ID:IsnPOI.0 氏:大人になる

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「お姉ちゃんがウザい」 隣の部屋から、そんな言葉が聞こえてきた気がした。 つかさの声。潜めるようなトーン。さっきから誰かと電話でしゃべっている、その会話の一欠片。 私はベッドでうつぶせに寝転びながらラノベを読んでいた。そんなところに不意打ち。文章に集中していたかったし、あまり気に留めたくはなかったのだが、このような言葉が気にならないはずもなく。 (……今のは、何?) 私は寝転んだまま顔を上げ、つかさの部屋の方を向いた。そこには閉じられたドア。互いのプライバシーもあるので、特に用事がない時には閉じるようにしている、ごく日常的な光景である。 本を置き、そのドアの向こう側へと耳を傾ける。つかさの話し声は随分と小さい。……よく、聞き取れない。 (ねえ、何?) もどかしさに心が浮つく。ところどころ、うーんというやたら長い相槌が聞こえてくる。そんなの聞こえたって仕方がない。 さっきの言葉は本当だったの? 本当ならもう一回くらい聞かせて、確かめさせてほしい。けど、その反面、やっぱり聞きたくはない気もする。 ……ああ、中途半端な気分だ。嫌な気分。ぐずぐずした心に弄ばれている。 それとも、勘違いだったのだろうか? ……それならそれが一番、いいけれど。 (……やっぱり、よく聞こえない) 耳のアンテナを精一杯立てて奮闘している自分。 ……こんなに妹の会話が気になるのは初めてだ。 しばらくして通話が終わる。ぼそぼそとした声の響いていた部屋からは、本当に瞬間的に、一切の音が途絶えた。辺りがしんと静まり返る。 私は手元のラノベに視線を落とした。 読もうか? ページを開こうとしてみる。……ダメだ。心が落ち着いていない。 ああ、やっぱり気になって仕方がない。あれは本音だったのか? それならなぜ……。いやそもそも、あれの発言自体本当にあったかもわからない。そう、空耳かもしれない。 それが空耳だったらいいんだけど……いや、空耳であってほしい。あってほしいんだ。 でも、残念なことに、あれは本当だったんだ。そうだろう。私は信じたくないだけ、多分。 そしたら、やっぱり信じなければいけないかもしれない。やっぱり信じなければ…… ああ、どうしよう。澱みきった混乱が頭をこねくり回す。 本当につかさが私のことをウザいと思っていたとして、一体何をすればいいんだ。そもそもなんでつかさは、私をウザいと言った? 原因がわからない。やっぱりあれは気のせいだった可能性も…… 頭の整理がつかなくなった。もう夜も遅い。布団をかぶることにした。 いつも通りの朝を迎えた。 いつも通りといっても、時刻がいつもと変わらないだけだ。昨夜の不安は、まだ私の心を重く抑えつけている。 ただ、あの混乱した状態よりかは、いくらか頭の整理がついていた。つかさはきっと私をウザく思っている。疑うことはしない。 ……ああ、顔を合わせたくない。どうしようか? 部屋に立ち尽くしたまま、動きもせず、私は考えていた。 朝食はバラバラに食べることもある。昼食も大学にでも行けばつかさがついてくることはない。夕食は? ……ああ、こればかりはどうしようもない。家族が揃って食べるという子どもの頃からの習慣を破るわけにはいかない。 そもそも、私が不自然につかさを避けるような行為があれば、他の家族が目を光らせないはずもない。母さんにでも呼び出されて、「どうしたの?」とでも聞かれるだろう。それを聞かれたら、正直返す言葉がない。 厄介だ。ああもう、いっそ私を監視する存在が一切なくなれば! 「……ふう」 静かにため息をつく。 昨晩の食卓までは、何の隔たりもなく接していたのに。急に話しづらくなるとは……つかさがあんなことを言ったせいだ。 いや、つかさのせいばかりにするわけにもいかない。つかさが私を嫌うのなら、私の態度にも問題点があったのだろう。そうすると結局、原因は私ではないか? 私のしでかしたことに対する結果私が苦しんでいるだけじゃないか。自業自得だ。そう言わずして何と言う。 しかし、私が原因だと認めるにしても、これからつかさにどういう態度を取ればいいんだろう? 謝る、といっても……何に対して謝ればいいのか? そもそもどうして、つかさが私をウザいと思ったのか、やはりその原因がわからない。 「……はあ」 二度目のため息。まったく、朝から悩ましすぎる。 と、ガチャと扉の開く音。隣の部屋からつかさが出てきたらしい。私は固唾を呑み込んだ。 短い廊下を歩いている。階段の手摺に掴まった。階段を下りていく足音。……すぐ聞こえなくなった。 私はほっとした息を漏らす。 ……つかさは、驚くだろうか? いつもなら朝早くから、一階のテーブルに新聞を広げて居座っている私が、今日はいないことに。 