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とあるクリスマス前のこと。
学校の休み時間に、泉こなたとその友人である柊つかさはクリスマスの話題で盛り上がっていた。
その中で、つかさはこなたに定番の質問をぶつけてみることにした。
「ねえ、こなちゃん。こなちゃんは何歳くらいまでサンタさん信じてた?」
その質問を聞いたこなたは、しばらくの間ぽかんとした後、呆けたように呟いた。
「…え…サンタさんって実在しないの?」
「…どんだけー」
予想外の答えにつかさはしばらく唖然としていたが、なにやらショックを受けてる様子のこなたに、慌ててフォローを入れようとした。
「こ、こなちゃん結構純真なんだね…」
なんとなくフォローになっていない気もしたが、つかさは話を続けることにした。
「プレゼントはどうしてたの?わたしの小さい頃は、枕元において『サンタさんからだよ』って言われてたけど」
「お父さんから直接もらってたよ。『うちはサンタさんがこないみたいだから、俺が代わりにプレゼントしてやる』って言って」
「…うわー」
もうどう言っていいか分からず、つかさはただこなたの顔を見ていた。
「お父さん…ずっとわたしを騙してたんだ…」
震える声で呟くこなたを見ながら、つかさは定番の質問をしたことを後悔していた。
― ファーストクリスマス ―
「お父さんの嘘つき!」
「ま、待ってくれこなた…」
「待たない!バカ!大っ嫌いだ!」
成実ゆいが泉家に入ると同時に、二階の方からそんな会話が聞こえてきた。そしてすぐ後にはこなたがドスドスと足音をたてて階段を下りてきて、ゆいにはまったく気づく様子も無く自分の部屋に入り乱暴に扉を閉めた。
「…どしたんだろ?」
ゆいはしばらくあっけに取られていたが、とりあえず自分の伯父でありこなたの父であるそうじろうに聞いてみようと、二階にある書斎へと向かった。
ゆいが書斎に入ると、そうじろうは座机の前で胡坐をかき、なんとも難しい顔で腕を組んで目をつぶっていた。
「おじさん、ばんちは」
ゆいが声をかけると、そうじろうは目を開けてゆいの方を見た。
「ああ、ゆいちゃんか…いらっしゃい」
「こなた、どしたんです?なんか凄い怒ってるみたいでしたけど」
ゆいはそう聞きながら、座机を挟んでそうじろうの前に座った。
「あー…その…サンタの嘘がね、こなたにバレたんだ」
「あー、アレですか…」
なんとも言いにくそうに答えるそうじろう。その答えにゆいは一度納得して、そしてしばらく考えた後にそうじろうの顔をまじまじと見つめた。
「え?こなた、アレまだ信じてたんですか?」
「ああ、どうもそうらしい…」
「…おねえさん、心底びっくりだ…」
「ああ、俺もそれにはかなり驚いたけど…それ以上に、こなたがあんなにも怒ったのに驚いたよ」
そうじろうがそう言いながらため息をつくと、今度はゆいが腕を組んで難しい顔をした。
「そうですねー…こういっちゃ何ですけど、こなたって伯父さんの言うことまったく信用してないって思ってたんですよねー」
「…ひどっ」
ゆいの言葉にそうじろうはショックを受けたように俯いたが、すぐに顔を上げてゆいを見た。
「なあ、ゆいちゃん悪いんだけど…」
「こなたの様子見てこい…ですか?」
そうじろうがすべて言い終わる前にゆいがそう言うと、そうじろうは苦笑いを浮かべ、頬を書きながら頷いた。
「そうですね…あのこなたの様子じゃ、伯父さんだとまともに話せなさそうだけど…でも、わたしにも話すかどうかわかんないですよ?」
「その時はまた別の手を考えるよ」
「そですか…じゃ、とりあえず行ってみます」
ゆいはそうじろうにひらひらと手を振って見せながら、書斎を後にした。
