黒雲によって体を支配されてしまった遊璃、全てを燃やし尽くすという己の欲望を満たすためだけに決闘することを好むブレイド。美玲はただ2人の決闘を見ているだけしかできなかった。
美玲が今この状況で救いを求める人物として暁桐谷の名前が上がるだろうが、彼がが戻ってくるとしてもまだまだ時間がかかるかもしれないだろう。
「遊璃……ちゃん」
本当にどうしちゃったの? あなたはいったいどうしちゃったの?
「それじゃあ始めようか。私のタイム・ルーラーの実験台となってくれ」
「あァ? なめてんじゃねェぞ。この世界に来てから俺はイライラしてんだ。だからお前を燃やし尽くす」
「勝手な考えだ。……先攻はもらおう」
黒遊璃は静かにデッキトップに右手の人差し指と親指を持っていき、そこからカードを1枚引いた。
「モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド」
「ハッ! 自身ありげに言ったわりには随分とちっさい動きだなァ」
黒遊璃 LP4000
モン≪???≫
伏せ≪???≫ 手札4
だがいくら挑発されようとも黒遊璃は微動だにしない。
タイム・ルーラーを知らないブレイドは彼女がどういったカードを使ってくるか、また切り札である「支配者の力」の恐ろしさをこのときまでは深く考えなかっただろう。
「俺のターンドロー」
相手が守りに徹している(ように見える)のだからここは手札の消費を考えず積極的に=速攻でケリをつけた方がいいのかもしれない。仮にも自分と戦っている相手は1度決闘で勝っているのだから油断は禁物だ。
もしもここに自分が愛用している“レッドアイズ”があったならば……
「≪種子弾丸≫を発動。さらに≪ボタニカル・ライオ≫を召喚。効果で攻撃力は1900に上がるな。しかも≪種子弾丸≫のカウンターを1つのせる」
「そのタイミングでリバースカードオープン、≪サイクロン≫で≪種子弾丸≫を破壊する」
植物族の中でもアタッカーとしての活躍が多いライオを中心に序盤から殴り合いを展開してくる気だろうか。と黒遊璃は予想する。
「次に≪偽りの種≫を発動し、手札から≪コピー・プラント≫を特殊召喚。ライオの攻撃力は2200に」
「いきなり見せてくるな」
「ハッ! ≪コピー・プラント≫の効果を使い、ライオを選択。このターン中はプラントの★を3に……そして、シンクロ召喚!」
「やってくれるな。私の予想ではお前が出すのは≪ヘル・ブランブル≫。違うか?」
ライオと★3になったプラントがシンクロし、再び姿を見せた時には別のモンスターだった。しかも黒遊璃が予想したモンスター。
「シンクロ召喚、≪ヘル・ブランブル≫。よくわかったじゃねェか」
「なんとなく予想しただけだ」
≪ヘル・ブランブル≫の効果は相手がモンスターを召喚するためにはLPを1000払わないと召喚できないようにさせる極悪効果を持っている。。
LPが4000しかないのに、必殺のバーンダメージを受けると敗北につながりやすい。召喚するためだけに1000も必要とするのは正直きついだろう。
「バトル、≪ヘル・ブランブル≫でセットモンスターに攻撃!」
「フン! 破壊されたのは≪タイマー・ウォリアー≫、よってタイムカウンターを1つ増やし、デッキから≪タイマー・ウォリアー≫を2体特殊召喚する」
黒遊璃の場にあった「時計の形をした」モンスターは破壊される。と同時にカウンターが1つ“増え”、モンスターも2体召喚してきた。≪ヘル・ブランブル≫の効果もあり2000も払わなければならなかったが。
「無駄だ! そのモンスターの効果は手札から召喚・特殊召喚されたときのみ発動できる。デッキから出したモンスターでは意味がない」
「ッ――ったく、むかつく。カードを1枚セット! ターンエンド」
ブレイド LP4000
モン≪ヘル・ブランブル≫攻2200
伏せ≪???≫ 手札1
モンスターの召喚に手札を使いすぎているブレイドとは別に、まだまだ豊富な手札を見せつけてくる黒遊璃の表情はやけに腹立たしい。
いくら彼が数々の決闘に勝利し、ついにはアカデミアの教師をするほどの凄腕のデュエリストであろうとも、やはり本来のデッキではないからまだ本調子ではないのだろうか。
