クリスマスも終わるわねぇ、と何だか感慨深げに彼女は呟いた。
「はしゃいでましたねぇ」
「そりゃあそうよ。二年前はボッチ。去年は二人ボッチ。こんな人数でクリスマス出来るなんてはじめてよはじめて」
「まあ、それにしても、って感じでしたね------」
「なによぅ。キャラに合わないとでも言うつもり?」
「いや、別にそこまで言うつもりはないですが-----」
「ま、いいじゃない。私は今年で最後だしね-----」
12月25日。クリスマス。
冬休みの最中、清澄高校麻雀部は昼に集まりささやかなパーティーを開いた。
ケーキを囲ってクラッカー鳴らしてプレゼント交換会。別段、きどった内容でもあるまい。
とはいえそれでも諸々準備はしないといけない訳で。そこそこの労力が必要となるのだ。
そして―――その企画をたてた挙句運営をまこと京太郎に全て投げつけた竹井久は、明らかに一番はしゃぎ倒していた。
おい企画者と思うのも無理からぬ話だろう。
「クラッカー鳴らすのが楽しいって十五本も消費した人初めて見ました」
「楽しいものは楽しいから仕方ないの」
「ケーキもわざわざ予約して」
「おいしいケーキ食べたいじゃない」
ケラケラと笑う彼女には悪びれる様子は一切存在しない。
意外に子供っぽいのだなぁ、と思う。
「まあ、でも、片付けはしっかり手伝ってくれましたね。ありがとうございます」
「今となっては引退して部外者だしね。流石にそこまでひどい女じゃないわよぅ。私だって」
まこはお店。一年生組もそれぞれ事情があって片付けの途中で帰宅した。
明日また片付ければいいと現部長も言った訳であるが、別段用事もない京太郎は別段用事が無い現実から逃避する為最後まで片づけを敢行した。
そしてそれは、隣を歩く彼女とて同じらしい。
暇人同志、タラタラと片付け続け、時刻は夕刻。
そのまま解散かと思われたが何故だか彼女に誘われるまま街中を歩いている。
「----で、暇なんですか?」
「----で、彼女いないのかしら?」
「-----」
「-----」
「止めましょうか。こう、お互いの傷を抉り出すようなことは」
「そうね。それなら舐め合った方がマシってものよ」
クリスマス。それはまさしく孤独を浮き彫りにする罪深いイベントである。
日本独自の進化を果たしたこの日に、ジーザス様は何を思うのだろう。
きっと何も思うまい。この日に陰気臭い顔で教会でお祈りされているか馬鹿騒ぎしているか。
そんな事の違いで一々目くじらを立てたりはするまい。
だからこそ----こんな日に味わわされる必要のない苦味を喰らわされている人間に救いの手を差し伸べるべきなのではないだろうか?
「―――須賀君」
「はい?」
「はい、プレゼント」
唐突に。
彼女は手提げカバンから―――包み紙を取り出した。
「久サンタからの贈り物です」
ガサリと押し付けられた包み紙。その感触的に―――衣類だろうか?
毛糸の感触が、紙越しに伝わってくる。
「-----ありがとう。この一年。それだけ」
「-----俺、お返しもってないですよ」
「だったら、―――来年、返してもらおうかしら」
彼女は―――似合わない、ぶっきらぼうな声で、そう言った。
「―――来年も、よろしくね?」
ちょっとだけ縋る様な彼女の目が、―――何だか、もの凄く、印象に残った。
人の孤独だけじゃなくて、意外性までも浮き彫りにするのがクリスマスなのかな。そんな風にも思えてしまった。
最終更新:2018年05月02日 16:45