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 岩崎みなみ検察官が、起訴状を読み上げていた。  内容を要約すれば、電車内における痴漢行為ということだった。  それを受けて、柊かがみ裁判官が被告人白石みのるに問う。 かがみ「被告人、起訴事実を認めますか?」 みのる「俺はやってないっす」 かがみ「否認したものと認めます。弁護人、何か意見はありますか?」  被告人側弁護人高良みゆきが答えた。 みゆき「被告人に起訴状で述べられたような事実はありません。被害者が痴漢行為にあったという事実自体は否定はしませんが、被告人が加害者だという検察の主張は全くの事実誤認であり、人違いによる誤認逮捕です」 かがみ「これより証人尋問を行います。証人日下部みさお、証言台へ」  かがみは、淡々と手続を進めていった。  模擬裁判ということもあり、分かりやすくするために実際の法廷とは違うところも多々あるし、まどろっこしい手続は省いてる。  かがみの前の席には、裁判員として、泉こなた、田村ひより、小早川ゆたか、八坂こう、パトリシア・マーティン、桜庭ひかるが並んで座っていた。 かがみ「証人、事件発生当時の状況について、話してください」  かがみは、人定質問等を省略して、すぐに証言をうながした。 みさお「あれは、あやのと遊びに行った帰りだったぜ。電車が駅に止まったときに、あやのが痴漢!って叫んだんだ。あやの指差した方を見たら、開いたドアから逃げるように走ってくこいつの姿が見えたぜ」 みゆき「それは本当に被告人でしたか?」 みさお「ああ、あの後ろ姿はこいつで間違いねぇぜ」 みゆき「世の中には後ろ姿が似ている人はいくらでもおります。後ろ姿だけでは、見間違いということもあるでしょう」 みなみ「それについては、別の証人がおります。裁判官、次の証人を」 かがみ「証人日下部みさおへの尋問は終了します。下がってください」  みさおが下がっていく。 かがみ「証人黒井ななこ、証言台へ」  ななこが証言台についた。 かがみ「検察官、尋問を」 みなみ「質問いたします。黒井さん。あなたは、事件発生日時に○○駅のホームにいたことは間違いありませんね?」 ななこ「ああ、○○時○○分の電車に飛び乗ろうと思うて走っとったからな。間違いあらへんで」 みなみ「そのときに、ホームの階段を駆け下りてくる被告人の姿を見たんですね?」 ななこ「そうや。なんかえらく焦っとったような感じで走っとったからなぁ。よく覚えとるで。こいつの顔で間違いあらへん」 かがみ「弁護人、ただいまの証言について何か意見はありますか?」 みゆき「当時の状況について、被告人尋問の許可を願います」 かがみ「許可します。証人黒井ななこへの尋問は終了します。下がってください」  ななこが下がっていく。 かがみ「弁護人、尋問を」 みゆき「被告人は、その当時なぜ急いでいたのですか?」 みのる「番組の収録があって急いでたんすよ。危うく遅刻するところだったっす」 みゆき「今の被告人の証言のとおり、被告人は番組収録に間に合わすために急いでいたのであって、痴漢行為をしたから逃げていたわけではありません」 みなみ「そのときに番組収録があったという証拠はあるのでしょうか?」 みゆき「それについては、証人がおります。裁判官、次の証人を」 かがみ「証人小神あきら、証言台へ」  あきらが証言台についた。 かがみ「弁護人、尋問を」 みゆき「小神さん。○月○日○時から○○局のスタジオで、証人と被告人が出演する番組の収録があった。これは間違いありませんね?」 あきら「ああ」 みゆき「そのときの被告人の様子はどうでしたか?」 あきら「時間ぎりぎりに走りこんできてな。息があがってたぜ」 かがみ「検察官、ただいまの証言について何か意見はありますか?」 みなみ「小神さん。番組収録中あるいは収録後に、被告人に何か変わった様子は見られなかったでしょうか?」 あきら「なんつーか、落ち着かない感じではあったよな。司会もトチってNG出しまくりだったしな」 みなみ「被告人は、動揺しているような態度だったということですね?」 あきら「ああ」 みのる「あきら様。それは、あきら様があんな発言をするからですね……」  それから、被告人と証人の間でやりとりがあり、審理とは関係ない口論へと発展していった。  ダン! ダン!  かがみは、木槌を二回叩いた。 かがみ「被告人、証人、審理に関係ない口論は慎みなさい」  今のみのるとあきらの口論は台本にないアドリブだったが、さすが芸人というべきか、当意即妙ではあった。  しかし、模擬裁判という趣旨からは外れるので、番組収録のときのノリで続けられても困る。  まあ、要するに、かがみはいつだって突っ込み役ということなのだが。   次は、被告人の妻である白石つかさへの尋問だった。 つかさ「みのるさんは、そんなことする人じゃないです!」  つかさは、一生懸命そう主張した。  それは迫真の演技というよりは、むしろ素のつかさそのままともいえた。 かがみ(ごめん、つかさ。旦那さんにそんな役当てちゃって。知り合いで他に当てはまりそうな奴いなかったからさ) みなみ「証人の証言は、全くの感情論であって、状況証拠にもなりえません」  つかさの一生懸命な証言を、みなみはばっさりそう切り捨てた。  台本どおりとはいえ、様になっている。さすがはクールで通っているキャラだ。  つかさへの証人尋問は終了し、次は状況証拠として検察側からDVDが提出された。 みなみ「このDVDは、被告人の自宅から押収されたものです。内容は、いわゆるアダルトビデオでありまして、俗にいう痴漢物です」  みなみのセリフは、いつにもまして棒読みだった。いくら役目だからとはいえ、こんな発言をするのは恥ずかしいのだろう。  裁判員席で、こなたが笑いをこらえていた。 みなみ「被告人の犯罪は、このDVDから影響を受けたものといえるでしょう」 かがみ「弁護人、今の検察官の主張に対して何か意見はありますか?」 みゆき「そのDVDが被告人の所有物であること及びその内容については争いませんが、健康的な男性であれば、そのようなものに興味があるのはむしろ当然のことです。しかし、たいがいの男性は、それを実際に行動に移すことはしません。そのDVDの存在が被告人の犯罪的性向を立証するものだという検察官の主張は全くの言いがかりです」 みなみ「弁護人の主張には一理ありとはいえましょうが、被告人が弁護人のおっしゃるとおり健康的な男性であるならば、魔がさすということは充分にありえることでしょう」  次は、被害者の意見陳述。  被害者日下部あやのが、証言台についた。 あやの「痴漢なんて最低の犯罪です。白石さんには謝罪と厳罰を望みます」 かがみ「被告人、何かいいたいことはありますか?」 みのる「やったのは俺じゃないっすよ」  みゆきがさらにフォローする。 みゆき「被害者の気持ちは充分に理解いたしますが、今の発言は真犯人に向けていただきたいと思います」  被害者の意見陳述が終わり、検察官の最終弁論。 みなみ「被告人は犯罪の事実を否定するなど反省の態度がなく悪質です。懲役一ヶ月の実刑を求めます」  これに対して弁護人は、 みゆき「被告人は無実です。本法廷での証言及び証拠は、犯罪を立証するには、不充分なものとしかいえません」  最後に被告人が、 みのる「俺はやってないっすよ」 かがみ「以上で審理を終了します。これから評議を行いますので、裁判員は別室へ来てください」  ここまでは、ほとんど台本どおりの演劇だった。  しかし、これからの評議は台本なしの文字通りのシミュレーション(模擬)である。  とはいっても、裁判官役のかがみがどのような意見を述べるかということについては、予め決められていたが。  まったくのアドリブで事を進めなければならないのは、裁判員役の6名だった。  裁判員制度の対象事件の拡大が政府で検討されていることを受けて、東京弁護士会の有志で企画されたのが、この模擬裁判だった。  マスコミにも注目してもらうということから、かがみにお鉢が回ってきたのだ。  かがみは、普段は許してない自分の写真撮影等を許可するというカードを切り、さらにつかさのつてで、みのるとあきらに話をつけて参加してもらった(二人には格安ではあったがちゃんとギャラは払っている)。そのおかげで、弁護士会の会議室に設営された模擬法廷の傍聴席は、マスコミ関係者でごった返していた(政治記者のみならず、芸能記者も来ていた)。  なお、他の参加者も、かがみが友人や恩師のつながりで頼み込んで参加してもらったものだ。  別室。 こなた「いやぁ、結構面白かったね。みゆきさんもみなみちゃんも、なんか本職みたいだったし」 かがみ「泉こなた裁判員、評議に関係ない発言は慎んでください」 こなた「かがみん、ここでも演技を続けるのかね?」 