とある休日の出来事 ~完結編~



 夢を見た


 それは昔の思い出―――


「いたーーーっ! クワガタ!!」

「カブトと戦わせようぜ!」


 あの頃は毎日が楽しかったな

 山で遊んだり、川で遊んだり…………

 憧は疲れるのが嫌なのか、山や川にはたまにしか来なくなった

 でも、あいつは違った


「ホントにいるの? 金色のザリガニなんて」

「ああ、サトルがここらへんにいるって言ってた!」


 あいつは誘えば必ず着いて来た

 なんて言ったっけな…………あいつ


「こ、これは伝説の…………って、金色に塗られただけのフィギュアだよコレ!」

「くっそぉ~、サトルのやつ手の込んだマネを……」


 名前が思い出せない

 私はあいつをなんて呼んでた?


「こっちだ、穏乃~!」

「いま行く! ―――!」


 ………………そう、そうだ


「お待たせ、―――きょうたろっ!」


 京太郎だ……!


♪カガヤイテー ココイチバーン
  ジブンノ チョッカン ヲ シンジテー♪


穏乃「…………!!」 ピクッ

穏乃「………………」 ムクリ

穏乃「……………………ふぁ……ねむ……」


 懐かしい夢だったな

 須賀京太郎―――たぶん、私の初恋の人


憧「スー……スー……」


 憧がいる?

 あ、そっか……長野に旅行に来てたんだっけ

 昨日、あの頃の話なんかしたからあんな夢見ちゃったのかなぁ


 でも……懐かしいな

 小学生の頃とはいえ、あれだけ身近だった男子は後にも先にも京太郎だけだった

 あいつとは、何度一緒に遊んだんだろ

 私が誘うこともあれば、向こうから誘われることもあったっけ

 断った回数、断られた回数、ともに0回

 それがあの頃の私と京太郎の、目に見えない絆だった




 あ…………違う…………


 断った回数は…………いっぱいあるんだ…………

憧「ねぇ、しず。なんか今日、無理してない?」


 長野の観光中、憧が突然訊ねてきた


穏乃「えっ? な、なんで?」

憧「どことなく空元気っていうかさ……。なんか悩みでもあるの?」


 悩み……? そりゃ私にだって悩みの一つや二つはある

 全然背が伸びないとか、もっと麻雀うまくなりたいとか…………


憧「そうじゃなくってさ、昨日は元気だったじゃん。どうしたの急に」

穏乃「ん……」


 今日、しかも突然、降って湧いたような悩み

 思い当たる節は…………やっぱり今朝の夢のせい?

 あの夢を見たから? 京太郎を思い出したから?

 あのときのことを、実は後悔してる?

 まさかね、今更何を……


灼「たしかに、昨日までと比べて元気なくなった感じするかも……」

穏乃「そ、そうですかぁ? あはは、い、いやだなー、そんなつもりなかったんですけど」

玄「穏乃ちゃん、相談ならいつでも受けるからね! 一人で抱え込んじゃダメだよ!」

穏乃「えっ、えっ? 玄さん、ちょっと力入り過ぎ……」

晴絵「本当に大丈夫か?」

穏乃「えーっと……すみません、せっかくの旅行なのに」

憧「やっぱり和も誘えば良かったかな」

晴絵「ふーむ…………」


 赤土さんは何か考えるような様子で首をひねった

 心配かけてるなぁ……

 昨日、あのこと喋っちゃったのは和に会えたことでテンション上がってたからかな

 ……じゃあ自業自得じゃん! あぁ~もう、もやもやする!

晴絵「どっか体の調子悪いのか? 朝食の食べ過ぎとか」

穏乃「い、いえ! そういうわけじゃないです!」

灼「何かあった?」

穏乃「え、えっと……」

憧「和と別れて寂しいとか?」

玄「でも、インターハイで和ちゃんと会った時はそんなことなかったよね?」

宥「昨日はたくさんお話したから、それでさみしくなっちゃったんだね、きっと……」


 う……みんな全然違うことを気にかけてくれてる……

 そりゃいつでも友達に会えないっていうのは寂しいことだけど、遠くにいるってわかってるんだからそれぐらい割り切れてる

 いま気にしてるのはどこにいるかもわからない友達で……
 そいつとは、過去にちょっと忘れられない問題があって、もし会えたとしてもどういう顔で会えばいいのか……

 ―――って、やっぱり京太郎のことで悩んでるのか、私!

