夜「次の方、どうぞー」
はやり「……」
理沙「……」
咲「失礼します」ガラッ
健夜「ええと……宮永咲さん16歳、高校生」
咲「はい」
健夜「ではあなたの『やれたかもの夜』をどうぞ」
はやり「……」
咲「あれはインターハイの夜の話です。 当時私たちは県予選を突破し、東京に来ていたんです」
理沙「……」
咲「東京の昼間は暑くて、夜にコインランドリーで洗濯しようという話になりまして、私が行くことになったんですが、同行していた男子が付いて来てくれることになりまして」
はやり「……」ピクッ
理沙「……」チラッ
はやり「……失礼」
咲「その男子とは幼馴染だったり中学からの付き合いだったりするんですけど……なので私がよく迷子になることも知ってて、1人じゃ心配って言って付いてきてくれたんです」
健夜「……」
咲「ランドリーの前で2人で並んで座って……最初は、全国に来た目的の姉のことばかり考えたんですが……次第に、『あれ? なんか良い雰囲気じゃないこれ?』ってなって」
はやり「……」
咲「意識し始めると今までのことも走馬灯みたいに出てきて……一緒に買い物行ったり、家に呼んだり呼ばれたり……ともかく、それまでなんとも思わなかったことが急に全部そういうアピールみたいな感じがしてきたんです」
理沙「は?」
咲「え?」
理沙「……」
健夜「続けてください」
咲「は、はい。 それで、会話が一旦切れた時に彼がポツリと『そういや咲と2人っきりなんて久しぶりだなぁ』なんて言って、びっくりして振り向いたらきょ、その男子がちょっと赤くなりながらはにかんだりなんかしてて」
健夜「……」
咲「たしかに、中学まではよく2人で遊んでたんですが部活に入ってからはそういう機会もなくて……これってチャンスなのでは?とか思って……あ、その男子けっこう人気で滅多に1人で居ないんですよ」
咲「その、振り返ったタイミングで手がぶつかっちゃって……で、なんとなく離すのもイヤでそのままにしてたら向こうから手をぎゅって握ってきて」
はやり「……」
咲「驚いてかたまってたら、『試合頑張れよ』って言われて、でも私はそれどころじゃなくて」
健夜「……」
咲「洗濯って言って出てきたからまだ戻らなくても大丈夫かな?とか明日はそういえばうちのブロック試合なかったなとか下着はたまたま可愛いやつだったなとかグラップラーは卒業すると強くなるけど雀士はどうなんだろうとか」
健夜「……」
咲「私があわあわしてたのが、困ってるってとられちゃったのか彼が手を離して、『そろそろ終わったかな』って立ち上がろうとしたので思わずこっちから手を握っちゃったんです」
咲「向こうもかなり驚いてたみたいですけど、笑顔で『どうした、咲?』って言われて。でも、とっさに手は出したけどその後ノープランだった私は気が利いたことも言えなくて結局、「下着もあるから」って洗濯物取り出しにいっちゃったんですよ」
理沙「……」
咲「で、帰り道です。 いつも通り2人で並んで、手を繋いで……お友達繋ぎですけど。 で、泊まってたホテルに着く前に見えてきたんですよ。ラブホが」
咲「なんか凄く視界が冴え渡ってて、ちゃんと自動受付だなとか周りに人影ないなとか思ってたらかなり凝視しちゃってたみたいで、『咲、いやらしいこと考えてるな?』って声掛けられて頭小突かれちゃって」
理沙「……」
咲「もう顔中熱くて大慌てで『そんなことない!』って言っても向こうはにやにやしたままで『咲にはまだ早いなー』とか余裕たっぷりで、それがまたなんか悔しくて」
はやり「……」
咲「結局勇気が出ずに、『京ちゃんはそういう経験あるの?』とか『早くなんてないよ?』なんて言えず仕舞いで宿泊先のホテルに着いちゃいました」
咲「その夜も、今でもたまにあの時勇気が出たらを考えてその……えっと、まあなんというか衝動を鎮めるようなことしてるんですが」
咲「あそこで勇気を出したら私の想像が現実になったのでしょうか……以上で終わりです」
健夜「……『やれた』」スッ
理沙「……『やれた』」スッ
はやり「……『やれたとは言えない』」スッ
健夜「2票によりやれた夜認定です。おめでとうございます」
理沙「……」
健夜「やれたかも、という学生時代の甘酸っぱさはあなただけが持つ宝物です。その味を忘れずに大事にしてください。よいやれたかもでした」
咲「……やれたかぁ」ボソッ
はやり「いや、早計でしょう。男だったらその気ならもっとグイグイくると思いますし、聞いている限り気安い関係なようなので本当に言葉通りのことを言っていたのかもしれませんよ」
健夜「経験が?」
はやり「無いですけど」
理沙「喪女!」
カン
最終更新:2018年05月02日 20:53