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scene1_1 | 共通1 シーン1-1 スタート
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;背景(教室)
GWも終わり、初夏の香りがする放課後の教室。
開け放たれた窓からは、グラウンドで汗を流す野球やサッカー部部員たちの掛け声が、風に乗ってオレの鼓膜へ響いてくる。
屋上では、演劇部の発声練習と応援団の太鼓が絶妙なハーモニーを奏でていた。
オレは教室でひとり、一枚の半紙を眺めて途方に暮れていた。
この学校では全員が何かしらの部活動に帰属しなければならない。
そういう校則だ。
家からの近さと成績との折り合いをつけて入学したので、この学校についてさしたる思い入れは無く、よくある進学校くらいの認識しかなかった。
よもやこのような校則があるとは全くの盲点だった。
受験する前に入学案内くらいは読んでおけばよかった。
部活へ入部するタイムリミットは6月1日となっている。
入学から約2ヶ月の猶予期間を与えられている。
これは仮入部などを行い、自分に合った部活を見つけるようにという学校側の配慮らしい。
それはまあ嬉しかったが、帰宅部が存在しないため、結局はなんらかの部活に入らなければならない。
部活リストの書かれたA4用紙をチラ見したが、どの部活も余り魅力的には感じなかった。
仮入部もせずに期日を直前に迎えたオレは、どの部活が幽霊部員でも許してくれそうなのか、かなり真剣に検討してみた。
みたものの、そのA4用紙に書かれた情報では、どの部活が楽かなんて分かるはずもない。
<坂本 隼人>
「わかってる。わかってるよ。やるしかないんだろう?」
<坂本 隼人>
「だが困ったことにやる気スイッチが切れちまった。いや、ブレーカーごと落ちちまってるんだ」
なんとはなしに、昔好きだった『ムーンフェイス&サンガード』という世界系アニメの台詞を口にする。
ちなみに内容はというと、サンガードという冴えない探偵が、ムーンフェイスという元怪盗とコンビを組んでトラブルに巻き込まれながらも事件を解決してゆく。
という一話完結型の硬派なアニメで、同級生の受けは悪かったが、オレには超ヒットというかかなりハマった。
それにしても恥ずかしい台詞だな。まあいい。
どうせ誰も居ないんだしいいだろう。
いや待てよ! 本当に居ないのか?
言ってしまって誰かに聞かれたりはしなかっただろうかと、入念に辺りを見渡す。
オレの視界、約270度の視野角には誰も居ない。見当たらない。
──よかった。誰も居ない。
『ムーンフェイス&サンガード』はかなリマイナーな作品だ。
仮にそのアニメのことを知らなくとも、クサイ台詞をぶつくさ言ってニヤついてたんだ。
それだけでも聞かれたときのダメージは計り知れない。
オレは大きく伸びをして、顔が背中にくっ付きそうになるくらい身体を反った。
身体の柔らかさと背筋には少し自信があった。
すると──
;背景180度反転(逆さま)
<女の子>
「……」
;SE(ガーン!)
<坂本 隼人>
「んなっ!!」
誰か居た! 居たよおい!
;背景元に戻す
オレは背中がツリそうになるのを堪えながら慌てて起き上がって振り返ると、そこには確かにクラスメイトの……。
クラスメイトの、え~と。誰だっけ?
とにかくだ。クラスメイトの女の子が居た。
元々女の子と交流は少ない方だが、彼女とは入学以来まだ一言も口を聞いたことがない。
というか、彼女が喋っているところを見たことがない。
少しばかり手入れが行き届いてない長い黒髪に片目が隠れた、無口で陰気な少女。
本人には悪いが、卒業まで一言も声を交わさなかったとしても、別に勿体ないとも思わないだろう。
10年後くらいに同窓会で会っても、誰だったかなぁとなるような人物だ。
こうして改めて注目してみても、見た目通り暗いんだろうなという感想しか抱かない。
それはいい。それよりもまず確認しなければならない。
<坂本 隼人>
「あのさ、ひょっとして聞いてた?」
オレの問いにその女の子はどう応えていいのか分からないという表情で戸惑いながらも、ゆっくりとした仕草でこくりと領く。
く~~~~~~~っ!!