「やほー。こなた、元気ー?」
こなたの部屋に着いたゆいは、ノックはしないものの、いつもの勢いではなく少し遠慮気味に扉を開けて中に入った。
「…こなた?」
部屋の中からはなんの反応も無く、部屋の半ばまで来たところで、ゆいはベッドにうつぶせに寝ているこなたを見つけた。
「こなた、寝てる?」
ゆいが声をかけると、こなたは少しだけもぞもぞと動いた。
「…起きてる」
くぐもった声でそう答えるこなたの横、ベッドの縁の辺りにゆいは腰を下ろした。
「えーっと…なんて言うかねー…」
「お父さんがわたしの様子見てこいって?」
どう切り出そうかゆいが悩んでると、こなたがあっさりと本題を言い当てた。
「んー…まあ、そんなとこ」
ゆいは先ほどのそうじろうと同じように、苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「…わかんないんだ。自分でもさ」
こなたは体を仰向けにすると、顔だけをゆいのほうに向けてそう言った。
「なんであんなに怒ったんだろうって…バカとか嫌いとか言ってさ…」
なんとなく寂しそうに見えるこなたの顔。ゆいは何か言わなければと思い、口を開いた。
「こなたは、ホントに信じてたの?サンタさんのこと」
口を吐いて出たのは、そんな質問だった。
「うん、信じてた…ずっと」
こなたは視線を天井に移した。まるで、どこか遠いところを見るかのように。
「今でも覚えてるよ。クリスマスっての、初めて知った時のこと…幼稚園の頃だったかな」
こなたは上半身を起こし、ベッドの上に胡坐をかいた。
「良い子でいれば、プレゼントくれるって、すごくドキドキしたよ…でも、うちにサンタさんは来なかった」
こなたは溜息をついた。少しもの寂しげな、普段見せないこなたの表情に、ゆいもまた寂しさのようなものが胸の奥からこみ上げてきた。
「その次の年も、その次も…ずっとサンタさん来なくて、それでわたしずっと考えてたんだ。どうして、うちにはサンタさんが来ないんだろうって」
「こなたが良い子じゃ無かったから?」
「うぐっ…ちょっと否定できないところが…いや、それも有るような気もするけど、そうじゃなくってさ」
思わず口を挟んでしまったゆいの言葉を、こなたは手を振って否定した。
「わたしの家は、みんなと違うからじゃないかなって思ったんだ」
「んー…」
ゆいは顎に手を当ててしばらく考えた後、少し言いにくそうに口を開いた」
「それって、かなたさんの事?」
「…うん」
こなたが頷く。
「みんなはわたしの家が少し変だって感じてたみたいだし、わたしもそれは思ってた。だからサンタさんは来ないんだって思ってた。だから…」
こなたはまたベッドに仰向けに寝転んだ。
「…仕方ないって思ってた。サンタさんが来ないの仕方ないって…お母さん居ないことはどうしようもないから」
そのまま、こなたは目を瞑った。そのこなたにゆいが優しく声をかける。
「こなたの記憶力は凄いね。そんな昔のこと覚えてるんだ」
「えー…ここでそんな台詞出るんだ」
その言葉にこなたは目を開け、ゆいをジト目で見つめた。視線をうけて、ゆいは頬をかいてばつの悪そうな顔をした。
「いやー…お姉さんにはちょっと話が重いかな…って」
「うん、まあそんな気はしてたよ…でも、そんなゆい姉さんだから、こういう話ができるのかもね」
「それは褒めてくれてるのかな…」
「たぶん」
言いながらこなたは体を起こし、壁にもたれて座った。その横にゆいも同じように壁にもたれて座る。
「今年はこなたにとって初めてのクリスマスだねー」
「…どういうこと?」
急にそんなことを言ったゆいに、こなたは首を傾げて見せた。
「サンタさんが居ない、初めてのクリスマスだよ」
