決勝の大将戦、私は思う通りに相手を叩き潰せないでいた。
準決勝で負けたヴィラーゼさん、白糸台の大将、そして高鴨さん。
皆手ごわく、特に高鴨さんの支配力は局が進むごとに強くなっていく。

こんなのじゃ駄目だ、ちゃんと全員を叩き潰さないとお姉ちゃんと仲直りなんかできない。
残る後半戦、私の持てる全力で――

京太郎「さ~き」(ペタ
咲「ひゃう!?」

首筋に急に当てられた冷たい感触に、私は思わず悲鳴を上げて思考が引き戻される。

咲「何するの京ちゃん、私達は今大変なところで、そんな悪戯してる場合じゃないんだよ」

緊張感が薄れてしまったことに文句を言うと、彼は小さくため息をついて

京太郎「まあ確かにな、俺は初心者だ。ぶっちゃけお前らのうち誰が強いとか異次元すぎて分からん」

咲「分かってるんならさっさと帰ってよ」

京太郎「い~や、帰らんね。俺は麻雀初心者だが、お前に関してはベテランだとと自負してる」

咲「は?」

もう何言ってるんだろう、この人は。邪魔ばかりしてないで集中させてよ。

京太郎「あのな咲、お前ずっと眉間にしわ寄せてなにしてんだよ? 長野の県大会はそんなんじゃなかっただろ」

咲「だって、だってこの勝負はとても大事なもので」

だからあの時とは違うんだと言い訳しても。

京太郎「辛いんならそんなのやめちまえ。『麻雀は楽しい』んだろ? お前が言った言葉だぞ」

咲「なんでそんなこと、言うの」

私は、私は勝たなきゃいけないのに、どうしてそんな余計なことを。

京太郎「しょうがないだろ。俺が心配してるのは清澄の大将じゃなくて、幼馴染の宮永咲なんだから。
    あの時『すっげえ』と見惚れちまった。麻雀そのものより、お前の花のような笑顔にな。
    だから、楽しめ。麻雀は試合だけどゲームだぜ。楽しんだもん勝ちだろ」

ああもう、どうして京ちゃんは私の予想外ばかり行くのか。いつだって引っ掻き回して、いろんなところに私を連れて行くんだ。

京太郎「んじゃ休憩時間終わっから戻るわ。最高の笑顔、楽しみにしてるぞ」

咲「もう、本当に馬鹿なんだから」

体から力が抜けて、なぜか今なら自由に空すら飛べそうで、私は久しぶりに楽しさと期待を胸に宿して後半戦を迎える。

―――
久「全く、私の代わりに差し入れとアドバイスに行くとか言った時は正気を疑ったけど結果オーライってことにしてあげるわ」
京太郎「あはは、ダメだったら遠慮なく戦犯扱いしてくだいさい」
久「大丈夫よ、きっとねだってほら、あんなに生き生きしてる」
―――
その日彼女が持ち帰ったのは、優勝トロフィーと花咲く笑顔


カン