<京太郎⇔和 時空>@清澄 咲1

私がその日和ちゃんに連れられて行ったのは、よりにもよって麻雀部だった。
和ちゃんが何か部活始めたことは知ってたけどそれがこれだったなんて、知ってたら来なかったのに。

でも今更帰るのもばつが悪い。ここにいるのは私も含めて四人。和ちゃんと、小柄で元気そうな女の子と、金髪の男の人
そういえばあの人、木の下で本を読んでた時に通りがかったことあったっけ。ちょっとかっこよかった覚えがある

麻雀、私の大嫌いなもの。でもいつも仲良くしてくれる和ちゃんの顔に泥を塗るわけにもいかない
だから、いつも通り――無難にやり過ごそう


そうやって、三回の対局が終わって私はお暇して雨の中を帰りだした。
合計で勝ってたのはあの男の人。なんだか筒子の染手が妙に多かったけど、どうせもう会わないから関係ないよね
私はこれでいつものようにただの普通の文学少女の日常に――

バチャバチャと、激しく水たまりを踏み荒らす音が聞こえて

京太郎「宮永ーー!」

ずぶ濡れになって制服を肌に張り付かせて、息を少し乱しながら金髪から水を滴らせる男の子がいた。傘も持たずに

咲「どう、して」

困惑する私の声に答えることなく、彼は私をまっすぐに見つめて

京太郎「宮永、三連続プラスマイナスゼロ、わざとなのか?」

そんな、気付かなくてもいい残酷なことを聞いてきた。私は沈んだ気持ちで地面を見ながら自重するように少しだけ笑って

咲「私が打つと、いつもそうなっちゃうんです」

その答えを聞いて彼の目が見開かれて口元が引き絞られ、『ああまた怒られるんだ』なんて暗い思考に陥りだして――

その瞬間、大きな声が空気を切り裂いた

京太郎「――そっか、すごいな! 無意識にそんなのできるなんて、めちゃくちゃ強えじゃん!
    あーー、でも悔しい! 全然かなわなかった! だからリベンジさせてくれ!」

そんな、全然悪意のない晴れ渡った顔で私のことを絶賛し、ついで子供のように唇を尖らせて、びしっと私を指さす男の子
なにこの人? 私、こんな人間に会ったことない。だって、私の周りには

咲「私、麻雀、好きじゃないんです」

そんな思考にとらわれていたからか、ぽつりとそんな言葉を漏らしてしまった

京太郎「え、なんで? あんなに強いのに」

心底不思議そうな声に、私はなぜか昔のことを話してしまう

咲「家ではずっとお小遣いかけて家族麻雀やってて、負けたらお小遣い取られて、勝ったら怒られて、だから自然といつの間にか勝ちも負けもしない打ち方に――」

京太郎「なんだそれ、お前一個も悪くないだろ。子供から小遣い巻き上げて自分が負けたら理不尽に怒る? お前の親兄弟お前より全員子供じゃねえか」

バッサリと、私のトラウマを、嫌な思い出を切り捨ててきた

京太郎「一番大人なのお前じゃん、お前すげえよ。そんな中我慢し続けたんだろ? めちゃめちゃ偉いよ」

絶賛だった。それは私の家族が一度もくれなかった、曇りのない褒め言葉。
なぜだか、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。雨がひどいから、彼からは泣いているように見えないのが救いだろうか

京太郎「でもそれはそれとして、やっぱ手も足も出なかったのは悔しい!
    だからもう一回真っ向勝負してくれ、頼む宮永、いや頼みますお姫様! この通り!」

男子高校生が、何の躊躇もなく頭を垂直に下げ拝み倒し、「な、頼むよ」なんておねだりの視線をしてきた

咲「いやでも、私あの打ち方しかできないし……」

未だに後ろ向きな言葉しか出ない私に対して、それでも彼はまっすぐで

京太郎「え、じゃあ今すぐには思いつかないけどなんかちゃんと勝負できる方法考えるから! そしたらお願いします!
    ふふふ、その時は俺もお礼にインハイミドルの奇跡、阿知賀おもち四暗刻を見せなければ勝負にはならないかもな」

『阿知賀おもち四暗刻』って何? という疑問符が私の中を埋め尽くす間に彼は距離を詰め

京太郎「約束な、約束! 嘘ついたらはりせんぼのーます!」

小指を絡めて、勝手に満足そうな笑い顔を浮かべながら一方的に押し付けてきた

京太郎「あ、それとお前、泣いてるより笑った方が可愛いと思うぞ。きれいな顔立ちしてんだから。
    じゃあまたな、お姫様!」

そんな言葉を残して人差し指で私の涙を一拭いして、「うおー濡れまくりだ、風邪ひいちまう!」なんて声をあげながら学校の方へと走っていった
小さくなっていく金髪の男の子の後ろ姿を呆然と眺めながら、私は正直な心情をつぶやいた。

咲「なにあの人、訳が分からないよ」

なぜだかその自分の声に呆れはあっても暗い感情を一切含まず、むしろなんだか弾んでいたのがとても不思議だった

これが私とあの人――京ちゃんとの出会い。とっても変で、とっても大切になる、思い出だった。

『出会い・咲編』カン

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最終更新:2018年04月26日 22:24