「ああ、そういうこと…そだね。もう、サンタさんは居ないんだ」
こなたは天井に視線を向け、溜息をついた。
「でも、一回くらいは来て欲しかったな」
思わず漏れた子供らしいこなたの言葉に、ゆいは苦笑した。
「伯父さんのこと、まだ怒ってる?」
そして、こなたにそう聞いた。
「少しだけ…これだけ長いこと騙されてたんだから、簡単にはちょっとね」
「そっか…でも伯父さんは」
「悪気はなかった…でしょ?わかってるよ。わたしのお父さんだもの」
「…そっか」
しばらく二人して沈黙した後、ゆいは唐突に両手を勢いよく合わせた。
「よし、お姉さんいい事思いついたよ」
「え、なに?」
「こなたはクリスマスになんか用事ある?外に出かける用事」
「一応あるけど…」
「じゃ、それを利用してだね…」
翌日。いつも通りに朝食の場に現れたこなたを見て、そうじろうは安堵の溜息をついた。
「こなた…あのな…」
「昨日のことならもういいよ。あんまり引きずるの、わたしも嫌だし」
「え、あ…そ、そうか…」
昨日のことでとにかく謝ろうと思っていたそうじろうは、こなたに出鼻をくじかれた形で押し黙ってしまった。
「あー…こなた…その…クリスマスなんだが…」
それでもなんとか考えていたことを言おうと、そうじろうは口を開いた。
「クリスマス?…あー言うの忘れてた。わたしその日帰るの遅くなるから」
「…へ?」
「アルバイトのさ、コスプレ喫茶でクリスマスデーやるんだ。それで遅くなるよ。ゆい姉さんもきー兄さんが帰ってくるようなこと言ってたし、今年はクリスマスパーティーは無理かも」
「そ、そうか…」
がっくりと肩を落とし、そうじろうは今度こそ完全に黙り込んでしまった。
そしてクリスマス当日。こなたは日が落ちてすっかり暗くなった公園で、ブランコをこいでいた。
「…いくらあのお父さんでも、そろそろしびれ切らしてる頃かな」
ポケットから出した携帯で時間を確認すると、ブランコから降りておいてあった鞄を拾い上げ、中にある綺麗に包装された箱を確かめた。
「上手くいくといいんだけど…」
ゆいがこなたに提案したのは、クリスマスに逆にプレゼントするということ。しかし、ただ渡すだけのでなく、夜遅くに帰って見せて、怒られる寸前にプレゼントをするという、少し意地悪なものだった。
「結構、緊張するねー」
気持ちを落ち着かせるために、こなたは冬の冷たい空気を大きく吸い込み、プレゼントの入った鞄を軽く叩いた。
「サンタさんも、プレゼント配るときはこういう気分なのかな」
そう呟いて、こなたは何かに気がついて立ち止まった。
「…そっか…サンタだ」
もう一度、鞄の中のプレゼントを確認する。クリスマスにプレゼントを渡すという行為そのものが、サンタという存在なのではないだろうか。こなたはそう思った。
「ま、相手は不純極まりない大人だけどね…」
そう呟いて、こなたは少し足を速めた。日が変わらないうちに…クリスマスのうちに渡さないと意味が無いからだ。
ずっと、クリスマスプレゼントは父がくれたもので、サンタがくれたものではなかった。それは、こなたがずっとそう感じていたからだ。
でも、今日のこのプレゼントは違う。これはサンタからのプレゼントだ。他の誰でもない、こなた自身がそう思うからだ。
「ゆい姉さん、違ったよ…」
今日はサンタが居ない初めてのクリスマスなんかじゃない。
泉家に、初めてサンタが来るクリスマスなんだ。
― おしまい ―
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- そしてクリスマスへと繋がる訳か・・・ &br()この話を読んでからあの話を読むとまた違った面が出てくるね -- 名無しさん (2013-05-28 01:58:40)