普段はそこから二人で会話が始まる。昨日もそうだった。そして二人一緒に家を出てそれぞれの学校へと向かうわけで。 今日のような休日だったら、そこから一緒に和室に移って宿題なり何なりを片付けたり、遊びに出かけもする。 ……ああ、今日はどうなるだろう。 部屋を出るタイミングが計れず、床の下の出来事を案じている。 なんだか、惨めにも程がある。いや、惨めというよりは情けない。たかがあの一言が刺さったくらいで、どうして私は一歩も歩けなくなってるんだ。 ため息をつくのももう飽きてしまった。 ところで、私をウザいと言うなら、つかさはいつ頃から私をそう思い始めたんだろう? 昨日は、あの会話を聞くまでは何の違和感もなく接していた。高校のときと全く変わった気はしない。 高校を卒業してからのこともいくつか思い返してみたが、全く思い当たる節もない。特別なことは何もなかった。 ……となると、やはり普段の態度か。おそらく、私の普段の態度が鼻についていたに違いない。つまりつかさは毎日我慢していたことになる。私がつかさに対して取る態度の中の何かを。 そうすると、おそらくはっきりとした境目はない。徐々に嫌う感情が募った、いつの間にか嫌いになっていた、そんな感じだろう。 嫌い……か。今までのあの子の態度からはそんなの微塵も感じ取れなかったけど。……まったく、つかさはいい子だ。だからこそ余計悩むはめになっているような気もするが。 ガチャンと家の扉が閉まる音が聞こえた。音というか、ドアが閉まる時独特の衝撃が部屋をがらんと揺らした。 もしかして、と思った。 (つかさが外に出た?) カーテンを開けて確認する。そういえば、起きたときにカーテンを開けるのを忘れていたのか。 玄関先を覗く。……ああ、やっぱり。ドアの締め方がやたら丁寧だったから予想はついたが、つかさだ。どこかへ出かけるらしい。 それを確かめると、私はすぐに窓から離れた。つかさがこちらを覗き返してくるとまずいと思ったからだ。 (……今しかないか) つかさの居ない隙を窺い、私は一階に降りて朝食をとった。中くらいの茶碗にお米を1杯、納豆1パック、作りおきの味噌汁1杯。いつあの子が戻ってくるかわからないので、気持ち焦りつつ。 ……鬼の居ぬ間に洗濯、というものを幼稚園の頃以来久しぶりにやった気がする。 夜。夕食は終わった。 両親や二人の姉はとっくに自分の部屋だ。私も既に風呂を済ませて、部屋で寝転んでいる。 ところで食卓では上手く乗り切れたのかといえば、まあ、その通りどうにかなった。でもそれはつかさがいないおかげだった。 母いわく、あの子は友達と食べてくるとのこと。友達というのは大学のサークルでできた同級生の友人らしい。料理研究会というだけに女子が多いようだが、男子部員もそれなりにはいるのだとか。 そういえばここ最近はそうして外に食べに行くことが多かった気がする。……私を嫌ってのこと、と考えるのは自虐的すぎるだろうか。 しかし、今までは友達と食べに行く時は私にもそう教えてくれていたのだが。今日はそんなことは一切私に断らなかったし、電話で連絡もして来なかった。 ……ん? そもそも、今日私とつかさは、一言も会話を交わしていないのでは? そういえばそうだ。 もしかして、向こうにも悟られたのか? 私がつかさに対して及び腰になっていることを。 そうだ。まず私に挨拶をしに来なかったのがおかしい。私の部屋に寄りもせず、そのまま一階へ降りて行ったじゃないか。いつもなら朝起きたら真っ先に来るはずなのに。私の方が話しかけるのをためらっていたから気に留めていなかった。 何かあった。……やっぱり、向こうにも勘づかれたのか? きっとそうだ。それしか考えられる可能性はない。 そしたら、どうして私を避けるのだろうか? まあ、それも決まってるようなものかもしれない。……単純に、私が嫌いなので避けていると考えるのが、もっともらしいだろう。 青菜に塩とはこういうことか。もともと私は青菜のような存在ではないが。 きっかけは全然大きなことではないが、それでも私の精神的なショックはけっこう大きいかもしれない。 これからどれだけ心狭い生活が始まるんだろう、とか考えると……なんだかもうやりきれない。 嫌な未来の想像が頭で暴れる前に私は布団をまとわりつけた。 今日は私が真っ先に朝食をとって出かけた。 もちろんつかさの部屋に挨拶には行かないし、一緒に出かけようなんて声を掛けるわけでもない。 ……仲直りを目論むならそうすべきなのかもしれないが、私はそんな勇ましい心を持ち合わせてはいなかった。 休日だが、今日は大学に行くつもりだ。図書館にでもこもって勉強をしていよう。それくらいしかやることが思いつかない。まあ、中間試験の近い科目もあるし。 駅前の人だかり。私はそれを横目に通り過ぎる。