咲「京ちゃん、どうして? どうして……」

高校1年生になった春、私はふらふらと道を見失いながらも長い帰り道を歩いていた。

咲「私に何も言わないで消えちゃうの? 私の何がだめだったの?」

中学時代、地味で浮いていた私を無理やり輪に連れ込んだ彼はもう長野にはいない。
手を繋いで道を示してくれた彼は、隣で馬鹿話をしてくれた彼は、傍にいなくなった。

喧嘩をしたわけでもなく、理由も分からない。
なぜ自分ばかり大切なものを失っていくのか、涙が止まらない。

咲「京ちゃん、京ちゃん、京ちゃぁん……」

彼を呼ぶたびに地面に雫が落ちる。家の中に入っても電気もつけず、古い過去を思って麻雀卓にすがる。
あの日々は楽しくなかった。勝っても負けても怒られる嫌な時間だった。
でもそれでも、家族が一緒にいたというだけでましな方だったのだ。

人との繋がりを失い弱った指先に、紙の感触が触れる。
私もお父さんも普段は読んだりしない麻雀雑誌。なのになぜこんなところにあるのか疑問のままにページをめくる。

そしてそこにあったのは作り笑顔の姉と、その端っこの方に写る見覚えのある金髪。
ピントがぼやけて顔までは判別できない。でも、それが彼だと確信が持てた。
私ではなく、お姉ちゃんの傍にいるのだと感じると、心の中からドロドロとしたマグマが流れ出す。

咲「あはは、そっか、そうなんだ。勝ちも負けもしないなんて生温いことしてたのがいけなかったんだ。
  怒られても潰せばよかった。私より上がいないって示し続けるべきだったんだ」

ぱらぱらと、私を構成していた殻が落ちる。脱皮するように新しい私が生まれ直す。

咲「奪う、奪ってやる、私の欲しい全て。そしてもう、絶対に誰にも渡さない」

すべきことを決めた私にはもう迷いはない。仲間なんてそんなお友達ごっこなんて必要ない。
ただただ、勝って取り戻す。私だけの力で全てを負かして手に入れる。だから

咲「それまで少し待っててね、京ちゃん、そしてお姉ちゃん。二度と『離さない』から」

全国に住む全ての雀士に唐突に走った寒気が、実体をもって姿を現すのはもう数ヶ月後のお話。


カン

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最終更新:2018年05月02日 20:44