 うがーーーー!! どうしようもないよ、これ!

 忘れておけばよかったのに……京太郎のことなんて…………


晴絵「あー……うん、もうそろそろお昼食べない?」

憧「あ、さんせ~い!」

玄「もう、お腹がペコちゃんだよ~」

灼「クロ、朝あれだけ食べたのにもう……?」

玄「食欲の秋だから食欲が有り余っているのです!」 キリッ

宥「穏乃ちゃん、お昼食べれる?」


 話題を変えた赤土さんも、それに乗っかった憧も、心配してくれてる宥さんも……
 みんなに気を使わせちゃったなぁ……


穏乃「大丈夫です。お昼食べて……元気出します!」


 せっかくの旅行であんまり迷惑かけるわけにはいかないし、これで気分をリフレッシュしよう!

穏乃「うまいっ!!」


 このデミグラスソースが特に……う~~んっ!

 どうしてファミレスのハンバーグっておいしいんだろう?


憧「しかし、わざわざ長野まで来てファミレスとはね~」

晴絵「まぁ、その、なんだ。近くにあったんだからしょうがないだろ?」


 お腹ペコペコの玄さんの意見を酌んだ赤土さんは目の前にあった“ジュナサン”に入ることを提案した

 私も特に食べたいものなかったし、ハンバーグおいしいから別にいいんだけど


玄「おいしいねぇ、灼ちゃん!」

灼「ん……おいし……」


 当の玄さんはタラコスパゲティをちゅるちゅる食べている

 灼さんも同じタラコスパ 仲いいなぁ


玄「あー、おいしかった!」

灼「もう食べ終わったの?」

玄「うん。やっぱりスパゲッティはタラコだよね~」

灼「そうなんだ」

玄「………………」 ジー

灼「…………」

灼「…………クロ」

玄「なっ、なに?」 ピクッ

灼「私もうお腹いっぱいだから少し食べてくれない?」

玄「あっ…………」 パァ…

玄「おまかせあれ!」


 …………ま、まさか灼さんはこれを見越して同じものを注文したのかな……?

 いやまさかそんな…………ねぇ? ……って誰に聞いてるんだろう


穏乃「ごちそうさまでした!」

宥「穏乃ちゃん、口にソースついてるよ」 フキフキ

穏乃「あっ、ありがとうございます///」


 隣に座ってた宥さんがデミグラスソースを紙ナプキンで拭き取ってくれた

 むぅ……、これじゃまるっきり母親の横でハンバーグ食べてた子供だ


晴絵「元気でたかー? しず」

穏乃「ええ、そりゃもう! 長野の山も登れちゃいますよ!」

憧「今から!?」

灼「食後に激しい運動は…………」

穏乃「大丈夫です! 新陳代謝がうんぬんかんぬん!」

憧「あんた意味わかってないでしょ……(汗」

玄「でも元気出たみたいで良かったね~!」


 うん、いつまでもみんなに迷惑かけられないからね


穏乃「さーて、この付近の山は~」(携帯取り出し)

憧「――って、本当に行く気かい!!」

穏乃「あはは、ギャグだよギャグ~」


 元気出たし、本当は山で思いっきり体を動かしたい気分だけど、そんな協調性のないことはさすがにできない


晴絵「…………」 ニッ

穏乃「ん…………?」


 なんだろう? 一瞬赤土さんがにんまりしたような…………?


晴絵「なぁ、しず」

穏乃「はい?」



晴絵「山、行っていいぞ?」

5人「…………えっ!?」


 なんでも…………赤土さんが登山の“インストラクター的な人”を知ってるらしく、その人と一緒に山に行くことになった

 んーー……、一人じゃないにしろ、やっぱ旅行中の個人行動にかわりはないわけで…………
 いいのかなぁ、本当に…………

 っていうかインストラクター“的な人”ってなんだろう……

 ちなみにみんなは完全別行動中
 なんでも動物園に行くとかなんとか……ちょっと行きたかったかも

 しかし遅いなぁ……“的な人”……

 赤土さんの話じゃここで落ち合うことになってるんだけど…………


「や、やあーーー!」

穏乃「!?」

「あなたが高鴨さんですね!」


 突然現れた登山インストラクター“的な人”……らしき人物

 Tシャツにジャージの短パン、ものすっごい軽装でとても登山の専門家には見えない……

 っていうかこの人…………!!


