ゴーレムの突撃が大地を揺るがし、パパスの雷鳴<ウルミン>が空を切り裂き、
そして、ストレイボウの魔法が目の前の全てを呑み込み――
「それでも――」
それでも、ザ・ヒーローには届かない。
バランスを欠いた、それでも魔導生命体故に正確性を失っていない巨体の突撃、
それを牛を躱す闘牛士の様にザ・ヒーローは軽くいなしてみせる。
だが敵対者にとって、その巨大質量そのものが囮。
ゴーレムの影から現れたパパスが、突進から流れるようにウルミンの連撃を放つ。
だが、雷鳴を用いてなおザ・ヒーローに傷を付けるには及ばない。
天の雷――それを従える勇者の剣、
それに阻まれてしまえば、雷鳴もただ金属音を奏でるのみ。
目に見えて明らかであった、天空の剣がザ・ヒーローに馴染んでいっているのは。
疾く──
より疾く────
彼の剣速が上がる度に時間が濃縮されていく。
瞬きする間すら存在しない、瞬きするその1秒にも満たぬ時間があるのならば、
彼は2人と1体の敵対者を仕留め得るのだ。
しかし、それは彼とて同じ事。
1分にも満たぬ短い時間、互いに何千もの死線を交差させていた。
そして再び、剣速が上がった。
何度目かもわからない、ゴーレムの拳。
それが砂塵と化したのは、夢でも幻でも無い。
単純なこと、ザ・ヒーローの高速の──光速の斬撃が、
打ち付けてきたゴーレムの拳を斬り、裂いた。
裂いたのである、岩の腕が砂に変わるまで。
沈黙が生じた。
ザ・ヒーローへの攻撃の手が止まったのだ。
それは、たったの一秒にも満たない。
しかし、この濃縮された時間の中では永遠にも似て感じられた。
「…………完全に馴染んだよ」
圧倒的な力によって生じさせた、沈黙。
それを切り裂いて言葉を発するは、ザ・ヒーロー。
本来ならば主に成り得ない天空より遣われし、勇者の剣。
しかし、彼がその剣を扱いしは必然なのかもしれない。
彼は天使を斬り裂いて、此処へ来たのだ。
己の剣速よりも疾く、この戦闘中に強くなっていくザ・ヒーロー。
そんな彼に対し、ストレイボウが募らせていく感情は絶望でも焦燥でもなく、怒りだった。
「何でだよ……」
ザ・ヒーローの斬撃の、ゴーレムの拳の、パパスの雷鳴の、己の魔法の、
戦闘の中に掻き消される微かな呟きが、ストレイボウの口から漏れた。
誰にも聞かれるはずのない、聞く余裕の無い言葉──
ならば、その言葉に込められた思いを魔力を込めて、ストレイボウは詠唱する<叫ぶ>。
「お前に神の力なんてものが必要なのかよッ!」
ブラックアビス、ザ・ヒーローの斬撃に対して反射的に唱えられた反撃魔法。
夜空よりも、宇宙よりも、己の抱く憎悪よりも深い黒色をしたそれはザ・ヒーローを塗り潰すには至らない。
「言ったはずだよ、守りたいものがあるって」
如何にザ・ヒーローでも魔法を斬り裂くことは出来ない、廃墟と化した東京を踏破したその脚で、跳躍。避けるのだ。
その後に訪れるは彼の敵の即席のコンビネーション。
雷鳴が彼を斬り裂かんとし、そしてそれと同時に拳が迫る。
完全なるザ・ヒーローが攻めきれぬ理由、それは相手の手数の多さ。
今、やろうと思えば誰か一人は確実に仕留めることはできる。
だがしかし、そうしたならば残り2つの攻撃によって死に至らぬまでも致命傷は受けるかもしれない。
そして、それはストレイボウ達も同じ事。
互い互いに攻めあぐねていた。
だからこそ、この戦闘中の奇妙な会話が生じたのであろう。
「まだ必要なのか!?まだお前には力が必要なのか!?」
ストレイボウが詠唱した<叫んだ>。
蓄積した怒りの正体。
ストレイボウは薄々ながらも気づいていた。
目の前の敵は力を求め続けているという事実が。
己を圧倒しながらも、遥か遠くを見据えた目の前の敵が。
オルステッドに抱いたそれとよく似ていて──
「お前は…………お前は……ッ!!!」
ならばこそ、心から満ちるその感情に身を委ねてしまいたい。
機械仕掛けの不在の魔王<オディオ>の力に────
「そんなものに頼らなくたって、人間はどこまでも強くなれるさ」
だからこそ、微笑と共にもたらされたザ・ヒーローの言葉に……一瞬の、十分すぎる程の隙を与えてしまった。
l> ATTACK
(死というものは、こうも何も無いものなのだろうか。
痛みも何もありはせず、ただ意識だけが鮮明なまま…………暗闇に包まれて)
ストレイボウは瞬時に己の誤認を悟った。
(生きている、俺は生きている。
手足共にあり、目も耳も異常はなく……だったら)
目の前の闇……ストレイボウを庇ったゴーレムが彼の視界を塞いでいた。
しかし、ゴーレムが原型を留めていたのは僅かな間。
ザ・ヒーローの斬撃によって、最微塵<クオーク>と化す。
「やあ」
その粒子の隙間より徐々に姿を現すのは、やはりザ・ヒーローであった。
「もう…………君達では僕に勝てない」
パパスが背後から放ちし雷鳴、ザ・ヒーローは軽く振り返り…………
その紙のように薄い刃を、斬り落とした。
「無駄」
ストレイボウへと、ザ・ヒーローが一歩を踏み出す。
「無駄」
ストレイボウから放たれた魔法を、軽々と避ける。
「無駄だ」
ストレイボウの前に、ザ・ヒーローが立った。
「力を抜いてほしい……すぐに終わるから」
「いや!殺させてなるものか!」
武器は無い。
だが、それでも。
パパスはザ・ヒーローへと突撃した。
パパスによって羽交い締めにされるザ・ヒーロー。
何故に彼に隙が生じたのであろうか、それはストレイボウの放ちしアンバーストームの効力。
