声を張り上げキャラ崩壊などおかまいなしに、とにかく叫びながら木下 遊吉郎は走り続けた。
それはなぜかって? ――答えは簡単だ。
現在彼が所持しているデッキというのは運営側の軽い悪ふざけで作られた【仮面ライダー】と呼ばれるもの。例えるならスターターデッキ1箱よりも弱い…………そういうレベルのデッキなのだ。
だから今の彼は「誰かを守る」の正反対、「誰かに守られ」なければこの世界を生きていけない状況に陥っているのだった。
だから断言しよう。
木下 遊吉郎はこのままでは敗北する。
決闘で勝利することなど確率で言えば0%に等しいのだから、生き残るためには誰かに保護してもらうしかないのだ。
だが、そんな人物など現れるのだろうか? あんなルールなのに、彼を救ってくれる人物なんているのだろうか?
「はぁー、はぁー、…………ふぅ……………………」
全力疾走の末、遊吉郎は疲労困憊であった。先程から走り続けた結果、市街地へと到達していた彼はその場にあったベンチに腰掛ける。よほど疲れていたのだろうか、しばらくの間は意気が整わなかった。
「は、はぁ……全力で走ったのっていつ以来だろう…………とにかく疲れた」
すると急に彼を睡魔が襲った。次第に意識が遠のいていくのが自分でもわかった。
こんなところで寝ているわけにはいかないとわかっていてもだ。もし彼が寝てしまえば今後どうなるのか分かったもんじゃない。だから、寝るわけには……
「ミラ……今頃何してるかな?」
眠りそうになる寸前で自分の相棒の顔を浮かべ、そして遊吉郎は眠りに――
「わお! こーんなところに敵がいるよ。僕の予想では彼は蓮ちゃんと同じで主人公のような気がするんだけどな」
――つけなかった。
やや高めの声を聞いて再び遊吉郎の眠気はどこかへ吹っ飛んだ。そしてすぐにベンチから跳ね起きて辺りを見渡す。気が付けば彼の後方には見知らぬ男が1人、精霊を従えて立っていた。
≪そんなのオイラは知らないよ!≫
「またまた~そんなこといっちゃって! 君たちにも分ってるんじゃあないかい、彼がそういうポジションであることが」
一体何を言っているのか分からないといった表情で男を見つめる遊吉郎は男を観察する。もしかしたら、――いい人なのかもしれない。できれば自分を助けてほしい、保護してほしい、そういう思いに駆られて重たい足を動かした。
「おっとこれ以上は近づかないでね。じゃあないと僕は君に勝っちゃうかもしれないんだぜ?」
「……え!?」
が、すぐに足を止めることになる。男――不老 不死は不敵な笑みを浮かべてヘラヘラと笑い出した。そんな余裕なんて遊吉郎にはない。
だから、彼は理解した。この男は間違いなく敵だと。
「ち、ちわ~三河屋で~す」
「あっははははは♪ 全く面白い奴だなぁ君は。そんなことをしてたらバレちゃうよ? 君が満足に闘える状態じゃあないことがさ!」
まるで全てをお見通しだと言わんばかりの口調で遊吉郎を言葉で攻め立てる不死。勝ち目のない状況でこの場に留まるのは危険だと判断した遊吉郎はこの場からの逃走を――
「逃げようなんて考えはしないでよね。そろそろ僕も1人ぐらいは倒したいって思ってたんだからさ! おめでとう! 君はめでたく、僕のための生贄第一号となるわけだ! たとえ君が負けたとしても、僕は君のことを4秒ぐらいは忘れないから安心してよね☆」
「……これは詰みゲーですね、わかります」
逃げようとしても彼は追ってくるに違いない。疲労がたまっている自分と、未だ体力が有り余っている不死。走って逃げ切れるはずがなかった。
「もし相手の初手が事故れば……もしも奇跡が舞い降りたら……君は僕に勝てるかもしれないよ?」
「いや無理でしょ」
「ははは。君は開始から全く運がないみたいなんだね。…………」
だが、やるしかない。このデッキでも何かできるかもしれないのだから。
そう考えて遊吉郎は再びデッキの中身を確認しだす。なにかコンボらしいものができないか、見落としているカードがないか……などなど勝つ見込みがあるかもしれないものを探した。
その結果――
「(駄目だ、勝てない)」
結論に至ったわけだ。
「…………ふーん」
そんな遊吉郎を見ていた不死は何かを考えていた。いや、考えているというよりは何かを思い出しているように見えた。
それは本編ですら語られなかった自分の昔話であるのだが。不死は小さいころに兄が言っていたことをこの時に思い出していた。
『いいかい不死。僕は弱っちい女の子を守れるならそれで本望なのさ!』
『へぇー、気持ち悪いね不正兄さん』
たしか兄はあんなことを言っていた気がする。実際に兄は何回かそういった女性を助けたことがあった。また女性に限らず、男子も助けたことだってあった。全員、なにかしら弱い部分がある人間ばかりだった。
「全く僕としたことが…………兄さんの思いでだけはどうしても消えないみたいだな。あの人の言うことだけはしっかり聞かないとね!」
「一体どういうことですか?」
先ほどまでとは雰囲気が一変した不死を見て遊吉郎は疑問に思う。
「さっきはゴメンね! 僕はね……前々からめちゃくちゃ弱い人の味方だけはしようって決めてるんだ。それが女の子じゃないのが残念なんだけどね。……あ、この時点で僕の元ネタが分かった人は優秀だよ!」
「――ということは」
≪あ、この感じは遊真! ねぇねぇオイラたちのマスターがこの近くにいるみたいなんだよ~。だからオイラ達を遊真のところに連れてってよ≫
遊吉郎に希望の光が差し込んできた――そう思ったとき、不死の側にいた≪マッハ・シンクロン≫は声を上げた。
マッハの話によると、神薙 遊真というデュエリストはすぐそこまで来ているらしい。かなり決闘の腕前は高いために不死が要注意することに決めた決闘者なのだ。
≪だからオイラ達を――≫
「さぁていこうか。とりあえず西に行こうぜ!」
≪って、えええええ!? 遊真がそこにいるのに~!!!!!≫
「ふっ……僕は悪くない」
精霊達が嘆いているのもお構いなしに不死は自分ペースを保ち続けている。そして遊吉郎に優しくを手を差し伸べた。
遊吉郎がその手を取ったのは言うまでもない。
神薙 遊真が着いた時には、既に不死と遊吉郎がその場にいなかった。
{e-5→?(西の方へ)2:00}
【不老不死@championsip】
[参戦軸]SHADOW最終決戦の前日
[状態]健康
[デッキ]闇属性戦士族(元の使用者:神薙 遊真)
[思考・状況]
1・とりあえず兄との約束を守る
2・精霊の奪取
3・自分のデッキを探す
[備考]
大好きな双子の兄との約束を守るために、木下 遊吉郎を保護している
{e-5→?(西の方)2:00}
【木下 遊吉郎@遊戯王e-Squire】
[参戦軸]カグラ戦前
[状態]疲れ、眠気、そして僅かな安堵
[デッキ]仮面ライダー
[思考・状況]
1・今はこの人(不死)に保護してもらう
2・まともなデッキが欲しい
3・ミラを見つけて一緒に脱出
[備考]
現在は不死に守られている最中
{e-5}
【神薙 遊真@遊戯王GS】
[参戦軸]対幽真戦直後
[状態]健康
[デッキ]ガスタ
[思考・状況]
1・満足する
2・自身の精霊の捜索
3・できれば決闘をして勝つ
最終更新:2012年06月01日 09:52