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 父が死んでいた。

 幾つもの扉の奥、病院にしてはあまりに騒がしすぎる喧騒を抜けた先の、霊安室の鉄扉の向こう側で。 背後からやってくる人の声が霊安室に木霊し、やけに大きな音を立ててしまったドアに締め出された。

 霊安室には係員の人がいて、僕に身元確認をしたあと、ストレッチャーの上の死体にかぶせられたシートを外す。そこに横たえられた屍体は、衣服をはぎ取られた体を青白く変色させていた。
係員の人が2、3言告げて、僕に霊安室の外で待機していると告げる。僕は曖昧に頷き、退出する係員が開けたドアの軋みと一瞬だけ流れ込んできた喧噪を背に、ストレッチャーに近づく。

 いつも気難しそうだった父の顔は今日ばかりは穏やかで、防腐処理と死化粧の施された永遠の安らぎをたたえていたけど、それは父のイメージとかけ離れていて、どうしても作り物めいた人形のそれに見えてしまう。

 ツンと鼻を突く薬品の匂いと屍体の匂い。嗅ぎ慣れた死臭すら、今日という日は疎遠に感じられる。

 人形……そう、人形だ。僕の祖国アメリカ合衆国を遥か離れた赴任先の、ひっそりと隠されていた工房で見た、子供達の人形のような無表情。死者が誰しも浮かべる偽りの平穏は、安らかさの有無こそ違えど、遥かな距離を経て僕に付きまとってきたのだ。

 仕事先で見た子供達の顔と父のそれが重なり、幼い頃に葬儀で見せてもらった母の顔が思い出される。

「ただいま、父さん……なんの話をしようか」

 僕は父に話しかけ始めた。




Ashes to Ashes, Dust to Dust 
ACT1 Contact 
Jury 20 20xx
中東某国

 これまでに、僕は少なくとも両手足の指の数よりも多くの人を殺していた。主な得物は銃だ。最新鋭の光学照準装置をはじめとするアクセサリにまみれた軍用小銃や自動拳銃、時たまナイフで喉笛を引き裂くこともあるし、手榴弾で爆砕したこともある。それでも僕は銃の方が好きだし、これからも銃で殺すだろう。

 というのも、21世紀の0年代も終わりが見え始めたある日、ボスニア、インド、パキスタンの大都市で同時核兵器テロが発生し、何十万人もの人々が蒸発してしまったからだ。

 すくなくともその日まで、核兵器とは終末の象徴として恐れられてきたし、核兵器の痛みはヒロシマ・ナガサキだけが語りえる一種の神話のような存在だった。それが唐突に終わったのだ。

 それはつまるところ、使われてはならない兵器であった核は十分に運用、ダメージコントロール可能な爆弾であるという認識がなされたという事であり、同時に、911以来弾圧され沈静化していたテロリズムの脅威が、再び世界中で目覚めてしまったということでもある。

 そんなわけで世界は混沌へと瞬く間に滑り落ちた。ロシア国内ではソ連時代への回帰を望むスターリズム主義者と現政府支持派の内戦が始まり、ヨーロッパでも中東でもテロが横行する時代だ。

 僕がいまここにいるのは、そういった時代の流れに雇主の米政府が首を突っ込んだからだ。中東を根城に活動するテロ組織LRAの撲滅を掲げた米軍が海兵隊3万名を派遣し、現地治安維持と武装集団の殲滅を始めたせいだった。なにせLRAはアメリカやEU圏でもテロを行っていたから、合衆国も業を煮やしたのだ。
しかしそれが悪かった。圧倒的物量を前に、何を思ったのかLRAは自爆テロ――史上最悪の核兵器による自爆テロを、進駐先の某国首都で敢行したのだ。海兵の死者は1万2000名、民間人は首都住民7万を超え、これが米国を本気にさせ、EU軍の戦争参加を招いた。

 だから僕は人を殺した。少なくとも12、3人は中東の別国に派遣されたときに。残りの十数人は、この国の周りで、だ。
 陸軍、海軍、空軍、海兵隊の全軍の中でも先陣を進み続けるMEUの小隊員、その実験部隊の一員として、この冗談みたいに熱い砂色の世界の中で殺し合いをする。それが仕事だ。

 そういうわけで、僕が殺した兵士はほとんどが成人――なんてわけはなく、こういう戦場において、近年では年端もいかない子供との交戦数が増加する傾向にある。
 つまり、僕はこの戦場で子供を殺していた。数はおそらく、10人は超えているだろうか。