己をも巻き込むため、気軽に使うことは出来ないが、その魔法はため時間無く電磁結界を生じさせることが出来た。
ほんの僅か……ザ・ヒーローにとっては、ほんの僅かのダメージであろう。
だが、それでも背後から突撃するパパスへの反応を一瞬、鈍らせる。その程度の効果はあった。
ザ・ヒーローの手より、天空の剣がこぼれ落ちた。
「僕が……憎いか?」
平然──否、平穏とした声でザ・ヒーローが言った。
「憎むことなど出来るものか」
返答するはパパス、声色にはただ哀しみのそれだけが存在していた。
「…………ここで命を助けても、やはりお前は殺人を続けねばならんのだろうな」
「もう、それ以外に僕の道は残されていないんだ」
「天空の剣……」
「え?」
「お前が操っていたそれは、天空の剣と言う」
「天空……いい名前だね」
「私は……その剣を扱える勇者を探していた、魔界に囚われた己の妻を救うために」
「悪いけど……僕は」
「ああ、違うのだろう。いや……仮にお前が勇者だとしても…………」
「ふふ……勇者失格?」
「いや、己の願いを……祈りを、誰かに託してはいけなかった、お前が……全てを背負ったお前がそうなったように」
「…………」
「私には……何も出来はしない、お主の苦悩を理解することも、分け合うことも、癒してやることも…………ただ、こうすることしか出来ない」
パパスはザ・ヒーローを抱きしめた。
「…………辛かっただろう、もうお主は眠ってもいい」
アンバーストームより復帰した、ストレイボウがザ・ヒーローにトドメを刺さんと、魔法を放った。
「零式超吸着掌打」
ストレイボウの臓物が溢れ出した。
何も、何一つとして事態が認識できないが、
拘束より逃れ、今まさに新たなる死体を増やさんとするザ・ヒーローにパパスは再度飛びかかる。
だが、
「…………ありがとう、そしてごめんなさい」
再度、天空の剣を手にしたザ・ヒーローがパパスの心臓を貫いた。
ぐらりとパパスが倒れる。
ストレイボウの臓物も狭き体内より、押し出される。
そして、全ては終わる。
「…………待てよ」
否、まだ終わってはいなかった。
ストレイボウは、未だ生きていた。
臓物のほぼ全てを体外へと解き放ちながら、それでも生きていた。
おかしいことではない、心臓が停止することと死は同意義ではないように、
臓物が解き放たれることと死もまた、同意義ではないのだ。
「強くなれると……そう言ったな」
「言ったよ」
「人間はどこまでも強くなれると……そう言ったなッ!」
「ああ、言ったさ」
「そのお前が何で人間を捨てようとするッ!お前が……お前までがッ!」
最早、ストレイボウを埋め尽くす感情は、己自身でも■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「でも……ね、人間は強くなれは出来る……なれは出来る、
天使だって悪魔だって……神様だってきっと殺せるようになるさ…………」
「でも、それが人間の限界なんだよ」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
もう何もわからない。
目の前の敵は俺よりも強い。
憎い。
目の前の敵は子どもを殺した。
憎い。
目の前の敵は名も知らぬ仲間を殺した。
憎い。
目の前の敵はそれでもなお、力を求めるという。
憎い。
俺を置き去りにして。
憎い。
オルステッド…………
憎い。
目の前の敵はオルステッドではない。
憎い。
オルステッドではあり得ない。
憎い。
だからこそ。
憎い。
生きながらえているとはいえ、長く持つことは無いだろう。
故に、ストレイボウは躊躇せずに魔力も生命力も全てを込めて、
それでも足りないというのならば、己の感情の何もかもをも込めて、
そして…………
「ブラックアビス」
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
斬
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
その魔法を踏み越え、ザ・ヒーローは進む。
【ストレイボウ@LIVE A LIVE 死亡】
【エリアC-5/森林地帯/1日目/黎明】
【ザ・ヒーロー@真・女神転生Ⅰ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:天空の剣@DQ5
[道具]:基本支給品4式(松明1つ消費)、キメラの翼4枚@DQ5、不明支給品1~5
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、神と契約する
1:
[参戦時期]:ニュートラルルートエンディング後
[備考]
大きな力について、意識すればいくらか感知することが可能です。
零式超吸着掌打を習得しました。
彼の優しさが、ザ・ヒーローの剣先をずらしたのだろう。
彼の優しさが、ザ・ヒーローに躊躇を与えたのだろう。
それ故に、彼は生きている。
絶望へと向かうために。
【パパス@ドラゴンクエストV 天空の花嫁】
[状態]:重症、男らしさ減少、気絶中
[装備]:ハイレグアーマー@MM2R、アームターミナルE(無し)
[道具]:ワタナベのパンツ@LIVE A LIVE、元々着ていた服
[思考・状況]
基本行動方針:道を踏み外した子を正しい方へ導く
1:???
[参戦時期]:死亡後、エビルマウンテンで吹っ切れたリュカに会うよりも前
[備考]:ウルミン、ゴーレムは破壊されました。
最終更新:2013年03月19日 23:05