桃子「なるほどー、じゃあ須賀さんは他の部員さん達と実力差がありすぎるのが悔しくて、麻雀の練習できるここでバイトしてるんすね」

京太郎「身も蓋もなく纏めるとそうだな……ですね」

桃子「ああ、いいっすよ、別に畏まった口調じゃなくても。どうせ同い年ですし」

京太郎「……わ、悪い、じゃあそれでお願いします」

桃子「うんうん、苦しゅうないっすよー」

京太郎「は、ははは……」

桃子「それでですね、須賀さん……さっきから指摘したかったんすけど」

京太郎「お、おう」

桃子「…………微っ妙ーに視線の向きがズレてるっすよ」

京太郎「…………ホント、悪い。どーにか声は聞き取れてんだけど」

桃子「あー……声はすれど姿は見えずって奴っすか」

京太郎「いやいや、ちゃんと見える時は見えるんだぜ?(おもちとか……)」

桃子「な、なにやら看過できない下心的なものを感じたっすよ!?」


京太郎「お、いたいた……って、みるみる消えていく……!?」

桃子「おっとっと……初対面の人相手だと、私の消えっぷりも半端ないっすね」

 腕で体を隠すようにして桃子が叫ぶことで、存在の力が増したのか、京太郎にも彼女の姿がハッキリと見えた。

 が、電源を切った白熱灯よろしく徐々に姿が薄くなっていく彼女を目の当たりにして、慌てて運んできた注文の品を置いていく。

京太郎「ええーっと、本日のケーキセット……飲み物は紅茶で、ケーキはレアチーズケーキのブルーベリーソース掛けになります、と」

桃子「ヒャーッ、こうして私一人で注文してメニューを持ってきてもらえたのって何時ぶりっすかねー♪」


 普通であればどうってことのない、注文の品が届くということでも、他人に気付かれない桃子には喜ばしいことなのだろう。

 目の前に置かれたケーキセットに目を輝かせ、手を叩いている。

 ここまで喜んでもらえると、店員冥利に尽きると考えていた京太郎に、桃子が問い掛けた。
桃子「あれ、須賀さん?コレ、私が頼んだものじゃないっすよ」

 桃子が指差したのは、ケーキセットに添えるように置かれたクッキーの袋。

 いかにもホームメイドといった、オーソドックスなクッキーが数枚、袋に詰められて綺麗なリボンで飾られている。

京太郎「ああ、それはサービスっつーか、お詫びっつーか」

桃子「?」


 キョトンと、彼が何に対してお詫びしているのかと首を傾げた桃子に、京太郎は改めて頭を下げた。


京太郎「その、幽霊なんかと間違ってゴメン。スッゲー失礼な勘違いしちゃったからさ……クッキーはそのお詫びってことで。あ、もちろんそれは俺が奢るから!」

桃子「いやいや、悪いっすよこんなの。注文取ってもらって、品物まで持ってきてもらってるのに……」

京太郎「いや、それはお店なんだから普通のことだって」

桃子「アハハ、それを言われるとなんとも答えに困るっす」

京太郎「うん、まあ……明日のオヤツってことでさ、これこのとーり!」


 顔の前で手を合わせて頼みだす京太郎に、自然、桃子の口元も緩む。


桃子「…………こんなサービスが付くなら、オバケと間違えられるのもありかもしれないっすねー」

京太郎「さ、さすがにもう間違わないけどな。次は一発で見つけてみせるしっ」

桃子「さーて、そう上手くいくっすかねー?」

京太郎「…………タ、タブンネ」


桃子「アハハッ、それじゃー期待しておくっすよー」


 自信なさげな回答に、今度こそ声をあげて笑う。


桃子「それじゃ、須賀さんの奢りのケーキをいただくっす!」

京太郎「待つってばよ!俺が奢るって言ったの、クッキーのことだぜ!?」

桃子「あー、私傷ついたっすよー……生きてるのに、お前の存在感、オバケと一緒って言われてちょー悲しかったっすよー」

京太郎「ぐぬぬ、誰もそこまでは………………ど、どうぞお召し上がりください、お客様っ……!」

桃子「わーい♪」


 納得いかなそうな京太郎を横目に、ケーキにフォークを入れる。




 その日、食べたケーキは…………以前よりも美味しいと桃子には感じられた。


んでもって翌日……



咲「あ、おはよう京ちゃん!」

京太郎「おー、はよーっす咲」

咲「ね、ねえ京ちゃん、昨日のアルバイト……ゆ、ゆゆ幽霊ってホントに出たり……」

京太郎「あぁ、知り合いになった。意外と気さくな子だったぜ」

咲「ふぇっ!?」

京太郎「可愛いし、おもちも大きかったし……うん、常連になってくんねーかなぁ」

咲「アワワ……京ちゃんが、京ちゃんがとり憑かれちゃったよぉ……!」


清澄の文学少女が誤った危機感を抱いたり――――


桃子「先輩っ、先輩っ、クッキーがあるんすけど一緒に食べませんか?」

ゆみ「もらおう。…………ところで、それは作ってきたのか?」

桃子「エヘヘ!なんとコレ、昨日知り合いになったお店の人にプレゼントしてもらったんす!」

ゆみ「……こう言うとなんだが、珍しいな」

桃子「そーなんすよー。最初は私のこと、オバケと間違ったりしてくれたんすけど……」

ゆみ(無理もない……)

桃子「誤解といた後はちゃんと注文取ってくれて、頼んだもの持ってきてくれて……」

ゆみ「それはお店として当然の行いじゃないのか……?」

桃子「その当然の行いが今までなかったから、余計に嬉しいんすよー。次はちゃんと見つけてみせる、って言ってもらえたし……こりゃー、当分はあのお店に通わなきゃっす!」

ゆみ「…………そうか、よかったなモモ」

桃子「ハイ!」



鶴賀の部長……とよく間違えられる少女が、親心に満ちた眼差しになる――――――そんな感じのボーイミーツガール、続いたりせんかね?