ID:kIQ7CcA0氏:命の輪は変わる

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 洗い物をする手を止め、あやのは壁の時計で時間を確認した。 「ひーちゃん、後はわたしがやっておくから上がっていいよ」  そして、掃除をしているつかさにそう声をかけた。 「え、でもまだだいぶやること残ってるよ?」  あやのはタオルで手を拭くと、つかさの傍に向かった。 「今日、お見合いした彼が家に来るんでしょ?待たせたら悪いわよ」  肩を叩きながらそう言うあやのに、つかさは驚いて目を見開いた。 「え、ええ!?なんであやちゃんがそれ知ってるの!?」 「さっき柊ちゃんからメールがあったの。彼氏が来るからさっさと切り上げさせろって」 「も、もうお姉ちゃんたら…それに、まだ付き合ってるわけじゃ…」  持っていたモップをいじりながら顔を真っ赤にして呟くつかさに、あやのは優しく微笑みかけた。 「お見合いは上手くいったんでしょ?」 「う、うん…まあ、たぶん…一応…」 「だったら、今はちょっとでも合う時間増やして、自分をもっとわかってもらわなくちゃ、ね」 「わかってもらうって…うぅ…恥ずかしいな…」 「頑張って。ひーちゃん」  つかさは少しの間うつむき、そして笑顔で顔を上げた。 「わかったよ、あやちゃん。それじゃ少し甘えさせてもらうね」 「…うん」  つかさが帰った後、あやのは後片付けの続きをし、そして今日の授業で使った食材のあまりを使って何品かのおかずを作った。 「…そろそろかな」  壁の時計を確認する。それと同時に、階下から元気な声が響いてきた。 「アネキっ!飯食わせてくれよーっ!」  ほら来た。あやのは苦笑しながら、声の主を迎えるべく部屋のドアへと向かった。 ― 命の輪は変わる ― 「いやー、いつも悪いねアネキ」 「そう思うんだったら、少しは自炊してよみさちゃん。あと、食べながら喋らないの」  あやのの用意したご飯を文字通りかっ食らいながら喋るみさおを、あやのは少し呆れた口調でたしなめた。  大学を卒業してから、あやのは母が開いている料理教室を継ぐことになった。とはいえ、経営全般は母が行い、つかさが講師として手伝ってくれたりと、まだまだ継いだとは言えないのが現状なのだが。  そんなあやのの元に、目の前の幼馴染で親友…そして今は義妹でもあるみさをがちょくちょく飯をたかりに来るのだった。 「みさちゃん、今日面接だったんでしょ?どうだったの?」  あやのがそう聞くと、みさおは箸をおいて腕を組んだ。 「んー…まあ、大丈夫なんじゃねーかなーて感じかな」 「よくわかんないよ、それ…」  みさおは大学を卒業しても進路が定まらずしばらくの間フリーターをしていたが、最近になってようやくしっかりと就職活動をするようになっていた。 「コネあったし。まあ、なんとかいけんじゃね」  みさおの言葉に、あやのが首を傾げる。 「コネ?みさちゃん知らない会社だって言ってなかった?」 「そうなんだけどさ、面接受けにいったらアイツがいたんだよ。ほら、ちびっこのところのあのヌボーっとしたの」  あやのは少し考え、みさおの言葉を理解して少し眉をひそめた。 「ヌボーって…もしかして泉ちゃんの旦那さんのこと?」 「そう、ソイツ。あの脳筋のダンナ」  あやのの眉間の皺が深くなる。 「脳筋?」 「脳味噌まで筋肉で出来てるって意味らしいぜ」  あやのは今度はため息をついた。 「もう、みさちゃん。あんまりそういうこと言わないの」 「いや、だってホントだぜ。アイツ大学の学祭のとき、他のヤローが二人がかりで持ってた角材一人で運んでたんだぜ」 「それは…すごいね」  あやのは何度かあったことのあるこなたの旦那を思い浮かべたが、とてもそんなパワフルな人には見えなかったので、みさおは大袈裟に言ってるのだろうと判断した。 「んで、あたしより頭悪いんだぜ。通ってた高校聞いたら、滅茶苦茶レベル低いところだったんだぜ」  その滅茶苦茶レベルの低い高校の卒業生と、県でもトップレベルの進学校である陵桜学園の卒業生が、同じ大学に通ってたという事実はどうなんだろう。