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s_nar03_1 | 鳴歌個別3 シーン3-1 スタート
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;背景(教室)
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家で台本の読み合わせを行ってから一週間が経過した。
夏休みも近付き、各クラブの練習も活発となり、もはや屋上には近付くこともできないくらい賑わっている。
そのうち人が落ちたりするんじゃないかと思わなくもないが、かなり高いフェンスに覆われているのでよじ登ったりしない限りは大丈夫だろう。
自宅での練習を毎日やるのはオレの体力が持たないので、週に2回で勘弁してもらっていた。
部室で練習するときは、皆と合同でやるボイストレーニングと体力作りのための腹筋やら柔軟運動を行っている。
割と体育会系のノリだ。
それが終わったら各々の目標に向かって個人練習を行っており、オレと西友は部室の隅で台本をどういう風に読むとか、前回やった練習を録音したものを聞いて、その反省会などを行っていた。
地味にしんどい。
<御社 薫>
「隼人く~ん。迎えに来たよ!」
<坂本 隼人>
「カオルか? 今日は部活にはでねーぞ」
<御社 薫>
「知ってるよ。今日は隼人くんの部屋で練習するんだよね?」
<坂本 隼人>
「ああそうだ」
<御社 薫>
「今週はボクが監視役だからよろしくね」
<坂本 隼人>
「週単位での持ち回りになったのか?」
<御社 薫>
「部長もコンクールで忙しいからね」
<坂本 隼人>
「まあいいけど、邪魔だけはすんなよ」
<御社 薫>
「わかってるって。それじゃボクは先に帰って着替えてから行くから!」
カオルはそう告げると、脱兎のごとく教室から出て行った。
<西友 鳴歌>
「きょ、今日の監視の人は、御社さんなんですね」
何気に西友はオレの隣にずっといたのだが、カオルからはガン無視されていた。
<坂本 隼人>
「監視というかちょっかいばかり出してきそうな気がするが、耐えられるか?」
<西友 鳴歌>
「う、うん。頑張ります」
ぐっとガッツポーズを作る西友。やる気は感じられるが、迫力は全然なかった。
<坂本 隼人>
「それじゃ行くか」
オレは西友と一緒に家路へと向かった。
…………
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s_nar03_2 | 鳴歌個別3 シーン3-2 スタート
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;背景(自室)
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<坂本 隼人>
「ただい……ま」
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;立ち絵(女装カオル) ※無ければ普通の制服姿で以下のセリフを少し変更する
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<御社 薫>
「おかえりなさーい!」
部屋に入るなり、カオルの熱烈な歓迎を受けた。
それにしても、なんて格好してやがる。
<西友 鳴歌>
「御社さん。その格好は」
<御社 薫>
「カワイイでしょう?」
<西友 鳴歌>
「はい。とってもお似合いだと思います」
<御社 薫>
「隼人くんはどう? カワイイと思う?」
正直、西友と比べるのが申し訳ないほど、カオルは可愛かった。
こいつどうして男に生まれたんだろうな。
<坂本 隼人>
「ああ、カワイイのは認めるよ。オマエがNo1だ。ところでカオル。どうせオレんちのことは熟知してるだろうから、お茶でもいれてきてくれ」
<御社 薫>
「もちろんいいよ。隼人くんは何が飲みたい?」
<坂本 隼人>
「なんでもいいよ」
<御社 薫>
「そう。それじゃ喉に優しいハーブティーを淹れてくるよ」
<坂本 隼人>
「なあカオル」
<御社 薫>
「なんだい隼人くん?」
<坂本 隼人>
「西友にも聞いてやってくれないか?」
<御社 薫>
「ああそうだった。水でいいよね?」
<西友 鳴歌>
「えっ、あのっ、み、水でいいです」
<坂本 隼人>
「いいわけあるか! オレと同じものを頼む。それが出来なきゃ帰っていいぞ」
<御社 薫>
「冗談だよ冗談。ちゃんと全員同じものをいれてくるよ」
<坂本 隼人>
「入れてきたカップはシャッフルするからな? 変な小細工はするなよ?」
<御社 薫>
「……ちっ!」
こいつ舌打ちしやがった。
やっぱり何かするつもりだったのか?
末恐ろしい奴だ。
;立ち絵(薫消去)
<坂本 隼人>
「なんか済まないな。あんな奴で。あとでビシっと言っておくから気分を害さないでくれ」
<西友 鳴歌>
「え、えっと。大丈夫です。じ、自慢にはなりませんが、これくらい余裕、です」
余裕と来たか。
そういや中学時代に苛められていたみたいなことを雑談中に聞いたことがあるが、西友の対人コミュニケーション能力の無さはそのあたりからきているのだろうか?