やっぱり見られてたっていうか聞かれていたのか。
だがある意味見られたのが彼女で助かった。
もしおしゃべりな女の子だったら、オレの青春は終わっていただろう。
だが彼女なら、無口な彼女なら、誰にも喋らずにいてくれそうな気がした。
<女の子>
「元々電気代なんて払ってないくせに……」
<坂本 隼人>
「えっ?」
一緒のクラスになって初めて彼女の声を聞いた。
か細く、蚊の鳴くような声だが、確かに喋った。
<女の子>
「元々電気代なんて払ってないくせに」
今度ははっきりした口調で語る。綺麗な声だと思った。
それよりも驚いたのは、彼女が呟いたその言葉は、さっきオレが呟いたアニメの台詞の続きだった。
ひょっとして知っているのか?
いや、知っているから言ったんだろう。
偶然その台詞が出たというのはありえない。
オレは確かめる意味も含め、その後に続く言葉を発した。
<坂本 隼人>
「確かにそうともいう。正直に言おう! 元からやる気はない!」
彼女はオレの台詞に思い当たるフシがあるのか、わずかに口元が緩んだ気がする。
<女の子>
「後ろ向きな言葉を前向きにいうのは、人としてどうかと思うわよ」
おお! 乗ってきた。
間違いない。彼女はこのアニメを知っている。
いや、知っているというレベルではない。
台詞を暗記するほどよく見ているコアなファンだ。
オレはそのまま脳内に焼き付いているアニメの台詞を発し続けた。
<坂本 隼人>
「すべてにおいて後ろ向きよりはマシだろ?」
<女の子>
「私としては、この案件に対してだけでいいから前向きになってほしいの」
<坂本 隼人>
「それは難しいね」
<女の子>
「そう。なら私もアナタとのコンビ解消を前向きに検討することにするわ」
<坂本 隼人>
「脅迫するなんてひどいヤツだな」
<女の子>
「いまの言葉が脅迫に聞こえたのなら、耳鼻科に行くことをお勧めするわ」
<坂本 隼人>
「わかったよ。それじゃ行ってくる」
<女の子>
「わかればいいのよ。ところで、その手はなに?」
<坂本 隼人>
「分からないか? 金がない。病院代を貸してくれ」
<女の子>
「ふふふ、包丁。そうそう。包丁はどこだったかしら」
<坂本 隼人>
「なんだ? 料理でも作ってくれるのか?」
<女の子>
「ねえサンガード。腎臓って幾らで取引されてるか知ってる?」
<坂本 隼人>
「幾らだっけか、100万くらいじゃなかったか?」
<女の子>
「そうね。もう少し安いけどそれくらいよ」
<坂本 隼人>
「100万かあ。滞納した家賃を全額支払ってもお釣りがくる。電気やガスも引けるぞ!」
<女の子>
「そうね。ところでものぐさなアナタに腎臓って2つも必要かしら?」
<坂本 隼人>
「ん? 包丁が必要な理由ってオレの腎臓を切り取ろうってハラか?」
<女の子>
「ええ。私が包丁を見付ける前に仕事に行かない場合はそうなるわね」
<坂本 隼人>
「やはり脅迫じゃねえか。覚えてろよ!」
<女の子>
「行ってらっしゃ~い」
そこでオレは席を立って、教室の入り口まで歩く。
歩いたはよかったが、まだどのクラブに入るかも決めていないのに出てゆくわけにはいかず、そのままUターンして席に戻った。
それにしても、なんだったんだこの茶番は。やり終えた途端に恥ずかしくて死にそうだぜ。
<坂本 隼人>
「……」
<女の子>
「……」
<坂本 隼人>
「……」
<女の子>
「……」
きっ、気まずいなぁ。
さっきまではノリノリで会話と言うかアニメの台詞を言い合っていたのに、日常会話となると、何を話したらいいのか分からない。
<坂本 隼人>
「あのさ」
<女の子>
「……?」
<坂本 隼人>
「『ムーンフェイス&サンガード』が好きなの?」
オレの問いに彼女は無言で領く。そういやまだ名前すら知らなかった。
<坂本 隼人>
「クラスメイトとして非常に申し訳ないんだが、名前を教えてもらえないかな?」
<女の子>
「え、えっと、西友、西友鳴歌……です」
彼女は自分を西友鳴歌(にしともなるか)と名乗った。
<坂本 隼人>
「西友ね。わかった」
<西友 鳴歌>
「あの、あなた……は?」
よしきた! 因果応報!