あやのはそんなことを思ったが、とりあえず声には出さないでおいた。 「でも、泉ちゃんの旦那さんが勤めてるところって、力仕事だって言ってたけど大丈夫なの?」  脱線気味な話を元に戻そうとあやなおがそう聞くと、みさおは難しい顔をした。 「そーなんだよなー。体力には自信あるって言っておいたけど、女だからって落とされんじゃないかって心配だよな」 「えっと、そうじゃなくて…怪我とかが心配なんだけど…」  そもそも女性だから取らないなら、募集自体かけないだろうとあやのは思ったが、そこは言わないでおく事にした。 「まー、だいじょうぶなんじゃねーの?なんとかなるって」  軽く言うみさおに、あやのはため息をついた。 「なー、あやの」 「…えっ?」  みさおが食べ終わった食器を片付けていたあやのは、不意に呼ばれて驚いて動きを止めた。 「…なんでそんなに驚くんだよ」 「え、だってわたしの呼び方が…」  『アネキ』ではなく『あやの』に戻っていた。そのことに、あやの自身なぜだか分からないほど驚いていた。 「…んー…聞きたかったのもソレなんだけど、やっぱあたしにアネキって呼ばれるの嫌か?」 「そ、そんなことないと…思うけど…」  みさおの質問に、あやのははっきりと答えることが出来ずに言葉をにごらせた。 「でも、なんで急にそんなこと…」 「いや、なんかな…アニキと結婚してから、小言が多くなったなーって思って」 「そ、そうなの…?」  改めて言われるとそうかもしれない。あやのはそう思っていた。結婚前には気にならなかった事が目に留まるようになり、言い方も少しきつくなってる気もする。 「…それが、悪いっつってるわけじゃねーんだよ…あたしとあやのは、もう友達じゃないんだし」  その言葉に、あやのは目を開かせられてような気がした。  そうだった。あの日から…名が日下部あやのになったあの日から、日下部みさおは自分の家族になったんだ。  間柄が変わり、見方が変わったから、知り尽くしていたと思っていたみさおの見えなかった部分が見えてきたのだ。 「でもよ…あやのが嫌だって言うんなら、やっぱ…」 「そんなことないよ、みさちゃん」  みさおの言葉を遮り、あやのは微笑んだ。 「そ、そうか…?だったらいいんだけど…」  みさおの懸念は分かる。あやのは二人の間柄が変わることを嫌がっているんじゃないか。そう考えたのだろう。あやの自身もそういうところがあると、うすうす感じてはいた。  それにくらべ、みさおはあやの達が籍をいれた次の日から、あやのの事をアネキと呼ぶようになった。  人の繋がりは広がったり千切れたりするだけでなく、変わることもある。みさおはその事を敏感に感じ取っていたのだろう。 「じゃあ、アネキのまんまでいいよな」  変わることを受け入れる。あやのはそれを教えてくれている歳の変わらぬ義妹に、今まで以上の愛おしさを感じていた。 「うん…ありがとう、みさお」  そして、自然とそう言っていた。 「え?…あ…へへへ…」  頬をかきながら照れ笑いをするみさおに、あやののまた少し照れた笑顔を向けていた。 「おかえり、ダーリン」 「…ああ、ただいま」  こなたは玄関で出迎えた夫が、どことなく元気が無いことに気がついて首をかしげた。 「そしたの?仕事でなんかあった?」  こなたがそう聞くと、旦那は頷いた。 「いや、今日仕事場にみさきちが面接に来てな…」 「え、マジで…」 「うん…しかしなあ…女性の募集は事務仕事なんだよなあ…みさきちは事務なんて出来たっけか」 「出来るかどうかはわかんないけど…とりあえず、似合わないと思うよ」 「だよな…」  そう言って額に手を置く旦那を、こなたは複雑な表情で見ていた。 ― 終わり ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - 旦那もみさおの事みさきちって呼んでたんだwww -- 名無しさん (2010-05-07 19:58:51)
