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s_nar01_1 | 鳴歌個別1 シーン1-1 スタート
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;背景(教室)
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色々迷った結果、西友を手伝うことにしたわけだが、残りの3名様にも同じように手伝ってくれと頼まれていたので、断るのに難儀した。
東泉寺は断られたことに対してそこまでショックは感じておらず、むしろ西友を手伝うことにしたと告げるや、思い切り冷やかされた。
カオルはというと予想通り不満タラタラだったので、西友を手伝うのは今回限りで、次の機会があれば絶対に付き合うと約束し、なんとか納得してもらった。
意外なのは結騎で、断られると思っていなかったのか、かなりショックを受けているようだった。
そうして西友を手伝うから結騎の頼みを断ったのを知ると、そのことがいたく気に入らなかったようで、結騎にしては珍しくヘソを曲げてしまってた。
なにせ、あの結騎が、贔贋だ。ずるい。私の方が先にお願いしたのに~等と、散々嫌味を言ってきたのだ。
面倒臭い奴だなと思う一方で、女の子らしい一面もあるんだなとも思った。
すまない結騎。
この埋め合わせは絶対に、ほぼ間違いなく、覚えていたらの話だが、するかもしれないし、しないかもしれない。
<西友 鳴歌>
「………さん。坂本さん。坂本さん」
<坂本 隼人>
「え? あっ、西友か」
いつから居たのか、オレの目の前には西友が立っている。
<西友 鳴歌>
「よかったぁ」
オレが返事をしたことにより、西友が安堵のため息を漏らす。
<坂本 隼人>
「よかったって、何がだ?」
<西友 鳴歌>
「呼んでも返事をしてくれないので、き、嫌われたのかと」
ちょっと考え事をして、返事が遅れただけだというのに、この発想の飛躍はひどいな。
ネガティブ思考にも程があるぞ。
<坂本 隼人>
「あまり卑屈になるなよ。そういう態度が続くようなら本当に嫌いになるぞ」
<西友 鳴歌>
「はうぅ、き、気をつけます」
<坂本 隼人>
「それよか今日から練習するんだろ。台本はまかせろ~って意気込んでたようだけど、出来たのか?」
<西友 鳴歌>
「うん。できました。これをどうぞ」
西友がなにやら分厚い紙袋をひとつ、オレに手渡す。
片手で渡されたので、オレも当然片手で受け取ったのだが、意外と重たい。
なんだこれ。辞書でも入ってるのか?
紙袋の中身を覗くと、そこにはB5サイズのコピー用紙の束がパンパンに詰まっていた。
ただ、その束の量が半端じゃない。多分……千枚はあるぞこれ。
西友はキョトンとした表情でオレを見ている。
彼女の手にもオレと同じように紙袋が握られている。
中身は恐らく同じだろう。
かなり重たいはずなのに、顔色一つ変えずに持っていられるとは、一体どういうことだ?
<坂本 隼人>
「こんだけの量、持ってくるの大変だっただろう」
<西友 鳴歌>
「うん。印刷するのに凄く時間がかかって遅刻しそうになりました」
ズレた回答だった。
どうやら西友にとってこの程度は重たくないらしい。
見かけによらず、力はあるんだな。
<坂本 隼人>
「ところで練習はどこでやる? 部室はなんとなく居心地が悪いんだか」
皆の頼みを断って西友の頼みを聞いているので、部室での練習は鬼門だった。
<西友 鳴歌>
「ぶ、部室だとなにか不都合がありますか?」
<坂本 隼人>
「というか練習場所より、まずはこの紙袋の中身を整理したい。というか中身を確認しておきたいんだが?」
<西友 鳴歌>
「そ、そうですね。とりあえず図書館に行くのはどうでしょうか?」
<坂本 隼人>
「おっ、いいね。ベストチョイスだと思うぜ」
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s_nar01_2 | 鳴歌個別1 シーン1-2 スタート
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;背景(図書室)
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図書室のテーブルに紙袋を置き、中身を取り出すと、意外にも綺麗に製本された台本が10冊ほど出てきた。
<坂本 隼人>
「なあ、これって自分で作ったのか?」
<西友 鳴歌>
「あ、あの、両親に手伝って貰いました」
<坂本 隼人>
「へえ。西友の両親って理解あるんだな」
<西友 鳴歌>
「む、むしろ両親の影響なんです」
<坂本 隼人>
「ん? どういうことだ?」
<西友 鳴歌>
「う、うん。実は……」
西友の両親は二人とも筋金入りのオタクらしく、夏と冬にやっているイベントには初参加から25年余、毎年欠かさず参加しているらしい。
ただ一度。一度だけ、西友を身籠り臨月を迎えた身体で参加しようとした母親を祖父母が拉致監禁に等しい所業で拘束し、行かせなかったという。
<西友 鳴歌>
「祖父母が母を止めてくれなかったら、わたしは生まれていなかったもしれません」
などと、シレっと恐ろしいことを呟く。
他にも、TVの画面でリアルタイムの放送を見るのはアニメや特撮くらいで、それ以外はビデオやDVD、最近ではBD等が流されているという。
本棚も漫画やラノベ、同人誌などが壁一面に収納されているという。