すると突然胸元で音楽が流れだした……携帯電話の着信音だ。 (誰?) 一瞬、もしやつかさでは、という期待と同時に、だったらどうしようという不安が起きかけたが、発信者の名前を見てすぐにそれは消し去られた。通話ボタンを押す。 「ああ、もしもし。どうした?」 「あーかがみん。おひさ。いやあ今日さー、久しぶりに遊ばないかなーと思ったんだけどさ」 こなたか。随分久しぶりに声を聞く気がする……確か一ヶ月ぶりだろうか。 遊ぶというのは、おそらく今日のことだろう。現在午前十時。こんな時刻から予定を取り付けるあたり、変わっていない。 「あーなるほどね。遊ぶってどこでよ?」 「んーどこでもいいんだけどさ、久々に四人で集まりたくなったっていうか」 「あー……」 四人、か。こなたに私にみゆきに……つかさ。 こなたやみゆきには、少し会ってみたい気もするけど……うん、今のような状況でそれはまず無理だ。つかさ抜きで三人で、なんて提案できるわけもない。 「えっと……なんていうか、今日は予定あんのよね。つかさも忙しそうだし、サークルとかで……」 「んーそっかあ」 残念そうなこなたの声。まあ当たり前といえば当たり前だが……こんな私情で予定を断るのも、少々申し訳ない気がする。 こなたはうーんと悩むような声。間が空く。 「まあ仕方ないか」 「うん、悪いけど」 「そうだねーじゃあ次は早めに電話するよ」 「そうねえ」 「ほんじゃ」 通話が切れる。なんだか随分あっさりした会話だった。 携帯電話をポケットに戻し、カードを使って電車に乗る。予定通り大学へ向かうのだ。……別に、他の何よりも優先順位が高いような予定でもないけれど。 夜の食卓。今日もつかさはいない。 「なんか今日随分遅くなったんじゃない? 夕飯」 まつり姉さんがエビフライを咀嚼しながら言う。真っ先にそれに手を出すところも物を食べながら話すところも、まったく。 「あの子がいなかったからちょっと時間がかかっちゃってね」 母さんは苦笑い。 それにしても、二日連続で外食か。今までこんなことなかったけど……ある程度原因ははっきりしているし、今更驚くわけではない。 しかしそうすると、つかさはこれから毎日外食してくるつもりなのか? いくらなんでもそれは…… もしそんなことになったら、それはやっぱり私のせいなんだろうか。 「つかさもお年頃ねーとか言ってみたり」 「あーそれあるかも」 いのり姉さんやまつり姉さんは、どうしても話がそっちにつながるらしい。まあその可能性もなくはないが…… 「ていうかつかさが彼氏なんかできたりしたら一番乗りなわけじゃん? 私らの中で」 「それはちょっと悔しい気がするわねー」 「あなたたちもそろそろそういうの落ち着いてほしいものだけど」 「もうお母さんー」 食卓の盛り上がりはいつもと変わらない。つかさはいないが、いたとしてもあの子はあまり喋らないし。私もくだらない会話は聞き手に回っていることが多い。 しかしこの状況、いつまで持つかわからない。つかさがいないのがまだ二日目だから、食卓はこうやって平常運転しているが……三日目、四日目となると、さすがにどうだ? 食卓がしんと静まりかえるなんてことはないだろうけど、大なり小なり皆つかさのことを案じ始めるだろう。そうすると私も何か問い詰められるのではなかろうか? ……ああ、最初の最初に恐れていたことだ。それが実現しかねない。 「ごちそうさま、風呂入ってくる」 「はーい行ってらっしゃい」 真っ先に席を立つ。別に、見かけは普段どおり。だが、もしここにつかさが入ってきたら──と考えると、早く去ってしまいたい気持ちが強い。 ──やっぱり早くどうにかした方が、いいか? 風呂を上がってまっすぐ部屋に戻ると、私は電話をかけた。 「……あ、もしもし」 「お久しぶりです、かがみさん」 みゆき。私一人では解決出来そうにもない問題。今までこんな相談をしたことはなかったが、この際頼った方が楽だと考えた。 「……えっと、なんていうか、ちょっと相談があるっていうか」 「はい」 今朝のこなたの誘いを断ったこともある。家の中でのことに不安もある。できるだけ早く解決したい。 まとまりのつかない言葉で、私はみゆきに用件を説明した。こういうのが、けっこう難しいことを知る。頭の中で整理しきれていない事柄が山ほどあるようだ。 「…………」 無言になるみゆき。考えているのだろうか。 「……えっと、ですね」 「うん」 「少しお話したいことがあるのですが」 「……うん」 何となく身構える。とても重要なことを伝えますよ、と言わんばかりだ。一体何だろう? 「先日、つかささんから電話をいただいたんです」 「……」 つかさから。それはもしや…… 「……おそらく、二日前ですね。今と同じくらいの時間でした」 「……ああ」 なるほど。つかさはみゆきに相談していたんだ。となると、すごく気になることがある。 