オレも名前を覚えられてなかった!
おあいことはいえ、やっばり名前を覚えられてないというのは堪えるな。
<坂本 隼人>
「オレの名前は坂本隼人。よろしくな」
だが西友の返事は無く、こくりと領<。
さっきまでの饒舌な西友は、いったいどこへ行ってしまったのか。
<坂本 隼人>
「ところでさ。その半紙を机に出しているということは、西友もクラブ決まってないのか?」
<西友 鳴歌>
「……うん」
今度は返事いただきました。小声とはいえ少し嬉しかった。
<坂本 隼人>
「なにかお勧めとかある? 『ムーンフェイス&サンガード』のサンガードみたいにものぐさでも大丈夫な部活ってない?」
<西友 鳴歌>
「な、ないと思う」
クスリと微笑みながら西友が呟く。
なんだ。笑うとカワイイじゃないか。
<坂本 隼人>
「そもそも部活に全員所属っていう校則があるって知ってたら入らなかったつーの」
<西友 鳴歌>
「わ、わたしも」
<坂本 隼人>
「だよな。一応免除される場合もあるけど、あくまで特例だしな」
<西友 鳴歌>
「きっ、気になる部、あるの」
<坂本 隼人>
「え?」
<西友 鳴歌>
「こ、ここ」
西友はクラブ名が列挙された表を差し出し、蛍光ペンでチェックしたものを突きだす。
<坂本 隼人>
「放送部?」
<西友 鳴歌>
「うん」
<坂本 隼人>
「ひょっとして西友は声優とかなりたいの?」
<西友 鳴歌>
「……う、うん」
この性格と言うか無口さで声優希望だと? なかなかの勇者だな。
<坂本 隼人>
「放送部ってお昼の放送や行事の際にアナウンスしたりするだけだよな? 声優とか演技力を鍛えるなら演劇部とかの方がいいんじゃね?」
<西友 鳴歌>
「むっ、無理! ぜ、絶対」
ぶんぶんと首を振って西友は演劇部入りを拒否する。
まあこの性格では人前で演技とか無理だろうな。
<坂本 隼人>
「放送部か。体育祭とかテントの下で天国と地獄とかのCDを流したりすればいいんだよな。意外とアリかもしれない」
公然と学校行事をサボれる部活というのは悪くない。
<西友 鳴歌>
「さ、坂本さんも、い、一緒に……」
西友がすがるような瞳でオレを見つめている。
確かにこの性格では、ひとりでは行けそうにないな。
<坂本 隼人>
「そうだな。いいよ。ラクそうだし」
<西友 鳴歌>
「あ、ありがとう」
ペコペコと、何度もお辞儀する西友。
どうやら彼女は最初から入る部活は決まっていたようだ。
ただ単に、そこへ行く勇気が無かっただけらしい。
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scene1_2 | 共通1 シーン1-2 スタート
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;背景(廊下)
オレは西友と一緒に教室を出て、放送部のある放送室へと向かった。
そうして放送室前に到着するが、どうも様子がおかしい。
;SEループ(ガヤ音 ザワザワ)
放送室はかなり防音されていると聞くが、その部屋の中から声が漏れている。
;SE(机を叩く ドン!)
しかもかなり怒ったような口調である。これはどう考えてもただ事ではない。
オレが放送室に入るのをためらっていると、西友がオレの後ろで心配そうな顔をしてこちらを伺う。
;SEループ終了
<坂本 隼人>
「なんか。中で言い争ってるようなんだよ。しばらく様子を見よう」
<西友 鳴歌>
「う、うん」
そう応えると、そっとオレのシャツの裾をにぎる西友。なかなかカワイイじゃないか。
しばらくすると、放送室のドアが勢い良く開く。
;SE(ガラッ!)
ドアが開いたかと思ったら、かなり凛々しい感じがする女の子が飛び出してきた。
<凛々しい女の子>
「こんなクラブ、こちらから願い下げですっ!」
清々しいくらい凛とした態度と口調で、その女の子は啖呵を切る。
オレは思わず女の子に見入ってしまった。
彼女は彼女で首を曲げて放送室の方に意識を傾け歩いていたので、目の前に立つオレに気付いてなかった。
オレも彼女も注意力が散漫になっていたので回避運動が間に合わなかった。
つまリオレたちはぶつかってしまった。
;SE(ドンッ!)