穏乃「昨日、清澄であった麻雀部の男子じゃん!!!」

「そ、そのとーり!」


 ど、どういうことですか赤土さん~~っ!!

 登山インストラクターって嘘じゃないですか!! …………まぁ、確かに“的な人”って濁してたけど!!


穏乃「えーとさ、とりえあえず名前…………教えてくんない?」

「俺の名前は杉良太郎! 今日、高鴨さんを長野の山へ導く水先案内人でござーい!」




 …………………………ござーい、て


穏乃「たしか同い年だったよね、杉くん?」

杉「そうですね」

穏乃「じゃあもっとフランクに話していいよ」

杉「あマジでー?↑↑ それチョーラクっすわ」

穏乃「…………ごめん、丁寧語でいい」

杉「すまん、軽いジョーダンだ」


 ……………………


穏乃「…………プッ」

杉「…………?」

穏乃「はははっ! あーあ、ちょっと緊張して損しちゃった」

杉「緊張?」

穏乃「赤土さんからは登山のインストラクターだー、なんて聞いてたから、どんな人が来るんだろうとか思ったら……」

穏乃「ござーい(笑)」

杉「ちょっ……まてまて!///」

杉「俺だって言った瞬間、アレはなかったな、って思ったんだからな!!///」

穏乃「あははは! ホント、ないない! ござーい(笑) プククッ……!」

杉「……ったく。それじゃ高鴨さん、山に案内するよ」

穏乃「杉くんは日常的に山登ったりするの?」

杉「案内ぐらいならできるけど、日常的には登らないな」

穏乃「でも、同い年の男子なら体力は有り余ってるよね」

杉「フフン、麻雀部の雑用で鍛えたこの俺が、体力で劣るはずなし!」

穏乃「ふっ……言うね!」

杉「おう!」

穏乃「…………っていうか、雑用だったんだ、キミ……」

杉「…………おう」


 それから私たちは近くの山に登った

 あんまり高くない山だし、舗装もきちんとしてあったりしたけど、長野の自然の中を駆け回れたのは確かだ


 それにしてもこの杉良太郎、なかなか体力がある……!