「……あのさ、何か言ってた? あの子」 わかりきっていることだが、やはり聞いてみないと気が済まない。 「……ええと、とても言いづらいのですが」 「もしかしてさ、その……『ウザい』とか」 「……言っていました」 やっぱりか。確信が持てた。なるほどそうだったか。あれだけあの言葉に振り回されておいて、いまさら納得するのもおかしいが…… 「それさ、具体的にどんな相談だったの?」 「えっとですね……」 みゆきが話をまとめてくれた。 以前から、つかさは私の態度が鼻についていた。 今、少し嫌いになりかけている。 しかし、過去に頼り切りだったことを考えれば、嫌いになってしまうわけにもいかない…… 「……随分義理深いのねあの子も」 「つかささんはいい人だと思います」 「……同感ね」 ほとんどのことが予想通りだった。ああ、やっぱりか……という安堵。 とともに、何か違和感を覚えた。私の後ろ…… 「……あの、ちょっとごめん。一旦切る」 「え? あ、はい、ではまた」 通話を切断する。後ろを振り返ると、ほんの少しだが、やはりドアが開いている。そして、やっぱり。その隙間からつかさの視線。 夕飯をとっていたときはまだ家の外だったみたいだが……私が入浴している間に帰宅していたらしい。 ドアの隙間から見つめ合う。無言。お互い磔になったような空気。 やがてつかさがのこのこと私の部屋へ入ってきた。 「えっと……」 「……」 話しかけづらそうなつかさ。まあ当たり前だ。私も正直どう応対すればいいかわからない。 「とりあえず、あの、なんていうか」 「……」 「最初から、話した方がいいのかな?」 「……大雑把なことは、もう聞いてるけど」 「えっとね……」 はっきりといつからかはわからないが、おそらく高校を卒業してからだった。 学校も別々になって、私に依存することも減った。いよいよ自立してきたのだと思う。 そのために、私がまだつかさを子ども扱いして、事あるごとに注意を投げてくるのは、心底不快だった。 そして二日前、ついにそれをみゆきに相談してみたが、その最中、明らかに私の部屋から活動の気配が死んでいて、相談していることに気づかれたと思った。 相談した内容が内容だったため、私と顔を合わせるのが何となく気まずく、つい避けて行動してしまった。 サークル仲間と外食する機会が多かったのは、別に私が嫌いだからというわけではなくて、単に誘われることが多かったから。 しかし、今日外食してきたのは、私となるべく会わないようにするためだった── なるほどね。案外つかさも私と同じようなことを考えていたらしい。 しかしその原因はどうやら私にある。正直、まだつかさを未熟者の甘えん坊と思って見くびっていた。よく考えたら大学生にもなって自立心がないわけがない。 「やっぱりそうか……あの、なんていうか、ごめん」 素直に謝りたいという気持ちになる。今度からはもう少し対等に話すようにしよう。私の方が正しいとか、そんなことを考えるのではなく。 「いや、その……私もわがままだったから」 「そんなそんな。つかさも大人になったっていうか、そういうことだし。偉そうにする方がどうかしてた」 つかさは何も言葉を返さない。その代わり、少しだけ笑っていた気がした。 大人って言われたのが嬉しかったのかもしれない。 それから一週間後の土曜日。私たち四人は、繁華街を肩を並べて闊歩していた。 皆が均等に楽しめる場所といえば、カラオケにボウリングにファミレス。大きな本屋などには、皆で行ったりすることはなく。 意外と思われるかもしれないが、このコースを提案したのはこなただった。以前なら例によって、マンガのまとめ買いなんかに付き添わされたりもしたのだが。いわく、「さすがに自重しようかなー」とのこと。何に対する自重かははっきりしないが。 しかし、思えばあの時の電話で、私が四人で集まるのを断ったのを、こなたは強引に誘ったりもできたはずだ。それをせず、こちらの事情を察して素直に諦めたのは、もしかしたらこなたも大人びてきたのかもしれない。 「寒いねー」 「梅雨だからねえ」 四人が四人の傘を手に、歩く。 つかさが大人になり、こなたが大人になり。私も、なんとなく遠慮がちになった気がする。みゆきは、相変わらず、と言ったところだろうか。慎ましく麗しいのは、以前と全く代わり映えがない。 私たち四人の仲はこれからも続いていく。もう、何のいざこざも、言い争いもなく。十年後も二十年後も、こうやって歩くことができるだろう。 しかし、何の遠慮もなしになじみ合えていた、高校時代の四人へはもう戻れないかもしれない、そんな一抹の寂寥感が、風となって私の肩を吹き抜けていった。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
