彼がうちに麻雀を習いに通いだしたのはインハイの予選が終わって、しばらくたったころだった。
ハギヨシさんからの紹介って言っても、正直いい気はしなかった。だって決勝でうちを負かした清澄で、はっきり言っちゃえばセンスもない。
ボクにとっちゃ透華の周りでウロチョロされるだけでも目障り。

その印象が変わったのは満月の衣相手に手も足も出なくて、でもまだ続けようってあがいてる姿を見た時だったと思う。
ボクは一回で心折れたのに、それよりもずっと弱いはずの彼が何度もかじりつく。それは意外で、羨ましかった。

そのころには透華も衣も歓迎ムードで、ボクもなんだか線を引くのが馬鹿らしくなってきたってこともある。
それに、彼の打ち方は堅実に近くてボクが教える役割の多くを担い始めたのも、一因かな。

彼はボクの手錠も、私服にも特に態度を変えることもなくただひたすら一人の女の先輩として扱ってきた。
フィルターもなくありのままの自分を見られるのはとても新鮮で、透華相手に抱いてる感情とはまた別種の思いが生まれかけてきかけていた。

そんなある日、透華が参加するパーティのパートナーに京太郎くんが選ばれるなんて事件があった。
いつもはハギヨシさんやボクがガードするのに、わざわざ同年代の男子を連れていく意味、それを透華が分かっていないなんて思えない。

それは間違いなく、透華の未来の候補に彼という選択肢が生まれた証明で、ボクはどちらに嫉妬してるのかもわからないほど頭が白くなった。

こんなこと許されない。恩を受けた透華の幸せを願うのが本来のボクのあるべき姿なのに、どうして

一「ねえ京太郎くん、ボクを選んでくれないかな? ボクはもう透華より、君のことが」

これは二重の裏切り。その先に許しが待ってるなんて楽観視できない、もしかしたら圧力をかけられてまっとうな生活を過ごすことすらできないかもしれない。
それでも、止められなかった想い。こんな熱いものが自分の中にあるなんて、今の今まで、全然知らなかった。

京太郎「俺は――」

彼の言葉を聞いて、ボクはもし次の瞬間に死んじゃってもいいって思うくらい幸せに満たされた。


カン

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最終更新:2018年04月26日 22:32