 頂上までのレースであやうく負けそうになるとは思わなかった

 さすが高校生男子って感じ! 文化部とは思えない体力だ…………ってそれは私もか


穏乃「うーーーおーーーーーーっ!!」

杉「どーした急に」

穏乃「いやぁ、天辺まで登ったら町が一望……と思いきやあんまり見えない! って思ってさ」

杉「あっちに展望台があるぜ」

穏乃「…………! いくいく!!」


 山の展望台からは長野の町が見下ろせた

 高い山から見下ろすみたいなミニチュアの町じゃなくて、ちゃんとした町

 ちゃんとした……って変だけど、とにかく現実感あふれる光景っていうか…………ああ、こういう表現私には向いてないや


杉「はぁーよっこらしょ」

穏乃「うはー、おっさんくさい」

杉「うっせ」

穏乃「疲れたの? 杉くん」

杉「むしろお前は疲れてないのか?」

穏乃「…………実はわりと疲れてる!」

杉「じゃあ座って休みな」


 杉くんはそう言って、自分の座ったベンチをポンポンと叩いた


穏乃「ふぅー」

杉「なんで疲れてないように振舞ってたんだ?」

穏乃「えへへ、杉くんってばあんまり疲れた素振り見せないから見栄張っちゃってさ……」

杉「見栄っ張りだな、高鴨さんは」

穏乃「体力には自信あるからね。特に男子には負けないぞっ!」

杉「はは、そっか」



 それから私たちは他愛の無い話で盛り上がった

 和のことを聞こうとも思ったけど、なんだか杉くんに失礼な気がしたからやめておいた

 今私が遊んでるのは杉くんだもんね


 でも……なんか不思議だった

 昨日初めて会って、ちゃんと会話したのは今日が初めてのはずなのに、どうしてこんなに会話が弾むんだろう

 私もコミュニケーション能力は人並み以上にあると自負してるけど、たった数時間でここまで仲良くお喋りできたのは初めてだった


 こんなに仲良くなった男子は…………小学生以来……

 ―――――あっ


穏乃「………………」

杉「…………? 高鴨さん?」

穏乃「……な、なんでもないっ」

杉「なんでもある、って顔してるけど……」

杉「急にそんな顔されたら、誰だって心配すると思うぞ」

穏乃「ごめん……ごめんね、杉くん」


 せっかく……振り切ったのに…………またモヤモヤしてきちゃった……

 今は……杉くんと遊んでるのに…………また迷惑かけちゃう……


穏乃「なんでもないから、本当に……」

杉「あのさ……、会って間もない俺が言っていい台詞かわかんないけど……」

杉「悩みがあるなら…………話してくれてもいいんだぜ」

穏乃「………………」


 …………話せるわけないじゃん

 昔、好きだった男の話なんて、してどうするの……?

 杉くんの機嫌損ねちゃうだけじゃん、そんなの…………

 せっかく仲良くなったんだから、最後まで仲良しでいたいよ…………

 あの時の……過ちはもう絶対繰り返さない…………


穏乃「あの……ね」


 ――――なのに


穏乃「私が小学生の頃――――」


 ―――どうして私は喋ってるんだろう…………

 悩みを打ち明けてるんだろう…………

 杉くんに心を許してた……? 悩みを打ち明けていいほどに……?

 憧にも玄さんにも宥さんにも灼さんにも、赤土さんにも言わなかった悩みを……?

 わからない……自分がわからない……

 でも……悪い気は全然しなかった…………


杉「………………」


 私が洗いざらい、包み隠すことなく、赤裸々な過去の出来事を告白していく間、

 杉くんは私を見守るような、包み込むような憂いの表情で聞き入ってくれていた…………


 話が終わって、ふと杉くんの顔を見ると、私を見ているようでどこか遠くを見つめている、そんな様子だった


穏乃「…………杉くん?」

杉「あ、いや、すまん。続けてくれ」

穏乃「…………話、終わったよ?」

杉「!!」

杉「…………すまん、ちょっと今の話に……思うところ……あってさ…………」

穏乃「…………?」

杉「今度は、俺の話を聞いてもらえないか」 ガタッ

穏乃「へ……?」


 ベンチから立ち上がって私の対面に立つ杉くん

 唐突になんだろう? 普通、悩みを聞き終わったらそれに関するアドバイスとか、そういうのがあるもんじゃないのかな

 なのに自分の話……?


杉「俺が今からする話は…………今の高鴨さんの―――」

「いや、“穏乃”の……! 話に関係があることなんだ…………!!」

穏乃「…………!?」


 関係のある話…………!?

 っていうかいま、穏乃って呼び捨て……


「俺は昔、奈良に住んでいた」

穏乃「え……」

「小学校の頃だ。その頃、頻繁に山へ遊びに行く友達がいた……」

「そいつは年がら年中ジャージで、ポニテで、“子供は風の子”を体現したような元気なやつで……」

「俺の…………好きな女の子だった…………!!」

穏乃「…………!!」


「そいつの名前は…………」

穏乃「ぁ…………」

「俺が好きだった女の子の名前は…………」



「―――――高鴨 穏乃……」



穏乃「ぁ……あぁ……」


 まともな声が……出せない…………


「俺は、杉良太郎じゃないんだ……」

「俺は…………須賀京太郎なんだ……」


 決定的な一言……

 杉良太郎は、須賀京太郎だった……

 私が……会いたいと思っていた…………京太郎だった…………!


