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「ねえ、ホントにここでいいの?」
少女は部屋の外でドアの側の壁にもたれかかり、中を調べている少年に苛立ちを込めてそう聞いた。
「うん、間違いないはずだよ」
なんの躊躇もなく答える少年に、少女はため息をつく。
「…つっても、ここって枯れた遺跡でしょ?あんただって何回か来たことあるじゃない」
「そうだけど、条件に当てはまるのが、この辺りだとここしかないんだ」
「まあ、あんたがそこまで言うなら文句言わないけどね」
そう言いながら腕を組む少女に、今度は少年がため息をつく。
「…さんざん文句言ってたじゃないか」
「ん、なんか言った?」
「いや、何も言ってないよ」
「どうでもいいけど、来たことある遺跡だからって、油断して変なトラップにかからないでよ?」
そう言って少女は部屋を覗き込み少年の方を見たが…そこに少年の姿はなかった。
「あ、あれ?…ちょっとどこ行ったの!?」
慌てて部屋に飛び込み、少女は中を見渡した。よく見ると、部屋の中央にぽっかりと穴が開いている。
「あんたバカでしょーっ!!」
穴に向かって叫ぶ少女の耳に、少年の間抜けな悲鳴が聞こえた。
― わいるど☆あーむずLS ―
第一話『喋る銃と渡り鳥』
背中が痛い。何か固い場所で寝ているようだ。そんな違和感を覚え、こなたは目を覚ました。
「…どこ、ここ?」
上半身を起こし周りを見てみると、石造りの狭い部屋の中いる。どうやらここの床に寝ていたらしい。
自分は確か学校の教室で授業を受けてたはず。なぜこんな所に居るのだろうか。
「…いてっ」
こなたは夢かどうかを確かめるために頬を引っ張り、痛みに顔をしかめた。夢ではないようだが、それだと今の状況にまったく説明がつかない。
『ああ、やっと目が覚めたね』
戸惑うこなたの耳に、誰かの声が聞こえた。こなたは慌てて部屋の中を見渡したが、人らしき姿はまったく見えない。
『こっちだよ。君の右手の近く』
こなたは自分の体を支えている右手の方を見た。底に落ちていたのはつややかに黒光りする、リボルバー式の拳銃だった。それを拾い上げてみる。
『とりあえず、君の名前を教えてもらえるかい?』
「うわぁっ!?」
拳銃から聞こえてきた声に驚き、こなたは思わず部屋の隅へと放り投げてしまった。
『ひ、ひどいなあ…』
文句を言う拳銃を、こなたは恐る恐るといった感じで再び拾い上げた。
「ご、ごめん、ちょっとびっくりしちゃって…」
『まあ、いいや。それで君の名前は』
「えーっと、わたしはこなた。泉こなただけど…」
『オーケー。パーソナルネームはこなたで登録っと…僕は形式番号 A-ARMS01。呼称はアガートラーム。今から君のパートナーなるARM(アーム)だ』
得意げにそう言うアガートラームを、こなたはしげしげと眺めた。どう見ても普通の拳銃で、どこにこんな人と会話が出来るようなハイテクが詰まっているのかまったく分からない。
「ねえ、ここは一体どこなの?なんでわたしここにいるの?」
とりあえずこなたは、いろいろ知ってそうなアガートラームに今の状況を聞いてみることにした。
『ああ、ここはね…えーっと…あれ…?』
急に自信がなさそうな声になるアガートラームに、こなたは首をかしげた。
『…おかしいな。メモリーに制限がかかってる…』
「どういうこと?」
『ぶっちゃけ記憶喪失だね』
「ふざけんな、このポンコツ」
こなたは今度は自分の意思でアガートラームを部屋の隅へと投げつけた。
「…えーっとこれとこれと…これ、かな」
こなたは部屋のあちこちから、アガートラームに言われたとおりに、いろいろなものをかき集めていた。
肩掛けの鞄に弾薬ケース。それに腰に巻く銃のホルスター。それらを身につけ、アガートラームをホルスターに収めようとした。
『あ、ちょっと待って』
その動作をアガートラームが止める。
「ん、どしたの?」
『何があるか分からないから、弾を装填しておいたほうがいいと思うんだ』
「何があるって言うんだよ…」
こなたはかなりの不安を覚えながら、指示通りに弾を装填した。
「正直、リアルでこんなの使いたくないんだけどな…」
『いや、そうも言ってられないんじゃないかな』