<凛々しい女の子>
「きゃっ!」
<坂本 隼人>
「おっととと、大丈夫?」
<凛々しい女の子>
「ご、ごめんなさい。私ちゃんと前を見てなくって」
<坂本 隼人>
「いいけど、なにがあったの?」
<凛々しい女の子>
「そ、それは……」
<坂本 隼人>
「いやね。オレたち放送部に入ろうかと思ってたんだけどさ」
入部届けの半紙をヒラヒラさせる。
<凛々しい女の子>
「やめておいた方がいいわ。このクラブは最低よ」
すると放送室の中から彼女を野次る声が聞こえてくる。
<坂本 隼人>
「え?」
<凛々しい女の子>
「色々とごめんなさい。少し時間を貰っていいかな?」
<坂本 隼人>
「オレは構わないけど、西友はどうだ?」
<西友 鳴歌>
「だ、大丈夫」
<坂本 隼人>
「いいってさ」
<凛々しい女の子>
「そう。ありがと。あと私は結騎。結騎凛(ゆうきりん)よ。あなたは?」
凛々しい女の子は、その容姿に恥じない名前を持っていた。
<坂本 隼人>
「オレは坂本隼人。こっちの彼女は西友鳴歌」
ぺこりとお辞儀する西友。
<結騎 凛>
「わかったわ坂本くん。それに西友さん。それじゃついて来て」
オレと西友は、放送室から飛び出してきた女の子の後に続いた。
;背景(屋上)
まだ少し怒りが収まらないといった感じの結騎は、放送部がいかに駄目な部活かをオレたちに説明してくれた。
彼女は仮入部として放送部に在籍していたのだが、この1ヶ月間ほとんど発声練習は無く、機材の掃除とか部室の掃除、先輩のパシリなどをやらされただけだという。
そうしてたまりかねて練習はしないのかと尋ねたら、学校のアナウンス程度で発声練習とかしないと言われ、失望したのちキレたそうだ。
ものぐさなオレとしては思わず放送部いいじゃんと思ったりしたが、それを口に出すようなヘマはしない。
<坂本 隼人>
「ふーん。イメージしてた放送部とはちょっと違うな」
<結騎 凛>
「誤解しないで、ここが酷いだけで本当はちゃんと発声練習もするし、放送コンクール用にラジオドラマの脚本書いたり演じたりするのよ」
ラジオドラマという言葉に西友が瞳を輝かせる。
本当に声を当てたりすることが好きなんだな。
<坂本 隼人>
「なるほどねえ。西友はそういうの期待してたんだよな。なんか入る学校間違えちまったようだな」
<西友 鳴歌>
「ううぅ~~」
<坂本 隼人>
「しっかしどうするかね。本当にやりたいことができないのに部活に入るとか拷問だろ。新しい部活でも作った方がよっぽどいいな」
<結騎 凛>
「そっ! それよ!」
<坂本 隼人>
「はい?」
<結騎 凛>
「確か5人以上同好の士を集めれば新規にクラブというか同好会として認めてくれるわ」
結騎はまるで自分しか知らない情報であるかのようにドヤ顔で説明するが、それくらいオレでも知ってる。
<坂本 隼人>
「うん。それは知ってるが、結騎は算数苦手か? ここには3人しかいないぞ?」
<結騎 凛>
「バ、バカにしないでよ。それくらいわかってるわよ。要するに後2人集めればいいんでしょ? 簡単じゃない」
<坂本 隼人>
「簡単ねぇ。なあ結騎よ。新規部活の申請期限がいつまでって知ってるか?」
<結騎 凛>
「えっと。いつだっけ?」
<坂本 隼人>
「明日だな」
<結騎 凛>
「あっ、明日ぁ! う、う~ん。大丈夫、なんとかなるわ。1人心当たりあるから」
<坂本 隼人>
「それでも4人だな。もう1人はどうするんだ?」
<結騎 凛>
「それは坂本くんが探してよ。私が1人、坂本くんが1人。これで公平よね?」
ドヤ顔で言われるとなんかムカつく。
というか心当たりがある結騎はよくても、こっちには心当たりなんてない。
<坂本 隼人>
「なあ西友、この際なにもかも諦めて、この歴史研究会とかどうだろう?」