京太郎「穏乃……、今なら…………俺の謝罪をちゃんと聞いてくれるか……」

穏乃「ぅ……ん……。ぅ゙ん゙……っ!!」


京太郎「穏乃、あの時……寝てるお前に…………勝手にキスしてごめん……」

穏乃「………………」

京太郎「お前の……ファーストキスを奪って…………ごめん…………!」

穏乃「…………」


 思えば、私は京太郎に対してだけ意地っ張りだった、見栄っ張りだった

 だからあんなことされて、怒って、引くに引けなくなった……

 一人で遊ぶ山は寂しくて…………時々来てくれてた憧も、私には物足りなくて…………

 それでも私は、京太郎が引っ越して、完全に“失くす”まで、その大切さに気付かなかった


 私はふらっと立ち上がって京太郎の手を握った


京太郎「!」

穏乃「私こそ……ごめん」

穏乃「意地っ張りで……ごめん…………」

京太郎「穏乃…………」


 顔を上げて、見上げて、京太郎の顔を見る……

 視界が滲んで見え難いけど、確かに……面影はある わかる 京太郎の顔だ……

 大きくなっちゃってさ…………昔は私と変わんなかったのに……


穏乃「大きいくせして、……私に負けてんだね……えへへ……」 グスッ

京太郎「……お前、足速いからな」

京太郎「とりあえず…………顔拭けよ」

穏乃「あ…………」


 ハンカチだった

 そっか……やっぱりこれ……涙だったんだ

 私、どんな顔してたんだろ…………あぁ、恥ずかしいな……


穏乃「すわろ」

京太郎「ん……」

穏乃「座って……もう一度、お喋りしようよ」

京太郎「…………許してくれるのか?」

穏乃「許すも何も…………」

京太郎「だって俺はッ……! お前のファーストキスを―――」

穏乃「奪ってない」

京太郎「――うば……っ……えっ?」

穏乃「ほっぺだったよ。ほっぺチュー」

京太郎「…………うそ」

穏乃「嘘じゃないよ。京太郎の……憶え間違い……」

京太郎「え…………俺の……憶え間違い……?」

京太郎「……な……なんだ…………なんだよ……あ、あははは……」

穏乃「なんだじゃないよ……ほっぺでも……大事なんだから……!」

京太郎「…………ごめん」

穏乃「…………京太郎こそ、私のこと許してくれる?」

京太郎「…………当たり前だろ。悪いのは……俺だ」


 きっかけは京太郎 だけど私だって悪かった

 でもきっと、それを言い出したら京太郎は譲らない

 だから言わなかった 何も言わなくても、言わなくていいってわかったから


穏乃「全部……話しちゃったね……」

京太郎「…………悩み事のことか?」

穏乃「う、うん…………京太郎が……好きだったかもとか……言っちゃってた…………///」

京太郎「お、俺だってお前のこと好きだったとか、堂々と言って…………///」

穏乃「…………///」

京太郎「…………///」

穏乃「……というか! どうして、杉良太郎だなんて名乗ってたのさ!」

京太郎「そ、そりゃお前……! 今でも怒ってるかもってずっと思ってたし……どんな顔して会えばいいかわからないだろ!」

穏乃「だからって、杉良太郎って…………どこの歌手だよ!」

京太郎「に、似てるじゃん? 須賀京太郎と」

穏乃「偽名を似せてどうするのさ……」

京太郎「…………本音を言えばさ、もう一度、穏乃と遊びたかったんだ……」

穏乃「……!」

京太郎「須賀京太郎としてあったら、何言われるかわからない。こっちとしては完全に嫌われたと思ってたしな……」

穏乃「うん……」

京太郎「赤土さんの協力でこうした機会を作ってもらったけど、まさか本当に遊べるとは思ってなかったよ」

穏乃「京太郎」

京太郎「なんだ?」

穏乃「また……遊ぼう?」

京太郎「…………もちろん」


 その一言を聞いた瞬間、自分の顔が笑顔になったのがわかった

 やっぱり好きだ……京太郎のこと…………

 それが友達としての“好き”なのか、異性としての“好き”なのか、それはまだよくわからない

 でも……好きだって気持ちは、間違いないものだった……



 京太郎はどうなの……? まだ…………私を好きでいてくれてる……?