とあるクリスマス前のこと。
学校の休み時間に、泉こなたとその友人である柊つかさはクリスマスの話題で盛り上がっていた。
その中で、つかさはこなたに定番の質問をぶつけてみることにした。
「ねえ、こなちゃん。こなちゃんは何歳くらいまでサンタさん信じてた?」
その質問を聞いたこなたは、しばらくの間ぽかんとした後、呆けたように呟いた。
「…え…サンタさんって実在しないの?」
「…どんだけー」
予想外の答えにつかさはしばらく唖然としていたが、なにやらショックを受けてる様子のこなたに、慌ててフォローを入れようとした。
「こ、こなちゃん結構純真なんだね…」
なんとなくフォローになっていない気もしたが、つかさは話を続けることにした。
「プレゼントはどうしてたの?わたしの小さい頃は、枕元において『サンタさんからだよ』って言われてたけど」
「お父さんから直接もらってたよ。『うちはサンタさんがこないみたいだから、俺が代わりにプレゼントしてやる』って言って」
「…うわー」
もうどう言っていいか分からず、つかさはただこなたの顔を見ていた。
「お父さん…ずっとわたしを騙してたんだ…」
震える声で呟くこなたを見ながら、つかさは定番の質問をしたことを後悔していた。
― ファーストクリスマス ―
「お父さんの嘘つき!」
「ま、待ってくれこなた…」
「待たない!バカ!大っ嫌いだ!」
成実ゆいが泉家に入ると同時に、二階の方からそんな会話が聞こえてきた。そしてすぐ後にはこなたがドスドスと足音をたてて階段を下りてきて、ゆいにはまったく気づく様子も無く自分の部屋に入り乱暴に扉を閉めた。
「…どしたんだろ?」
ゆいはしばらくあっけに取られていたが、とりあえず自分の伯父でありこなたの父であるそうじろうに聞いてみようと、二階にある書斎へと向かった。
ゆいが書斎に入ると、そうじろうは座机の前で胡坐をかき、なんとも難しい顔で腕を組んで目をつぶっていた。
「おじさん、ばんちは」
ゆいが声をかけると、そうじろうは目を開けてゆいの方を見た。
「ああ、ゆいちゃんか…いらっしゃい」
「こなた、どしたんです?なんか凄い怒ってるみたいでしたけど」
ゆいはそう聞きながら、座机を挟んでそうじろうの前に座った。
「あー…その…サンタの嘘がね、こなたにバレたんだ」
「あー、アレですか…」
なんとも言いにくそうに答えるそうじろう。その答えにゆいは一度納得して、そしてしばらく考えた後にそうじろうの顔をまじまじと見つめた。
「え?こなた、アレまだ信じてたんですか?」
「ああ、どうもそうらしい…」
「…おねえさん、心底びっくりだ…」
「ああ、俺もそれにはかなり驚いたけど…それ以上に、こなたがあんなにも怒ったのに驚いたよ」
そうじろうがそう言いながらため息をつくと、今度はゆいが腕を組んで難しい顔をした。
「そうですねー…こういっちゃ何ですけど、こなたって伯父さんの言うことまったく信用してないって思ってたんですよねー」
「…ひどっ」
ゆいの言葉にそうじろうはショックを受けたように俯いたが、すぐに顔を上げてゆいを見た。
「なあ、ゆいちゃん悪いんだけど…」
「こなたの様子見てこい…ですか?」
そうじろうがすべて言い終わる前にゆいがそう言うと、そうじろうは苦笑いを浮かべ、頬を書きながら頷いた。
「そうですね…あのこなたの様子じゃ、伯父さんだとまともに話せなさそうだけど…でも、わたしにも話すかどうかわかんないですよ?」
「その時はまた別の手を考えるよ」
「そですか…じゃ、とりあえず行ってみます」
ゆいはそうじろうにひらひらと手を振って見せながら、書斎を後にした。
「やほー。こなた、元気ー?」
こなたの部屋に着いたゆいは、ノックはしないものの、いつもの勢いではなく少し遠慮気味に扉を開けて中に入った。
