「M事件」
多分みゆきさんの家で読んだのだと思う。好きな人を永遠に自分のものにする方法。それは一種のおまじないの様なもので、あの頃の私にはとても理解し難くて正気には思えない、理解を越えた内容だった。でも今は違う。私は今、恋をしている。けれどその恋は実らない。相手は私と同じ女の子だから。私は彼女を家に招いた。彼女を永遠のものにする為に。幸い彼女は私を慕ってくれている。断る理由もなく、彼女は家に来てくれた。他愛もない話をして、少し勉強をして、私が作ったお菓子を食べた。お菓子にはみゆきさんから譲ってもらった睡眠薬が入っていて…ゆたかの体は軽かった。軽くて小さくて愛しくて、辛抱たまらない。そんな心情でゆたかをお風呂場に運んでいった。浴槽にゆたかを置き、その首筋に鉈を押し当てる。なかなか前には進まず、えいっと力を込めると、刃は恐らく骨の位置で動きを止めた。ゆたかが起きていたのかはわからない。でも、押し当てた瞬間、頬を涙で濡らしていた。それからの記憶は曖昧であまり覚えていない。ひたすらゆたかを斬り刻んで、ゆたかの血溜りに身を置き、ゆたかを感じていた。ゆたかの骨肉が私の中に染み込んでいく。私とゆたかが同化していく。このうえない幸せ。小さな体を気にしていたゆたか、病弱な体を気にしていたゆたか、でももう気に病む事はない。ゆたかは私で、私がゆたかなのだから。ゆたかに包まれて、私は眠りにつく事にする。赤くて綺麗なゆたかに包まれて。ゆたか…いつまでも愛してる…ゆたか…ゆたか…
「少女H 」
いつも私にちょっかいを出してたアイツ。私をからい、笑い者にして、いつも騒いでいたアイツ。私は今、アイツと暮らしている。街を遠く離れた辺境、山村のあばら家に隠れ住んでいる。私はあの日、想いのたけをアイツにぶつけてしまった。私は本気だった。だからアイツにも本気の言葉を求めていた。はぐらかしを続けて出た言葉は「親友のままでいようよ」親友、それは今までと同じで、進展を望める可能性は、恐らく0。予測の範囲内、でも、納得はできなかった。だから、尚更アイツへの想いが暴発した。何が何でもアイツと一緒にいたい。私は遊びに行くという口実でここへアイツを連れ込んだ。アイツはいぶかし気に私に訪ねた。「ここに何があるの?」 何もない。行き当たりばったりでみつけた、只の廃屋、それがこの家の正体。アイツは帰宅を促したけど私にその気はまるでなかった。アイツと一緒にいる。それだけが私の望みだったから。アイツは変わらず帰りたいとだだをこねていた。アニメを観たい、ゲームをしたい、なんとも下らない。アイツの泣きそうな顔、なんて可愛いのだろう。もっと、もっとその顔を見せて、こなた。私の手には転がっていたビール瓶が握られていた。こなた、その顔を見せて…もっと…もっと…もっと!何度叩いたのだろう、突然瓶が二つに割れた。アイツの頭から赤い血が流れていく。怯えるこなた、可愛い。私は腕を振り上げて、それをこなたの頭上に叩き付けた。絶叫。喚きに喚いて、こなたは動かなくなった。あれから数週間、アイツの体は変異し、蝿共が無遠慮にたかり続けている。体を這う蛆を尽く踏み潰し、愛しいアイツを抱き締める。きっと他人が見たら、私を気違いだと思うだろう。それでも構わない。アイツが一緒にいてくれるなら。朝日が眩しい。アイツと目覚めのキスを交す。もう動かないこなた、体を腐らせたこなた、それでも愛しい、私だけのこなた。アイツの腐敗臭を胸一杯に吸い込み、今日も一日が始まる。今日は何をしよっか?こなた。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。
下から選んでください: