ID:3319C4Ao氏:失敗の味

「ID:3319C4Ao氏:失敗の味」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ID:3319C4Ao氏:失敗の味」(2008/09/15 (月) 01:00:48) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「また、失敗かぁ……」 「失敗って言っても十分おいしいんだけどね」 「うん……」  つかさは六度目の失敗を迎えていた。  それは、彼女の最も得意とする、お菓子作りでのこと。  失敗と言っても、砂糖と塩を間違えたり、焦がしてしまったり、という訳ではない。  これまで作ったものは十分おいしく、人に食べさせるにも申し分ない出来だった。 「でも、やっぱりあの店のと違うよね」 「確かに、もっと甘かったけど」  つかさとかがみが話しているのは、陵桜学園近くにある洋菓子店、『らきティーク』のことである。  その店で食べたケーキの味に惚れ、どうしてもそれに近い味を出したいと、挑戦を始めたのだ。  しかしながら、人気商品でもあるその味を簡単に出せるはずもなく、失敗を繰り返している。  作ったケーキの処理は家族で行われるが、いくら美味しいといっても、ホールサイズのケーキを何日も食べていれば限界が来るものだ。  上の姉二人は早々にリタイアし、母、みきも思うところがあったのかリタイアしている。残っているのは、かがみと父のただおのみ。  もともと、ただおは参加していなかったが、どこからかの圧力により今は強制的に食べさせられている。  甘いものが大好物のかがみにとって、食べることは苦にならない。しかし、みきと同様に思うところはある。 「ごめんね、お姉ちゃん」 「まぁ、早くできるに越したことはないけど、最後まで付き合うわよ」 「うん。ありがとう!」  ――翌日。 「と、まぁ昨日もだめだったのよね」 「つかさも結構頑固なところあるからね~」 「そこで、よ。あんた、何かアイデアない?」 「つかさにやめさせる方法?」 「違うわよ! あの味を出す方法」 「うぅ~ん。体重を気にしつつも妹のがんばりに付き合うかがみ萌え♪」  何かが軋む音が聞こえたが、特に何かが起きるわけではなかった。 「ええ。そうなの。だから何かないかしら? こなたさん」 「か、顔怖いって」  満面の笑みを見せるかがみに、危険だと悟ったこなたは即座に考えをめぐらせる。 「えーと……砂糖変えるとか、それぐらいしか思いつかないね」 「そう……」 「その反応、てことはやっぱり、もうそれはやったんだ?」 「らしいわよ。黒砂糖とか三温糖とか、わ、わー……」 「和三盆」 「そうそれ! とか色々試したらしいんだけどね」 「……ていうかネットで調べればいいんじゃない?」 「そう思ったんだけどね。味の表現なんて曖昧だし、何よりつかさが自分でやりたいって」  そっか。と、いうとこなたは再び考え始める。  そこでふと違和感を覚え、かがみに問いかけた。 「それって私に聞くのもだめって事なんじゃないの?」 「まぁ、たぶんね。でも、ちょっとぐらい助けになりたいしさ……それぐらいならアリかなってね」 「うふぉ、妹思いのかがみ~ん」 「う、うるさい」 「何のお話ですか?」  そう言って、話に入ってきたのはみゆきだった。 「おお、みゆきさん。丁度よかった! ね、かがみ」 「そうね。実は――」  事のあらましを話し終えると、みゆきは少し考え、何かに気付いたように言う。 「確か、あのケーキはヘルシーというのも、うたい文句でしたよね?」 「そういえばそうね」 「……はちみつ……ではないでしょうか」 「はちみつ、ってあの蜂蜜?」 「あ、そうか! そうだよ!」  机に手をつき、こなたはおもむろに立ち上がった。 「そ、そんなに変わるもんなの?」 「変わるよぉ、そりゃー変わるよぉ。けっ、これだからお菓子作りしたことない人ぁ、やだやだ」 「あ、あんたにチョコ作ってあげたでしょ!」 「まぁまぁ、お二人とも」  こなたの話によれば、おそらく蜂蜜で間違いないということだった。  問題は、それをどうやってつかさに伝えるか。  そのまま伝えたところで、素直に聞くとは限らない。下手をすればやる気をなくす可能性もある。 「せめて蜂蜜、って単語を伝えられれば……」 「ふふふ……ここは……カレーだね!」 「……は?」 「カレー、ですか?」  後にこなたは語る。『あのときの私には孔明が憑いてたね!』と。『むしろ、呂布だろ』、とかがみに言われるのは別のお話。 「いや、でもさ」 「えー、私は入れないほうが好きだね」 「私はその時々によりますね」 「? みんなどしたの~?」 「つかさ。今カレーに蜂蜜入れるかって話してたのよ」 「はちみつ?」 「蜂蜜なんか入れたら甘くなっちゃうじゃん! カレーは辛いからカレーなんだよ!」 「そうかぁ?」 「こなちゃん、隠し味程度にならそんな甘くならないし、おいしいから今度入れてみたら……」 「ん? どしたー?」 「え? ううん! なんでもないよお姉ちゃん……」  三人は顔を見合わせ、つかさに見えないように、ウインクをした。  私も? と、まつりは言う。  いいじゃない、ここ何日かは食べてなかったんだし。と、いのりが言った。 「大丈夫よ。今日で終わるはずだし。今までで一番おいしいから」 「なんで、かがみにそんなことわかんの?」 「さあね♪」  変なの。と呟いたまつりの元に、一つの報せが届いた。  鼻腔をくすぐる甘いにおい。それは一つの作品が出来上がったと言う合図。 「おまたせ~」  少しの後、つかさはケーキを運んできた。 「もう! 遅いよ~」  そう言ったまつりを見て、乗り気じゃなかったくせに、現金よね。とかがみは思った。 「ごめんね~。はいどうぞ」  出されたケーキを、各々が口へ運んでいく。  一口、二口、出てくる言葉はない。 「えっと、どう……かな?」 「……しい。おいしいよこれ!」 「ホントね! すごく甘いのにくどくないし」  パッ、とつかさの顔が明るくなる。目を合わせたかがみは頷き、 「うん……すごくおいしいわ」  と、言った。 「あの、かがみお姉ちゃん。食べたくなったらいつでも言ってね!」 「え? 私?」 「うん。このケーキカロリーとか少ないらしいから、ダイエット中でも食べれるかな~って……」 「つかさ……それじゃこれ私のために……?」 「えへへ……」 「ありがとう。つかさ……」  ほのかに目を潤ませ、感動しているかがみ。しかし、このまま終わらないのが柊家である。 「でも、これ作るまでにいっぱい食べたから意味ないんじゃない?」  こんなおいしいものを作ってもらえる腹いせか、それとも素か、どちらにしても、 「まつり姉さん……もうちょっと空気読もうよ……」 End

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。