 洗い物をする手を止め、あやのは壁の時計で時間を確認した。 「ひーちゃん、後はわたしがやっておくから上がっていいよ」  そして、掃除をしているつかさにそう声をかけた。 「え、でもまだだいぶやること残ってるよ?」  あやのはタオルで手を拭くと、つかさの傍に向かった。 「今日、お見合いした彼が家に来るんでしょ?待たせたら悪いわよ」  肩を叩きながらそう言うあやのに、つかさは驚いて目を見開いた。 「え、ええ!?なんであやちゃんがそれ知ってるの!?」 「さっき柊ちゃんからメールがあったの。彼氏が来るからさっさと切り上げさせろって」 「も、もうお姉ちゃんたら…それに、まだ付き合ってるわけじゃ…」  持っていたモップをいじりながら顔を真っ赤にして呟くつかさに、あやのは優しく微笑みかけた。 「お見合いは上手くいったんでしょ?」 「う、うん…まあ、たぶん…一応…」 「だったら、今はちょっとでも合う時間増やして、自分をもっとわかってもらわなくちゃ、ね」 「わかってもらうって…うぅ…恥ずかしいな…」 「頑張って。ひーちゃん」  つかさは少しの間うつむき、そして笑顔で顔を上げた。 「わかったよ、あやちゃん。それじゃ少し甘えさせてもらうね」 「…うん」  つかさが帰った後、あやのは後片付けの続きをし、そして今日の授業で使った食材のあまりを使って何品かのおかずを作った。 「…そろそろかな」  壁の時計を確認する。それと同時に、階下から元気な声が響いてきた。 「アネキっ!飯食わせてくれよーっ!」  ほら来た。あやのは苦笑しながら、声の主を迎えるべく部屋のドアへと向かった。 ― 命の輪は変わる ― 「いやー、いつも悪いねアネキ」 「そう思うんだったら、少しは自炊してよみさちゃん。あと、食べながら喋らないの」  あやのの用意したご飯を文字通りかっ食らいながら喋るみさおを、あやのは少し呆れた口調でたしなめた。  大学を卒業してから、あやのは母が開いている料理教室を継ぐことになった。とはいえ、経営全般は母が行い、つかさが講師として手伝ってくれたりと、まだまだ継いだとは言えないのが現状なのだが。  そんなあやのの元に、目の前の幼馴染で親友…そして今は義妹でもあるみさをがちょくちょく飯をたかりに来るのだった。 「みさちゃん、今日面接だったんでしょ?どうだったの?」  あやのがそう聞くと、みさおは箸をおいて腕を組んだ。 「んー…まあ、大丈夫なんじゃねーかなーて感じかな」 「よくわかんないよ、それ…」  みさおは大学を卒業しても進路が定まらずしばらくの間フリーターをしていたが、最近になってようやくしっかりと就職活動をするようになっていた。 「コネあったし。まあ、なんとかいけんじゃね」  みさおの言葉に、あやのが首を傾げる。 「コネ?みさちゃん知らない会社だって言ってなかった?」 「そうなんだけどさ、面接受けにいったらアイツがいたんだよ。ほら、ちびっこのところのあのヌボーっとしたの」  あやのは少し考え、みさおの言葉を理解して少し眉をひそめた。 「ヌボーって…もしかして泉ちゃんの旦那さんのこと?」 「そう、ソイツ。あの脳筋のダンナ」  あやのの眉間の皺が深くなる。 「脳筋?」 「脳味噌まで筋肉で出来てるって意味らしいぜ」  あやのは今度はため息をついた。 「もう、みさちゃん。あんまりそういうこと言わないの」 「いや、だってホントだぜ。アイツ大学の学祭のとき、他のヤローが二人がかりで持ってた角材一人で運んでたんだぜ」 「それは…すごいね」  あやのは何度かあったことのあるこなたの旦那を思い浮かべたが、とてもそんなパワフルな人には見えなかったので、みさおは大袈裟に言ってるのだろうと判断した。 「んで、あたしより頭悪いんだぜ。通ってた高校聞いたら、滅茶苦茶レベル低いところだったんだぜ」  その滅茶苦茶レベルの低い高校の卒業生と、県でもトップレベルの進学校である陵桜学園の卒業生が、同じ大学に通ってたという事実はどうなんだろう。あやのはそんなことを思ったが、とりあえず声には出さないでおいた。 「でも、泉ちゃんの旦那さんが勤めてるところって、力仕事だって言ってたけど大丈夫なの?」  脱線気味な話を元に戻そうとあやなおがそう聞くと、みさおは難しい顔をした。 