「お姉ちゃんがウザい」 隣の部屋から、そんな言葉が聞こえてきた気がした。 つかさの声。潜めるようなトーン。さっきから誰かと電話でしゃべっている、その会話の一欠片。 私はベッドでうつぶせに寝転びながらラノベを読んでいた。そんなところに不意打ち。文章に集中していたかったし、あまり気に留めたくはなかったのだが、このような言葉が気にならないはずもなく。 (……今のは、何?) 私は寝転んだまま顔を上げ、つかさの部屋の方を向いた。そこには閉じられたドア。互いのプライバシーもあるので、特に用事がない時には閉じるようにしている、ごく日常的な光景である。 本を置き、そのドアの向こう側へと耳を傾ける。つかさの話し声は随分と小さい。……よく、聞き取れない。 (ねえ、何?) もどかしさに心が浮つく。ところどころ、うーんというやたら長い相槌が聞こえてくる。そんなの聞こえたって仕方がない。 さっきの言葉は本当だったの? 本当ならもう一回くらい聞かせて、確かめさせてほしい。けど、その反面、やっぱり聞きたくはない気もする。 ……ああ、中途半端な気分だ。嫌な気分。ぐずぐずした心に弄ばれている。 それとも、勘違いだったのだろうか? ……それならそれが一番、いいけれど。 (……やっぱり、よく聞こえない) 耳のアンテナを精一杯立てて奮闘している自分。 ……こんなに妹の会話が気になるのは初めてだ。 しばらくして通話が終わる。ぼそぼそとした声の響いていた部屋からは、本当に瞬間的に、一切の音が途絶えた。辺りがしんと静まり返る。 私は手元のラノベに視線を落とした。 読もうか? ページを開こうとしてみる。……ダメだ。心が落ち着いていない。 ああ、やっぱり気になって仕方がない。あれは本音だったのか? それならなぜ……。いやそもそも、あれの発言自体本当にあったかもわからない。そう、空耳かもしれない。 それが空耳だったらいいんだけど……いや、空耳であってほしい。あってほしいんだ。 でも、残念なことに、あれは本当だったんだ。そうだろう。私は信じたくないだけ、多分。 そしたら、やっぱり信じなければいけないかもしれない。やっぱり信じなければ…… ああ、どうしよう。澱みきった混乱が頭をこねくり回す。 本当につかさが私のことをウザいと思っていたとして、一体何をすればいいんだ。そもそもなんでつかさは、私をウザいと言った? 原因がわからない。やっぱりあれは気のせいだった可能性も…… 頭の整理がつかなくなった。もう夜も遅い。布団をかぶることにした。 いつも通りの朝を迎えた。 いつも通りといっても、時刻がいつもと変わらないだけだ。昨夜の不安は、まだ私の心を重く抑えつけている。 ただ、あの混乱した状態よりかは、いくらか頭の整理がついていた。つかさはきっと私をウザく思っている。疑うことはしない。 ……ああ、顔を合わせたくない。どうしようか? 部屋に立ち尽くしたまま、動きもせず、私は考えていた。 朝食はバラバラに食べることもある。昼食も大学にでも行けばつかさがついてくることはない。夕食は? ……ああ、こればかりはどうしようもない。家族が揃って食べるという子どもの頃からの習慣を破るわけにはいかない。 そもそも、私が不自然につかさを避けるような行為があれば、他の家族が目を光らせないはずもない。母さんにでも呼び出されて、「どうしたの?」とでも聞かれるだろう。それを聞かれたら、正直返す言葉がない。 厄介だ。ああもう、いっそ私を監視する存在が一切なくなれば! 「……ふう」 静かにため息をつく。 昨晩の食卓までは、何の隔たりもなく接していたのに。急に話しづらくなるとは……つかさがあんなことを言ったせいだ。 いや、つかさのせいばかりにするわけにもいかない。つかさが私を嫌うのなら、私の態度にも問題点があったのだろう。そうすると結局、原因は私ではないか? 私のしでかしたことに対する結果私が苦しんでいるだけじゃないか。自業自得だ。そう言わずして何と言う。 しかし、私が原因だと認めるにしても、これからつかさにどういう態度を取ればいいんだろう? 謝る、といっても……何に対して謝ればいいのか? そもそもどうして、つかさが私をウザいと思ったのか、やはりその原因がわからない。 「……はあ」 二度目のため息。まったく、朝から悩ましすぎる。 と、ガチャと扉の開く音。隣の部屋からつかさが出てきたらしい。私は固唾を呑み込んだ。 短い廊下を歩いている。階段の手摺に掴まった。階段を下りていく足音。……すぐ聞こえなくなった。 私はほっとした息を漏らす。 ……つかさは、驚くだろうか? いつもなら朝早くから、一階のテーブルに新聞を広げて居座っている私が、今日はいないことに。 普段はそこから二人で会話が始まる。昨日もそうだった。そして二人一緒に家を出てそれぞれの学校へと向かうわけで。 