 帰りの時間がやってきた

 赤土さんの車とここの通りで待ち合わせる予定だ


穏乃「今日は楽しかった……本当に」

京太郎「そりゃよかった」

穏乃「京太郎、メールアドレス教えて……?」

京太郎「ああ」


 山頂ではなかなか言い出せなかった言葉も、別れが近づくと自然と口から出てきた


穏乃「これでいつでも京太郎と話せるね」

京太郎「……素直に嬉しい。昔の友達と再会できるなんてさ」

穏乃「ふふふ……私たちも和と会うために頑張ってたからね」

京太郎「そういやそうだったな。ホント……世間って狭いわ」

穏乃「不思議な縁で繋がってるんだね……」

京太郎「………………」

穏乃「………………」

穏乃「これで……私の大事なものが全部戻ってきたんだ」

京太郎「大事なもの……?」

穏乃「一度別れて、また集まった」

穏乃「赤土先生、和……そして京太郎」

穏乃「私の大切な……先生と、友達……」

京太郎「穏乃…………」


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…………


京太郎「あ、あれ……赤土さんの車じゃないか?」

穏乃「ホントだ」

穏乃「じゃあこれで……お別れだね……」

京太郎「また会える。今度は俺が奈良に遊びに行こうか」

穏乃「みんなと来てよ。清澄のみんなと!」

京太郎「そうだな……そっちの方が楽しいか」

穏乃「うん!」


 京太郎一人だけ誘ったりなんかしたら、恥ずかしいからね……


プップー

晴絵「お二人さん、仲良くやってたみたいだね」

穏乃「赤土さん! もう、びっくりしましたよ!!」

晴絵「あっはっはっは! でも、良い方向に転んだみたいでよかったよ」

京太郎「赤土さん、本当にありがとうございました」 ペコリ

晴絵「いいのいいの! 詳細は後からたっぷりしずに聞くから!」

穏乃「え、ええ~~っ!?」

憧「しず~、あんた結局どんな人と……って、昨日の男子!?」

京太郎「あ、新子……!」

憧「ちょっと、どういうこと? 本気で状況わかんないんだけど……」

晴絵「後でしずから聞けばいい」

穏乃「い、言いませんから!///」



灼「しず、遅くなるから早く乗って」

穏乃「すみません、少し待ってくれませんか……?」

京太郎「…………?」

玄「どうしたのしずちゃん」

宥「…………穏乃ちゃん?」

穏乃「京太郎、ちょっとあげたいものがあるんだけど……この手を見てくれないかな」

京太郎「…………あげたいものって……なんだ?」

穏乃「いいからっ」


 京太郎に見せるように握りこぶしを前に差し出すと、案の定京太郎は腰を屈めて私の手に注目してくれた

 そうした瞬間、両手を京太郎の首の後ろに絡めて――――


 チュッ


京太郎「――――――!!?」

玄「!?」

宥「!?」

灼「ブ――ッ」

憧「 ( ゚д゚ ) 」

晴絵「わお……」


穏乃「本物の、私の“ファーストキス”……京太郎にあげたから!///」

京太郎「」 パクパク

穏乃「ふふ……/// じゃあね!」

穏乃「赤土さん、出して!」

晴絵「オーケー! それじゃ須賀くん、元気でね!」

京太郎「……は、はひ……///」


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…………


穏乃「メールするからーーー!!」

灼「しず……結構大胆だね……///」

穏乃「そ、そうですか……?///」

晴絵「あーあ、私も早くお相手さん見つけたいもんだ」

玄「しずちゃんが……しずちゃんが……男の子にキス……」 アウアウ…

宥「玄ちゃん、しっかりして~!」

憧「なんなの!? あいつと何があったのよ、しず!!」

穏乃「え、えっと話せば長くなるような……」

憧「気になる! 帰る途中はずっとこの話題でいこう!」

穏乃「ダメだよ、そんなの!」

晴絵「おーっと、私には聞く権利があるぞー?」

穏乃「え、えぇ~~!?」




 こうして一泊二日の長野旅行は大成功に終わった

 他のみんなはどうか知らないけど、私にとっては最高の2日間だった

 今の私が、子供の頃の楽しい思い出を浮かべるように
 大人になったら今日の出来事を思い出すことがあるのかな……?


 この、とある休日の出来事を……



おわり