「00 降り掛かる火の粉は元から断て!」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

00 降り掛かる火の粉は元から断て!」(2007/11/03 (土) 02:23:23) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p>00 降り掛かる火の粉は元から断て!</p> <p>図書館のカウンターで本をめくっていた狸角大介は、不意に声を掛けられ顔を上げた。</p> <p>「ちょっといいかしら?」</p> <p>そこに立っていたのは思わず見蕩れてしまう程の美人で、セミロングの金髪が薄暗い図書館の中でも鮮やかに輝いている。</p> <p>「調べものがしたいんだけど、本の場所を教えてもらえるかしら」</p> <p>「どんな本をお探しですか」</p> <p>少しドキドキしながら大介は尋ねる。</p> <p>「この学校の歴史について書かれた本をお願いできる?」</p> <p>学校史? 予想外のジャンルに内心首を傾げつつも、大介は本を閉じカウンターを立つ。</p> <p>「調べものって、レポートか何かの課題ですか?」</p> <p>「いいえ、個人的な興味よ」</p> <p>彼女はふっと微笑んで答える。</p> <p>「咲かずの桜について、ちょっとね」</p> <p>「ああ、ひょっとして、第四期卒業生の伝説絡みですか?」</p> <p> 咲かずの桜、という単語に、大介の目が輝く。第四期卒業生の伝説──それは、約五十年前に起きた、第二次魔界戦争の時代。戦火は東高にまで及び、当時の生徒たちも兵士として戦った。そして、魔法課の最高学年だった生徒たちは、独自に創り上げた魔法陣で、『境目の世界』から1匹のある魔獣を呼び出し、それによって戦争を終結へと導いた。戦いが終わり、東高を卒業する際、彼ら、つまり第四期卒業生は、その魔獣をタイムカプセルに閉じ込め、『境目の世界』の扉であった巨大な桜の木の下に埋め、封印した。──再び東高に戦いの火の粉が降り掛かる時、それを振り払う守護獣として。</p> <p>「結局、その魔獣の封印が解かれたことは今まで1度もないんですよね」</p> <p>「そう。だから『境目の世界』の扉である桜の木も、魔獣と共に眠りについたまま。あんなに大きな木なのに、少し勿体無いわ」</p> <p>そう言って残念そうに唇を尖らせる彼女に、大介は少し笑う。</p> <p>「でも、それだけ魔界が平和だってことですからね」</p> <p>50年間、眠ったまま花を付けない『咲かずの桜』は、魔界の平和の象徴でもあるのだ。</p> <p>「そもそも、その魔獣の封印自体、資料が焼失してしまって、解く方法が分からないそうですし」</p> <p>「あら、良く御存知ね。伝説のことといい、あなたはとても勤勉なのね」</p> <p>褒められて、大介は照れたように頭を掻く。</p> <p>「いえ、僕もただ興味があっただけで……。あ、確かここの本棚にあった筈です」</p> <p> 大分奥まで進んだところで、大介は足を止めた。そして、ふと首を傾げる。学校史の本棚の前に、既に1人、生徒が立っていたからだ。その生徒は分厚いハードカバーを広げ、何やら熱心に読み耽っていたが、大介たちに気付くと、本から顔を上げ、そして──、</p> <p> </p> <p>「これは由々しき事態である!」</p> <p>早朝の職員会議で、マオ校長は何の脈絡も無くそう切り出した。何事か、と教員たちからざわめきが起こる。</p> <p>「じゃ、夜くん、後はよろしく」</p> <p>「では、マオ様に代わって説明します。実は──」</p> <p>教頭の軋道が、珍しく深刻そうな表情で話し始める。</p> <p> 「昨日の深夜、校内に何者かが侵入したようなのです。七星くんの式神からの報告によると、数は2名。暗くて姿は確認できなかったそうです。被害は今のところ無く、侵入者の目的も不明です」</p> <p>「ってことは、まだ捕まってねえんだな、その侵入者」</p> <p>生徒会担当の狼牙クロが訊くと、軋道は素直に頷く。</p> <p>「はい。もしかしたら、再び侵入してくるかもしれません。ですから、今日から警備を強化したいと思います」</p> <p>そう言って、模造紙をホワイトボードに広げる。それには、教員たちの名前がいくつかに班分けされて書いてあった。</p> <p>「この班分けでローテーションを組み、校舎に泊り込みで警備にあたってもらいます」</p> <p>え──っ!!と、職員室が不満の声で揺れた。</p> <p>「異議ありですの!そんなの、警察に任せればいいじゃない!ですの!」</p> <p>英語担当の蒼田天が抗議するが、軋道は譲ろうとしない。</p> <p>「警察なんかには任せられません」</p> <p>「じゃあ、生徒会の連中にやらせればいいじゃねえか」</p> <p>今度はクロがそう提案するが、それを却下したのはマオ校長だった。</p> <p>「もうすぐ卒業式なのに、生徒たちの手を煩わせるわけにはいかないよ!彼らには、思い出を作るのに専念してほしいからね!」</p> <p>「さすがマオ様!教師の鑑です!」</p> <p>デスクの上でふんぞり返っているうさぎ饅頭に、軋道1人が拍手を送る。溜息をつきたくなるような光景だった。</p> <p>「というわけで、みんな頑張ってね☆ 七星くんは、式神での警備を引き続きよろしく!」</p> <p>そう言い放つや否や、さっさと校長室に戻るマオ校長。もちろん、彼の名前はどの班にも入っていなかった。</p> <p>(つづく)</p>
