わがまま


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泣いている男の人がいました。
男の人はとても強かったので涙は流しませんでしたが、とても優しかったので悲しくて仕方ありませんでした。

女の人がやってきました。
女の人は男の人を見ても「どうしたの?」とか「大丈夫?」だとかそういう声をかけませんでした。
男の人にはそれがとてもありがたく感じられました。
男の人は強いので、そう言われても「大丈夫」とか「なんでもない」と答えるしかなかったのです。

女の人は何も言わないで、ただただいっしょにいてくれました。



遺体から服を剥ぎとる。
迷いない手つきで、淡々とした作業じみた光景がそこにある。
胸で十字を切り、丁寧な手つきで行われるそれは敬虔な信者のもので。
けれどもそこに現れる表情には悲しみも恐れも見いだせず、ただただ淡々とした作業的な色合いばかりが強く滲み出る。

剥ぎ取られた下から現れた肉に刻まれている傷跡は、彼にとって未知の傷。
剣ではない、槍でもない、弓矢でもなく、魔法でもない。獣による爪でも牙でもこのような跡にはならないだろう。
イビツな穴がいくつも点々と刻まれている。

先ほど名を聞いた。
これが『銃』という武器の仕業か。
一定の操作の元、『鉛を吐き出す』彼の知るものに当て嵌めればクロスボウに近いお手軽武器。
魔物と戦うための武器としてはあまりにも不適当、そう断ずる。
この程度では頑強な魔物には痛手にならない、これでは野山を駆けるウサギを狩るのがせいぜいか、あるいは。

『人を殺すこと』しかできないではないか。

ドロリと、まだ真新しい穴からこぼれ落ちる赤にわずかに顔を顰めながら作業は続く。



少しして、無表情のまま女の人が言いました。
「死んでしまった人の事ばかり考えていてはいられないわ」
男の人はうなずきました。
生きている人のために頑張らないといけない、だから男の人はここじゃないどこかに。
助けを求める誰かを探しにいかないといけない、そういうことを言いたいのだと思いました。

女の人の表情は変わりません。
「だから、遺体を葬るような無駄な時間はない」
諭すような、言い聞かせるような声音でそんな事を言います。
男の人も再度うなずきました。
心苦しいですがそれでも後回しにしないといけないのだと理解していました。
死者を生者に優先させる理屈などないのですから。

変わらないままに、女の人は言いました。
「けれど、使えるものは持っていきましょう」
男の人は耳を疑い、女の人をよりいっそう強く見つめました。

女の人は亡くなってしまった人たちの死体から必要なものを奪っていこうと言いだしたのです。



未知の武器、ゆりこに『銃』と言う名前だけを教わったそれの悪辣さに沸き立つ心を沈め、荷物へと手を伸ばす。
急がなければならない。

オルステッドは強者だ。そして彼の仲間たち。
賢者ウラヌス、勇者ハッシュ、そして魔法使いストレイボウ。
共に歩むのが彼らだけだったのであればこのような事をする必要はない。
存分に時間をかけ、心のまま慈悲を持って埋葬を行えただろう。
ましてや、死体剥ぎなどという穢れとは無縁のままでいられただろう。
彼らは強い。優れた武器がなくとも、優れたアイテムがなくとも、ただその身一つ、信念一つで守る側に回れる誇り高き者たちだ。

だが、ここに集められた大部分はそうではない。
主を思い危険を承知で魂の叫びを挙げた誇りに触れた。
間に合わず眼前で魔に変じ、面影すら掴めない程に変貌した人がいた。
速く、力強く、驚異的な圧力を持った悪しき魔があった。

『銃』に関する知識を持つゆりこが二つの死体を検分している間、それが僅かな空白の時間。
生者よりも死者を優先できる、貴重な時間。
今しかないのだ。これがわがままを通せる唯一の機会。



男の人は女の人を疑ったことを酷く後悔しました。
強く気付こうとしなければ気付けないほどに小さくではありましたが、女の人の手は無表情なままに震えていました。
ようやく男の人は、女の人は自分と違っていつ死んでも不思議ではない、そんな弱さを持っていることに気付きました。

「私は向こうの悪魔になった二人の荷物をみてくるから、あなたはそこの遺体をお願い」
悪魔のことも『銃』という武器のことも男の人は知りません、だから女の人が調べるのが確実だと言うのです。
女の人は顔を背けて歩き出しました。

