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海んチュウ、イッペーカナサン(大好き)!



――ビッグウェーブが来る! それも、とてつもない未曾有の荒波が。
直感的に、それは生まれ育った島の北側沿岸、観光船の往来が激しいところに違いない。
それと向かい合い、日焼けした――小柄な少女は、そっとほくそ笑む。

「たんめー(祖父)が言ってた大波……“ウミンチュー”の血が騒ぐさぁ~!」

背格好に似合わない大柄なサーフボードを立て掛けて、彼女は来る大波を前に興奮する。
そして、行動的な服装の短パンから覗く――鋭角に曲がった「稲妻型の尾」を揺らした。

彼女は人間ではない。それらと異なる生命体の一派。
人は彼女らを生活圏に招き、共に歴史を歩んできた。
「ポケットモンスター」として、「パートナー」として――。



「――なんか、すごく揺れるね……」

客船の一室にあるベッドに腰掛けて、青年は周期的に揺れる船の様子を口にした。
それは、返答に表さなくとも、周囲が感じていることなので、当然誰も口を挟まない。
波が荒れているのか、大きく揺れる船内は淀んだ空気が横行する。

つまり――、“船酔い”だ。

だから“一人”だけ、例外が居るのも、この『メンバー』では何時もの事だ。
多くの面子が揃う中に一体、骨格も匂いも、そして「扱い」まで違う“雄”のポケモン――カメックス。
彼は多くの場合、虐げられる役割を強制的に担ってきたが、今という時間は実に清清しいに違いない。

「だらしないねぇ?」



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今にも戻しそうな顔色で俯いている赤い髪の女性を見下ろし、今までのお返しとばかりに挑発気味に鼻を鳴らす。
それを耳にして、やはり黙って入られない性格の女性はすぐさま顔を上げてカメックスを睨み上げる。
轟々と燃える双眸を傾けて、“炎”をその身に宿す彼女は額に血管を浮かべた。

「水系が……調子に乗るな」
「おお、こえーこえー~?」

呪いの呟きを一つ放った所で、絶好調のカメックスには効果がいまひとつ。
炎タイプの代表格「リザードン」と言っても、やはり水には勝てないようだ。
頻りに「えづき」、客室トイレの近くに座ったまま、半生半死の状態で揺れている。

その近くには、備え付けのテーブルに着いて優雅にティーカップを傾ける女性が居た。
見た目は、リザードンに比べて余裕の窺える雰囲気だが、実際はどうだか……。

「ああ……ミルクティーは美味しいですね」
「フシギバナ……“空のカップ”で何言ってんの?」

佇まいとして最も大人びている「フシギバナ」が、カメックスに突っ込まれる「異常事態」。
既に状況は、抜き差しならぬものに、その進路を改め始めている。

「情け無い……」

不意に、新たな女性の声が響き渡り、瞬時に場の空気が静まり返る。
まったく異質な声質で、室内を席巻すると新たに溜息が零れた。

「だからこんな“クズ共”は要らないと言ったんだ」



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女性は部屋の角に立って室内の状況を一望すると、冷たく言い放った。
その声は室内全域に響き渡り、当然の事ながら、誰の耳にもしっかり届いている。
そして――、リザードンは角に立つ女性は見上げ、溜息を吐く。

「ボス……ミュウツーを早いところ医者に見せたほうがいいと思うぜ」
「私もそう判断いたします」
「あれは……やばいよねぇ?」

リザードンの言葉に続く面子の声、その理由は一目で判る。
ミュウツーと呼ばれた女性……もう、“何回”も同じ事を言っていた。
つまり――、意識がはっきりしていない表れだった。

「情け無い……だからこんなクズ共は――」
「さっさと連れて行ってくれ」

リピート再生が始まった瞬間、リザードンは頭を抱えて呟いた。
聞き飽きるのも当然、仕方なく青年は彼女の要望に頭を垂れた。

「はい……」
「要らない、要らない、いらにゃーい……」

マネキンのような身体を抱えて、青年はそそくさ医務室に向かう。
最後の語尾が間延びした事実は、いくらか室内に残る彼等の気分を盛り返した……のだと思う。

「吐きそ……」
「実は私も……」

死にそうな顔色になって俯く二人の様子を眺め、一人無事なカメックスは腰に手を当てて溜息を吐く。
そこへ、勢いよく部屋のドアが開かれて、可愛らしい様相の少年が飛び込んできた。

「お帰り、イーブイ」
「ただいま! すごいね、船って本当に水の上を浮かぶんだね!?」
「そうだね、プロテインだね」



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一人だけ異常にテンションが高く、それが周囲の状況をより、ナーバスなものに変えていく。
再度、カメックスの溜息が零れ、部屋の隅に投げたバッグを手繰り寄せて、中から生の唐辛子を一本発掘する。
それを、帰って来たイーブイの前にチラつかせ、興味が移ったところで通路に向かって投げ込んだ。

