ある夏の日のこと、私、宮永咲と京ちゃんはいつものように並んで下校しています。
いつも私たちを照りつける太陽は今日姿はなく、代わりに暗雲が立ち込めています。

もう今にも降るだろうなあ、と。
そんな感じのお天気です。

さて困ったのが、こうして並んでいる私たち二人の、どちらもが傘を持っていないことです。
家へとまだまだ距離があり時間のかかる現状と、最早ぐずついてると言っていいような空を鑑みれば、あまり呑気にしていられない状況だったりしました。

コンビニで傘を買えばいい話ではあるのですが、そのコンビニさえも中々現在位置からは遠く、歩いていればそのうちたどり着けるのですが、気温も湿度も高まっているこの空気で、歩く速度を上げるというのも中々心情的には辛いのです。

隣を歩く、背の高い金髪の幼なじみならばいつでも元気いっぱいなので、なんなら一走りしてでも行けるのでしょうが……私に歩調を合わせて、ゆっくりと歩いてくれている心遣いが嬉しくて、これならこれでいいかなあ、と思ってしまっています。

ああ、ついにぽつりと。
そう感じたらもう遅く、空と地面とが鎖のような雨に繋がれていくのを感じます。
京ちゃんも感じ取ったようで、一言、あちゃー、と呟くと、

「仕方ない。ほら、咲」

と、上着のカッターシャツを脱いで、私の頭にふわり、と掛けてくれます。
ないよりはましだろ、ちょっと急げよ……と呟くように促した京ちゃんは、下に着ていたTシャツをパタパタとはためかせ、少しずつ急ぐ気配を見せています。

私はと言うと、きっと傘の代わりに、と渡してくれたカッターシャツを頭から羽織り……京ちゃんの汗の匂いとか、いつも使ってる制汗剤の匂いとかが入り交じった、きっと京ちゃんの匂いと言うものを感じて、顔を火照らせる自分につい笑みがこぼれます。

突然の雨と言うのはあまり好きではありませんが……こういう、胸が甘く痛む想いに浸れるなら。
傘なんてなくても、まあいいかな、と。

そう私は思うのでした。

カン

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最終更新:2018年04月28日 23:09