今の人って……?」  いのりが疑問形で言葉を切った。 「この地域じゃ古い家系の出身よ。市長さんもね。代々うちの氏子さんだし。うちの神社の伝説はよく知ってるのよ」 「なるほどね」  夜、本格的に暴風が吹き荒れ始めたころ、みきといのりは、神社の奥殿で儀式を始めた。  二人で朗々と祝詞を読み上げる。  その一字一句が一種の言霊である。  絶大な力をもった御先祖様は、その言霊で台風をも鎮めたといわれているが、現代のみきといのりにはそこまでの力はない。  それでも、気象庁発足以来最大規模の暴風を単なる強風にレベルダウンさせるだけでも、被害は大幅に抑えられる。  夜中、小学校の体育館。  まつり、かがみ、つかさと、いのりの娘は既に寝入っていた。  ただおと婿さんは、まだ起きていた。曲がりなりにも彼らも神職だ。みきやいのりのような力はなくても、祈ることはできる。だから、二人は静かに祈りをささげていた。  ふと気づくと、ごうごう唸りを上げていた風の音量が徐々に下がっている。 「あうあう」  いのりの娘が目を覚まして、小さな両手を動かしていた。 「この子には『力』が感じられるんでしょうかね?」 「そうだろうね」  この娘は、代々女系でつらなってきた柊家の後継者だ。素質はあるのだろう。  翌朝。  まつり、かがみ、つかさが目を覚ますと、既にただおはいなかった。 「お父さんは?」  まつりの問いに婿さんが答える。 「先に帰ったよ」  あれほど吹き荒れていた風の音も、今はもうない。気象庁の予報どおり、一晩で通り過ぎようだ。  持参してきたおにぎりを食べた(いのりの娘は哺乳瓶でミルクである)あと、みんなで家路についた。  昨晩の暴風雨が嘘みたいに、台風一過の晴天だった。  ただおが神社の奥殿に入ると、二人が倒れていた。  二人とも、力を使い果たして熟睡している。  ただおは、二人を一人ずつ背負って家に運んでベッドに寝かせたあと、神社の点検を始めた。  神社本体には損傷はなく、祭事に使う道具など(文化財に指定されているものもある)も無事だった。  境内には小枝やら葉っぱやら、どっかから飛んできたゴミやらが散乱していたが、折れている木はない。鳥居も無事だ。  そこに、まつりたちが帰ってきて、境内の清掃にとりかかった。 「まーま」  その声にいのりが目を覚ますと、視界に娘の姿が入ってきた。  夫が隣に寝かせておいてくれたのだろう。その娘が目を覚まして、両手をいのりに向けて伸ばしていた。 「おはよう。いい子にしてた?」 「まー」  時計を見るともう昼に近い。  いのりは娘を抱き上げた。 「一緒にシャワーしましょうね」  二人でシャワーを終えると、母のみきは既に昼食の準備を終えていた。みきはいのりより先に起きてシャワーを浴び終えている。  食卓にまつりたちがわらわらと戻ってきた。  テレビを見ながらみんなで昼食だ。  テレビ画面には、各地の被害状況が映し出されていた。  関東地方のほぼ全域で電柱が倒れまくり、街路樹の多くがへし折れていた。住宅街でも窓ガラスが割れたという被害は多いようだ。車が舞い上がって家に突き刺さったという信じがたい被害も報道されている。  交通機関も復旧してないところが多く、まつりたちの大学や専門学校も今日は休みだった。  それに比べると市内の被害は驚くほど少ない。折れてる電柱も街路樹もなく、住宅街にも被害らしい被害はない。 「うちの近くは被害少ないね」  まつりがそういうと、 「お母さんといのりお姉ちゃんが一晩中お祈りしてたおかげかな?」  つかさがそんなことをいった。  それに、かがみが突っ込む。 「たまたま台風の目にあたったとかなんじゃないの?」  みきといのりは、それには何も言及しなかった。ただおと婿さんもそれにならっている。  一般市民の多くは、自分のところだけ被害が少ないことについては、運がよかった程度にしか思わなかった。  首をかしげたのは、被害状況を集計している県のお役人と気象観測情報を集計している気象庁のお役人ぐらいだった。  真相を知る者、真相を悟った者は口をつぐみ、何も語らなかった。  柊家に代々伝わる「力」のことは、現代においては伝説あるいは迷信として片付けてしまうべきものであり、公にされてはならないものだから。 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 柊家スゲー…。何コレ…。 -- 名無しさん (2012-12-12 18:25:03) - 普通だと・・・思ってたんですがwwwやっぱ神社の家なんですねwwww &br()っていうかそういうアニメじゃねえからこれ! -- 名無しさん (2010-08-10 23:16:05)

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