オレは結騎を無視して西友に話題を振った。
<西友 鳴歌>
「え、えと、その、わたしは……」
<坂本 隼人>
「人間諦めが大切だ。無駄な努力は本人だけじゃない。周りにも迷惑をかける」
これも例のアニメの台詞だ。
するとすぐに西友も乗っかってきた。
<西友 鳴歌>
「それは努力をした人が言っていい言葉って知ってる?」
<坂本 隼人>
「悪あがきってほら、悪いことしてるみたいじゃないか。悪いことは良くない。だから諦めよう」
<西友 鳴歌>
「いままで聞いた中で最悪の3段論法よそれ。いままで可哀想だから黙ってたけど、アナタの存在自体が迷惑だから死んだ方がいいわよ」
<結騎 凛>
「え? なに? なにもそこまで言わなくてもいいんじゃない」
事情がわかってない結騎が慌てている。
<坂本 隼人>
「はっはっは、ツンデレなんていまどき流行らないぜ?」
<西友 鳴歌>
「そのお喋りな口を縫い付ける針と糸がここにないことが悔やまれるわ」
<坂本 隼人>
「おいおい、ソーイングセットと絆創膏くらい常備しとけよ。女性の嗜みだろ?」
<西友 鳴歌>
「あら、アナタが私のことを女性扱いするなんて珍しいわね」
<坂本 隼人>
「いやいくらオレだって性別くらいは間違わないさ」
<結騎 凛>
「あ、あなたたち、さっきから何を言ってるの?」
<坂本 隼人>
「あ、ああ、ごめんごめん」
オレは西友の普段は無口だが、アニメの台詞なら饒舌になるという不思議スキルを結騎に教えてやった。
<結騎 凛>
「ふう。信じがたい能力だけど、目の前でやられると信じるしかないわね」
<坂本 隼人>
「ところで結騎はどうして放送部に入ろうとしてたんだ? 目的が異なる場合は新しいクラブ作っても意味ないからな」
<結騎 凛>
「わ、私? 私はその、あれよあれ。ア、アナウンサーになりたいのよ」
急に恥ずかしそうに身体をくねらす結騎凛。
<坂本 隼人>
「どうして恥ずかしがるんだ?」
<結騎 凛>
「だ、だってアナウンサーなんてプロ野球選手になるっていうのと同じくらい無謀な夢じゃない」
<坂本 隼人>
「そうなのか? でもまあ声優にアナウンサーか。近いって言うと怒られそうだが、発声練習とかそういう基本練習は一緒にできそうだな」
<結騎 凛>
「そうね。利害は一致するわね」
実を言うと、オレにも1人声をかければ必ずやってくる人物に心当たりがある。
そうして極力そいつとは関わりたくないというのが偽らざる本心だ。
だがいまはそんなことも言ってられない。
<坂本 隼人>
「結騎は確実に入部してくれそうな人物に心当たりがあるんだよな? 大丈夫か? 絶対に間違いないか?」
<結騎 凛>
「ええ。頼めば大丈夫だと思うわ」
<坂本 隼人>
「そうか……」
<結騎 凛>
「それがどうかしたの?」
<坂本 隼人>
「いや、まあオレにも心当たりがないわけじゃない」
<結騎 凛>
「そうなの! だったら早くその人を誘いなさいよ」
<坂本 隼人>
「とはいえ気乗りしないんだよな。そもそもオレにはなんのメリットもないんだぜ? 正直オレは生物部でも科学部でもラクできそうな部活ならなんでもいいんだよ」
<結騎 凛>
「わかったわよ。部長なら私がやるし、坂本くんは好きなことしてていいわよ。それならいいでしょ?」
<坂本 隼人>
「そうだな。それならいいか。んじゃ呼ぶけど引くなよ。憐れむなよ?」
<結騎 凛>
「どういうことよ?」
<坂本 隼人>
「いまにわかる」
<西友 鳴歌>
「……」
オレは携帯を取り出し、幼馴染みというか、いつもオレにくっついてくる厄介な奴に電話する。
そいつの名前は御社薫(おやしろかおる)という。
名前がこんなんだが一応男だ。
;SE(携帯コール ※50ms)
;SE(携帯受話 ピッ)
<御社 薫>
「もしもし?」