719 :柊かがみ法律事務所──模擬裁判 [saga]:2009/02/15(日) 10:24:52.98 ID:ni5/gh60 かがみ「まず、被告人が有罪か無罪かについてみなさんの意見を伺いたいと思います」 こなた「無視された」 かがみ「小早川ゆたか裁判員からどうぞ」 ゆたか「私は、無罪だと思います。高良先輩がいうとおり、白石先輩がやったというには証拠が足りないような気がするし」 こう「私は有罪かな。他に怪しそうな奴もいなかったんだろ? なら、白石先輩で決まりじゃんか」 ひより「そう断言するのもどうなんスかね」 パティ「フーム、迷いマスね~」 ひかる「右に同じく」 こなた「かがみんはどうなのさ?」 かがみ「私は有罪だと思います。当時の状況からして現場に被告人以外に容疑者たりうる者がなかったと推測されること、証人たちの証言は信用できると思われること、法廷での被告人の言動は後付で言い訳しているようにしか見えなかったことなどから、そう判断できます」 ひかる「でも、番組の収録時間がギリギリだったのは事実だろ?」 かがみ「それは偶然だと思われます。魔がさして痴漢行為を働いて逃げるように走り去ったあと、収録時間ギリギリだったことを思い出したのでしょう」 ひかる「言われてみれば、確かにそうかもな」 パティ「説得力がアリマス」  沈黙が部屋を支配した。 かがみ「他に意見がないようでしたら、評決をとりたいと思います。被告人が無罪だと思う人は挙手を」  ゆたかだけが手を挙げた。 かがみ「被告人が有罪だと思う人は挙手を」  かがみを含む残りの全員が手を挙げた。 かがみ「6対1で、被告人は有罪と決しました。続いて、量刑について評議を行います。泉こなた裁判員から意見を」 こなた「まあ、魔がさしてのことなんだろうから、みなみちゃんがいうとおり懲役一ヶ月でいいんじゃないかな?」 ひより「私も同じっス」 こう「いや、女の敵にそれじゃ甘いだろ? 五ヶ月ぐらいは刑務所入って根性叩き直した方がいいんじゃねぇか」 パティ「こうのいう通りデス」 ひかる「おいおい、検察の求刑より重いってのはありなのか?」 かがみ「前例はあります。ただし、どれも漏れなく弁護側が量刑不当を理由にして控訴してますが。小早川ゆたか裁判員の意見は?」 ゆたか「無罪だと思うのでないです」 かがみ「意見はなしとしても、裁判員である以上、評決は拒否できません。よろしいですね?」  ゆたかはしぶしぶうなずいた。 こなた「かがみんの意見は?」 かがみ「初犯ですし、魔がさしての犯行と推測されること、痴漢行為自体の態様は一回限りの軽い接触程度であったことなどを考慮すれば、反省がない点を差し引いても、罰金十万円の実刑が適当かと思います」 こなた「さすがにそれは甘すぎる気もするけどねぇ」  それからしばらく議論が続いた。  最終的に、選択肢は罰金十万円の実刑と懲役三ヶ月の実刑の二つに絞られた。 かがみ「では、評決をとります。罰金十万円の実刑に賛成の人は挙手してください」  かがみだけが挙手した。 かがみ「懲役三ヶ月の実刑に賛成の人は挙手してください」  ゆたかを除く残り全員が挙手した。 かがみ「小早川ゆたか裁判員、評決の拒否は許されません。どちらに賛成なのか述べてください」 ゆたか「……罰金十万円の方で」 かがみ「2対5で、被告人の量刑は懲役三ヶ月の実刑と決しました」  模擬法廷に戻り、かがみが判決を言い渡して、模擬裁判は終結した。  みのるやあきらが、マスコミの取材を受けている。  みのるの奥さんということでマイクを向けられたつかさが、 「みのるさんは、痴漢なんてしないし、エッチなビデオなんか持ってないです!」 と、一生懸命主張していた。  まあ、お熱い夫婦だことで。  かがみは、今回の参加者全員にお礼を言って回ってから、マスコミの取材を避けるように別室にこもった。  今回の評議の状況をレポートにまとめる。それは、東京弁護士会経由で日弁連に提出されることになるだろう。  同じようなことは全国各地の弁護士会でも行なわれている。  それらは、裁判員制度の対象拡大に関する日弁連の意見をまとめる際の参考にされるはずであった。  ちなみに、今回の模擬裁判には実はモデルが存在していた。  過去に実際にあった痴漢冤罪事件である。  第一審が罰金十万円の実刑で、被告人側が控訴。控訴審が始まる前に被告人側の弁護人が根性で真犯人を探しあて、警察に告訴。再捜査で真犯人の容疑が固まったため、控訴審では逆転無罪判決が下っていた。

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