「私のターン、ドロー」
黒遊璃はドローしたカードを見てニコリと笑う。
「魔法カード発動、≪時の代償≫を発動。≪タイマー・ウォリアー≫2体をリリースしてタイムカウンターを4つ増やす」(TC1→5)
これで布石は整った。
あとは「支配者」を出すだけである。
「魔法カード発動、≪時を支配する能力≫! タイムカウンターを5つ取り除き、手札・デッキ・墓地からタイムルーラーを特殊召喚する」(TC5→0)
時の力を糧とし、支配者は現れる。
「出でよ、≪タイムルーラー DL・ROW≫!」攻3000
黄金に輝く鎧に身を包んだ青年の戦士からは威圧感が漂う。
それを見たブレイドもこれまでの経験からDL・ROWの危険性を察知した。
「フフフフ……」
「ん? どうしたんだ」
DL・ROWを出したところで突如として黒遊璃に異変が起こった。彼女の顔には既に感情はない。完全に体を乗っ取られてしまったのだろうか。
「フハハハハハッ! なじむ、実に! なじむぞ!フハハハハハハハハッ!」
「いかれてやがる……」
「戻ってきてよ、遊璃ちゃん……」
狂ったような黒遊璃を見るブレイドとは別のところで元に戻ってほしいと必死に懇願している美玲の姿がそこにあった。
「手に入れたぞ、「支配者の力」を! フフッ、フハハハハハハハハッ!」
――もう彼女に声は届かないのだろうか。
そしてバトルフェイズに移行しようとして、「支配者の力」が発動した。
「【THE・STOP(ザ・ストップ)!】」
完全に時を支配している。全てのものが止まっているこの場で好き勝手できるのはただ1人しかいなかった。タイムルーラーの力を知らないブレイドには何がなんだかわけがわからないといった様子である。
「時を支配する」
その言葉の意味を頭の中で思考するブレイド。しかし結論にいたらないままバトルフェイズを迎えることになった。
「バトルッ! DL・ROWで≪ヘル・ブランブル≫に攻撃」
「よくわかんねー効果だなそいつ。罠発動! ≪異種交配≫! このカードの効果は――」
「無駄、無駄、無駄……無駄ァッ! DL・ROWの効果でこのターンのバトル中はカードの効果を発動できない」
ブレイドLP4000→3800
「メインフェイズ2に入り、永続魔法≪時を刻む巨針≫を発動。エンドフェイズにタイムカウンターを1つ増やしターンエンド!」
黒遊璃 LP4000
モン≪タイムルーラー DL・ROW≫攻3000
永魔≪時を刻む巨針≫手札2
「ちっ! めんどくせェカードだなァ! 俺のターン、ドロー!」
DL・ROWの脅威を実感したブレイドであったが、彼には僅かな手札しか残されていない。
だがその少ないカードでも彼は黒遊璃に対抗しようとしていた。
「リバースカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「それだけか? さっきまでの勢いはどうしたというのだ?」
「うっせェな……」
ブレイド LP3800
伏せ≪???≫≪???≫ 手札1
ターンは再び黒遊璃に移る。
「私のターン、ドロー」
「そのドローにチェーンしてリバースカードオープン! 手札1枚をコストに≪サンダー・ブレイク≫を発動。DL・ROWを対象とし破壊する」
先ほどのターンで学んだことは1つ。バトルフェイズには自分はカードを使用できなくなる。ならば、今このときに破壊してしまえばいいはずだ。
しかしまたしてもブレイドの予想を超える効果があるなんて思わなかっただろう。
「貧弱、貧弱ゥ! DL・ROWのもう1つの効果、このモンスターがフィールドを離れるときにタイムカウンターを1つ取り除くことでそれを無効にできる」
ブレイド渾身の罠カードも不発に終わってしまい、残っているカードといえば伏せられている≪異種交配≫のみ。しかもこの状況では発動することなどできないカードなのでがら空きに近い状態ともいえるだろう。
「バトルフェイズ、やれッ! DL・ROW!」
「かはッ!……」
ブレイドLP3800→800