アガートラームがそう言うと同時に、部屋の外から何かの足音が聞こえてきて、こなたは思わず体をすくませた。
「な、なに?」
ゆっくりと部屋の出入り口のほうを見る。壊れているのか最初からなかったのか、この部屋にドアというものはない。そこから、茶色い毛並みの獣が部屋に入ってきた。
「い、犬?…いや、狼かな…ってか、なんでこんなところに?こういうのって山とか森に居るんじゃないの?」
不機嫌そうに唸る狼を前に、こなたは弾の装填を終えた銃を構えながら、その銃に向かってそう聞いた。
『さあ、僕に聞かれても…』
「…ポンコツ」
こなたは呟きながら、しっかりと狼に向かって狙いをつけた。当たるかどうかは分からないし、生き物を撃つのには抵抗がある。しかし、このままだとただ襲われるだけだ。
やらなければやられる。その思いで、こなたは引き金を引いた。カチンと、乾いた後だけが部屋に響く。
「え?あれ?な、なんで?」
こなたは慌てて何度か引き金を引いたが、まるで弾が入っていないかのように空撃ちを繰り返すだけだった。
『逃げた方がいいかもね』
アガートラームがそう呟くと同時に、狼が飛び掛ってきた。こなたは床を転がってそれを間一髪でかわすと、そのまま部屋を飛び出した。
「このポンコツー!」
こなたは万感の思いを込めてそう叫びながら、部屋と同じ石造りの廊下を全力で駆け抜けた。
『いや、困ったね。なんで撃てないんだろ』
「ひとごとみたいにいうなー!!」
先がなかなか見えない長い廊下。こなたは走りには自信があったが、荷物を抱えている上に相手は狼である。どんどん距離が縮まってきているのが、吠え声と足音で分かった。
「こんなわけの分からない所で、わけ分からないうちに死ぬなんて絶対やだ…」
そんな泣き言を呟きながら、そして実際半分泣きながらこなたが走っていると、部屋があったのか横道があったのか、廊下の右手から人影が出てくるのが見えた。
こなたはその人影に助けを乞おうとしたが、それより早く人影はこなたに銃を向け叫んだ。
「伏せてっ!」
その声に反応して、こなたはヘッドスライディングのように床に這いつくばった。それと同時にすぐ後ろまで来ていた狼がこなたに襲いかかろうと飛び上がり、その直後に重い銃声が響いた。
こなたが顔を上げ恐る恐る後ろを振り向くと、かなり後ろに吹っ飛ばされた狼が廊下に横たわり動かなくなっていた。
「大丈夫だったかい?」
声をかけられ、こなたは今度は前を見た。先ほどの人影である、一人の少年が床に倒れているこなたに手を差し出していた。
「…あ、ありがとう」
その手を取って立ち上がりながら、こなたは礼を言った。
その少年は自分より少し年下に見え、ジーンズに破れの目立つTシャツ、その上に赤いジャケットを羽織ったラフな格好だ。そして左腕には、やけに目立つ大きな金属製の篭手をはめていた。
「こんなところに人が居るとは思わなかったよ。ARMを持っているみたいだけど、君も渡り鳥なのかな?」
こなたにそう聞きながら、少年は持っていた銃に弾丸を込め直し始めた。アガートラームより銃身も銃口もかなり大きな、ハンドキャノンとでもいうべき大型の銃だ。いかにも重そうなそれを、少年はそれを軽々と扱っている。
「え、えっとー」
とりあえずどう答えていいか分からず、こなたは言葉を濁した。
「そ、その…ARMとか渡り鳥とかって何?」
「…え?」
少年は動作を止めて瞬きをした。こなたの言うことが分からないとでもいう風に。
「…ど、どう説明すればいいんだろ…」
こなたは信じてくれることを願って、とりあえず自分の境遇を話すことにした。
「…ニホン…サイタマ…渡り鳥じゃなくてジョシコーセー…」
少年はこなたの説明を聞いて、腕を組んで考え込んでしまった。
「え、えっと…とりあえずここはどこなのかな?」
その少年に、こなたはそう聞いた。
「ここはファルガイア南東部のレデス荒野の遺跡だけど…」
「…う…」
今度はこなたが腕を組んで考え込んでしまった。世界中の地名を知っているわけではないが、とりあえずこなたの知っている地名ではない。
「そ、そのファルガイアってのは、地球のどの辺りなのかな…」
「…え?…いや、そのチキューてのが何か分からないけど、ファルガイアってのはこの星の名前だよ」