「ひょっとしたら手間取って時間がかかりすぎちゃうかもしれないから、その間は好きにしていてね」

合理性の中に小さく生まれた遊びの時間。
それが遠まわしに”まだ人のまま死ねた彼の”埋葬をするように、ということなのだと気付き。
男の人は、女の人が強くて、優しい人なのだとわかりました。



手が止まる。
これまでのわがままとはまた違った毛色を持ったわがまま。
遺体の手に握られた紙片。
やけに上質な紙質と不釣合な程に乱雑に紐を通して綴じられた数枚の白い紙。
その一枚目には大きく、彼が 殺し/救った ばかりの者の姿絵と、名前が記されていた。

なるほど、と得心がゆくのが半分と、同じだけの驚愕が半分と。
あの勇敢な男がベンという名を知っていたのはこのためか、ということと、
芸術性とはまた別の、まるでそのままを写し取ったかのような写実の技術に対する驚き。

紙をめくる。
なるほど、これは名簿のようなものか。
頭の中の冷静な部分が分析する。
先ほどのベンを写した一枚は特別であったのか、一枚まるまるを使って一人を記す、という形式ではなく、
一枚の紙を六分割し、ア行から順々に記された名前と先ほど同様の見事な写生が添えられている。
自身の名前もここに記されていることからも、これはここに呼ばれた者たちを記す名簿なのだと考えられる。

ああ、けれども。
わかっているのだ、この冷静さが現実逃避の一側面でしかないのだと言うことを。
逃避を求める感情と、それでも決して目を逸らせない矛盾とを自覚しながら。
オルステッドの目は名簿の二番目、アリシアの名と似姿に強く引き寄せられた。



肩口から袈裟懸けに付けられた刀傷はVの字を描き反転し、反対側の肩口から抜けている。
ただ殺すだけであればもっと楽な殺し方もあっただろうに。
哀れみではなく単純な事実確認としてそんなことを思う。

例え半身をもぎ取られても平然と生き続けるような怪物を相手にしていたとしても、
ここまで見事に四肢と頭部をイビツに切り離されては何一つ為すことはできなくなるだろう。
そんな徹底した破壊の跡だ。

握り締められた手から無理矢理に猟銃を奪い取る。
見る限り銃身に歪みは見受けられない。状態は悪くないと判断する。
力ない者を演じ、他者を盾として矛として利用して生き残る。
その上で誰が使っても一定の効力を挙げる『銃』という武器はとても都合がいいものだと言っていい。

もう一体の死体、頭部を失った亡骸に向かう。
いかなる業によるものか、ただ切り離されただけではない。
かつて存在したハズの頭部は文字通りどこにも無くなってしまっている。

近づき観察する。そして確信。
やはりこちらを受け持ったのが私でよかった。
頭部があったハズの場所、その傷口から内部を伺う。
毛皮に覆われた内部には歯車じかけのカラクリ機構。

”マシン”では悪魔合体の嘘と矛盾する。
知識がないとは言え、偽りから生まれたほころびはどこへ広がるか、わかったものではない。
不用意にに情報を与える必要はないのだ。
防弾チョッキを剥ぎ取り、血にまみれた先ほどの死体へと投げつける。
他者の血肉にまみれたマシンは一見して生物と見分けがつかない。

ゆりこの愛は、それを捧げる相手以外の全てを替えの利く利用対象としか捉えさせない。
オルステッドはいくらでも換えの利く消耗品でしかない。
それでも利用価値のあるうちは存分に使い潰す、その努力を放棄する必要はない。

あれほどに都合のいい駒を新たに探しだす、というのは現状においてあまりにも勿体無いのだから。
目端が利く頭の良さがあり、戦うための力があり、疑うためではなく信じようとするために他者を観察する彼は格好の隠れ蓑だ。

目端に写していたオルステッドの状態に異変が起こる。
よどみなく動き続けた作業は止まり、凍らせていた感情が溢れ出す。
埋葬という彼に対して与えた「飴」の機会を棒に振るその変化を見て、ゆりこは彼の方に向かう。
使える道具を長く使うコツはこまめなメンテナンスなのだと彼女はよく知っていた。