『到達予定まで4分だ、お嬢さん方用意しな、手荒なエスコートになりそうだ』
 耳に挿し込んだインカムから流れ出した機長のアナウンスを聞くまでもなく、僕はM16A4アサルトライフルに弾倉を差し込み、太もものMEUピストルへの装填も確かめてある。

 UH-60ブラックホークヘリの開放されたカーゴサイドに腰掛け、僕はキャビンからそとへ投げ出した足をぶらぶらさせる。その向こうでは、紺碧の海と水色の空の狭間を同じ合衆国海兵隊の強襲部隊が、僕と同じくUH-60に詰め込まれ、大編隊を組んで低空飛行していた。

『司令部より各員へ、目標は市街地に潜伏するLRA幹部の逮捕だ。交戦規定に従い敵勢力を撃滅、任務を遂行してくれ』

 本部からの無線通信。それに続いて中隊長からの各部隊への最終通達が行われる。UH-60の機内に詰めた分隊のチームメートが無線のセットに忙しいのをよそに、僕はそっと溜息をついて、ようやく見え始めた海岸線の市街地へ目を向ける。

 砂塵の色が街を覆っている。砂っぽく、そして風化しかけたように見えるまちなみ。この近辺では1番大きな都市だそうだが、アメリカの一般基準からすればあまりにも小さな建物の群れに過ぎない。あそこのどこかにいるというLRAの幹部はいま、海を飛び越えて近づく僕らを前にどうしているだろうか。

 まさか気づいていないわけはないだろう。あわてて逃げ出そうとしているのか、落ち着いて護衛と移動しているのか……あるいは……

『……ザード1、ウィザード1応答しろ。おい、聞こえているのか魔術師!』

 コールサインからあだ名へと切り替えた怒鳴り散らす呼び声に、僕はあわてて「ウィザード1、聞こえます」と頭上のローター音にかき消されないよう大声を出す。

『ようやく出たか……まあいい。君の部隊は予定通り市街地のモスク制圧を行ってくれ。仮に『魔術師』と遭遇した場合、可能な限り捕獲するように』
「了解」

 無線が切れた。M16A4を胸に抱えなおして、近づきつつある海岸へ目を向ける。砂浜で瞬き始めた銃火が、戦闘開始を告げていた。



「状況を説明する」

 簡素の一言に尽きるブリーフィングルームで、僕ら海兵武装偵察中隊の中隊長は壁に投影された映像資料を指示した。

「明日の、沿岸都市奇襲、制圧作戦には我々フォースリーコンも同行する」

 海兵隊武装偵察隊、フォースリーコン。常に合衆国軍の最先鋒を務める海兵隊にあって、MEU(海兵遠征大隊)からメンバーを選抜して編成される特殊部隊が、僕らだ。正確には米軍特殊作戦コマンドの指揮下にないから特殊部隊ではないのだけど、強襲なども請け負ったりするから同じようなものだ。

「さて、そこで送り込む部隊だが、君らウィザードチームを選抜した。ここに集まってもらったのはそのためだ。何か質問は?」

 「一つ疑問が」僕らウィザードチームの軽機関銃手、ラルフ伍長が手を上げ「俺らは前回の任務にも駆り出されました。通常2連続出撃は行われないはずですが、なぜ俺らが?」

「理由は2つある。一つは、君らが部隊内で最も優秀である……そしてもう一つは」

 中隊長はもっともだと言いたげに頷き、部屋の最前列の席に陣取っていた僕を指し示す。

「アラン曹長が唯一の『魔術師』だからだ。今回、君らには強襲先の都市のモスクに突入し、『魔術師』とその関係設備を制圧してもらいたい」

 魔術師、1990年代からここ2、30年の間に、ずいぶんと世界に馴染みきった感のある単語。もとはファンタジー作品のなかに存在する異能者を指す言葉だが、今では魔術と言われる技術体系を駆使する現実の一存在そのものを指し示す。

 日本の都市型研究機関では超能力者が大々的に研究開発され、一時期そちらが主流となりかけたが、個人ごとに別々の能力が現れる超能力より、育成にコストがかかるがある程度の画一化が可能な魔術師が、今では軍事系異能者のトレンドとなっていた。

「情報部によれば、この街にはホテル滞在中のLRA幹部のほかに、別枠の過激派グループの魔術師と戦闘員が潜伏しているとのことだ。残念ながら、国家機密とやらでグループの名称は不明だが、捜査にあたっていた現地工作員が4名未帰還となっている」
「行方不明者はCIAですか?」

