「や、やだ…やだよぅ…もう、酷い事しないで…ツーいい子にするから…だから…」
部屋の隅で一人の少女ががたがたと震えている。
「お、お願いします! ツーには、娘にはこれ以上」
はかなげな女性が白衣の男の一人に縋り付き、必死にその足を止めようとしていた。
だが、あまりにもその力は弱くて。
「どけっ。くくく…さあツー、今日もお薬をたっぷり打ってやるからなぁ」
ぐいっと少女の手を捩り挙げると、そこには無数の注射跡。そしてその腕にさらなる跡を増やすため、ゆっくりと注射器が近づいていった。

「ぎぃぃっ…あ、ぐ、ぃぁぐぃぁいぃい!」
私は体を掻きむしる。血管を虫がはい回るような不快感と、全身の血が沸騰しそうな感覚。
何よりも自分が消えていってしまいそうな不安が絶え間無く私を襲った。
――これを地獄と言わず、何を地獄と呼べばいい? これを地獄と呼ばず…
「ごめんね…ごめんね…」
私の手を握ってくれている母だけが…私のたった一つの安らぎだった。
あの日、まで。

私はあまりの苦痛に目を覚ます。…いびつにねじまがった右腕がまだ動かない。
回復力を調べるために私の体は徹底的に白い奴らに痛め付けられた。
痛い。いや、もう何処がどう痛いのかもわからない。
こんな時、私はいつも母を呼ぶ。
そうすると母は私が眠るまでそばにいてくれたから。
「ぉ、かぁ…」
声を必死に絞り、目だけで母を探す。
「…だ、め…フジさん…ツーが」そこには
「…大丈夫。点滴の効果でぐっすり眠ってるよ」
母の姿をした
「あっ…くぅん…っ」
ケダモノがいた


それからの事は覚えていない。
気がつくと、私の居たあの部屋ではなく暗い洞窟に居た。
ただわかった事は、全身が赤色になっていた事。
そして…ヒトというイキモノの醜さだけ。
「は、は…ふ、ふふ…はははははははははは!」
――肺が震え、私の口から声が溢れ出す。
この行動が、何と言うのかはわからない。ただ一つ言えることは…
――私はついに一人ぼっちになってしまったということだ。

それから、幾年もの月日が流れ…彼が現れる。
彼は私を暗闇の淵から引き上げてくれた。
彼のものになった私に彼も手をやいただろう。何せあの時の私はひどかった。
ぶつかり合い、離れようとするたびに私は彼に惹かれていく。
けれど、私はポケモンでしかない。だから私は彼の傍にいれるだけでよかった。

「ほらっ、早く行こう!」
「待てよカスミ! 早いって!」
――最近、主はあのカスミとかいうのにご執心だ。少し、悲しい。
主の傍の私の席はいつの間にかあいつの席になりつつある。

――最近では、主の話の半分以上があいつの話だ。たまらなく悔しい。

――どうやら、二人が付き合うようだ。憎い。

「主、大丈夫だ。私がいつも傍にいる」
「ひ、ひぃ…人殺しぃぃぃ!」
「ふふ、主。主の、とても温かいぞ…主…主…」
ぐちゅり、と真っ赤な肉に手を差し込む。
そこはまだ力強く脈うっているような錯覚すら私に与えてきた。


――愛されたい、と願ってしまった。夢だけでは満足出来なくなってしまった。
主に拒絶され、私の世界は変わってしまう。冷たい、無機質なあの世界に。
気がついたとき、主の腹は真っ赤になっていた。

五月蝿いニンゲン達が私を取り囲む。あいつが泣きながら何か言っていた。
聞こえない。聞こえない。
ふと右肩が焼けるような痛みに襲われる。
痛い、痛い、痛い。
奴らは、主と私を引き裂くつもりだ。
許せない。許せない。許せない。許せない。
私は空いている手を天にかざす。
殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる。
私と主を引き裂く奴らは殺してやる。

私と主は始まりの場所に戻って来た。私達の出会ったあの洞窟。
私のお気に入りだった石の椅子に主を座らせてやる。
ついでに腹からはみ出していた内臓も戻しておこう。ああ、私ほど主を思う者が他にいるだろうか。
「ああ、主。これからはこの洞窟でずっと二人で生きていこう。」
主が笑ってクれたkIgあシた。