そんな異常な環境を、西友は中学に上がるまで普通だと思っていたらしい。
<坂本 隼人>
「すげぇな。要するに西友はエリートオタクってわけだな」
<西友 鳴歌>
「そ、そんなことないです。わたしなんてまだまだです」
エリートであることを謙遜しているだけで、オタクであることは否定しないんだ。
普通、こういう親に育てられたらかえって反発し、まともに育ちそうなものなんだが。
西友の生真面目というか、素直な性格が災いし、両親の思うように育てられちまったんだろうな。
まあ西友本人がそれでよしと思ってるフシがあるから、オレがとやかく言う問題じゃない。
<坂本 隼人>
「ちなみにこの台本全部がドラマCDになるのか?」
<西友 鳴歌>
「ち、ちがいます。 ドラマCDの脚本は書き下ろしなんです。で、ですから、原作から抽出したこの台本が使われることはありません」
<坂本 隼人>
「それじゃこれは練習用ってわけか」
<西友 鳴歌>
「う、うん。あの、沢山あるけど大丈夫ですか?」
<坂本 隼人>
「大丈夫ですかってそれはこっちの台詞だと思ってるんだが? それだとまるでオレも演じるみたいな言い方だな。ハハハ!」
<西友 鳴歌>
「えっ?」
<坂本 隼人>
「えっ! なに? ひょっとして……」
西友のこの驚きよう。そうだな。台本が2冊ずつあるんだ。少し考えれば分かることだ。
いや、考えるまでも無く、西友はオレをアテにしている模様だ。
恐らく男声のキャラをやってほしかったのだろう。
<西友 鳴歌>
「え、えと。違います。その、ひとりでも、頑張ります」
オレにやる気が無かったと知るや、無理矢理誤魔化しにきた。
オレは目の前の台本を拾い上げ、これを作るのにどれくらい苦労したんだろうなとか考え始める。
オレの脳内で、西友が両親と共にコピーした用紙を並べてノリ付けしたり、ホチキスで止めたりしている絵が浮かんでくる。
駄目だ。想像してはいけない。
<西友の母親>
「どうしたの鳴歌? すごくゴキゲンね」
<西友 鳴歌>
「うん。友達がね。オーディションの練習に付き合ってくれるの」
<西友の母親>
「それはよかったわね。それじゃ急いで製本してしまわないとね」
<西友 鳴歌>
「うん。ありがとうお母さん」
違う違う!
こんな会話はない。なにを勝手に想像しているんだオレは!
<西友 鳴歌>
「だ、大丈夫、ですか?」
リアル西友が心配そうにオレを覗き込む。
普段は髪の毛に覆われて見えにくい表情だったが、近くだと落胆していることがありありと分かる。
くそう。悲しそうな顔しやがって。反則じゃないか。
<坂本 隼人>
「わかった。やるよ」
<西友 鳴歌>
「え?」
<坂本 隼人>
「え? じゃねえよ。練習相手になってやるって言ってるんだ」
<西友 鳴歌>
「い、いいの?」
<坂本 隼人>
「良いも悪いも、ひとりでやるなら家でだってできるだろ? むしろそっちの方が効率いいよな? でもそれじゃダメなんだろ? だからオレに協力を求めたんじゃないのか?」
<西友 鳴歌>
「う、うん。そうです」
<坂本 隼人>
「そうと決まれば練習場所だ。部室以外でどこかいい場所知ってるか?」
<西友 鳴歌>
「ご、ごめんなさい。知りません」
<坂本 隼人>
「よし。それじゃ探すか」
<西友 鳴歌>
「うん」
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s_nar01_3 | 鳴歌個別1 シーン1-3 スタート
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;背景(なし)※黒
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とりあえず定番の屋上に行ってみた。
;SE(ガヤ音)ガヤガヤガヤ
すると屋上では吹奏楽部と応援団、それにチアリーディング部が、夏の大会用の合同練習を行っており、足の踏み場もないくらいの惨状だった。
この中で練習なんて、鋼の心臓を持ってたとしても出来っこないと思った。
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;背景(廊下)
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<坂本 隼人>
「屋上、すごかったな」
<西友 鳴歌>
「う、うん」
<坂本 隼人>
「あそこで練習できそうか?」
<西友 鳴歌>
「むむむ、無理です。緊張して、死んじゃいます」
<坂本 隼人>
「だよなぁ」
とりあえず他の場所も見てまわるか。
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;以下クロスフェードしながら切り替わる
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;背景(校舎裏)
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;背景(体育倉庫)
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;背景(プール)
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;背景(廊下)
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一通り見てまわったものの、まともに練習できそうな場所なんてどこにも無かった。
