今日はその人の誕生日という事で、京太郎はいつもよりずっと気をいれていた。

なにせ普段から世話になっている人であり、頭の上がらない姉のような人であり、ずっと憧れでもある……そんな人の祝い日である。

柄にもなく花束など用意して、心ばかりながらいくらか上等な贈り物も懐に忍ばせ、彼はなけなしの勇気を振り絞り、その人の部屋へ向かった。


果たしてその人は部屋におり、いつもの変わらぬ穏やかな佇まいでこちらに相対してきた。

静かな、けれど確かに芯のとおった意思を感じさせる瞳が自分を見る度に、京太郎は照れ臭いやら嬉しいやらで、笑みが込み上げてくる。

それらを押し殺し、京太郎は後ろ手に隠していた花を差し出した。


「お誕生日おめでとうございます、霞さん。あなたが生まれてきてくれて、俺は幸せです」


そんな言葉と花束に、その人……霞は驚きと共に、じわりと涙じみた笑みを返したのだった。



カン

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最終更新:2018年04月28日 23:06