「アリシアとストレイボウ、ね……」
今すぐにも飛び出さんと言わんばかりの勢いでオルステッドは言う。
それぞれ違った形でかつて一度は失いかけた、宝物のように大事な二つの名前に感情的にならずにはいられない。
それが私情に過ぎずとも、二人と一刻も早く合流したいのだと。

「構わないわ、だけど忘れないで。望む形で対面できるとは限らないことを。高望みはそれだけ大きなしっぺ返しに繋がることを」

ゆりこにはそれを拒む必要も意味もない。
広い会場の中、人探しの手段は当てずっぽうに歩き回る以外にない。
フツオを探し歩き回る前提がある以上、けっきょくやることに変わりはないのだ。
そして仮にこの提案を否定したとしても、いざ対面という時に情が生まれるのは確定事項。
ならば下手に否定し反感を買うよりも暴走せぬように楔を打ち込み、舵を取りやすく誘導するのが得策だろう。

名簿に記された名前たちに思いを巡らす。

知っている名に関しては想像の範疇であったと言っていい。
私とフツオがいるのだ。ワルオとヨシオがいるのはむしろ当然、いない方が不自然とすら思えるほどであったし、
これだけのメンツを揃えることができるのならばアスラ王やミカエルほどのビッグネームであろうとも遅れを取っても不思議ではない。

ただ知らぬ名に対して、一抹の警戒を抱く要因は存在した。
リュケイロム・エル・ケル・グランバニア/デュムパボス・エル・ケル・グランバニア。

神の信徒を名乗るものによって開かれた宴、そこにヘブライ語における神の代名詞。
”エル”の名を冠するグランバニアなる一族が存在する。これは果たして偶然の一致なのだろうか?

ゆりこは考える。
ゆりこの武器は異能の魔法ではない。異形ゆえの身体能力ですらなく、女であること、それこそが最大の武器だ。
女だからこそ、男をどうすれば動かせるか知っている。
女だからこそ、男が自分の何を見ているかが理解できる。
女だからこそ、男が望むように自身を演じれる。
身振り一つ、口振り一つでどれほどに人の心が揺れるのかを理解している

彼女の戦いは戦場のものではない、戦場にたどり着くころには結果が既に見えている、そんな場を整えるための行動だ。
その有り様はまるで人のよう。
存在そのものがファンタジーでありながら、その戦いはどこまでも人の演じるそれの延長でしかなくて。
だからこそ、オルステッドは気付けない。

思考も思想も感情も、目前の”悪魔”に誘導されていることに微塵も気付けず。

「あなたが私を信じてくれると言ったように、私もあなたを信じます」

そんな言葉を彼は口にし、対して彼女も笑みを返す。
使えるハサミへの愛着のような、そんな換えの利く好意と愛情を込めて。
悪魔は優しい笑みを浮かべた。

【エリアB-3/市街地/1日目/早朝】

【オルステッド@LIVE A LIVE】
[状態]:健康
[装備]:はがねのつるぎ@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:基本支給品*2、不明支給品0~2 写真付き名簿
[思考・状況]
基本行動方針:一刻も早く魔王を倒し、アリシアを救出する
1:アリシア・ストレイボウとの合流
2:魔王が関与しているのかを見極める。いるのならば打倒、いないのならば速やかな帰還を目指す
3:悪魔となった参加者に引導を渡す

【ゆりこ@真・女神転生Ⅰ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3 猟銃@現実*2 、防弾ベスト@現実*1
[思考・状況]
基本行動方針:ザ・ヒーローを殺そうとするものの排除
1:利用できるものは利用し、参加者を減らす
2:ザ・ヒーローはこの手で……?
3:エルの名を持つものたちに警戒
[備考]
参戦時期はカオスヒーローのパートナーとなったよりも後

写真付き名簿@現実
一枚目は大きくベン専用。
他の7枚は一枚につき6人分ずつの写真と名前が記されている。
またグランバニア王家の人間の名前は略称ではなくフルネームで載っている模様。
男性名にはエル・ケル・グランバニア、女性名にはエル・シ・グランバニアが付く形になります。


051:背徳螺旋 投下順 053:螺!! 螺螺螺螺螺螺螺螺螺螺旋因果 大復活ッッッ!!
051:背徳螺旋 時系列順 053:螺!! 螺螺螺螺螺螺螺螺螺螺旋因果 大復活ッッッ!!
046:救いの手 オルステッド :[[]]
046:救いの手 ゆりこ :[[]]
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