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外からロケット花火の音が聞こえたので書いた。



日が沈み切る僅かな時間……最も世界が美しく彩られる時。
二人の男女が寄り添うように、草の絨毯が生い茂る斜面に腰を下ろして空を眺めていた。

青年は風貌から察せられるように、ポケモントレーナーであろう。
誰よりも強くなる事を夢見て故郷を発ち、思い起こされる時間が久しい。
心の内で、待っていてくれる家族を思って彼は夕日を惜しむのだろうか。

そんな一抹の哀愁漂う横顔を見詰めて、アルビノの女性は知れずに息を零す。
一対の鋭角が覗く頭頂部に、スカートから這い出す長い「尾」。
彼女は「ヒト」ならざる存在で、その事は誰でも知っている。

彼女は――『ポケットモンスター』、またの名を「ミュウツー」と呼ばれていた。

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「主……」

頃合の夕日が照らす最愛の主を食い入るように見詰め、彼女は呟いた。
沈みかけの陽光は、得も言われぬ山吹色に輝いて、それを愛する人にささげる。

なんと神々しいことか? 我が主は“この世”の輝きにすら祝福されている……。
ミュウツーは妄信を止めず、誇大妄想を更に膨らませながら、次第に身体を近づけていった。
もう、数センチ……肌の触れそうな、ほんの少しの距離に心音を高鳴らせ、彼女は頬を上気させる。

そして、青年の裾と彼女の裾が触れた瞬間――、強烈な破裂音が二人の下に届けられた。

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「花火大会? マルマインでも打ち上げんのかよ」
「どれだけデカイ大砲がいるんだ……?」

煙草の煙をくゆらせて、惚けたことを言うチームのムードメーカーに苦笑しながら、青年はチラシを台の上に広げる。
大き目の紙に印刷された概要は、端的に近くの町で盛大な花火大会を催すことを知らせている。
他にも出店が立ち並び、久方ぶりのイベントに青年は柄にもなく興奮していた。

「なあ、行ってみないか? この町の花火は派手な演出で有名らしいんだ」
「へえ~? 賑やかそうだねぇ~」

さして興味なさそうに相槌を打って、カメックスは夕食の後片付けを始める。
代わって、イーブイとダークライは子供らしく目を輝かせて青年に擦り寄った。

「はい、は~い! ボク行きたいですっ!」
「…………!!」
「うん、うん! 行こうね、皆で行こう!」

純粋な肯定意見をもらえて青年は嬉しくて堪らない様子。

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それから、彼は周囲に目を配り、フシギバナとリザードンに呼び掛ける。
当然、彼女達からは「行く」の二度返事が飛び、メンバーの殆どが外出する事になった。

ふと、直前になって青年はあたりを見回す。
そして、首をかしげた。

「ミュウツーはどこに行っちゃったんだろ?」

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「………………!?!? ……!!」
「すごい、すごいよ! あっちも変なの売ってる~」
「こら、こら……迷子になっちゃうよ?」

煌びやかにライトが照らす出店の数に圧倒され、
黒い浴衣衣装の少女と花柄の浴衣を着た少年が、キャラクタの印刷された団扇を振り回して、興奮気味に走り回っている。
どこを歩いていても活気に満ち溢れて、どこを見渡しても興味を引かれるモノが売られていた。

「まったく、ガキってのは……」

目の前でチョコマカと動き回る小動物一組を見て、リザードンは煙草の煙と一緒に溜息を吐く。
ジャケットを脱ぎ、タンクトップ姿で歩いていると、少しだけ浮いているような気分になってくる。
さすがに花火大会ともなれば、浴衣の比率が圧倒的に多かった。

「気になるなら、貴女も礼装に身を包めば宜しかったのに?」

無意識にあたり見回していたのか、目敏く見抜かれ、リザードンは咄嗟に煙草を落してしまう。
声の主は、やはりというか、もう一人のライバル――フシギバナだった。
上品な笑みを浮かべる視線から顔を逸らし、強引に首を振って気分を入れ替える。

「あんな暑苦しいモン、夏場に着れっかよ!」


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彼女らしい、なんとも風情を理解しない発言だ。
それからすぐに、特徴あるフシギバナの上品さ漂う笑い声が漏れる。

「私は苦になりませんが?」
「そりゃあ普段着だもんな……」

新しい煙草に火を点し、最初の煙を吸引するとアナウンスが耳を突く。
どうやら花火大会の始まりを伝えるものらしい、すぐさま青年の呼ぶ声が響いた。

「二人とも、そろそろ本格的に花火が打ち上げられるよ?」
「ああ、聞こえてたよ」
「楽しみですわね」
「早く行かないと人でごった返すからね? 行こう!」

言い終わると青年は二人の腕を取り、花火の打ち上げられる川原の方へ歩き始めた。
到着までの終始、二人は強引に取られた腕を見詰め、頬を染めた。

川原に到着し、青年はすぐに点呼を取って全員がいる事を確認する。
ちゃんとダークライも居て、イーブイは余裕の表情でハバネロを齧っている。

「よし、よし……みんな揃ってるな」
「いくらなんでも心配しすぎじゃねえ?」
「ふふ、それがご主人様のいいところでしょうに」



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精一杯保護者を務める青年の背中を見やり、フシギバナは笑窪を作って微笑む。
そして、何時の間に調達したのか、チョコバナナを上品にかじりだす。
ただし癖のある食べ方で、まずチョコ部分を丹念に舌で舐めとる。

「……卑猥じゃね?」
「? 何がですか?」
「分からねえんなら……いいんだけど」

とにもかくにも、始まりを告げるアナウンスが鳴り。
人だかりの喧騒は一際大きなものに取って代わる。
果たして爆発する花火とこの場所と、どっちが騒がしいのか。

そんな疑問が頭を過ぎった頃、広い川を挟んだ向こう側から一発目の火の粉が天に打ち上げられた。
そして、盛大な音響を轟かせて破裂する。
見事な花模様に喚起が起こり、喧騒は嵐となって川原を騒ぎ立てる。

「すげえ、めっちゃ拡がったぜ!」
「た~まや~!」
「では私は、て~きや~!」
「……………!」
「案外、うるさいんだなあ~……」


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各々の対応が見て取れる初発、それから立て続けに花火が打ち上げられた。
赤、青、緑、黄色と色取り取りの輝きが爆ぜて、川原に集まる人の心を彩っていく。
それから、花火は断続的に上がり、予定の時間を越えても空を燦々と照らし続けていた。


~反対の川原~


「さっさと入れ……」
「ひぃ……俺達は花火玉じゃない!?」
「ごちゃごちゃ煩い……この場で殺すぞ?」

苛立たしげに爪を噛み、純白のミュウツーは目の前で恐れ戦く花火師を睨み、顎で大筒の中に入るよう促した。

「お前らが……いなければ、絶対にいい雰囲気になってたのに……!」



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彼女の怒りは抑えようがなく、そして抑える役も居ない今、やりたい放題になっていた。
嫌がる花火師を大筒に押し込んで、花火代わりに打ち上げる。
そして、上空に上がったところで、サイコキネシスで破裂させるのだ。

今もまた、点火された大筒が爆音を轟かせて一人の花火師を空に打ち上げる。
そこへ、ミュウツーの怒りの波動が強烈な爆発を引き起こす。
飛沫になって降りしきる血潮と肉片、それらを見下し、少しだけ気分が良くなって笑いが零れ出す。

「汚ねえ花火だ……」

<了>


「わん……ガチで忘れられたさぁ~……なんでなんね……?」
「まあ、まあ……トーフヨーやるから泣き止めって?」