カオルは携帯のコール音が鳴るか鳴らないかのギリギリのところで電話に出た。
どんだけ待ち構えていたんだよと末恐ろしく思ったが、偶然かもしれない。
偶然だと思い込むことで、オレは心の均整を保った。
<坂本 隼人>
「もしもしカオルか?」
<御社 薫>
「どうしたの隼人くん。もしかして告白……とか? ボクうれしいなぁ」
<坂本 隼人>
「違うに決まってんだろ。それよりお前、部活なんだっけ?」
<御社 薫>
「手芸部だよ~」
<坂本 隼人>
「そうか。部活を新設しようと思ったんだが手芸部なら仕方ない」
<御社 薫>
「隼人くんが作る部活? 入る入る。ううん。むしろ入れて! 前からでも後ろからでも、好きなところに入れていいんだよ」
<坂本 隼人>
「うん。その下品な口を閉じろ。そうしたら入れ、入部させてやる。いま屋上にいるけどお前どこにいるんだ?」
<御社 薫>
「ボクはいつでも隼人くんの傍にいるよ」
<坂本 隼人>
「はいはい」
;SE(金属ドア開く バ~ン!)
そう返事をするや屋上の扉が開き、電話の相手であるカオルが走ってきた。
なんだこいつ。オレの居場所をGPSかなんかでトレースしてんのか?
<御社 薫>
「隼人くん来たよ~~~~~~~~~!」
;SE(駆け足 タッタッタ)
<坂本 隼人>
「こっちくんな!」
そんなオレの言葉もおかまいなしに、男というには余りにも可愛らしい美少年が飛びかかるように抱きついてきた。
;SE(ハグ音 軽くドンって感じ)
<御社 薫>
「ああ~! 隼人くんの匂いだぁ。すごく久しぶりでボクもう我慢できないよぉ」
抱きついたついでに股間をすりつけてくるカオル。
金玉蹴りあげてやろうか。
<坂本 隼人>
「いいから放せ! 入れてやらねーぞ」
<御社 薫>
「そ、そんなのってないよ。ちゃんと綺麗にしてるからボクに入れてよぉ」
<坂本 隼人>
「“ボクも”だろ! お前ワザと言い間違えてるだろ。いいから放せよこの変態!」
なんとかカオルを振り払い、ちゃんと立たせる。
だから会いたくないというか紹介したく無かったんだ。
案の定、西友と結騎は呆然としている。
ん? 目の錯覚か。ひとり、ふたり、さんにん……。
あれ? なんか1人増えてるぞ?
<小さな女の子>
「アタシ参上!」
<坂本 隼人>
「誰だお前?」
<結騎 凛>
「私が呼んだの。このコも少し問題があるけど、彼、でいいのかしら? 彼に比べたらまだマシのようね」
<坂本 隼人>
「だな」
<小さな女の子>
「ゲゲゲッ! なんで変態ホモ王がここにいんのよ!」
<御社 薫>
「それはこっちの台詞だよ。このロリビッチ!」
<結騎 凛>
「え? あなたたち」
<坂本 隼人>
「知り合いなのか?」
なんというか世界は狭いな。
<小さな女の子>
「ちがうよ! クラスが同じってだけよ」
<御社 薫>
「そうそう、こんな女であることを放棄した女子もどきと知り合いなんかじゃないよ」
カオルは女の子になりたいとか言ってたので、こういうガサツというか女子力の低い女の子は性別変われよこの野郎と怒りの対象になる。
まあ気持ちは分かるがそれは逆恨みだ。
<西友 鳴歌>
「……」
西友がオレを心配そうに見上げている。
<坂本 隼人>
「心配しなくても大丈夫。部長がまとめてくれるさ。なあ結騎」
<結騎 凛>
「そ、そうね。正直余り自信はないけど頑張るわ」
<小さな女の子>
「ねえねぇリンコちゃん。このヒトってリンコちゃんの彼氏なの?」
<坂本 隼人>
「ほほう。よくわかったな」
<西友 鳴歌>
「!!」
<結騎 凛>
「ちちち、ちがうわよ! 坂本くんもなに言ってるのよ!」
<御社 薫>
「そうだよ。隼人くんの恋人はこのボクだよ」
<小さな女の子>
「ホモは黙ってて! というか帰れ!」
<坂本 隼人>