 分隊狙撃手のラーキンがおどけた調子で尋ねる。彼は軍事歴史が好きで、冷戦中のCIAの失態をあげつらってレポートにしたことがあった。

「いや、NSA係官が用意した内通者だ。すでに2日音信がない」
「寝てんじゃないですか? あるいは体調崩したとか」
「セーフハウスにもいなかった。おそらくは死んでいる」

 誰かの苦々しい罵り声が小さく響いた。内通者が始末された時点でこちらが制圧に出ることは向こうも織り込み済みだろう。つまり、待ち構える……あるいは逃げ出す用意を整えた敵に食らいつかねばならない。

「で、攻撃オプションはなんなんです?」
 僕は肘掛に手を置いて、中隊長に先を促す。彼は鷹揚に頷き、スクリーンの投影内容を都市部地図に切り替え、海岸線から奥へ進んだビル群を抜けた先の、旧街区を拡大する。

「君らには、明日の海兵強襲部隊にヘリで同伴、市街地制圧へ向かう海兵とは別に、モスク周辺を精査、目標を達してもらいたい」

 画像トピックがまた切り替わる。今度は内通者とやらから送られてきたのだろうモスクの見取り図。そしてその隠し通路のありかだ。

「敵性組織はカルト的要素を含んでいるとみられる。報告では少年兵や、痛覚をマヒさせる薬品を運用しているとも聞いた。つまりこれは本格的な殺し合いだ。敵が子供でも構わず眉間を撃ちぬけ。以上だ」




『RPG! RPGだ!』
 パイロットの叫びと共に機体ががくんと揺れ、回避行動のために傾いたヘリをRPG7の弾頭が掠める。目の前を擦過したロケットの弾道煙にひやりとするまもなく、散発的な銃撃が曳航を走らせる。強襲部隊を乗せたヘリは海面すれすれの低空へ移動し、AH-6リトルバードヘリやAH-1コブラ攻撃ヘリが先行する。

 水際に展開したLRA兵士たちへと機関砲の雨が注がれ、血肉と砂煙が巻き上げられるのを眺めるうちにヘリは市街地へと侵入し、眼下から激しいだけで威力のない小銃弾の雨を受けながら、ビルの林へと接近した。

 他の海兵を乗せたヘリが所定ポイントでホバリングへ移行し、兵員を下していく。僕らのUH-60はその間に素早くビルの合間をとびぬけ、旧街区へ突入した。LRAの兵士か、あるいはここいらにありがちな民兵か、眼下から叩き込まれるAKの弾雨が時折ヘリの表面装甲に火花を散らす。

『まもなく目標地点、全員降下用意を』

 僕の分隊は2機のヘリに分乗し、隊列を組んでいる。1機はモスク正面玄関から侵入する部隊を、もう1機はモスク周囲の安全確保を行う部隊を詰め込んでいる。

 モスク、すなわちモスクがいかにもそれらしい尖塔の天井を僕らの前に佇立させている。ビル群から背の低い街区に入ったヘリはおよそ15mの高度を保ち、予定されていた兵員降下地点にたどり着くと、滑らかに減速してホバリングを始める。

『よし! 全員降下してくれ、急げよ』

 部下が降下用ファストロープを地面に垂らす。途端、静止したヘリに銃撃が集中し始めた。野外の住居のバルコニーや玄関から敵のAKが覗いている。

「全員降下しろ! 行け、行け、行け!」

 僕は銃口を外に突出し、ロクに当たりやしない敵の銃撃に撃ち返す。先に軽機関銃手のラルフが降下し、次いでラーキンがロープを掴んで滑り降りる。地面に展開した分隊員がそれぞれの方向へ銃を向け、応射を開始するのを見て、僕は自分のグローブを手にはめて足でロープを挟み込む。

 両手でロープを掴んで姿勢を制御し、足で加減速を操作する。危険性を排除しかつ素早く地面に降り立った僕は、外周防衛班が展開済みであることを確かめる。

「ウィザード1よりホーク1、降下完了した、エスコート感謝する」
『ホークよりウィザード、了解した。帰りは小鳥ちゃんにお願いしな。俺らは先に帰還するぜ』

 ホーク1……UH-60が機首を転換して飛び去る。僕らの離脱時はリトルバードヘリによっておこなわれることになっていた。

「よし、みんな、これから内部に突入する、正門にブリーチャーを仕掛けろ。第二分隊は施設内に待機して固守、第一分隊はついてこい」

 無線に吹き込むと、ラルフがドアを破砕して入口を作るブリーチャー、あるいは導爆線、デトコードとも呼ばれるロープ状の爆薬を門に設置する。僕と分隊員は散発的な周囲からの銃撃に応戦しながらドアに取り付き、それを確認したラルフが起爆装置を押した。