<西友 鳴歌>
「御社さんは本当に坂本さんが好きなんですね」
<坂本 隼人>
「その好きの度合いが問題なんだよ。友情の域に収まってれば文句は無いんだけどな」
<西友 鳴歌>
「そ、そうですね。でも坂本さんは“総受け”だから仕方ないと思います」
<坂本 隼人>
「そうか。ところで“総受け”ってなんだ? 思わずスルーしそうになったがどういう意味なんだ? 頼まれたら断れない性格ってことか?」
<西友 鳴歌>
「え、えと。ちょっと違いますけど、大体あってます。うん。その通りです」
<坂本 隼人>
「それってオタク用語なんだよな」
<西友 鳴歌>
「う、うん。そうです。すいません。油断してました」
<坂本 隼人>
「別にいいよ。思わずそんな専門用語が出るほど打ち解けてきてるってことだろ」
<西友 鳴歌>
「あうう~。本当にごめんなさい」
困ったような、申し訳ないような、そんな表情をしたのち、西友は俯いてしまった。
照れてるのだろうか?
ちなみにオレが“総受け”の意味を知ったのはかなり後のことで、発覚した時は、逃げる西友を捕まえてこめかみをゲンコツでグリグリとネジってやった。
…………
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s_nar03_3 | 鳴歌個別3 シーン3-3 スタート
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よくよく考えたらハーブティーなどという上等なものはウチには置いてなく、ティーバッグの紅茶を飲み、一服したところで練習を始める。
カオルには大人しくしているよう言ったのだが、台本を出せば「これはなに」と尋ね、台詞ひとつ喋ると「格好いい」と冷やかし、どうも集中して練習ができない。
<御社 薫>
「ねぇねぇ~まだ練習終わらないの?」
<坂本 隼人>
「まだ始まったばかりだろ。いい加減に……」
<西友 鳴歌>
「いっ、いい加減にしてください! こ、これ以上練習の邪魔をしないでください!」
役になりきってない、素の状態で西友が怒鳴った。
オレもカオルも、初めて見る西友の怒り顔に、少しビビっていた。
<御社 薫>
「あ、あはははは、ちょっとハシャギすぎちゃったかな。うん。大人しくしてるよ」
<坂本 隼人>
「そうそう。大人しくしていような。悪かったな西友」
<西友 鳴歌>
「分かればいいんです。わかれば……ひっく!」
ひっく? なぜこの場面でしゃっくりがでる。
う~ん。
西友の顔が紅潮しているのは怒りのせいだと思っていたが、少し違うようだ。
<坂本 隼人>
「おいカオル。おまえ西友に何を飲ませた?」
<御社 薫>
「ご、誤解だよ隼人くん。ただの紅茶だよ。確かに少しブランデーを入れたけど、隼人くんのにも入ってただろう?」
<坂本 隼人>
「そうだな。1~2滴くらい入ってそうな味だったな」
<御社 薫>
「そうそう。神に誓ってアイツのだけてんこ盛りとかそういうの無いから。純粋に数滴のブランデーで酔っ払ってるんだよ」
<西友 鳴歌>
「坂本さん! れ、練習しますよ。坂本さん! 返事をしてください! 坂本さんってばぁ」
西友が壁のポスター相手に話しかけている。ベタではあるが、結構面白い。
<御社 薫>
「え~と。ボクはそろそろ失礼するね。練習頑張って!」
面倒ごとには関わらないとばかりに、カオルが逃げ出そうとする。
<坂本 隼人>
「おいこら! 逃げるな!」
だが、カオルは振り返りもせず部屋を出て行った。
その姿、まさに脱兎のごとくである。
それにしても困った。まさかブランデー数滴でこうなるとは。
でもまあ量が少ないからしばらくすればアルコールも抜けるよな?
<坂本 隼人>
「え~ と。おい、大丈夫か? とりあえず横になるか?」
<西友 鳴歌>
「うん。大丈夫です」
<坂本 隼人>
「え?」
まだ頬がほんのり上気していたが、見た感じ西友は正常そうだった。
どういうことだ?