「メインフェイズ2に入りリバースカードを1枚セット、エンドフェイズ時に≪時を刻む巨針≫の効果でタイムカウンターを1つ増やし、これでターンエンドッ!」
黒遊璃 LP4000
モン≪タイムルーラー DL・ROW≫攻3000
永魔≪時を刻む巨針≫ 伏せ≪???≫ 手札2
ブレイドには手札は0枚しかない今、次のドローに全てがかかっている。
「俺のターン……ドロー!」
額から汗が流れているのがわかる。らしくないと自身でも思いながら、彼はカードを引いた。
「……」
だが、ドローしたカードは自身が願っていたカードなどではない。それでも壁としてなら使用することができる。
「……モンスターをセットしてターン――」
「無駄無駄無駄ァッ! そのタイミングで罠カード発動! ≪時空の誘導≫を発動。タイムカウンターを1つ取り除き、セットされている相手のモンスターを表側攻撃表示に変更する」
「ちッ! お前……」
無理やりに攻撃表示に変更させられた≪ボタニティ・ガール≫。ブレイドは何もすることができずにターンを終了し、
敗北を覚悟した。
ブレイド LP800
モン≪ボタニティ・ガール≫攻1300
伏せ≪???≫ 手札0
「私のターン、ドロー」
最早、ブレイドには黒遊璃を止めることなどできなかったのだ。
黒遊璃は笑う。ブレイドは静かにそれを聞き続け、全く別人へと豹変していく遊璃を見た美玲は悲しみに耐えていた。
「【THE・STOP!】」
DL・ROWの第1の効果が発動される。バトル中にカードの効果を使用することができなくなる効果だ。そして、
「終わりだ、DL・ROWで≪ボタニティ・ガール≫に攻撃!」
ブレイド LP800→0
***
もしもこの場に自身のデッキを取り戻していたとしてもブレイドは黒遊璃に勝てただろうか?
もしもこの場にジェムナイトを取り戻している暁桐谷がいたとしても黒遊璃に勝てただろうか?
その答えはやってみなければわからないけれど、それでも黒遊璃が勝っていたかもしれない。
この世界には現在いくつかのチームが存在しており、その中に七武海という精鋭揃いの集団があるのだが、その7人にでも黒遊璃に勝てるだろうか?
今や彼女は1人で1万の決闘者に匹敵する強さを持っているといってもいいのかもしれない。
そんな彼女を倒すのは、黒雲から救うことができるのか?
デュエルの最後に発生したバトルのダメージが大きかったのだろうか、ブレイドはその場で意識を失ってしまった。彼の近くには心配して美玲が近寄る。
デッキとエントリーカードをブレイドから取った黒遊璃はその後、その部屋から姿を消していた。おそらく彼女はこの城から離れるつもりだろう。
彼女は一体どこへ向かったのか、美玲にはわからなかった。
{g-4、城の外、4:00}
【新谷遊璃@遊戯王symphonic】
[時間軸]本編、大会前夜
[状態]黒雲に乗っ取られ、完全に黒遊璃に
[デッキ]タイムルーラー(ソウル@DA)、サイレント(与優希@遊戯王ASS)、植物族(新谷遊璃@遊戯王symphonic)
[思考・状況]
1・これでよし! 次はソウルを探すとしよう
2・なんならデュエルを続けて配下を作るか
[備考]
・ブレイドに勝利しました
・黒雲に完全に乗っ取られています
・黒雲は自身を(=タイムルーラー)自由に作り変えることができます
・現在エントリーカードを2枚所持しています。時間が経てば、サイレントのデッキは暁桐谷に返されます
{g-4、城内の2階、4:00}
【御堂美玲@遊戯王soul link】
[時間軸]本編30話
[状態]意気消沈
[デッキ]なし
[思考・状況]
1・どうしたの、遊璃ちゃん?
2・この人(ブレイド)が心配
3・こんなときに暁さんはどこへ?
[備考]
現在、気絶しているブレイドを心配して傍にいます
{g-4、城内の2階、4:00}
【ブレイド=ハーヴェスト@遊戯王GS】
[時間軸]幽真戦の後
[状態]デュエルのダメージが原因で気絶。少し時間がかかりそう
[デッキ]なし
[思考・状況]
1・意識がないために特になし
[備考]
デッキとエントリーカードを失いました
最終更新:2012年06月01日 17:22