今日のような休日だったら、そこから一緒に和室に移って宿題なり何なりを片付けたり、遊びに出かけもする。 ……ああ、今日はどうなるだろう。 部屋を出るタイミングが計れず、床の下の出来事を案じている。 なんだか、惨めにも程がある。いや、惨めというよりは情けない。たかがあの一言が刺さったくらいで、どうして私は一歩も歩けなくなってるんだ。 ため息をつくのももう飽きてしまった。 ところで、私をウザいと言うなら、つかさはいつ頃から私をそう思い始めたんだろう? 昨日は、あの会話を聞くまでは何の違和感もなく接していた。高校のときと全く変わった気はしない。 高校を卒業してからのこともいくつか思い返してみたが、全く思い当たる節もない。特別なことは何もなかった。 ……となると、やはり普段の態度か。おそらく、私の普段の態度が鼻についていたに違いない。つまりつかさは毎日我慢していたことになる。私がつかさに対して取る態度の中の何かを。 そうすると、おそらくはっきりとした境目はない。徐々に嫌う感情が募った、いつの間にか嫌いになっていた、そんな感じだろう。 嫌い……か。今までのあの子の態度からはそんなの微塵も感じ取れなかったけど。……まったく、つかさはいい子だ。だからこそ余計悩むはめになっているような気もするが。 ガチャンと家の扉が閉まる音が聞こえた。音というか、ドアが閉まる時独特の衝撃が部屋をがらんと揺らした。 もしかして、と思った。 (つかさが外に出た?) カーテンを開けて確認する。そういえば、起きたときにカーテンを開けるのを忘れていたのか。 玄関先を覗く。……ああ、やっぱり。ドアの締め方がやたら丁寧だったから予想はついたが、つかさだ。どこかへ出かけるらしい。 それを確かめると、私はすぐに窓から離れた。つかさがこちらを覗き返してくるとまずいと思ったからだ。 (……今しかないか) つかさの居ない隙を窺い、私は一階に降りて朝食をとった。中くらいの茶碗にお米を1杯、納豆1パック、作りおきの味噌汁1杯。いつあの子が戻ってくるかわからないので、気持ち焦りつつ。 ……鬼の居ぬ間に洗濯、というものを幼稚園の頃以来久しぶりにやった気がする。 夜。夕食は終わった。 両親や二人の姉はとっくに自分の部屋だ。私も既に風呂を済ませて、部屋で寝転んでいる。 ところで食卓では上手く乗り切れたのかといえば、まあ、その通りどうにかなった。でもそれはつかさがいないおかげだった。 母いわく、あの子は友達と食べてくるとのこと。友達というのは大学のサークルでできた同級生の友人らしい。料理研究会というだけに女子が多いようだが、男子部員もそれなりにはいるのだとか。 そういえばここ最近はそうして外に食べに行くことが多かった気がする。……私を嫌ってのこと、と考えるのは自虐的すぎるだろうか。 しかし、今までは友達と食べに行く時は私にもそう教えてくれていたのだが。今日はそんなことは一切私に断らなかったし、電話で連絡もして来なかった。 ……ん? そもそも、今日私とつかさは、一言も会話を交わしていないのでは? そういえばそうだ。 もしかして、向こうにも悟られたのか? 私がつかさに対して及び腰になっていることを。 そうだ。まず私に挨拶をしに来なかったのがおかしい。私の部屋に寄りもせず、そのまま一階へ降りて行ったじゃないか。いつもなら朝起きたら真っ先に来るはずなのに。私の方が話しかけるのをためらっていたから気に留めていなかった。 何かあった。……やっぱり、向こうにも勘づかれたのか? きっとそうだ。それしか考えられる可能性はない。 そしたら、どうして私を避けるのだろうか? まあ、それも決まってるようなものかもしれない。……単純に、私が嫌いなので避けていると考えるのが、もっともらしいだろう。 青菜に塩とはこういうことか。もともと私は青菜のような存在ではないが。 きっかけは全然大きなことではないが、それでも私の精神的なショックはけっこう大きいかもしれない。 これからどれだけ心狭い生活が始まるんだろう、とか考えると……なんだかもうやりきれない。 嫌な未来の想像が頭で暴れる前に私は布団をまとわりつけた。 今日は私が真っ先に朝食をとって出かけた。 もちろんつかさの部屋に挨拶には行かないし、一緒に出かけようなんて声を掛けるわけでもない。 ……仲直りを目論むならそうすべきなのかもしれないが、私はそんな勇ましい心を持ち合わせてはいなかった。 休日だが、今日は大学に行くつもりだ。図書館にでもこもって勉強をしていよう。それくらいしかやることが思いつかない。まあ、中間試験の近い科目もあるし。 駅前の人だかり。私はそれを横目に通り過ぎる。すると突然胸元で音楽が流れだした……携帯電話の着信音だ。 (誰?) 一瞬、もしやつかさでは、という期待と同時に、だったらどうしようという不安が起きかけたが、発信者の名前を見てすぐにそれは消し去られた。