「そーなんだよなー。体力には自信あるって言っておいたけど、女だからって落とされんじゃないかって心配だよな」 「えっと、そうじゃなくて…怪我とかが心配なんだけど…」  そもそも女性だから取らないなら、募集自体かけないだろうとあやのは思ったが、そこは言わないでおく事にした。 「まー、だいじょうぶなんじゃねーの?なんとかなるって」  軽く言うみさおに、あやのはため息をついた。 「なー、あやの」 「…えっ?」  みさおが食べ終わった食器を片付けていたあやのは、不意に呼ばれて驚いて動きを止めた。 「…なんでそんなに驚くんだよ」 「え、だってわたしの呼び方が…」  『アネキ』ではなく『あやの』に戻っていた。そのことに、あやの自身なぜだか分からないほど驚いていた。 「…んー…聞きたかったのもソレなんだけど、やっぱあたしにアネキって呼ばれるの嫌か?」 「そ、そんなことないと…思うけど…」  みさおの質問に、あやのははっきりと答えることが出来ずに言葉をにごらせた。 「でも、なんで急にそんなこと…」 「いや、なんかな…アニキと結婚してから、小言が多くなったなーって思って」 「そ、そうなの…?」  改めて言われるとそうかもしれない。あやのはそう思っていた。結婚前には気にならなかった事が目に留まるようになり、言い方も少しきつくなってる気もする。 「…それが、悪いっつってるわけじゃねーんだよ…あたしとあやのは、もう友達じゃないんだし」  その言葉に、あやのは目を開かせられてような気がした。  そうだった。あの日から…名が日下部あやのになったあの日から、日下部みさおは自分の家族になったんだ。  間柄が変わり、見方が変わったから、知り尽くしていたと思っていたみさおの見えなかった部分が見えてきたのだ。 「でもよ…あやのが嫌だって言うんなら、やっぱ…」 「そんなことないよ、みさちゃん」  みさおの言葉を遮り、あやのは微笑んだ。 「そ、そうか…?だったらいいんだけど…」  みさおの懸念は分かる。あやのは二人の間柄が変わることを嫌がっているんじゃないか。そう考えたのだろう。あやの自身もそういうところがあると、うすうす感じてはいた。  それにくらべ、みさおはあやの達が籍をいれた次の日から、あやのの事をアネキと呼ぶようになった。  人の繋がりは広がったり千切れたりするだけでなく、変わることもある。みさおはその事を敏感に感じ取っていたのだろう。 「じゃあ、アネキのまんまでいいよな」  変わることを受け入れる。あやのはそれを教えてくれている歳の変わらぬ義妹に、今まで以上の愛おしさを感じていた。 「うん…ありがとう、みさお」  そして、自然とそう言っていた。 「え?…あ…へへへ…」  頬をかきながら照れ笑いをするみさおに、あやののまた少し照れた笑顔を向けていた。 「おかえり、ダーリン」 「…ああ、ただいま」  こなたは玄関で出迎えた夫が、どことなく元気が無いことに気がついて首をかしげた。 「そしたの?仕事でなんかあった?」  こなたがそう聞くと、旦那は頷いた。 「いや、今日仕事場にみさきちが面接に来てな…」 「え、マジで…」 「うん…しかしなあ…女性の募集は事務仕事なんだよなあ…みさきちは事務なんて出来たっけか」 「出来るかどうかはわかんないけど…とりあえず、似合わないと思うよ」 「だよな…」  そう言って額に手を置く旦那を、こなたは複雑な表情で見ていた。 ― 終わり ― **コメント・感想フォーム #comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3) - みさおらしさが出ていて、面白かったです。 &br()でも、実際にあやのが義姉になったら、みさおは何て呼ぶんだろう? &br()気になる・・・。 -- 匿名非希望 (2010-05-08 19:19:48) - 旦那もみさおの事みさきちって呼んでたんだwww -- 名無しさん (2010-05-07 19:58:51)

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