「…こなた?」
部屋の中からはなんの反応も無く、部屋の半ばまで来たところで、ゆいはベッドにうつぶせに寝ているこなたを見つけた。
「こなた、寝てる?」
ゆいが声をかけると、こなたは少しだけもぞもぞと動いた。
「…起きてる」
くぐもった声でそう答えるこなたの横、ベッドの縁の辺りにゆいは腰を下ろした。
「えーっと…なんて言うかねー…」
「お父さんがわたしの様子見てこいって?」
どう切り出そうかゆいが悩んでると、こなたがあっさりと本題を言い当てた。
「んー…まあ、そんなとこ」
ゆいは先ほどのそうじろうと同じように、苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「…わかんないんだ。自分でもさ」
こなたは体を仰向けにすると、顔だけをゆいのほうに向けてそう言った。
「なんであんなに怒ったんだろうって…バカとか嫌いとか言ってさ…」
なんとなく寂しそうに見えるこなたの顔。ゆいは何か言わなければと思い、口を開いた。
「こなたは、ホントに信じてたの?サンタさんのこと」
口を吐いて出たのは、そんな質問だった。
「うん、信じてた…ずっと」
こなたは視線を天井に移した。まるで、どこか遠いところを見るかのように。
「今でも覚えてるよ。クリスマスっての、初めて知った時のこと…幼稚園の頃だったかな」
こなたは上半身を起こし、ベッドの上に胡坐をかいた。
「良い子でいれば、プレゼントくれるって、すごくドキドキしたよ…でも、うちにサンタさんは来なかった」
こなたは溜息をついた。少しもの寂しげな、普段見せないこなたの表情に、ゆいもまた寂しさのようなものが胸の奥からこみ上げてきた。
「その次の年も、その次も…ずっとサンタさん来なくて、それでわたしずっと考えてたんだ。どうして、うちにはサンタさんが来ないんだろうって」
「こなたが良い子じゃ無かったから?」
「うぐっ…ちょっと否定できないところが…いや、それも有るような気もするけど、そうじゃなくってさ」
思わず口を挟んでしまったゆいの言葉を、こなたは手を振って否定した。
「わたしの家は、みんなと違うからじゃないかなって思ったんだ」
「んー…」
ゆいは顎に手を当ててしばらく考えた後、少し言いにくそうに口を開いた」
「それって、かなたさんの事?」
「…うん」
こなたが頷く。
「みんなはわたしの家が少し変だって感じてたみたいだし、わたしもそれは思ってた。だからサンタさんは来ないんだって思ってた。だから…」
こなたはまたベッドに仰向けに寝転んだ。
「…仕方ないって思ってた。サンタさんが来ないの仕方ないって…お母さん居ないことはどうしようもないから」
そのまま、こなたは目を瞑った。そのこなたにゆいが優しく声をかける。
「こなたの記憶力は凄いね。そんな昔のこと覚えてるんだ」
「えー…ここでそんな台詞出るんだ」
その言葉にこなたは目を開け、ゆいをジト目で見つめた。視線をうけて、ゆいは頬をかいてばつの悪そうな顔をした。
「いやー…お姉さんにはちょっと話が重いかな…って」
「うん、まあそんな気はしてたよ…でも、そんなゆい姉さんだから、こういう話ができるのかもね」
「それは褒めてくれてるのかな…」
「たぶん」
言いながらこなたは体を起こし、壁にもたれて座った。その横にゆいも同じように壁にもたれて座る。
「今年はこなたにとって初めてのクリスマスだねー」
「…どういうこと?」
急にそんなことを言ったゆいに、こなたは首を傾げて見せた。
「サンタさんが居ない、初めてのクリスマスだよ」
「ああ、そういうこと…そだね。もう、サンタさんは居ないんだ」
こなたは天井に視線を向け、溜息をついた。
