ID:mvK.p6oo氏:私と彼女

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 その日の放課後。こなたとみゆきは、二人で教室に残っていた。  もちろん、理由はそれぞれに違う。こなたは居残り、みゆきは委員長の仕事で。  不意に、こなたは言う。 「ねぇねぇ、みゆきさん」 「なんでしょう? 泉さん」 「むぅ」  呼ばれたから返事をしたというのに、こなたはむくれた顔をした。  おかしな所があっただろうか? と、一瞬思案するが、特にない。 「何か?」 「いや、みゆきさんってさ、私のこと名前で呼ばないよね? 今更だけど」 「そう……ですね、はい」 「なんで?」 「はい?」 「どうして名前で呼ばないの?」  正直、こなたが何が言いたいのか、みゆきには分からなかった。  なにせ、自分が苗字で呼ぶのは、一部を除きほとんど全ての人に対してだ。性格と言ってもいい。  思い当たる事がないと言えば嘘になるけれど。 「どうしてと言われましても、そういう性格ですし」 「かがみたちは名前だよね?」  やはり。確かに、彼女たちを名前で呼んでいる。しかし、それにはれっきとした理由がある。 「それは、お二人とも苗字が“柊”ですから。他意はありませんよ」 「まぁ、そうだよね」  心の中でつぶやく。  答えが分かっているなら、それを聞く必要はなかったのでは? と。  もっとも、こなたがその答えを既に持っていることを、みゆきは知っていたのだが。  単純に考えてもそうだし、なにより、この質問をされるのは初めてではなかった。  その時は、みゆき自身の口からそれを聞くことで納得したのか、ここで話は終わった。しかし、今回はそうではなかった。 「でも、んー、なんていうか距離を感じるよ」 「距離、ですか?」 「そりゃ、かがみとつかさを名前で呼び始めた理由は、そうかもしれないけど。私たち付き合い始めて結構経つのにさ」  そう。みゆきがこなたたちと付き合うようになって、既に二年以上経つ。  その間、時間を共にしておきながら未だに苗字で、というのは少し違和感があるかもしれない。  が、それを言い出すなら――。 「では、泉さんはどうして私をさん付けで呼ぶんですか?」 「え? えーと……んー特に意味は」 「そうですか? でも、泉さんは私がそう言ったら納得しませんでしたよね」  珍しく。みゆきは反論した。いや、反論自体は珍しくないのだが、その主張の仕方が普段と違う。 「む。……強いて言うなら雰囲気かな」 「雰囲気?」 「うん。こうオーラというかなんと言うか」 「近寄りがたいですか?」 「は? なんでそんな」 「委員長でお金持ちだから?」 「ちょっと待ってってば!」 「……すみません」  みゆき自身、子供じみたことを言ったと思った。  質問を質問で返し、あまつさえ、貴女が私の答えに納得しないなら私もしない。  などと言ったのだ。いつもなら相手の言い分をしっかりと理解し、間違っているところを正し、当たり障りない様に伝える。  それが常だったし、もっとも賢く、どちらのためにもなるやり方だ。  だが、今のみゆきにはそれが出来なかった。  その理由――半分は図星だったからだろう。  親友という存在に憧れながら、その一線を越えることをためらっている。  柊姉妹にしても、苗字が同じだから、ともっともらしい理由を付け、それを越えないようにしている。  そして残りの半分は、そう思いつつも、親友でありたい、彼女たちは自分の親友だと。  そんな願いにも似た想いを、疑われたことが悔しくて、悲しかったのかもしれない。 「……」 「……」  数秒か、数分か。辺りを包んだ静寂を破ったのは、こなただった。 「まぁ、でも安心したかな」 「え?」 「今みたいなみゆきさん初めて見たし、なんていうか――本気だと思った」 「えと……私そんなに?」 「うん。みゆきさんのレアな表情も見れて得した気分♪」 「か、からかわないで下さい、泉さん……」  頬を赤らめるみゆきに、こなたは二度の質問をしたワケを話した。 「時々ね、不安になるんだ」 「不安?」 「うん。みゆきさんが、かがみたちを名前を呼ぶ理由は分かってる。でも、自分だけ名前で呼んでもらえないのが、たまらなく不安だった」 「泉さん……」  みゆきにはこなたの気持ちがよく分かる。痛いほどに。  自分は彼女の親友でいられるのか。そう思っているのは自分だけで、彼女はそう思っていないんじゃないか?  こなたはそれに直面し、みゆきはそれと向き合うことを恐れた。似たもの同士、なのかも知れない。 「でも……もう大丈夫。みゆきさんの気持ちは分かったし、それに……」 「それに?」 「みゆきさんがどう思おうと、みゆきさんは私の親友だもんね!」 「……それは、こちらの台詞です。あなたがどう思おうと、あなたは私の親友です。こなたさん」 「!」  そういって向けられた、最高の笑顔に、こなたも同じく、最高の笑顔で返す。  既に下校時刻。居残りも委員長の仕事もここまで。 「じゃあ、また明日。みゆき!」 「ええ、また明日!」 「おはよう、みゆき」 「ゆきちゃんおはよう~」 「おはようございます、かがみさん、つかささん」 「ちょっと、二人とも置いてくなんてひどいよぉ」 「あ、おはようございます――」 「おっはよ~ぅ――」 「泉さん」「みゆきさん」 「「ぁ――」」  重なる名前は、いつもの日常である証。ただ違うのは、お互いの心のつながり。 「ぷ、ぷぁはははははははは」 「くす、ふふふふふふふふふ」 「私たちにはこっちの方が性にあってるのかもね。くくく」 「そうですね。ふふふ」  笑いあう二人。それを眺め、困惑しているかがみとつかさ。  その笑い声は、教室の喧騒の中へと、溶けていった――。 「なんで? なんでよ? あのポジションは普通私でしょ! なんでみゆきなのよ!」 「まぁまぁ、お姉ちゃん」 「ちょっと作者! 放課後、体育館裏に来なさいよ!」 「どんだけ~」

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