「唯一」とか「自分だけ」といったフレーズに良いイメージは湧きにくい。

通販のテレビや対面販売などで文字通り乱用されまくっているからだ。

しかしそれが文字通り「自分唯一」ならば自惚れたくもなる。

たとえそれが「不可抗力込みの敗北」でしかないとしても。

京太郎「えーと、ダヴァン先輩?」

メグ「はい、何デスカ。キョウタロウ?」ズルズル

京太郎「何故に俺は6人分のラーメン奢りが決定しているんでしょうか?」

メグ「チッチッチッ、宮永との関係を黙っていたからに決まってるデショウ」

京太郎「そりゃ聞かれなかったからですよ」

メグ「guilty!」

明華「culpabilité! ですね、京太郎君」

京太郎「えーっと有罪って意味?」

智葉「その通りだ。しかし何故黙っていた?

   いつだったか雑誌の表紙を見たときの微妙な反応はそれが理由か?」

京太郎「まあそうです。2歳差はありましたが長野で幼稚園、小学校は同じでしたから。

    その後にこっちもあちらさんも引っ越しがありまして。

    黙ってたのは言い出しにくかったってのが一番大きな理由です。

    男子でチャンプとかならまだしも、この腕前ですんで。

    インハイチャンプと知り合いです、

    なんてドヤ顔しないだけのプライドぐらい持ってますよ」

ネリー「うん、キョウタローは弱っちいしバカだけど

    その辺わきまえてるね。誉めてあげる!」

京太郎「人の金でラーメン食って、出てきたセリフがそれかー?」ムニョーン

ネリー「いひゃいいひゃい、やめへやめへ」

アレク「奢りは確定として。ま、そういった理由があるなら不問にしとこうか。

    しっかし別な意味で白糸台には睨まれたね。カイセが何か言ってきたら

    場合によっちゃ任せるよ?」

京太郎「うっす、承知しました」

ハオ「気兼ねもなくなり一安心ですね。胸のつかえも下りて食が進みますよ」

明華「では餃子を7人前追加でお願いします!」

京太郎「追加しろってわけじゃないっすよ!ネリーじゃあるまいし!」

ハオとネリーが、諭吉さんが飛んでった~と溜め息混じりの京太郎を両脇から連れ歩いていく。

監督も一度ホテルへ行くらしい。部屋と送った備品のチェックだろう。

4人と別行動の私、智葉、明華はなんとなく一緒に歩くことにした。

気分は悪くない。ラーメンが美味しかったから、だけでもない。

智葉「少し…スッキリしたな」

一緒に食事そのものは今までにもあった。でも今ほど気楽ではなかった。

明華「勝つべき理由が増えました。負けたくないって言うべきでしょうか?」 

期待され勝つことへのプレッシャーは、これまでにだってあった。

今もある。だけど誤魔化すためにラーメンに逃げる、なんてしなくて済みそうだ。

昨年首元まで来た龍門渕を降した後など酷いものだった。

中毒どころではない。依存症レベルといって差し支えない。

知っているのは智葉だけだ。自他共によくここまで戻れたと思う。

今なら違うと言える。心の底から勝ちたいから。

勝って食べるラーメンは今までより美味しいだろうから。

敗北は嫌だ。負けは怖い。当然である。だから強くなる、なろうとする。

だからだろう、随分と負けていなかった。計算済みの負けで済ませられた。

あの時までラスの悔しさが麻痺しかけていたんだ。

でも湧いたのは悔しさだけじゃない。私を押さえ込んだ三家和。

脳を撃ち抜いたと思ったら破裂したハンドボールが私に飛んできた。

パニクって仰向けで倒れた私の上に、京太郎が倒れ込んできたので抑え込まれた。

表現としてはこちらが正しい。智葉にも言えないが。

あれからの京太郎は1軍には勝てていない。ラスが2回。

正しく言うなら、1軍との対局をほとんどしていないのだ。2回だけしか。

監督がさせなかった、というのが正確だろう。

腕前からして2軍、3軍の底上げに打ち込ませたほうが向いている。

故に1軍の4人は彼に負けていない。負ける機会さえ掴めない。

無意識だとしても自分に「勝った」男の顔は私だけの「唯一」。


メグ視点です
カンッ

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最終更新:2018年04月26日 22:30