「でも、一回くらいは来て欲しかったな」
思わず漏れた子供らしいこなたの言葉に、ゆいは苦笑した。
「伯父さんのこと、まだ怒ってる?」
そして、こなたにそう聞いた。
「少しだけ…これだけ長いこと騙されてたんだから、簡単にはちょっとね」
「そっか…でも伯父さんは」
「悪気はなかった…でしょ?わかってるよ。わたしのお父さんだもの」
「…そっか」
しばらく二人して沈黙した後、ゆいは唐突に両手を勢いよく合わせた。
「よし、お姉さんいい事思いついたよ」
「え、なに?」
「こなたはクリスマスになんか用事ある?外に出かける用事」
「一応あるけど…」
「じゃ、それを利用してだね…」
翌日。いつも通りに朝食の場に現れたこなたを見て、そうじろうは安堵の溜息をついた。
「こなた…あのな…」
「昨日のことならもういいよ。あんまり引きずるの、わたしも嫌だし」
「え、あ…そ、そうか…」
昨日のことでとにかく謝ろうと思っていたそうじろうは、こなたに出鼻をくじかれた形で押し黙ってしまった。
「あー…こなた…その…クリスマスなんだが…」
それでもなんとか考えていたことを言おうと、そうじろうは口を開いた。
「クリスマス?…あー言うの忘れてた。わたしその日帰るの遅くなるから」
「…へ?」
「アルバイトのさ、コスプレ喫茶でクリスマスデーやるんだ。それで遅くなるよ。ゆい姉さんもきー兄さんが帰ってくるようなこと言ってたし、今年はクリスマスパーティーは無理かも」
「そ、そうか…」
がっくりと肩を落とし、そうじろうは今度こそ完全に黙り込んでしまった。
そしてクリスマス当日。こなたは日が落ちてすっかり暗くなった公園で、ブランコをこいでいた。
「…いくらあのお父さんでも、そろそろしびれ切らしてる頃かな」
ポケットから出した携帯で時間を確認すると、ブランコから降りておいてあった鞄を拾い上げ、中にある綺麗に包装された箱を確かめた。
「上手くいくといいんだけど…」
ゆいがこなたに提案したのは、クリスマスに逆にプレゼントするということ。しかし、ただ渡すだけのでなく、夜遅くに帰って見せて、怒られる寸前にプレゼントをするという、少し意地悪なものだった。
「結構、緊張するねー」
気持ちを落ち着かせるために、こなたは冬の冷たい空気を大きく吸い込み、プレゼントの入った鞄を軽く叩いた。
「サンタさんも、プレゼント配るときはこういう気分なのかな」
そう呟いて、こなたは何かに気がついて立ち止まった。
「…そっか…サンタだ」
もう一度、鞄の中のプレゼントを確認する。クリスマスにプレゼントを渡すという行為そのものが、サンタという存在なのではないだろうか。こなたはそう思った。
「ま、相手は不純極まりない大人だけどね…」
そう呟いて、こなたは少し足を速めた。日が変わらないうちに…クリスマスのうちに渡さないと意味が無いからだ。
ずっと、クリスマスプレゼントは父がくれたもので、サンタがくれたものではなかった。それは、こなたがずっとそう感じていたからだ。
でも、今日のこのプレゼントは違う。これはサンタからのプレゼントだ。他の誰でもない、こなた自身がそう思うからだ。
「ゆい姉さん、違ったよ…」
今日はサンタが居ない初めてのクリスマスなんかじゃない。
泉家に、初めてサンタが来るクリスマスなんだ。
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- こなたの可愛さが、ヤバい!! -- チャムチロ (2014-03-16 22:05:31)
- そしてクリスマスへと繋がる訳か・・・ &br()この話を読んでからあの話を読むとまた違った面が出てくるね -- 名無しさん (2013-05-28 01:58:40)