 ずんっ、と腹に響く爆発音がして、ドアがはじけ飛んだ。巻き上げられた砂煙とドアの破片の煙幕の中、僕はM16A4を構えてドアの欠片の山を踏み越え、モスクの敷地に侵入する。

 公園と言っても通じるそうな広さの前庭に僕らは素早く散開した。現地民の女性(おそらくは民間人)が金切声と共に伏せる。彼らを誤射しないように、しかし敵を見落とさないように視線を走らせた僕の視界に、AKを持った男がモスクから飛び出してきた。

「全火器を許可、敵を射殺しろ!」

 男の胸に一発、頭にも一発撃ちこんで声を上げる。分隊員がどうじに射撃を開始し、モスクから現れた10人ほどの男たちは、瞬く間に僕らフォースリーコンの戦果に加えられてしまった。

 僕が先行する形で、モスクに取り付く。分隊の8人を4と4の2チームに分け、裏口に1チームを回す。この建築物に出入口は2つしかない。

 血だまりに沈む男をまたいで僕がモスクの石造りの入口を越える。途端に物陰から男が飛び出してきて僕に殴りかかろうとしたけど、槍よろしくM16の銃口で鼻頭をど突き、よろめいた男の頭部を銃撃で吹き飛ばした。

「入口クリア、奥へ行くぞ、ラルフついてこい」

 僕は4人を2名ずつにさらに分割する。M249-SAWを構えたラルフが僕の背後に続き、広いロビーへ。
 石柱と石畳の正面玄関と思しき部屋に入った途端、AKと子供の甲高い怒鳴り声の歓迎を受けた。非戦闘員の子供の声なら気が楽なのだけど、あいにくと、建物の奥からAKを構えた子供たちがわらわらと飛び出してくる。

「ブリーフィング通りだな」ラルフが呟き「子供がわんさかだ」

 僕はM16を構え、マウントしたドットサイトの真ん中に子供を収める。小さな体に不似合いなAKを抱えて飛び出してきた少年の眉間に小銃弾をめり込ませ、僕は後続へ追い打ちをかけた。

 胸糞悪かったけど、トリガーを絞る指先は止まらない。正規軍との打ち合いなら子供を撃たなくて済むのに、LARや民兵相手ともなると子供を射殺しなくてはならない。相手が健常な大人なら手足を撃って済ませてもいいけど、こういう地域の子供は薬物で痛覚も恐怖も吹き飛んでいるから、まだまだ知識を詰め込み夢を見る余地のある、つるつるした脳みそを吹き飛ばさないといけない。

 命の価値が安い地域の戦争は嫌いだ。どれほど過酷でも正規軍と戦う方が何倍も気が楽だ。突入した先で強姦されている幼女を見ないで済むし、腹を撃ち抜かれても立ち上がる少年にとどめを刺さないで済む。

 最後の少年の胸と頭に弾丸を叩き込んで、僕は弾倉を入れ替えた。さっきから機関銃を盛大にばら撒いていたラルフは200発メタルリンクを給弾し直し、あからさまに顔をしかめる。

「子供ばっかりだ。ここの指揮官はクソッタレだ……」

 独りごちたラルフは怒った表情を浮かべているけど、目はひどく穏やかで、ガラス玉みたいに見えた。まるで、魂のない人形が怒りの真似事をしているみたいに。

「ためらいなく撃ち殺す僕らも同類さ。どだい戦争なんてそんなものだろ?」

 死体をまたぎ越えると、背後で女性の悲鳴が上がった。ちらりとそちらを見遣ると、僕が今しがた頭部を消し飛ばした少女に、一人の女性が駆け寄って、泣きじゃくりながら死体を胸に掻き抱いている。

「少なくとも僕は、胸糞悪くはあっても、彼女に申し訳ないとは思わない。普通の人間なら、やるかやらないかはさておき、こうはいかんよ」

 少女の母親と思しき女性に僕は背を向けた。ここでは、普通の家はLARや民兵に子供を兵力として供物よろしく捧げるのがままある光景として受け入れられつつある。

 ロビーから通路へ移動すると、またも僕らを止めようと兵力が群がってくる。いまやモスク全域で……いや、都市全域で銃声が鳴り響いている。飛び出してきた少年の分隊にラルフが機関銃弾を雨あられと叩き込み、壁をえぐって肉片と血液で装飾する。