ただでさえ部活に全員参加という校則があり、その部活数も馬鹿みたいに多い。
“声えん部”の部室だって、結騎の手腕と偶然が味方して入手できたくらいだ。
<坂本 隼人>
「なかなかいい場所って見つからないな」
<西友 鳴歌>
「う、うん。あの、坂本さん」
<坂本 隼人>
「なに?」
<西友 鳴歌>
「最後、その、プールに寄る必要って、あったんですか?」
<坂本 隼人>
「言われてみれば……ないな。でも目の保養にはなったかな」
<西友 鳴歌>
「さ、坂本さんのえっち」
<坂本 隼人>
「いいだろ別に。オレだって健全な男子なんだよ。それよりー旦部室に戻ろう」
オレはプールのことを誤魔化すように、足早に部室へと向かった。
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s_nar01_4 | 鳴歌個別1 シーン1-4 スタート
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;背景(部室)
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<東泉寺 晶>
「あれ? 早いねハヤトン。もう終わったの?」
<御社 薫>
「もう済んじゃったの? 隼人くんって、意外と早漏だったんだね。でもボクは気にしないから大丈夫だよ。むしろ早漏ウェルカムだよ」
<東泉寺 晶>
「もうやだこの変態。あっちいってよ。も~!」
東泉寺がカオルの頭を小突こうとするが、その手を素早く受け止めるカオル。
<御社 薫>
「顔はやめてよね?」
かなりドスの聞いた声である。
久しぶりにこんなカオルの声を聞いた気がする。
<東泉寺 晶>
「ちょっ! 怖いって、なんなのよも~。飼い主はちゃんとシツケしといてよね~」
<坂本 隼人>
「悪いな東泉寺。でもおまえらなんていうかお似合いだぜ?」
親指を立てて、軽くウインクしてやる。だが──
<御社 薫>
「隼人くん。冗談にしては笑えないよ」
<東泉寺 晶>
「はぁ? ぜ~~~ったいにありえないんですけど?」
その反応はすこぶる悪かった。
オレは2人に詰め寄られ、思わずあとずさってしまった。
男子と女子の平均身長を結構下回るこの2人を相手に、平均以上であるこのオレが引くだと?
<結騎 凛>
「はいはい。冗談はそれくらいでいいでしょ。でも本当に早かったわね? そんな練習量で大丈夫なの?」
<坂本 隼人>
「いや、練習する場所を探していたんだよ。オレたちの練習はこれからだ! ってところで戻ってきたんだよ」
<結騎 凛>
「そうなんだ。それで見付からないから部室に戻ってきたわけね」
<坂本 隼人>
「まあそういうことになるな」
<東泉寺 晶>
「な~んだ。そ~ゆ~ことか。でもさ~。練習場所がないなら、自宅とかでやればいいじゃ~ん」
<坂本 隼人>
「いやさすがにそれはまずいだろ。西友も嫌だよな?」
<西友 鳴歌>
「わたしはその、坂本さんさえよかったら、わたしは、いいよ」
<東泉寺 晶>
「ヒューヒュー熱いね~! 見せ付けてくれるね~! 決まりだね~!」
<御社 薫>
「そ、そんなのって……」
<結騎 凛>
「ダメに決まってるでしょ! 部長として認められません」
<坂本 隼人>
「だよなぁ」
<西友 鳴歌>
「あの、部長、どうすれば、許してくれますか?」
珍しく西友が食い下がっている。他人の意見には素直に従うがモットーじゃなかったのか?
というか、そうだとばかり思っていた。
<結騎 凛>
「え? それは、そのぉ」
結騎もまさか西友から反発されることを予想していなかったのか、言葉に詰まっている。
<東泉寺 晶>
「そんなに気になるなら監視すれば~(・ε・)」
<坂本 隼人>
「監視って、結騎やカオルの予定ってものがあるだろ」
<御社 薫>
「練習は隼人くんの部屋でやるの? もちろんそうだよね? ボクやる。監視する! なんなら練習手伝うよ!」
カオルがノリノリで挙手する。
<東泉寺 晶>
「ハヤトンのおうちでやるの? それはちょっとお邪魔しなといけないね」
<結騎 凛>
「監視ねぇ。あまり気が進まないけど、2人きりで問題を起されでもしたら最悪廃部もありえるし、仕方ないか」
<西友 鳴歌>
「そ、それで、練習してもいいのなら、お願いします」
なんだかオレの意思はお構い無しに話しが進んでいるな。
こういうとき、オレの意見が通ることはないって言うのは、ここ1ヶ月ほどこいつらと過ごしてきて、嫌というほど味わっている。
ここは様子を見るしかないか。
…………
<結騎 凛>
「ということでいいかしら?」
結騎がオレに同意を求めてくるが、いかんな。正直真面目に聞いてなかった。
<坂本 隼人>
「ああ、問題ない。それでいいよ」
まあどうせ当番制で、誰がいつ来るとかそういうのを決めただけだろう。
なし崩し的にオレの部屋で練習をすることになったが、掃除とか面倒だな。
西友は部屋を漁ったりはしないだろうが、カオルや東泉寺には通用しないだろうな。
あの手合いはほぼ間違いなく家捜しする。
勝手に引き出しやタンスを開ける。
自分をPRGの勇者かなんかと勘違いしてるんだろうな。
面倒だが、部屋の掃除と危険な私物は退避する必要があるな。
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;個別1 END
;ジャンプ(s_nar02.ks)
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