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「ということが向こうの世界であったんだ」

 昼下がりの学生食堂。そのカフェテリアで、僕とスバルはテーブルを挟んで少し遅い昼食をとっていた。

「向こうでは第三次世界大戦真っ只中なのか…………」

 スバルはアイスティーのコップに手を延ばし、大変そうだなぁと呟く。僕は自分のチキンサンドイッチを齧り、咀嚼してから、

「こっちじゃもう4年も前の話だっけ、三次大戦は」
「そうだ。あの時は世界中どこもかしこも大変だったんだ」

 そう、そのはずだ。こちらの世界では4年近く前に大戦があって、今なお主戦場だったヨーロッパでは復興作業が続いている。数百万の被害を出した史上最悪の戦争として、復興作業が終わったあとも語り継がれるのだろう。

「こっちも同じようなものだね。開戦前にガス兵器と爆弾テロの大廉売やってくれたおかげで兵力がズタズタ。街も民間人もまた然り」
「酷いな」
「戦争といえどルールはある。奴らはそれを破った」

 だから殺す。そう続けようとして、僕は危ういところで押し留めた。この娘の前で吐くには、僕の本音は毒気を帯びすぎ、そして生々しすぎるのだ。そのぐらいの自覚はしているつもりだ。

「でも驚いた。悠里が特殊部隊の隊長さんだなんて」
「キャリアが長いだけだよ」

 でも強いんだろ? とこちらに向けられた尊敬の眼差し。僕はチキンサンドイッチをもう一口齧り、ミルクと砂糖たっぷりのカプチーノので、ちょっとした居心地の悪さを飲み下す。

「人並み以上にはこなす自信がある」
「やっぱり悠里はスゴイな」
「スゴイもんか。ただ他人より人殺しの手管に長けてるだけで、そんなものはスゴイ事でもなんでもない」

 言い切って、僕は仕立てのいい木製椅子の背もたれに寄りかかる。
 カフェテリアは開放感のあるテラスのような作りをしていて、豪華の一言に尽きる能力者高校の敷地を見渡せるようになっている。最近はこのテラスから見渡せる石造りの庭を見下ろすのがお気に入りだ。この学校は全体的に建築物が美しく、どこかヨーロッパ的だ。

 昼休みを利用して庭に出て来た生徒たちを眺めていると、「殺すだけならそれはダメだけど、悠里は違うだろ?」と遠慮がちな声が発した。
 僕は椅子の手摺に頬杖をつき、

「理念が無いわけじゃない。民間人だろうが軍人だろうが、人が余計に死ぬのが嫌だからさっさと終わらせたいだけだ」
「やっぱり悠里は悠里だよ」
「僕が何なのさ」

 スバルの要領を得ない言葉に、僕は思わず苦笑する。

「悠里は……正義の味方だ」

カプチーノのカップを思わず落としかけた。顔に血が昇り、灼熱するのがわかる。こんな事を面と向かって言われたのはどれほどぶりだろうか。あるいは生まれて始めての経験かもしれない。
 とりあえずもカプチーノを一口。そしてサンドイッチを齧る。あまりに恥ずかし過ぎて、気が動転しているのが良くわかる。

「悠里、どうかしたか? 顔が赤いが」
「気にしなくていい。少し昔の恥を思い出しただけだ」

 頭の上に疑問符を浮かべ、スバルが首を傾げる。よもや自分のせいだとは思っていないだろうし、言ってやるワケにもいかず、僕は溜息に全てを乗せ、吐き出す事にした。

「本当に大丈夫なのか?」

 大丈夫だよ、と返すのと、スバルの注文していたパスタをウェイトレスが運んでくるのは同時だった。
 大皿に盛られた山のようなキノコの和風パスタが、圧倒的な質量感を伴ってテーブルに置かれる。
 レシートを置き土産に去って行くウェイトレスの背中を見、次いで待ってましたと言わんばかりの表情でフォークを手にしたスバルを確かめた僕は、次の瞬間にはフォークを多い尽くす麺と、それを一口で片付けたスバルを見てしまった。
 そう、この娘は大飯喰らいだ。朝昼晩と、どうしたらそのくびれたウエストに収まるのかと不思議になるほどの量を片付け、なおかつ大量のデザートを食する大食漢。昔ギャル曽根とかいう大食い芸能人がいたななんて事を考えるうちに、パスタ山の山頂が消え去っていた。

 「よく食うな」
「ん…………悠里も食べるか?」
「いや、単純にスゴイなって」
きっと今の僕は口をぽかんと開けた間抜けな表情をしているだろう。少なくともそう思ってしまうだけのインパクトが目の前にはあった。
「よくそれだけ食うよな」
「むしろこれだけ食べないと……」
「燃費悪すぎだよ。そのうち太るぞ」
僕は嘆息し、煙草を取り出す。スバルは至って真面目な表情で、
「トレーニングしているから大丈夫。それに、ボクはいつか悠里より強くなりたいんだ。だからたくさん食べてたくさん訓練しなきゃ」
「君なら簡単に追い抜けるよ」
僕は紫煙を吐き出し、吸い殻を灰皿へ落とす。スバルは首を振って、
「ううん。悠里は強いから……」
「高く買いすぎだよ。訓練積めば越えられる」
「でも強いのは事実だ」
「積み重ねただけだ。無能が54年積み重ねても、君なら簡単に追いつく」
カプチーノのお代わりを注文し、僕はフィルター手前まで吸いきった煙草を灰皿に押し付ける。
「54年も、ずっと戦っているのか?」
返ってきたのは予想とは外れた質問。僕は煙草を取り出す手を止め、18からだからね、と一言。
「辞めようと思った事は?」
「殺し合いの最中になら。でもいざ終わってみるとまだやる事があって、そんなこんなでズルズルズルズル続けてきた」
「そうなのか」
「それに人生の半分以上費やしているからね。これ以外にできる事がないってのもある」
でも、一番の理由は。そう続けるはずの声は運ばれてきたカプチーノに遮られ、代わりにスバルが続きを引き受ける。
「カミンスキィって男が、そうなんだな?」
「うん、あいつが一番の理由だな」
カプチーノに砂糖を追加して、僕は頷く。
「なんとしてもケリをつけたいってのが本音」
「ケリ、つくといいな」
つけるさ、必ず。僕はスバルにそう返し、微笑んで見せる。
「でも、何度も言うけど死んじゃダメだぞ」
「わかってる。相打ちも犬死もナンセンス極まる」
そういえば、なぜこの娘はこんなにも僕は心配してくれるのだろう。そんな疑問が首をもたげ、質問しようと口を開いた時、先にスバルの疑問が発せられていた。
「なあ悠里、悠里はカミンスキィとどういう関係なんだ?」
「ん? ああ、それはなーー」




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