通話ボタンを押す。 「ああ、もしもし。どうした?」 「あーかがみん。おひさ。いやあ今日さー、久しぶりに遊ばないかなーと思ったんだけどさ」 こなたか。随分久しぶりに声を聞く気がする……確か一ヶ月ぶりだろうか。 遊ぶというのは、おそらく今日のことだろう。現在午前十時。こんな時刻から予定を取り付けるあたり、変わっていない。 「あーなるほどね。遊ぶってどこでよ?」 「んーどこでもいいんだけどさ、久々に四人で集まりたくなったっていうか」 「あー……」 四人、か。こなたに私にみゆきに……つかさ。 こなたやみゆきには、少し会ってみたい気もするけど……うん、今のような状況でそれはまず無理だ。つかさ抜きで三人で、なんて提案できるわけもない。 「えっと……なんていうか、今日は予定あんのよね。つかさも忙しそうだし、サークルとかで……」 「んーそっかあ」 残念そうなこなたの声。まあ当たり前といえば当たり前だが……こんな私情で予定を断るのも、少々申し訳ない気がする。 こなたはうーんと悩むような声。間が空く。 「まあ仕方ないか」 「うん、悪いけど」 「そうだねーじゃあ次は早めに電話するよ」 「そうねえ」 「ほんじゃ」 通話が切れる。なんだか随分あっさりした会話だった。 携帯電話をポケットに戻し、カードを使って電車に乗る。予定通り大学へ向かうのだ。……別に、他の何よりも優先順位が高いような予定でもないけれど。 夜の食卓。今日もつかさはいない。 「なんか今日随分遅くなったんじゃない? 夕飯」 まつり姉さんがエビフライを咀嚼しながら言う。真っ先にそれに手を出すところも物を食べながら話すところも、まったく。 「あの子がいなかったからちょっと時間がかかっちゃってね」 母さんは苦笑い。 それにしても、二日連続で外食か。今までこんなことなかったけど……ある程度原因ははっきりしているし、今更驚くわけではない。 しかしそうすると、つかさはこれから毎日外食してくるつもりなのか? いくらなんでもそれは…… もしそんなことになったら、それはやっぱり私のせいなんだろうか。 「つかさもお年頃ねーとか言ってみたり」 「あーそれあるかも」 いのり姉さんやまつり姉さんは、どうしても話がそっちにつながるらしい。まあその可能性もなくはないが…… 「ていうかつかさが彼氏なんかできたりしたら一番乗りなわけじゃん? 私らの中で」 「それはちょっと悔しい気がするわねー」 「あなたたちもそろそろそういうの落ち着いてほしいものだけど」 「もうお母さんー」 食卓の盛り上がりはいつもと変わらない。つかさはいないが、いたとしてもあの子はあまり喋らないし。私もくだらない会話は聞き手に回っていることが多い。 しかしこの状況、いつまで持つかわからない。つかさがいないのがまだ二日目だから、食卓はこうやって平常運転しているが……三日目、四日目となると、さすがにどうだ? 食卓がしんと静まりかえるなんてことはないだろうけど、大なり小なり皆つかさのことを案じ始めるだろう。そうすると私も何か問い詰められるのではなかろうか? ……ああ、最初の最初に恐れていたことだ。それが実現しかねない。 「ごちそうさま、風呂入ってくる」 「はーい行ってらっしゃい」 真っ先に席を立つ。別に、見かけは普段どおり。だが、もしここにつかさが入ってきたら──と考えると、早く去ってしまいたい気持ちが強い。 ──やっぱり早くどうにかした方が、いいか? 風呂を上がってまっすぐ部屋に戻ると、私は電話をかけた。 「……あ、もしもし」 「お久しぶりです、かがみさん」 みゆき。私一人では解決出来そうにもない問題。今までこんな相談をしたことはなかったが、この際頼った方が楽だと考えた。 「……えっと、なんていうか、ちょっと相談があるっていうか」 「はい」 今朝のこなたの誘いを断ったこともある。家の中でのことに不安もある。できるだけ早く解決したい。 まとまりのつかない言葉で、私はみゆきに用件を説明した。こういうのが、けっこう難しいことを知る。頭の中で整理しきれていない事柄が山ほどあるようだ。 「…………」 無言になるみゆき。考えているのだろうか。 「……えっと、ですね」 「うん」 「少しお話したいことがあるのですが」 「……うん」 何となく身構える。とても重要なことを伝えますよ、と言わんばかりだ。一体何だろう? 「先日、つかささんから電話をいただいたんです」 「……」 つかさから。それはもしや…… 「……おそらく、二日前ですね。今と同じくらいの時間でした」 「……ああ」 なるほど。つかさはみゆきに相談していたんだ。となると、すごく気になることがある。 「……あのさ、何か言ってた? あの子」 わかりきっていることだが、やはり聞いてみないと気が済まない。 