「まあ彼氏というのはウソだ。それよりキミの名前は?」
<小さな女の子>
「アタシ? アタシは」
<御社 薫>
「このロリビッチは、東泉寺晶(とうせんじあきら)って言うんだよ隼人くん。胸なし色気なし落ち着きなしと三拍子揃ったアホの子だよ」
<東泉寺 晶>
「うっさいわねこのホモキング! あんたなんか女装してアキバあたりを徘徊してデブオタクに犯されちゃえばいいのよ」
<御社 薫>
「残念。女装しなくても女の子と間違えられますから。誰かさんのように私服だと中学生とか男の子に見間違われる残念な女とは違うから」
なんか知り合いじゃないとか言いながら、お互いのこと良く知ってんなぁこいつら。
<坂本 隼人>
「わかった。とりあえずお前らが仲が悪いことはわかった。それで部活には入るのか?」
<御社 薫>
「もちろん入るよ。入れてくれるよね?」
<坂本 隼人>
「いちいち言い方が卑猥なんだよ」
<東泉寺 晶>
「アタシも入るよ。リンコちゃんには色々とお世話になってるからね~」
<坂本 隼人>
「そうなのか?」
<結騎 凛>
「ええまあ勉強教えたり、宿題のノートを貸したりとか、色々ね」
<坂本 隼人>
「なんか変人ばかりだけど大丈夫か? やっていけそうか?」
オレはさっきから一言も言葉を発していない西友に向かって尋ねる。
<西友 鳴歌>
「だ、大丈夫、坂本さんは、その、大丈夫、ですか?」
<坂本 隼人>
「オレか? そうだな。多分なんとかなるだろ」
<結騎 凛>
「ねえ坂本くん。変人って言ってたけど、それって私も含まれるのかしら?」
<坂本 隼人>
「そのつもりはないけど、そう思ったんなら謝るよ」
<結騎 凛>
「ところで西友さんとあなたって……」
<坂本 隼人>
「クラスメイトだな」
<西友 鳴歌>
「うん」
<結騎 凛>
「そ、そうなの。それにしては」
<坂本 隼人>
「信じられないかと思うが、西友とは今日初めて話したんだよ」
<結騎 凛>
「うそ! 信じられない」
<坂本 隼人>
「だが本当だ。そうだよね?」
<西友 鳴歌>
「うん」
<坂本 隼人>
「とりあえず結騎は部長なんだからよ。新規クラブの申請をしてきてくれないか?」
<結騎 凛>
「そ、そうね。部活の名前は何にしましょうか?」
<坂本 隼人>
「そうだなぁ」
<西友 鳴歌>
「……」
<御社 薫>
「秘密倶楽部。略して秘部!」
<東泉寺 晶>
「そういえば何をする部なの?」
こいつはそれすらも知らないで入ろうとしていたのか。
<結騎 凛>
「声部とかでいいんじゃない?」
<御社 薫>
「肥え部って、うんちみたいで、汚いしセンスないね」
<坂本 隼人>
「そういう発想ができるお前の方が汚れちまってると思うぜ?」
<西友 鳴歌>
「せ、声えん部。こ、声に、平仮名で“えん”と書くの」
<坂本 隼人>
「“声えん部”か。えんを平仮名にした理由はなんだ?」
<西友 鳴歌>
「お、応援のための“声援”と、声を演じる“声演”の二つの意味をもたせて、ます」
西友は恥ずかしそうにうつむいたままそう答える。
<坂本 隼人>
「へぇ、それいいじゃん」
<結騎 凛>
「そうね。悔しいけど声部よりはいいわね」
<御社 薫>
「隼人くんがいいっていうならボクも!」
<東泉寺 晶>
「だから~! ここって何をする部なんだよ~! いい加減教えてよ~」
結局、東泉寺には何をする部なのか伝えないまま、“声えん部”は新規部活として申請を受諾され、とりあえず同好会として活動することを許された。
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; 共通1 シーン1-2 エンド
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