<p>00 降り掛かる火の粉は元から断て!</p> <p>図書館のカウンターで本をめくっていた狸角大介は、不意に声を掛けられ顔を上げた。</p> <p>「ちょっといいかしら?」</p> <p>そこに立っていたのは思わず見蕩れてしまう程の美人で、セミロングの金髪が薄暗い図書館の中でも鮮やかに輝いている。</p> <p>「調べものがしたいんだけど、本の場所を教えてもらえるかしら」</p> <p>「どんな本をお探しですか」</p> <p>少しドキドキしながら大介は尋ねる。</p> <p>「この学校の歴史について書かれた本をお願いできる?」</p> <p>学校史? 予想外のジャンルに内心首を傾げつつも、大介は本を閉じカウンターを立つ。</p> <p>「調べものって、レポートか何かの課題ですか?」</p> <p>「いいえ、個人的な興味よ」</p> <p>彼女はふっと微笑んで答える。</p> <p>「咲かずの桜について、ちょっとね」</p> <p>「ああ、ひょっとして、第四期卒業生の伝説絡みですか?」</p> <p> 咲かずの桜、という単語に、大介の目が輝く。第四期卒業生の伝説──それは、約五十年前に起きた、第二次魔界戦争の時代。戦火は東高にまで及び、当時の生徒たちも兵士として戦った。そして、魔法課の最高学年だった生徒たちは、独自に創り上げた魔法陣で、『境目の世界』から1匹のある魔獣を呼び出し、それによって戦争を終結へと導いた。戦いが終わり、東高を卒業する際、彼ら、つまり第四期卒業生は、その魔獣をタイムカプセルに閉じ込め、『境目の世界』の扉であった巨大な桜の木の下に埋め、封印した。──再び東高に戦いの火の粉が降り掛かる時、それを振り払う守護獣として。</p> <p>「結局、その魔獣の封印が解かれたことは今まで1度もないんですよね」</p> <p>「そう。だから『境目の世界』の扉である桜の木も、魔獣と共に眠りについたまま。あんなに大きな木なのに、少し勿体無いわ」</p> <p>そう言って残念そうに唇を尖らせる彼女に、大介は少し笑う。</p> <p>「でも、それだけ魔界が平和だってことですからね」</p> <p>50年間、眠ったまま花を付けない『咲かずの桜』は、魔界の平和の象徴でもあるのだ。</p> <p>「そもそも、その魔獣の封印自体、資料が焼失してしまって、解く方法が分からないそうですし」</p> <p>「あら、良く御存知ね。伝説のことといい、あなたはとても勤勉なのね」</p> <p>褒められて、大介は照れたように頭を掻く。</p> <p>「いえ、僕もただ興味があっただけで……。あ、確かここの本棚にあった筈です」</p> <p> 大分奥まで進んだところで、大介は足を止めた。そして、ふと首を傾げる。学校史の本棚の前に、既に1人、生徒が立っていたからだ。その生徒は分厚いハードカバーを広げ、何やら熱心に読み耽っていたが、大介たちに気付くと、本から顔を上げ、そして──、</p> <p> </p> <p>「これは由々しき事態である!」</p> <p>早朝の職員会議で、マオ校長は何の脈絡も無くそう切り出した。何事か、と教員たちからざわめきが起こる。</p> <p>「じゃ、夜くん、後はよろしく」</p> <p>「では、マオ様に代わって説明します。実は──」</p> <p>教頭の軋道が、珍しく深刻そうな表情で話し始める。</p> <p> 「昨日の深夜、校内に何者かが侵入したようなのです。七星くんの式神からの報告によると、数は2名。暗くて姿は確認できなかったそうです。被害は今のところ無く、侵入者の目的も不明です」</p> <p>「ってことは、まだ捕まってねえんだな、その侵入者」</p> <p>生徒会担当の狼牙クロが訊くと、軋道は素直に頷く。</p> <p>「はい。もしかしたら、再び侵入してくるかもしれません。ですから、今日から警備を強化したいと思います」</p> <p>そう言って、模造紙をホワイトボードに広げる。それには、教員たちの名前がいくつかに班分けされて書いてあった。</p> <p>「この班分けでローテーションを組み、校舎に泊り込みで警備にあたってもらいます」</p> <p>え──っ!!と、職員室が不満の声で揺れた。</p> <p>「異議ありですの!そんなの、警察に任せればいいじゃない!ですの!」</p> <p>英語担当の蒼田天が抗議するが、軋道は譲ろうとしない。</p> <p>「警察なんかには任せられません」</p> <p>「じゃあ、生徒会の連中にやらせればいいじゃねえか」</p> <p>今度はクロがそう提案するが、それを却下したのはマオ校長だった。</p> <p>「もうすぐ卒業式なのに、生徒たちの手を煩わせるわけにはいかないよ!彼らには、思い出を作るのに専念してほしいからね!」</p> <p>「さすがマオ様!教師の鑑です!」</p> <p>デスクの上でふんぞり返っているうさぎ饅頭に、軋道1人が拍手を送る。溜息をつきたくなるような光景だった。</p> <p>「というわけで、みんな頑張ってね☆ 七星くんは、式神での警備を引き続きよろしく!」</p> <p>そう言い放つや否や、さっさと校長室に戻るマオ校長。もちろん、彼の名前はどの班にも入っていなかった。</p> <p><a href="http://www34.atwiki.jp/eastwich/pages/47.html">(つづく)</a></p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー