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          序章

発:民間軍事会社AMS 特殊作戦業務部 総務課
宛:特殊作戦業務部 戦術旅団

■■■■■■■■における民間人の救助と国連軍の援護をここに命ずる。なお、■■■■■■への降下、突入においては国連航空宇宙軍の指示に従い移動、降下艇により兵員を輸送するものとする。
装備クラスはBを許可、兵員は一個中隊を指揮官の裁量により選抜すること。

これは国連統合軍参謀本部からの正式な業務委託である。

追加事項に関しては別紙参照のこと。

特殊作戦業務部総務課長:アルフレッド・ヴォーデヴィッヒ(印)
作戦業務委託指揮官:ユーリ・マクドゥガル海兵大尉




機密処理が施されているようだ





 植民惑星オーガスタス衛星軌道上 現地時刻2140
 国連統合宇宙軍 ヨーツンヘイム級重巡洋艦 戦闘指揮所

 国連統合4軍の一つである航空宇宙軍艦艇の戦闘指揮所は、モニターの青白い輝きと暗い闇に覆い尽くされている。
 指揮所の間取りはそれほど広くない。前方に配置された大型のメインスクリーンと、各要員が腰掛けるコンソールが20個ほど並び、レーダー要員や通信士、火器管制官などが静かに任務に取り組んでいる。
 機械や指揮所に詰めた要員たちの熱気が、メインスクリーンの向こうの戦闘風景と相まって、奇妙な緊張感が漂っていた。

 熱感知望遠スコープが捉えているのは、地上で絶望的な防戦を続ける国連軍と民間軍事企業の激戦だ。
岩ばかりが目立つこの惑星は、熱感知にかけてもありありと見て取れるほどに起伏に富んでいる。

 その中でも、戦場になっている区域は人の手がかなり入っている地域だった。
 岩棚の上には滑走路や倉庫の姿が立ち並び、ごつごつと平坦な部分が見当たらない地面にひかれた舗装道路の周りでは、歩兵や戦車、歩兵戦闘車両などが必至の防戦に駆り出されていた。

「前線部隊からの戦闘映像届きました」

 指揮所の闇のどこからか、オペレーターが報告する。
 スクリーンに見入っていた艦長は、思わず声の主を闇の中に探しながら大きく頷き、部下に威厳の表れと評される重々しい声で告げた。

「よろしい。サブモニターに回してくれ」
「了解」

 応答の声に遅れること数秒、メインスクリーンの脇に設置された正方形のモニターに、前線の車両から送られたと思われる戦闘の映像が投影された。

 暗視装置のせいで緑色の膜が張った世界に、敵味方双方の撃ちあいによる曳航が走る。どうやら戦闘車両の砲塔に取り付けられたカメラのようで、火を噴く砲身がはっきり写り込んでいた。

「映像、拡大します」

 そして、伸びる曳光弾の光条の向こうから迫りくる『敵』が、オペレーターの操作でアップにされる。
 身長5m弱。牙を剥き出しにした顔には4つの眼が輝き、体躯に比例した筋肉が、全身を覆う甲殻じみた鎧の間から覗いている。やや猫背ぎみのソレの手には、小さな盾と、腕と一体化したプラズマ砲が保持されている。

 『タイタン』と呼ばれるソレの足元には、身長2m程度のゴリラのような厳つい外見をした『ゴリアテ』や、トカゲそのもののやけに長細い顔に灰色の鱗状の肌を晒した小柄な『リザード』などが随伴している。
 地面を踏み鳴らし、獣や怪物そのものの面相を咆哮とともに歪め、手にした兵器で我々を駆逐する彼ら。
 星々の遥か彼方からやってきた侵略者。人類を上回る技術を有し、数多の惑星を焦土に変え、死者の骸を踏み越えて迫りくる最悪の脅威。
 全人類の敵にして『軍団(レギオン)』の名を冠する敵の部隊が、火砲の激しい応射を受けながら迫りつつある。

「避難民の状況は?」

 艦長が尋ねた。いまこの惑星に展開している部隊の任務は、戦火にさらされた民間人の救助と、敵の進行を遅らせるために他の惑星の座標情報を抹消することだ。

 民間人の回収さえすめば、あとは座標情報の抹消に向かった部隊の作戦終了報告が到着し次第、彼らも回収してこの戦場から離脱ができる。
 ただし、この任務における最重要目標は情報の抹消であり、止むを得ない場合は民間人を見捨てるのもやむなしとされている。

「現在、輸送シャトルの8割が収容されました」
「地上部隊は?」
「該当区域では一個大隊が、敵の2個大隊と交戦中。他の戦線も同様の状況です」

 艦長は無意識のうちに頭の上の制帽を整え、

「情報を抹消しに向かった部隊は?」
「中隊は現在敵と交戦中です。本体が敵の足止めを行いつつ、小部隊が施設へ抹消に向かいました」

 サブモニターの中で、対戦車誘導弾の軌跡とプラズマ砲の輝きが交差する。刻一刻と激しさを増す戦闘を見つめながら、艦長は命令を下した。

「地上部隊の回収降下艇を回すように。総員に撤収命令」
「艦長、情報抹消に向かった部隊を見捨てるおつもりですか?」

 横合いから非難する響きの声がかかる。

「もしもに備えてだ。部隊は向こうにも回せ……それと、『魔導兵』による広域援護の用意を」






植民惑星オーガスタス地上 作戦区域D669A 現地時刻2143
国連陸軍 第23レンジャー連隊 

 戦線までのアシに使ったハンヴィーは、岩の小山の上で敵のプラズマ砲弾を受けて完全に擱座していた。ほかに随伴してきた車両は乗員もろとも爆散し、同じ車両に乗っていた連中は、ハンヴィーから逃げ出す前に蜂の巣にされてしまった。
 いま盾にしているハンヴィーの中には、全身を撃ち抜かれて絶命した仲間の死体が収まったままだ。

「くそが」

 支給されたM16を撃ちながら、伍長は罵り声を上げた。光学サイトを覗き込み、岩まみれの世界を進軍するレギオン軍へ向かって小銃弾をばら撒く。
 と、遠くの岩陰で青い光が瞬き、伍長が身を隠した瞬間ハンヴィーの車体にプラズマ弾が命中して火花が散った。

「なんて数だよ、くそったれ!」

 銃口を車体から突出し、応射する。途端、敵の火線がこちらに集中して、擱座したハンヴィーの周りに火花や着弾の土煙を巻き上げる。耳障りな異音と擦過するプラズマの迫力に耐えかねて、伍長は身を隠した。
 敵の射撃が途切れる。伍長は弾倉を入れ替えたM16を再度車体から晒し、岩陰から立ち上がったリザードの痩躯へと弾丸を叩き込んだ。その勢いのまま横になぎ、リザードの隣で吠え立てていたゴリアテの、ぶ厚い胸板にもライフル弾を飛び込ませる。 

 血飛沫とともに倒れ込んだ筋肉質な体を見て思わず歓声を上げかけた伍長は、仕返しとばかりに飛来した青白い砲弾の爆風を受けて、短い悲鳴を漏らした。
 爆風が二度三度と続き、粉塵が巻き上がる。ようやく砲撃が止んだころには、伍長は煤まみれになっていた。
わんわんと耳鳴りが酷い頭を振り、顔を裾で拭う。戦闘服に降りかかった砕けた岩のかけらを払い、使い切った弾倉を入れ替える。

 再装填を終えた段階になって、自分の手が微細に震えていることに気づいた。喉がからからに乾き、脈拍が心なし早いように感じる。

「くそ……くそ……」
「おい、ここで何やってる!」

 不意に怒鳴り声が飛んできた。
 小山の足元を見ると、アサルトライフルを抱えた国連軍兵士が、乗ってきた車両から降りてこちらに駆け上がってくるところだった。

「何って、遅滞防御戦闘ですよ!」
「阿呆! 撤収命令が下りたのを知らんのか!」

 兵士の襟に軍曹の階級章を見つけ、伍長は応射を再開しながら、

「まだ情報の抹消に向かった部隊が交戦しています軍曹」
「それを踏まえた上での撤収命令だ」
「見捨てろとおっしゃるんですか!?」

 軍曹の腕がのび、伍長の襟をつかんで立たせる。いきなり引っ掴まれた伍長は、そのまま坂を下りだした軍曹に引きずられる形となった。

「彼らの回収は別作戦だ。そして何より……あの部隊は、精鋭だ」






戦闘が開始されて5時間、劣勢とはこのことだな、と僕は内心につぶやき、根元まで吸い尽くした煙草を投げ捨てた。普段なら僕の副官が注意してくるところだが、その副官は座標情報の抹消に出かけたまま戻ってこない。通信ではあともう少しかかると言っていたから、しばらくはお小言を聞かずに済む。

「まったく、素晴らしいことだ」

 前方には敵の部隊。撤収は許されず、我隊以外はほぼ撤収済み。そして僕らの撤収許可が下りるまではまだ時間がかかる。どこを向いても明るい要素がありゃしない。

「マクドゥガル大尉、何か言いましたか?」

 空輸して持ち込んだ89AFV(89式装甲戦闘車両)の車長が、ヘッドセットを脱ぎながら尋ねてくる。89AFVは弾薬の補給と応急修復の途中で、整備員が周囲を動き回っていることからしてまだ動けないのだろう。僕は車長の方を向き、

「戦闘の映像は、ちゃんと上に届けているか?」
「もちろんです」
「命令に変更は?」
「ありません。抹消完了し次第回収部隊を送るそうです」

 車長が空を指さす。つられて見上げると、煌々と輝く巨大な衛星を浮かべた星空が、頭上に広がっていた。煌めく星の海のどこかに、僕らを運んできた宇宙巡洋艦が漂い、ここを見下ろしているのだろう。

 上は呑気なもんだ、とつぶやいて視線を戻した僕は、手にしたコルトM733コマンドを保持しなおし、ついつい宇宙と地上の装備レベルのアンバランスさに苦笑していた。
 時あたかも2029年現在、諸事情によって急速発展した科学技術のせいもあって、艦艇と言えば大気圏外で活動し、旧時代のSF(この場合半世紀以上昔の物を指し示す)のようにワープ航法を運用するモノのことを指す。

 対して歩兵レベルの末端装備や陸戦兵器は、長引く『戦争』による資金不足や時間の不足などがあって、進化はかなり遅いのが現状だ。例を上げれば、僕の隣のLAVは1980年代には基本が出来上がっていたし、僕のM733のベースは60年代に開発され、今でもM4A1カービンとして生き続けている。

 ほとんどを喪失したとはいえ、人類が移民惑星を保有するこの時代において銃火器が発達しないのはやはり戦争のせいという面がある。戦争は科学を育てるというが、度を過ぎた浪費は導入を遅らせるもとになりかねない。

「どうしようもないねこりゃ」
「このままいけば包囲されて全滅ですよ、大尉」
「あっさり言うなよ」

 僕は思わず苦笑して、他の防衛部隊がいたはずの方向を見遣っていた。あわてて飛び去っていく降下艇が、彼らの撤収を示す何よりの証拠だ。

「友軍は俺らを放置して撤収、大尉のかわいいお姫様は情報を消しに行ったまま、なかなか素晴らしい状況ってやつですよ」

 車長が煙草を咥えて笑う。お姫様――僕の副官が向かった、後方にそびえる岩山をくりぬいた基地を示した彼は、ジッポライターで煙草に火をつけた。

「すまんな、こんな仕事に選抜して」
「いやいや、手当は降りるし、体をなまらせないために必要ですぜ、仕事は。おっと、敵さんが攻撃範囲に」

 車長が手元のコンソールを見つめながら言う。あらかじめ攻撃範囲に指定しておいたエリアに敵が入り込んだのだろう。予定では、その段階で攻撃を開始することになっている。

「第二小隊のLAVに効力射を許可しておけ」
「了解。ビートルリーダーよりビートル2、射撃許可が下りた」

 この中隊ではIFVの類をビートルの符丁で呼ぶ。車長が命令を下しているのを横目に、僕も無線機をまさぐった。

「アンダーテイカーより偵察小隊、状況は?」

 肩の無線機のトークボタンを押すと、喉に巻きつけた骨伝導インカムが僕の声を拾い上げ、送信してくれる。

『偵察小隊よりアンダーテイカー、状況にさしたる変化なし。ただ友軍が撤退したため中央部への敵が増えました。このままだと回収機のLZ(着陸地点)が確保できなくなります』

 無線のノイズとLAVの発砲音に混じった偵察隊員の声。僕は腕に巻いた個人携帯端末の機能から周辺の地形図を呼び出し、布陣した味方の様子を確かめる。

「敵の配置図をこちらに送ってくれるか?」
『了解』

 返事からややって、端末に敵の位置が浮かび上がる。僕らが布陣しているのは、円形に形成された直径2km近い巨大なクレーターの内側だ。盛り上がり部分の縁に三日月状に部隊を分散させ、広範囲をカバーしている。
 この方法は確かに広域の防御が可能であるけど、同時に戦力の分散と防衛ラインの希薄化を招く行為でもあり、綿密な偵察と滞りない弾薬供給、確実な通信ラインの用意が必要になってくる。
 敵はその三日月を覆いこむように動いていて、すこし中央部分――すなわちここ――への集中率が上がっているのが見て取れた。

「確認した。監視機材を設置して撤収しろ」
『了解、交信終了』

 このままいけば、接近されてなぶり殺しの白兵戦になるだろうと、僕は判断する。それだけは、何としても避けねばならない最悪の事態だ。
 僕の指揮下にある戦術中隊は総勢120名で成り立っている。そのうち負傷兵は33名、副官につけた護衛が10名。今動けるのは77人しかいない。
 もしもそうなれば、僕らは全員ここで屍をさらすことになる。

『アーチャーよりアンダーテイカー、大尉聞こえますか?』

 耳に飛び込んできたのは耳慣れた女性の声。よく通る静かで理知的なそれは、僕の副官のものだ。

「ああ、聞こえているアーチャー。状況は?」
『座標と機密情報の抹消が完了しました。そちらへはあと10分ほどで』
「わかった。さっさと戻ってきてくれ」

 了解、と副官が応じる。僕は吸い切った煙草を新しいものに取り換え、通信相手を副官から軌道上の重巡洋艦指揮所へつなぐ。

「アンダーテイカーよりHQ、聞こえているか?」
『アンダーテイカー、感度良好だ、どうぞ』
「情報の抹消完了、あと10分で部隊が集結する、迎えを出してくれ」
『了解した、降下艇を送る』
「それと、航空支援は頼める状況か?」

 僕が尋ねると、応じたオペレーターが口をつぐむ。本部要員に確認をとっているのだろう。数秒の空白を置いて、ようやく返事の声が聞こえた。

『ネガティブ、航空部隊は一部を除き撤収している』
「現在要請可能な攻撃支援はあるか?」
『少し待て…………………《魔導兵》による攻撃支援が可能だが、まだ時間がかかる。先ほど隣の区域に使用されたばかりでクールダウンが必要だ』
「了解、準備完了し次第連絡を頼む、交信終わり」

 連絡するべき場所への通信を終え、僕はAFVのサイド装甲へと寄り掛かる。僕の前を、燃料缶を抱えた整備員が通り過ぎた。

「中尉、いいか?」

 車長に――彼は中尉だ――呼びかける。無線通信を先に終えていた車長は、煙草をふかしながら「なんです?」と応じた。

「あと10分で迎えが来る。負傷兵を下がらせておこう」
「お姫様が仕事を終えましたか。了解、で、俺らはケツ守りですか?」

 僕が頷くのと、整備員が整備の完了を宣言するのは同時だった。僕は煙草を吐き捨ててAFVの車体へ掴まり、砲塔の上へとよじ登る。

「そう、ケツ守りだ。中尉、各部隊に負傷兵を連れてLZへ順次後退を命じてくれ」

 言いながら、僕は砲塔のハッチからAFVへと乗り込んだ。車長が僕の命令通りに各部隊へと伝達するのを聞きながら、僕は砲手兼操縦手用のシートへと腰掛ける。
 補足しておくけど、僕は89AFVの専属操縦手ではない。ただ単にこの部隊の指揮官でこの手の車両の運用に長けていただけだ。
 端末を操作し、エンジンを始動させる。正面のメインモニターや左右上下に設置された合計9個近い大小の液晶画面が起動し、火器管制装置(FCS)や情報リンクシステムが起動する。

 最近の兵器は車両ですら面倒が多い。電子機器のすさまじい小型化に伴い車内にスペースができたはいいが、その分クセもセットアップするべきことも増えたからだ。
 35mm機関砲の制御装置も、M240同軸機関銃も問題ない。キャタピラにも異常なし、エンジンはちゃんと稼働している。モニターにチェック要綱完了の報告が躍る。

「弾薬は何にしますか大尉」
「APDS(装弾筒付徹甲弾)を」

 さて、と僕はつぶやき、面倒極まる複雑な操縦系に向き直る。
89AFVの操縦は、2名運用の際は操縦桿で行う。左右のキャタピラは足元のフットペダルにより動かされ、左右別々に稼働させることが可能になっている。
 問題は砲塔操作で、車体を障害物に当てないように動かしながらも、砲塔は敵の方向を向けて撃ち続けねばならないのだ。つまりは、戦闘中に常時よそ見運転を求められるわけである。
 操縦手と砲手の連携にかける訓練時間短縮のはずが、こんな仕様になったせいで、奇妙な操縦形態になれる必要がある分時間が余計にかかるありさまとなった。嘆かわしいことだ。

「装填完了しました」
「OK。さてと」

 いくつかのモニターの一つに、部隊の撤収状況が映っている。負傷者優先で、僕らが少しずつ防衛戦を縮小していくのに対して、敵はじりじりと追いすがっているようだ。特に、僕らのいる中央部が。

「中尉、準備は?」
「大丈夫です。こちらは赤外線監視装置で周囲を警戒します」

 砲塔へと備え付けられた赤外線装置を起動し、車長が言う。通常、車体前方と砲塔の狙う先以外確認できない砲手に代わり、弾薬装填と周囲の監視を車長が警戒することになっている。

「さあ、戦争だ」


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