「…マジですか…」
こなたは頭を抱えたくなった。この少年の言うことを信じるなら、ここは地球ですらなく、どこか別の星かあるいは別世界だということになる。
「なんでこんな漫画かゲームみたいな展開になってるんだよ…」
「え、えっと…なんだかさっきから凄く話が噛み合わないんだけど…結局君はいったい…」
「はっきりとは言えないけど、多分異世界人」
こなたがそう言うと、少年はまた腕を組んで考え出した。
「え?じゃあ君はエルゥ族?…いや違うか。あれは異世界とは違うし、エルゥならARMを知らないはずないし…」
「…また知らない単語が出てきた…もうやだ…」
こなたがもうどうにでもなれな心境に陥っていると、少年は腕を解いてこなたの方を見た。
「まさかとは思うけど、君は魔族じゃないよね?」
「…はい?」
単語自体は聞きなれているものの、まさかリアルでこんな質問をされるとは思わず、こなたは目が点になってしまった。
「なに?なんでわたしが魔族?」
「いや、ファルガイアの伝承にね、遥か昔に異世界から魔族が侵略してきてってのがあって…」
「その魔族ってのは人間そっくりなの?」
「…水銀の血に鉄の体だって言い伝えが…」
「ぜんっぜん違うよね!わたしそんな硬そうに見えないよね!?なんならほっぺたとか突いてみますか!?プニプニですよ!?胸とかお尻とかあんまないけどちゃんと柔らかいですよ!?なんなら触ってみますか!?揉んでみますか!?」
「い、いや、ごめん…ごめんなさい」
こなたのあまりの剣幕に、少年は思わず謝ってしまった。
「…あ…わ、わたしもごめん…なんかちょっとイライラしちゃって…」
そして、我に返ったこなたも、少年に向かって謝った。二人の間にしばらく沈黙が続く。
「…え、えっと…砂獣に追いかけられてたみたいだけど、ARMは使い慣れてないのかな?」
なんとか話題を変えようと少年がそう言うと、こなたは首をかしげた。
「砂獣?」
「ほら、さっきの狼だよ」
少年はこなたの疑問に答えながら、先ほど撃った狼のところに向かった。この世界でもアレは狼でいいんだ、などと思いながらこなたも後に続く。
「…なにこれ?」
そして、こなたは驚きに目を丸くした。狼の死体があるはずの場所には、砂がうず高く積まれているだけだった。
「これを見て」
その砂の中から、少年は鈍い光を放つ赤い宝石のようなものを取り出した。
「これはライブジェムって言ってね。これをコアにして、砂が生物と化するんだ。それが砂獣だよ」
少年から手渡されたライブジェムを、こなたはしげしげと眺めた。砂がこれで生き物へと変わるとはどうにも信じがたい。
「獣って言っても、中には人型で知能を持つのもいたりして、決まった形はないんだ。ただ全部の砂獣に言えることは一つだけ…確実に人を襲って殺そうとすることだよ」
「れ、例外なしに?」
「まあ、知能を持ってる砂獣の中には人をなかなか殺さないのもいるけど、それも長く苦しめるためだしね」
さっぱり分からない出自に、納得のいかない行動原理。そんな危険な代物が、まるで当たり前のようにここには居るらしい。そんな世界に放り出されたということを理解したこなたは、急に不安と恐怖を覚えた。
「あのさ…これ、撃てないんだけど、どうしてか分かる?」
こうなったら身を守る術が欲しい。そう思ったこなたは、少年にアガートラームのことを聞くことにした。
「どこか故障してるのかな…?」
こなたからアガートラームを受け取った少年は、弾装の中や銃口を覗きこんでしばらく調べていたが、やがてこなたの方を向いて首を振って見せた。
「詳しいことは工具もないし調べられないけど、見た感じは特に問題はなさそうだね」
「そっか…壊れてると思ったんだけどな…」
「あ、もしかしたら君はアクセスのこと知らないんじゃないかな?:
「アクセス?」
「うん、アクセスってのは精神接続の事で、ARMってのは使用者と精神的な接続をしないと使えないんだ」
「…う、うーん…それだとわたしには使えないのかなあ…」
「大丈夫だと思うよ。アクセスの難しさは、ARMの構造の複雑さに比例するからね。これくらいの単純な構造なら、コツを掴めばすぐだよ…それにしても…」
少年のアガートラームを見る顔つきが段々と緩くなっていく。