<西友 鳴歌>
「もう大丈夫です」
<坂本 隼人>
「もう大丈夫って言うけど、いつから変で、いつから正常だったんだ?」
<西友 鳴歌>
「そ、それは……」
結論から言うと、西友は別に酔っ払ってなどいなかった。
確かにアルコールによってしゃっくりは出たが、酪酎などしていない。
むしろするわけが無かった。
ただ、アルコールの力があったから、怒鳴ったのだろうと付け加え、その後しゃっくりをしてしまったので、恥ずかしくなり、酔っ払ったフリをしたのだという。
<西友 鳴歌>
「ポ、ポスターに話しかけてる時、バレたらどうしようって、すごく怖かったです」
<坂本 隼人>
「いやいや、思い切り騙された。というか救急車呼ぶかどうか迷ったくらいだぜ」
<西友 鳴歌>
「ごっ、ごめんなさい」
<坂本 隼人>
「いや別にいいって。それにしても西友が演技をねぇ。演劇部でも良かったんじゃないか?」
<西友 鳴歌>
「む、無理です。少しとはいえアルコールのおかげで大胆になれただけで、シラフでは絶対にできませんっ! そ、それに……」
<坂本 隼人>
「それに?」
<西友 鳴歌>
「それに、坂本さんや御社さんというお知り合いの方だからできたのであって、知らない人の前だったら、例えお酒を飲んでいても無理です」
<坂本 隼人>
「なるほどね。それでも今日はよく喋るじゃないか」
<西友 鳴歌>
「えっ? ご、ごめんなさい」
なんで謝るのかが理解不能だが、とりあえず理由を聞いてみよう。
<坂本 隼人>
「どうして謝るんだ?」
<西友 鳴歌>
「ご、ご迷惑では?」
<坂本 隼人>
「いまさらそれを言う? 迷惑なんて思ってないよ。むしろ色々喋ってくれた方が助かるよ」
<西友 鳴歌>
「そういうものですか?」
<坂本 隼人>
「そうだよ。例えばいきなり“かわいいね”って言われたらどう思う」
<西友 鳴歌>
「え、ええっ! それはその、嘘でも嬉しいです」
<坂本 隼人>
「まあ嘘か本当かは置いといて、その“かわいいね”が西友本人じゃなくて、カバンに付いたキーホルダーを指していたとしたら?」
<西友 鳴歌>
「えっと。がっかりします」
<坂本 隼人>
「ちょっといまの例えは良くなかったな。とにかく情報は多い方がいいってことだよ」
<西友 鳴歌>
「そう、ですね。わかります」
<坂本 隼人>
「あともうひとつ西友に言っておきたいことがあるんだが」
<西友 鳴歌>
「な、なんでしょうか?」
<坂本 隼人>
「西友ってなんか言い辛いから鳴歌って呼んでもいいか?」
<西友 鳴歌>
「ふぇ? ええ~~~~っ!」
西友は、いままで聞いたことのないような、素っ頓狂な声を上げた。
<坂本 隼人>
「やっぱ恥ずかしいか。駄目なら仕方ない」
<西友 鳴歌>
「大丈夫です。いいです。問題ありません。いえ、是非鳴歌でお願いします!」
まだアルコールが残ってるのかと思うくらい、西友が身を乗り出してくる。
かなり顔が近い。こうして近くで見ると、こいつの色白さが目立つな。
まるで白磁でできた陶器のようだ。
恐らくインドア生活ばかりしていたせいでこうなったんだろうな。
<坂本 隼人>
「そうか。それじゃオレのことも隼人と呼んでくれていいぜ」
<西友 鳴歌>
「無理です!」
きっぱりと断言された。なんだそりゃ。
<坂本 隼人>
「とりあえず理由を聞こうか?」
<西友 鳴歌>
「だ、だって恥ずかしいじゃないですか。さ、坂本さんって呼ぶだけで緊張するのに、名前でなんて呼べません」
どんな理屈だと思ったが、西友にとってはそうなんだろう。
<坂本 隼人>
「よし。それじゃ練習してみようぜ」
<西友 鳴歌>
「練習……ですか?」
<坂本 隼人>
「そう。オーディションの練習も兼ねる一石二鳥の策だ」
…………
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s_nar03_4 | 鳴歌個別3 シーン3-4 スタート
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いつもやっている台本の読み合わせ。この主人公の名前とヒロインの名前をオレと西友の名前にしてしまう。
ただそれだけのことだ。まずは演技で慣らそうというのがオレの作戦だった。
演技なら、役だと思えばオレの名前を呼べるだろう。
<西友 鳴歌>
「さ、坂本さん。本当にやるんですか?」
<坂本 隼人>
「やるよ。とりあえずここの1ページだけやってみよう。準備はいいか?」
<西友 鳴歌>
「わかりました。やってみます」
オレは役になりきり、ヒロインの名前を静恋(せれん)ではなく鳴歌と脳内変換する。
それはそうと、オレの方は静恋から鳴歌という日本名だが、主人公のアマデウスを隼人って言うのは抵抗がありそうだな。
まあいい。とりあえずやってみないことには始まらない。
…………
<坂本 隼人>
「おい静恋! あ、ごめん間違った。もう1回最初からな」
<坂本 隼人>
「おい鳴歌! あれを見てみろよ」
<西友 鳴歌>
「…………」
<坂本 隼人>
「どうした? 早く続きを、わ~~っ! なんで鼻血だしてんだよ! ティッシュティッシュ」
のぼせてるのかアルコールの残滓なのか、とにかく鼻血をだしてしまった西友にティッシュを渡す。
<西友 鳴歌>
「す、すびばせん。少し興奮してしまいました」
名前を呼ばれただけでそこまでテンションが上がるものなのか?
<坂本 隼人>
「まだ無理か? もうやめておくか?」
<西友 鳴歌>
「だ、大丈夫です。もう一度だけチャンスを下さい。次はちゃんとやります」
<坂本 隼人>
「鳴歌がそこまで言うならもう一度だけ……ってなにやってる?」
西友は身をくねらせて、不思議な踊りというか糸が数本切れて思うように動かせない操り人形のようにフラフラしていた。
<西友 鳴歌>
「だ、駄目じゃないですか。素の時に名前で呼ぶなんて反則です!」
<坂本 隼人>
「そ、そうか。悪かった」
実際には何が悪いのかよくわかっていないのだが、とりあえず謝ってしまった。
結局、そのまま西友の体調が元に戻るまで練習は中断となり、ようやく正常に戻った頃には日が暮れかけていたので、駅まで西友を送った。
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;個別3 END
;ジャンプ(s_nar04.ks)
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