(全国大会中に長野勢で集まって遊ぶ時間があったと思いねえ)


人間、誰にでも休息が必要である。
故に、「だからたまには息抜きをしよう!」と言いだした清澄高校麻雀部部長の言い分はもっともで、細かいことを気にしがちな和でさえ、その提案には反対しなかったのだが……。
優希「うっしゃー、ツモだじぇ!!」
純「だー、そこ引いてくるか。流れ来てんな~」
和「流れ? そんなオカルトありません」
池田「いいから続きやるし!」




京太郎「なんでその流れで麻雀になるんですかね」
ハギヨシ「まあまあ。みなさん、本当に麻雀がお好きということで」
京太郎のボヤキに、透華から「ハギヨシ、アナタも自由時間を過ごしなさい!」と言い渡されながらも、執事の習性でピシリと背筋を伸ばして壁際に待機していたハギヨシが話しかける。
執事という一種の別次元生命体である彼だが、ひょんな切っ掛けから知己を得た京太郎に対してはそれなりにフランクであった。
ハギヨシの完璧執事ぶりを知る者からすれば驚愕に値することなのだが、話しかけられた相手――――京太郎はそんなことを知らないまま、年上に対する敬意と執事の完璧ぶりへの畏怖、それなりの親しみをもって言葉を返す。
京太郎「ちょっとでも牌に触らずにいたら不安になる……なんて気持ちとは縁遠そうな面子ですからね」
ハギヨシの言う通り、根っからの麻雀好きなのだろう。
集まった面々――――県大会決勝で鎬を削った女子たちが楽しそうに、そしてそれ以上に熱く打つ様子は感心するしかない。
ハギヨシ「須賀君も参加されないのですか?」
京太郎「あー……俺はちょっと、さすがに」
みんなの分の飲み物や軽食をハギヨシと共に用意した後、壁際に椅子を置いてハギヨシ推薦のレシピ本をパラパラとめくりながら、京太郎は苦笑いを浮かべた。
京太郎「あの面子に交じるのは、ね?」
ハギヨシ「ふむ……」

衣「サイコロまわれ~!」
咲「よろしくお願いします」
美穂子「こちらこそよろしくお願いいたします。調整のつもりで全力で打ってくださいね!」
咲「ハ、ハイ! ゴッ倒せるようガンバリます!!」
衣「片腹大激痛!」
智美「ワハハ、こんな面子に囲まれても泣かないぞ」
さもありなん。
引きつった笑みを浮かべて山に手を伸ばす智美から、ハギヨシと京太郎は揃って目を逸らした。
ハギヨシ「それはさておき、せっかくの機会です。須賀君も皆様と交流はされた方がいいと思いますよ」
京太郎「確かにそうなんですけどね。合宿じゃ俺、留守番でしたし」
尻込みしている京太郎をそれとなく促す。
彼自身の為というのはもちろんだが、ただでさえ出会いの少ない麻雀部の少女達にとって、同年代男子との交流は良い刺激と経験になる。
未来のアラサーを生み出さぬ涙ぐましい執事の努力であった。
ハギヨシ「ふむ、では少々お待ちください」
京太郎「あれ、ハギヨシさん?」
善意の打算からハギヨシは場のセッティングのために動き出した。



一「それでボクたちが集められたんだ。役得だね、須賀君」
智紀「私は問題ない。金髪草食系イケメンなう……」
透華「オーッホッホッホ! この私と同卓できる幸福、しかと噛みしめてよろしくってよ!?」
ハギヨシ「まずは面識がある面子からと思い、集めてみました」
京太郎「えぇ……」
そして対局が始まり――

京太郎「づがーん!?」
一「えぇ……」
智紀「正直ナイワー」
透華「アナタ……弱いのね」
ハギヨシ「おやおや……」
東三局、華麗に25000点を失って卓に倒れ伏した京太郎がそこにいた。
同卓した三人の感想は「弱い」、その一言に尽きた。咲や衣といった強大なオカルト持ちではないとはいえ、この場にいるのは皆一級以上の打ち手。初心者に毛の生えた程度の京太郎ではこの結果もある意味、仕方がないのかもしれないが、それにしても彼は弱すぎた。
一「全員から順番に満貫、跳満喰らったね……」
智紀「配牌が悪いのもあるけど、ただただ拙い……」
透華「男子のレベルが下がっているというのは耳にしていますが、まさかここまでとは……。京太郎、アナタ清澄でどういった指導を受けていますの!?」
いくらなんでもこれはないだろうという跳び方をした京太郎に、三人の呆れたと言いたげな視線が向けられる。
京太郎「どんなと言われましても……」
清澄の麻雀部に入部してからの日々を指折り数えながら振り返る。
京太郎「タコス買いに行ったり、大会中の昼飯買い出しに行ったり、タコスのレシピを覚えて作ったり……」
一「パシリだ」
智紀「パシリ乙」
透華「おかしいですわね、清澄にマネージャーがいるとは聞いていないのですが」
京太郎「や、雑用は未経験者で一番下っ端の俺がやることだからで!」
一「それにしたって雑用ばっかりじゃん」
京太郎「うぐ……」
智紀「ちなみに他にやらされたことは?」
体育会系の部活に所属していた京太郎からすると押しつけられて当然なのだが、彼女たちからすると少々看過できぬ内容らしく、一転して気遣わしげな表情で尋ねてくる。
京太郎「他にと言われましても……その、合宿の時に宿までパソコン運んだり?」
一「」
智紀「」
透華「」
ハギヨシ「…………」
京太郎「あ、あれー?」
場の空気が固まったことにオロオロする京太郎に、遠くから様子を窺っていた久が慌てて駆け寄って抗議する。
久「ちょっと須賀君!」
京太郎「うわっ、部長! す、すみません!」
久「まったく、物には言い方ってものがあるんだからよく考えてよね。雑用しかさせてないなんて、私が酷い女に思われちゃうじゃない! ねえ? まこ達もなにか言ってちょうだい!」
プリプリしながら、清澄高校麻雀部部長鬼畜説が事実無根であることをアピールするために同意を求めた部員達からの反応はというと……
まこ「すまん、すまんなあ京太郎……」
咲「えっと……京ちゃん、いつもゴメンね」
和「大会が終わったら全力で指導します……だから、許してください須賀君……」
優希「とりあえず京太郎、タコス持ってきてくれー!」
久「あっるぇ~?」



一「須賀君、付き合いこそ短いけどボク達は味方だから」
智紀「『清澄麻雀部の男子が扱き使われてる件』……と」
透華「京太郎、辛いならちゃんと辛いと言わなければダメですのよ?」
ハギヨシ「友人としてできることは少ないですが、執事のアルバイト斡旋ぐらいなら可能ですよ」
京太郎「ア、アハハハ、なんでだろ優しさが痛い」


その後、大会が終わるまで妙に長野勢に優しくされる京太郎の姿が見られたとか見られなかったとか
カン

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最終更新:2018年05月02日 16:40