「綺麗なARMだなあ…ほとんど人の手が入ってないように見えるけど、もしかしてこのままで出土したのかな?だとすれば、レアなんて代物じゃないよね…」
「あ、あの、もしもし?」
「迂闊だったなあ。こんなARMがこの遺跡に残ってたなんて…前に来たときに、もっとよく調べとくんだった…」
「…駄目だこりゃ」
もはやウットリとしか言いようのない少年の表情。こういった表情を、こなたは嫌というほど知っている。そう、オタクが自分の世界に浸っている表情だ。
「もしもーし!」
「え!?…あ、な、何かな?」
こなたが少し強めに呼びかけると、少年は慌てて表情を取り繕ってこなたの方を見た。
「えーっと、とりあえずそのアクセスってのを教えて欲しいんだけど」
「あ、ああ、そうだね…」
少年は思い切り名残惜しそうにこなたにアガートラームを返すと、自分のARMを手に取り構えて見せた。
「イメージとしては、ARMを自分の手の延長として捉えるんだ。手を動かすのと同じ感覚で、自分が弾丸を射出するようなイメージをするんだ。つまり、ARMと自分の心を通わせること…それがアクセスだよ」
「う、うーん…」
抽象的でよく分からない。こなたはそう思ったが、とりあえずやってみようと廊下の向こうに銃口を向けた。
意識を弾を飛ばすという行為に集中する。すると、こなたの頭の中で何かがカチリと音を立てた気がした。そのまま引き金を引くと、乾いた銃声と共に弾丸が射出された。
「で、できた…」
「すごい…一回でアクセスに成功するなんて、そうあることじゃないよ。もしかして君はかなりの才能があるんじゃないかな?」
手の中のアガートラームを眺めながら呆然とするこなたに、少年は惜しみない賛辞を送った。
『アクセス確認。機能とメモリの一部の制限を解除』
「わあっ!?」
いきなり聞こえた声に、こなたは思わずアガートラームを取り落としそうになった。
「な、なに?いきなり…ってか、なんで今まで黙ってたの?」
『いやー、なんだか喋るタイミングがなかなか掴めなくて…』
人間であれば頭をかきながらであろうアガートラームの台詞に、こなたはため息をついた。ふと、少年のほうを見ると、こなたの方を見て唖然とした表情で固まっていた。
「え…もしかして、今の声はそのARM?」
「うん、そうだけど…」
「すごい!喋るARMなんて初めて見たよ!」
少年はこなたの手ごとアガートラームを掴んで、キラキラした目で見つめた。
「どういう仕組みなんだろう!工具があればバラしてみるのに!」
『マジやめて!』
「…いや、少し落ち着こうよ」
こなたはあきれ果てながら、空いている手で少年の肩を叩いた。それで少年はハッと我に返った。
「あ、ああ、ごめん…えっと、それでこれからなんだけど…えーっと…そういや名前聞いてなかったっけ」
少年がそう言うと、こなたは手を叩いた。
「あ、そういや忘れてた。わたしはこなた。泉こなただよ。で、このARMはアガートラーム」
「僕はロディ。ロディ・ラグナイト。改めてよろしく」
名乗りながら差し出されたロディの手を、こなたは握った。皮製の指ぬきグローブの上からだというのに、なんとなく温かさを感じる。
「僕はもう目的を果たしたから、ここから出るだけなんだけど…良かったら、一緒に来るかい?」
手を離した後、そう提案してきたロディにこなたは即座に頷いた。
「そうしてくれればありがたいよ。まだ色々聞きたいし、砂獣とやらに襲われたらわたしだけじゃ不安だから…」
「うん。それじゃ行こうか、こなたちゃん」
そう言って廊下を歩き出すロディ。
「あ、うん…」
ちゃん付けとか、もしかして年下に思われてるのかな…などと思いながら、こなたはロディの後ろについて歩き出した。
― つづく ―
次回予告
こなたです。
自由度が売りのRPGで、イベントを採り逃したりしないように何個も予備セーブ作ってると、「あれ?もしかしてわたしこのゲーム楽しんでないんじゃ?」とか思ったりして、不安を感じたりしてませんか!?
次回わいるど☆あーむずLS第二話『荒野の星』
ていうか、どのセーブがどういう状況なのか分からなくなって意味なかったりするよね。
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