「……ええと、とても言いづらいのですが」 「もしかしてさ、その……『ウザい』とか」 「……言っていました」 やっぱりか。確信が持てた。なるほどそうだったか。あれだけあの言葉に振り回されておいて、いまさら納得するのもおかしいが…… 「それさ、具体的にどんな相談だったの?」 「えっとですね……」 みゆきが話をまとめてくれた。 以前から、つかさは私の態度が鼻についていた。 今、少し嫌いになりかけている。 しかし、過去に頼り切りだったことを考えれば、嫌いになってしまうわけにもいかない…… 「……随分義理深いのねあの子も」 「つかささんはいい人だと思います」 「……同感ね」 ほとんどのことが予想通りだった。ああ、やっぱりか……という安堵。 とともに、何か違和感を覚えた。私の後ろ…… 「……あの、ちょっとごめん。一旦切る」 「え? あ、はい、ではまた」 通話を切断する。後ろを振り返ると、ほんの少しだが、やはりドアが開いている。そして、やっぱり。その隙間からつかさの視線。 夕飯をとっていたときはまだ家の外だったみたいだが……私が入浴している間に帰宅していたらしい。 ドアの隙間から見つめ合う。無言。お互い磔になったような空気。 やがてつかさがのこのこと私の部屋へ入ってきた。 「えっと……」 「……」 話しかけづらそうなつかさ。まあ当たり前だ。私も正直どう応対すればいいかわからない。 「とりあえず、あの、なんていうか」 「……」 「最初から、話した方がいいのかな?」 「……大雑把なことは、もう聞いてるけど」 「えっとね……」 はっきりといつからかはわからないが、おそらく高校を卒業してからだった。 学校も別々になって、私に依存することも減った。いよいよ自立してきたのだと思う。 そのために、私がまだつかさを子ども扱いして、事あるごとに注意を投げてくるのは、心底不快だった。 そして二日前、ついにそれをみゆきに相談してみたが、その最中、明らかに私の部屋から活動の気配が死んでいて、相談していることに気づかれたと思った。 相談した内容が内容だったため、私と顔を合わせるのが何となく気まずく、つい避けて行動してしまった。 サークル仲間と外食する機会が多かったのは、別に私が嫌いだからというわけではなくて、単に誘われることが多かったから。 しかし、今日外食してきたのは、私となるべく会わないようにするためだった── なるほどね。案外つかさも私と同じようなことを考えていたらしい。 しかしその原因はどうやら私にある。正直、まだつかさを未熟者の甘えん坊と思って見くびっていた。よく考えたら大学生にもなって自立心がないわけがない。 「やっぱりそうか……あの、なんていうか、ごめん」 素直に謝りたいという気持ちになる。今度からはもう少し対等に話すようにしよう。私の方が正しいとか、そんなことを考えるのではなく。 「いや、その……私もわがままだったから」 「そんなそんな。つかさも大人になったっていうか、そういうことだし。偉そうにする方がどうかしてた」 つかさは何も言葉を返さない。その代わり、少しだけ笑っていた気がした。 大人って言われたのが嬉しかったのかもしれない。 それから一週間後の土曜日。私たち四人は、繁華街を肩を並べて闊歩していた。 皆が均等に楽しめる場所といえば、カラオケにボウリングにファミレス。大きな本屋などには、皆で行ったりすることはなく。 意外と思われるかもしれないが、このコースを提案したのはこなただった。以前なら例によって、マンガのまとめ買いなんかに付き添わされたりもしたのだが。いわく、「さすがに自重しようかなー」とのこと。何に対する自重かははっきりしないが。 しかし、思えばあの時の電話で、私が四人で集まるのを断ったのを、こなたは強引に誘ったりもできたはずだ。それをせず、こちらの事情を察して素直に諦めたのは、もしかしたらこなたも大人びてきたのかもしれない。 「寒いねー」 「梅雨だからねえ」 四人が四人の傘を手に、歩く。 つかさが大人になり、こなたが大人になり。私も、なんとなく遠慮がちになった気がする。みゆきは、相変わらず、と言ったところだろうか。慎ましく麗しいのは、以前と全く代わり映えがない。 私たち四人の仲はこれからも続いていく。もう、何のいざこざも、言い争いもなく。十年後も二十年後も、こうやって歩くことができるだろう。 しかし、何の遠慮もなしになじみ合えていた、高校時代の四人へはもう戻れないかもしれない、そんな一抹の寂寥感が、風となって私の肩を吹き抜けていった。 終 **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 切ない••••• -- 名無しさん (2010-08-20 01:45:34)

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