イーブイは唐辛子を追って部屋を飛び出し、途端にけたたましい喧騒が終了する。
周囲を見渡し、およそ女の子とは思えない悲惨な状態を目に収めて、カメックスは肩を落す。
結局、元の流れに戻っていた。

「念のため、ルームサービスに酔い覚ましとハーブティーを注文しといて良かった……」

嘆きが、船室に零れ落ちた。






「あー、地獄だったぜ……」

先程までの渡航をそう結論付けて、リザードンは馴染みのメーカーが刻まれた煙草を口に咥えて漏らした。
それはその場に居合わせる全員が思っていることで、あまり介入したくない内容だ。
誰の口からも肯定の意見が飛び出さないのに首を傾げながらも、リザードンはとにかく煙を吸引して、吐き出す。

「はぁ~、やっぱコイツだけ俺を貶めない……頼りになるぜ」
「だったらソイツと結婚して余生を過ごせばいいだろう?」
「……あん?」



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折角、気分が盛り返してきたところで、どうしようもなく耳障りな女の声。
思わず吸い掛けのフィルターを噛み千切ってしまうほど、瞬間的に感じた怒りは相当なものだった。
振り返り、声の主を眼中に収めて、更に怒りが倍加する。

「なにしてやがんだ、テメー!?」

まず目に飛び込んできたものは、一応の仲間である「ミュウツー」が、有ろう事か自分達の所持者と連れ添って歩いていること。
驚愕はそれだけに留まらず、彼と腕を組んで身体をこれでもかと密着させていたのだ。
これにはさしものリザードンも気が気でない。

「見て分からんとは、脳容積が足らんようだな」
「いいから、その鬱陶しい“モン”を退けろ!」

震える声で指差し、腕を回して女性特有の膨らみを宛がうミュウツーを睨みつける。
二も無く噛み付きそうな形相で、周囲の目もお構い無しに道端でいがみ合う。
その渦中に立たされて、青年はふと、到着の際に船内に残ったカメックスの事を思う。

無理を言ってでも、同伴してもらうべきだった……。
彼は、こうした状況を予見して、多分に残ったのだろう。何が「荷物番」だ!
とは言え、今更いない者のことを考えていても、解決はしない。
仕方なく、青年は二人を指し、少々強めの口調で喧嘩の仲裁を行う。

「止めないと、もう口を聞かないぞ!」
「ごめんなさい」

異口同音、そうして喧騒は一先ずの終局を迎えた。
自覚していないと思うが、このメンバーで青年の発言は絶対的な意味を持つ。
その理由を知るのは、カメックスの他にもう一人――、フシギバナだけ。



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だから、そうした事実を踏まえた上で、彼女は可笑しげに微笑む。
当然、彼女も自身の所有者に対して、誰にも負けない愛情を持っている自信があった。
それでも何故か、二人の周囲が見えなくなるほどの一途っぷりを見ていると、笑いが込み上げてくるのだ。

「フシギバナ?」
「いいえ、ちょっと思い出し笑いですわ」

不意に注意が向かい、フシギバナは普段通り微笑み返す。
それから、自分は青年の二歩後ろを付いて歩き、ミュウツーは腕を解いて真横を歩く。
リザードンは未だに膨れっ面で、新しく点けた煙草を猛烈な勢いで吸い上げる。

どうしても、笑いが込み上げてしまう。
終始、そうした可笑しな行動を取りながら、青年等一団は石畳の歩道を歩いていく。

「ねえ、ご主人様?」

もう一人、付いて歩く小柄な影が、ミュウツーと反対側から声を上げる。
青年は首をかしげつつ、その少年に向かって視線を傾けた。

「なんだい? イーブイ」

小柄な少年の問いを聞くため、青年は僅かに背を縮めて目線を合わせる努力をする。
少年は手を挙げて、純粋な視点で口を開く。

「えっとね、ボク達のこれから行く目的地ってなんですか?」

単純な質問、すでに出発が決まる以前から話されていたことを蒸し返すイーブイの子供っぽさに、少しだけ溜息が漏れる。
しかし、青年は決して疎外にせず、改めて質問の説明を始める。



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「それは、ここに珍しい『ポケモン』がいるという噂を聞いて、それを確認しに来たんだ」
「どんなポケモンですか?」
「うーん……なんでもね? サーフィンをする『電気ポケモン』だって話だよ」

何とも可笑しな話を口走りつつも、どうやらイーブイは納得したようで、何も言わなくなった。
代わりに、周囲を取り巻くメンバーの方が、疑問に唸り声を上げてしまう。

「改めて聞くと……やっぱ『ポ○○ま』みたいな話だよな」
「ええ、『ポ○た○』ですね」
「ふむ……」

眉唾物の現象を確かめる今回の旅の目的。
やはり、彼女達には理解が出来なかったようだ。会話の無いまま一行は海岸近くまで足を運ぶ。
そこで出会う、奇怪な噂の検証……そして新たな旅の『仲間』を想像して――。


<続>