「曹長、あれ、数が多いです」
「ならふっ飛ばせばいい」

 それほど多くない通路に、ポーチを巻いただけの大人兵士と幼年兵が群がっている。兵士の練度は僕らが圧倒的に上でも、数の差は埋められないから、僕らはゴリゴリとえぐれていく石柱に身を隠し、手首だけ晒して手榴弾を同時に投げ込んでやった

 転がった鉄球の正体に気づいたらしい誰かの叫びは、炸薬が爆発する騒音にかき消される。僕はM16を構えて慎重に石柱から姿を晒し、爆発地点で呻いている大人へとどめをさして前進を再開した。

 鉄片と爆風の熱に焼かれた少年少女の亡骸は、手足を変な方向へ曲げ、焼け焦げている。異臭にむせそうになりながら通路を抜け、僕は目的地とされている礼拝堂へ通ずる大きな扉へと取りついた。どうじに散開していた分隊も合流し、ドアの前で僕らは残弾を確かめる。

「突入はどうやって?」

 とラルフが尋ねる。

「中が広くてスタンの効果が薄い。面倒だから壁をぶち破ろう。デトコードじゃなくてC4で」

 部下が頷き、テキパキと成形炸薬をドアの左右に仕掛ける。一点に爆風が向かうように成形されたC4がガムテープで壁面に留められ、信管が差し込まれる。

「3、2、1、GO」

 僕の合図で炸薬が爆発し、濃密な粉塵を巻き上げて壁に大穴を開ける。充満した粉塵と熱風の中、僕は壁の向こうにいるであろう敵が体制を整える前に礼拝堂の中へ踏み込み、手近な少年兵の首にM16を発砲した。少年の延髄と動脈が引き裂かれ、血肉が飛び散る。

 その奥でRPK機関銃を構えていたフードの男へ舐めまわすように弾丸をぶち込み、最後に粗悪そうな散弾銃を持ち上げようとした少女に3発めり込ませて壁に縫い付けた。

「クリア」
「こっちもクリア」
「礼拝堂を確保」

 空薬莢が転がる澄んだ音と銃声の微細な反響に、制圧を告げる声が重なる。僕らはいやに天井の高い礼拝堂の死角を警戒しながら、今回の最終目標地点、地下にあるという拠点の入口へ近づく。

 それは礼拝堂最奥の台座の下にある。僕らは、かつては美しかったのだろう石造りの台座を力任せに持ち上げる。と、軋みと共に台座が浮き上がり、その下の通用口が姿を現した。

「これ、通路失格でしょう……まいかい力仕事とか」

 とはげんなりした様子のラーキンの愚痴で、横にどかした台座に寄り掛かり、梯子を取り付けた真っ暗な入口の穴を覗き込んでいる。

「ブリーフィングで、ここが誰の拠点だと言われた?」

 僕は肩を竦める。

「魔術師のでしょう? 曹長はご同輩ですが、なにかあるんですか?」

 みてみろ、と僕は、台座がはまり込んでいた石の部分を占めす。そこには金属で文字が彫り込まれていて、文字の間には時折図形が混じっている。台座の接触面も同じで、おそらく台座の中にも彫り込まれているだろう。

「僕のところとは別系列だけど、おそらくは浮遊系のだ。詠唱いらずのスタンドアローン、魔力を流すだけで浮き上がる」

「こんなのでそんなことが? 魔術ってのはでたらめですね……」

 僕はラーキンに説明をしようとして、やめた。あまり時間がない。魔術はでたらめな面はあっても万能ではない。この手の、つまり魔力を流すだけで重い台座を浮遊させる術となると、内部に彫り込む魔術回路やその素材だけで家がかえる程度の値段になることもざらだ。それに、作成には精密機械レベルの精緻な作業が必要でもある。
深い穴の奥を覗き込むと、下層に灯った灯火が見える。人の気配はなく、見た感じのトラップも無し。魔術の痕跡は台座以外に発見されていない。

「僕が先行する、ラルフが続け。分隊はここを確保して、有事に備えるように」

 M16の筒先を下に向け、梯子を降りる。かん、かん、と金属の音が隠れ家への縦穴に反響し、僕はあるていどの高さを残して飛び降りた。

「敵影なし」着地と同時に銃口を周囲へ向け、洞穴を思わせる道へライトを向ける「クリアだ、降りて来い」

 ラルフが機関銃を背負って下りてくる。僕は薄暗い洞穴の奥、隠し拠点があるだろう方向へ銃身に添えたライトを向けたまま、隣で機関銃を担いだラルフへ告げる。

「前進する。姿が見えたら撃て、ここにいるのは全員敵だ」
「了解……」

 しんと静まり返った洞穴は、左右に燭台と蝋燭が並んでいるだけで、遮蔽物も物陰もない。いやに長い通路を占拠する闇の奥にうっすらと終わりが見え、僕とラルフは洞穴の終わりの、岩をくりぬいたような大部屋へ勢いよく踏み込んだ。

 敵影なし、鉛の歓迎会も、トラップの類もなし。僕は油断なく銃口を上下左右に振り、精査し終えてから銃身に添えたライトを点灯する。

 位置がばれるのを警戒して消していたライトが点くと、そのさきで壁に鎮座していた人型が浮かび上がり、僕は思わず姿勢を落として飛び退る。

「曹長っ!」

 ラルフも機関銃を構えて銃口を跳ね上げる。僕らの声が屋内に反響し、サイトを覗き込んでエイムしてから、引き金にかけた指に力をかけ――

「……ラルフ、銃口を下せ。敵じゃない……すくなくとも生きてはいない」

 僕は銃口をおろし、ジャクソンの肩に手を置いて壁面に並んだ人型を示す。それは上半身裸の少年少女で、血の気が失せた人形じみた無表情を中空へ向けている。

「人形?」

 ジャクソンがほっとした様子でつぶやく。僕は少年少女に近寄り、彼らを検分する。

「爆弾ではない…………人形ならどれほどよかったか」

 死斑がうっすら浮かび、血管の跡が透けている。グローブで唇や瞼をこじ開けた僕は、これらが人形ではなく死体だと判じた。つまり、これらは本物の死者。その肉塊だ。

「これ、全部本物?」
「だな、たぶん」

 銃口を横に流してフラッシュライトで壁に並んだ死者を照らす。テニスコードほどの大きさの、岩で覆われた部屋には、4、50体ほどの子供たちが鎮座、整列している。

「フレア、焚きます」

 ラルフが発炎筒を焚いて室内に転がす。赤みがかった炎が発炎筒から噴き出し、うすぼんやりとした明りが部屋に放たれた。部屋は死者でびっしり囲まれ、その中央にさながら祭壇といった外観の石の台が置かれていて、その上に子供の姿があった。僕はそれに近づき、手足が分解された子供の様子を検分する。

 さながら人形ようだった。関節部分が解体され、覗いた骨に文字と模様が彫り込まれている。切り開かれた胸の傷は横隔膜を乗り越え腹部まで達し、血の気のない内臓器官にも薄く文字列が浮かんでいる。

「これは…………」
「魔導人形……無機から作り上げたモノではなく有機物の人体から作る禁忌。高位の人形師の技だ」

 口元を抑えたラルフに軽く説明して、僕は子供の周りや、刈り取られた頭部に張り付けられたメモの山を見る。死者を蘇生して屍者として動かすには魔術的プロセスを要し、その行程の一つとして失われた魂をインストールしなければならない。その誘導路や手法、入力出力を書き込んだメモの山だ。まるでデスクのメモのように。

 そして僕は気づく。子供の腹部の内臓の量が少ないことに。必要最低限の器官を残し、肝臓などが抜き取られている。まるでそこに何かを仕込むかのようで、僕はライトをそこに向けて中をうかがう。

 爆弾程度なら楽に収まりそうだ。そもそも臓器を抜いているなら短期利用しかできない。たとえば、自爆のような。

「ラルフ、上に戻ってCPに報告だ。迎えとここの保全、回収部隊を要請しろ」
「Roger,Sir」

 敬礼して駆け戻るラルフをよそに、僕は証拠情報回収用のカメラで写真を撮る。これが何に使われるか知らないが、まともなことにはならないだろうと、僕はそう思った。





感想くださいいやマジで
  • 文才が良い意味でおかしいです・・・・。それにしても、子供同士とは。・・・能力さえあれば、関係ないんですね。人間なんて -- 駒枝京子 (2012-10-01 23:18:51)
  • 静かな文章ですね、これから物語がどうなっていくのか、サスペンスチックな展開も気になります。 -- 通りすがりのisle (2012-10-02 20:55:43)
  • 案外スラスラ読めて楽しめました。 -- 名無しさん (2012-10-03 14:28:16)
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